他キャラの進みがストーリー展開の主軸になります。
舞台はホールへと移る。
異形となったボスを引き連れる十字目の側近。
栗鼠を殺した正体を掴むため、過去に戻るべくホールに訪れたニカイドウたち。
そして魔法界の雨から逃れた後、ホール中央病院を仮アジトにし始めた煙ファミリー。
病院では魔法界にいたカスカベ&ハルも合流した。
河川敷で倒れていた毒蛾は八坂の強襲に遭った翌日、ホールの人間に発見され中央病院へ運ばれた。そこで煙ファミリーとエンカウントすることになった彼は、その身柄を拘束される。
一方で毒蛾が連れて行かれた後、河川敷に戻ってきた鉄条たち。
姿を消したボスや毒蛾に戸惑う中、彼らは現場に残されていた黒い血痕をたどり、地下へと続く扉に足を踏み入れる。
その途中、姿を消した豚。混乱した三人が目の当たりにしたのは、グチャグチャと、音を立てる異形の背中。
昨晩見た異形の姿より、その大きさは明らかに増していた。
部屋に散乱するのは夥しい血痕。いったいこの部屋で何があったというのか。
「…! アレはあの女の…」
鉄条は異形の前に転がる女の足に気づいた。
尚もグチャグチャと聞こえる、異形の声とも似つかぬこの音は何なのか。
まるで、まるで──────咀嚼音のような。
「ボ、ボス…?」
佐治が異形の肩に手を置き、ゆっくりと前後左右に一つずつ顔のついた頭が振り向く。
口から伸びた太いホースの先にあるのは、豚の死体。頭にポッカリと穴を空けた男は目を見開いたまま、微動だにしない。
ホースは豚の死肉を吸い込み、食らう。その度にグチャグチャと、ホースの奥から肉を噛み砕く音が響いた。
『グチャ』
もうボスとも呼べないバケモノが、三人の魔法使いを視界に捉える。
***
藤田は夢を見ていた。
本来なら平行に立つはずの建物が垂直に建ち、その上を歩く。どこまで歩いても、“目的”の場所には着かない。
果たして今歩いている場所が地獄なのか、自分がどこへ向かっているのか、正確な答えを彼は持っていない。
ただ、歩いている。ぼんやりと頭の中にはパートナーであった男の姿が浮かんでは、消える。
「松村、俺は死んでしまったのだろうか。いったいいつまで歩けばたどり着けるんだ……」
橋の裏側を歩き、草の地面をよじ登って、見えたのは住宅や店が並ぶ街。
そこの窓の上を歩いていた時、青年は気づく。彼の足元に巨大なパートナーがいたのだ。ガラスの奥で、佇む男は外を眺めている。
「松村!? それに部屋の奥のソファーに座っているのは……煙さん!!?」
窓を叩けども、松村に声は届いていない様子だった。
自分もこの中に入れてもらいたい。その一心で藤田は叫ぶ。
「お願いだ松村! 俺も、俺も一緒に……」
巨大な男は、首を横に振る。まるで藤田の願いを拒むように。
その時だ。
「え?」
窓の奥にいた煙が、ソファーごと吹き飛んだ。何事かと、藤田だけでなく松村の視線も向く。
ソファーに座っている間、俯