「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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ゴー・トゥー・ダーク

 ボスがパイから戻った。

 

 

 しかし戻った彼に十字のアザはなかった。つまり壊ではなく、「会川」ということ。

 会川はすぐに拘束されて、監禁部屋に収容された。

 

 口枷や拘束具を付けられた上に、さらにベルトで体をベッドに括り付けられている。

 側近たちがいなくなったのを見計らい忍び込んだボクは、鋼鉄の扉を破壊して中に入った。スライド式の扉を力任せに動かし、錠を破壊したのである。

 

「やぁやぁ、会川くん」

 

「……!!」

 

 今の様子を一通り写真に納めてから、口枷を外した。

 会川の表情は驚きより困惑の色が強い。

 

「…何で俺のこと撮ってんだ、お前」

 

「保存用」

 

「保存……えっ?」

 

 苦しそうな壊くんの表情なんて滅多に──というか、見たことがなかったからさ、つい。

 カメラを持参している時点で、この姿を撮る気満々だったのだけれど。もしボスに戻っていたら、より貴重な写真になっていた。

 

「体のヤツも外してくんねぇか?」

 

「それはできない。拘束したのはドクガたちだから」

 

 何もしない、って言うなら外すけどさ。

 

 

 側近から聞いたところによると、「会川」が出てきた後、彼は人や物をパイにする魔法を持つ青年にその身を投げ出したという。

 五人の中でこの一連の出来事の捉え方に差異はあるが、総合して“わざと”、魔法に当たったように見えた。

 

 その前に壊がパイ屋の店員に包丁で顔面を斬られたり、思わず白目を剥きたくなる出来事もあったらしい。

 

 その直後に壊の首から無数の頭が現れて、会川の頭になった。

 

 顔面を包丁で斬られたら、さすがに死ぬだろう。でも会川は生きているし、いったい何が何なのやら。

 大まかな事情を知っているボクでさえ混乱しているのだから、ドクガたちはそれ以上に状況がわからないに違いない。

 

「ボクはあなたと少し話をしたくて、ここに来たんだ」

 

「栗鼠のことを解剖しようとしたイかれ野郎と話をしろって? 無理に決まってんだろ」

 

「まぁ、そう怒らないでって。ボクは小夏。かつては「発明家リンリン」なんて呼ばれていた」

 

「はぁ? 発明家リンリンはとっくの昔に死んだって聞いたぞ」

 

「いやぁ……死んだり生きたり、我ながら忙しい人生を送っておりましてね」

 

 過去の記憶はないんですけどね。

 

 ボクが会川に聞きたいのは、ボクのことを知っているかどうか、ってこと。

 前に会った時は挨拶をしている暇もなかったからね。向こうもボクを知っているけど、反応する暇もなかった可能性もある。

 

 ただ、もしボクを知っているなら、少し踏み入りたい。

 もしもアイ=コールマンとして、過去のボクを知っているのなら。

 

 

「知らねぇ、オレとお前が会ったのはこの間がはじめてだろ」

 

 

 ──やっぱり、そうだよね。ボクのことを知っているわけないか。

 

 ボクが「アイ=コールマン」の名前や姿を思い出したのが会川を見た時だったから、何かボクの記憶や感情に深く関わる存在であると思ったんだけど。

 

 そう……ダメか。

 

「ごめん、邪魔したね。ゆっくり過ごしてて」

 

「あっ、ちょ……もががっ!!」

 

 口枷を戻して、逃げるように部屋を去る。

 

 会川はボクのことを知らない。それを知れただけでも、収穫になった。

 ボクの琴線か、あるいは逆鱗か、それとも両方か────。ボクの心に素手で触れて、撫でてくるアイ=コールマン。

 

 自分の感情がかき乱される。会川がボクを知らないという事実が、なぜか無性に腹に重く溜まる。

 

 アイって、ボクの何なんだ。

 

 君はいったい、誰なんだ。

 

 

 ボクはどうして、覚えていないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 連日ほぼずっと起きっぱなしで気絶するように寝て、我が肉体はまだ睡眠を欲している。

 

 会川と話して、ドッと疲れが出て。

 

 そういや博士を十字目のボスに会わせる約束をしてたなぁ、と思いながらもベッドの上に身を預けると、自分の意識が下へ下へと落ちていく。

 会わせるのは後でもいいだろう。どうせ今の会川は脱走できない。

 

 抗えない欲求である。人は寝なきゃ生きていけないものね。

 

 そうして夢も見ず、どっぷり寝ていたら、唐突に意識が浮上した。

 

 

「ボ…いや、会川がいなくなったんじゃ!!」

 

 血相を変えたウシシマダにトン、それにサジもいる。

 

 時間はボクが寝てからそう長くは経っていない。彼らは会川がいなくなっているのを知り、探しているようだ。

 会川がボスに戻ったと仮定して、ボクの部屋に来た可能性を考えてここに来たようだが、壊くんはいない。

 

「どうやって脱走したんだ…?」

 

「部屋の扉の鍵は、力任せに壊された形跡があったんじゃ」

 

「えぇ? 何ソ……………こ、怖いねー」

 

 部屋の鍵を壊した犯人はボクです。心の中で謝っておくから、許してヒヤシンス。

 

 というか、思い出したが、あの虫──ジョンソンは嗅覚がよかったはず。

 ボクが目を覚ました時に一人と一匹が部屋にいたのも、ジョンソンがボクの匂いに反応したからだった。

 

 実際どうなのかわからないが、博士が会川を連れて行った可能性も高そうである。

 

「ひとまずドクガやテツジョーとも合流して、状況確認をしよう」

 

 

 

 その後、トンが二人を呼びに行き、ドクガとテツジョーと合流して話を聞いた。場所は会川が拘束されていた拷問部屋である。

 

 二人は先ほどまでボスの部屋にいたそうで、ドクガがボスの部屋の異変に気づき中を確かめていたらしい。途中でテツジョーが来たから、最後までしっかりと確認はできなかったそうだが。

 

 ボスの部屋の異変は、扉が蹴破られたように壊されていたこと。そのため、侵入者の可能性が挙げられた。

 

 テツジョーの方に関しては、先日の巨大な爆発に関しての報告。

 

 現場の周囲を下っ端に捜索させた際、魔法使いの遺体は見つからなかった。しかし周辺に悪魔試験で使う巨大コウモリがおり、さらに建物のガレキの中から悪魔試験の合格証明書が発見された。

 その悪魔名は「アス」。元の名は「川尻」。

 

 ということは、もしかしなくともあの爆発を引き起こしたのって、川尻に魔法操作の特訓を受けていたニカイドウでは? 

 

 解剖………。

 

 栗鼠に、川尻に、ニカイドウ。川尻の魔法がかなり厄介だが、絶対にゲットしなければ。

 

 でもそれより、今は会川が優先。

 

 こうして考えると、会川の救出にニカイドウたちが絡んでいる可能性も否めない。その場合瞬間移動の魔法があるから、すでに川尻はいなくなっているかもしれない。

 

 ただし栗鼠の存在があるから、彼らが「壊=会川」であることを知っていようといなかろうと、奴を連れているだけでかなりのリスクがある。会川の状態では、栗鼠はおそらく呪いの姿にならない。だっていくら気絶しているとはいえ、会川にお姫様抱っこをされている時にまったく反応していなかったし。

 

 呪いが発動するには、壊の時でなければならないのだろう。

 

 従って、栗鼠を連れている間はニカイドウたちも自由に動けないはずである。

 

 そもそも彼女が修行中なのだから、別のことに意識が向いて修行中に死んじゃった! ──なんてことがないよう、川尻が会川のことは後に回しそうなものだ。

 

 悪魔試験ってそれほどハードで、大変らしい(ハルちゃん談)。

 

 

「ボスの秘密を下っ端に知られるのはまずいから、なるべくなら幹部とボク含めた人員で動くべきだと思う」

 

「ボス………」

 

 ドクガも、テツジョーたちも、表情が険しい。

 

 彼らには悪いが、万が一博士が見つかって殺されたらボクがプッツンしそうなので、下っ端には黙る方向で行かせてもらう。

 博士にはジョンソンもいるし、裏にハルちゃんもいると思うから、そこまで心配はいらない気もするけど。

 

 そして、三対三に別れて、探し始めたところまではよかった。

 

 

 

「ぐ、うっ……」

 

 突然頭を押さえて蹲ったテツジョーとドクガ。

 

「ちょっと、どうしたのさ君たち」

 

「いや、頭が急に痛み出して…」

 

「アンタは何で平気そうなんだ…?」

 

 何でと言われても、まず外の光景に目を向けた方がいいんじゃないかな。

 

 ボクに促されて蹲っていた二人は、壁に寄りかかりながら立ち上がる。

 彼らが見て、そしてボクも見ている外の景色。

 

 空に広がる雲と、そこから降る黒い水滴。この世界ではあり得ない光景が、今目の前で起こっている。

 

 魔法使いの天敵である雨。それもコレは、ホールの雨に違いない。

 ボクはハーフであるから、雨の影響が二人より少ないのだと思われる。若干の頭の痛みはあるが、立てないほどではない。

 

「そっか、アンタ確か人間と魔法使いのハーフだったな…」

 

「あれ、知ってたの?」

 

「アンタが自分で教えたんだろ、自己紹介で俺たちに」

 

 動くのも辛そうな二人の襟首を掴み、引きずりながらボクは他三人の元へ向かう。

 ウシシマダ、トン、サジも同様に床に蹲っていた。

 

「ははっ……無用な姿じゃの、鉄条に毒蛾」

 

「何を言ってるのかな、ウシシマダ」

 

「えっ?」

 

「全員ボクが引っ張ってあげるに決まってるでしょ」

 

 さすがに魔法なしでは難しいので、ドーピングをしてから右手にテツジョーとドクガとサジ、左手にトンとウシシマダの襟首をつかんで歩き出した。

 彼らも歩けるには歩けるが、ボクのズンズン進むスピードと頭痛によって、結局引きずられるがままになる。

 

「ん?」

 

 さっき、遠くでかなり大きな音がした。

 五人もその音が聞こえていたようで、お互い顔を見合わせている。

 

「アレは……ボスの部屋の方からだ!」

 

 ボスの部屋って、ドクガくんが確認したんじゃ……いや、テツジョーに呼ばれて途中で確認をやめたのだっけ。

 

 奇怪な雨と続いて、いったいこの世界に何が起こっているというのか。

 

 

 

 

 

 

 

  ⚫︎    ⚫︎

 ⚫︎⚫︎⚫︎  ⚫︎⚫︎⚫︎

  ⚫︎    ⚫︎

 

 

 

「ハァ……」

 

 

 一歩一歩進むごとに、自分の体が黒い雨の中に沈んでいくような錯覚を覚える。

 

 どんどん体が水に浸かって、終いには息ができなくなる。肺は動いているはずなのに、呼吸ができているかわからない。

 

 歩く速度が次第に遅くなり、男たちの襟首をつかんでいた手も緩む。

 

 引きずられていた五人は驚きつつも、おのおの自身の足で歩き出した。

 ボクも歩く。彼らの最後尾で、溺れながら。

 

 

 廊下が黒い川になり、その底にボクはいる。聞こえるはずの雨音はなく、静寂な世界。黒い水の中から見える世界は、現実の世界を黒く薄い膜で覆っているように見える。

 

 ボスの部屋はドクガの話どおり蹴破られた後があり、その中を進む。

 

 奥では大きな窓が割れていて、先ほどの音の正体はこれのようだった。

 水滴が中に吹き込む。

 

 仄暗い水の底で、一面を覆い尽くすように存在する生首。部屋中に溢れかえる頭。これが側近たちが、壊が集めていた魔法使いの首なのか。

 

 

 ────ゴポポ。

 

 

 水の音が聞こえる。忌々しいあの音だ。

 

 ホールの汚ねぇ水の底で沈殿している、()()()()()

 

 大量の生首がどれもおどろどろどしく変化し、呟き出す。小さなその声はその数によって鼓膜を破らんとするほどの音量に変わる。一つ一つが合わさりまるで一つの声のように聞こえて、とても気持ち悪い。

 

 この声が、五人には聞こえていない。

 大量の生首がおどろおどろしく変化したのも、気づいていない。

 

 否、彼らには見えていなくて、聞こえてもいない。

 

 

「ボス!!」

 

 大量の生首の中で見つけたボスの首に走り寄るドクガ。

 だが、ボスの首は一つではなかった。

 

 “ヤツら”の中心に佇む男は、皮────それも魔法使いのものでできたソレを身にまとい、同化していく。

 

 男の無数の頭を、体を、腕を、足を。

 

 すべて覆いできあがって産まれたソイツは、産声を上げる。

 

 

『グチャッ』

 

 

 全身が硬い見た目の皮で覆われて、口だった部分からはホースが伸び、垂れている。背中には細い管のようなものが、無数に存在した。

 壊の時よりさらにデカくなっちゃって、これが成長期なのか。

 

 まるで機械みたいだ。造形はボク好み。

 

 ホールの闇に覆われて、君はいったい何者になったんだ、壊くん。

 いや、アイくんか。アイくんなのかな? 

 

 

 かつてボクがホールの側溝に顔を突っ込んで見た、あの無数の顔。悲痛と憎悪に満ちた奴らはけして、ボクの妄想ではない。なかった。

 

 心の底からヤツらは──────否、“ヤツ”は叫ぶ。

 

 殺意に満ちて、その狂気を振りまくのだろう。

 

 

 

 魔法使いを殺すために、生まれたのだ。

 

 

 

 

 

 誰も動けない中、頭を小刻みに揺らしているソイツに近づいた。

 持ってみると、まぁ重い。産まれたばかりだから、赤ちゃんだ。

 

「名前は「デブちゃん」でいいかな?」

 

『………』

 

「よし、デブちゃんに決まりね」

 

 黒いパイプからはケムリが出るようで、デブちゃんは扉を作りホールへ行きたがった。けれどデブちゃんですので、通ることができないんですね。頭しか入らない。ソレ人間用サイズじゃん。

 

「……ボス」

 

 ドクガくんが一番最初に駆け寄ってきた。それに続いて、四人もデブちゃんの周りに集まる。

 みんなもデブちゃんが行きたい場所の察しが付いたらしい。口にはしないが、着いていくようだ。ボスだったものに。

 

「イイね、みんな。じゃあボクが扉を作ってあげよう」

 

 調整すれば大きいサイズの扉を作ることも可能。

 煙の屋敷には扉の作れぬ者のための常時設置されている扉もあるが、わざわざそこへ行かずともボクが作った方が早い。

 

「さぁ、ホールへ行きましょうね、デブちゃん」

 

『………』

 

「…あの、「デブちゃん」はさすがに、ちょっと」

 

「何だ、ボクに物申す気か、この女顔め」

 

 ハハハ、そんなに睨んでもボクはビビらないぜ。

 

 でもデブちゃんがさり気なくドクガの方に寄ったから、「デブちゃん」呼びはやめにしようと思う。

 側近たちが「ボス」呼びなので、それでいいだろう。

 

 

 コレはきっとアイ=コールマンだけれど、もうアイ=コールマンではなくなっているだろうから。

 

 

 ボクは見届けるよ。ホールの闇に呑まれた君が、これから行うことを。

 殺すのだろうね、魔法使いを。ボクの順番は最初か、中盤か、それとも最後か。

 

 ははぁ、でも壊すのは楽しいぜ、アイくん。

 

 いいんだ、博士は人間だから。

 いいんだ、ハルちゃんは悪魔だから。

 殺される心配はない。

 

 

 だから一緒に汚ねぇドロの中に沈もうぜ、アイ=コールマン。

 

 

 お前はボクを散々、壊してくれたんだからよ。




Ⅵ【混沌おいでやす】
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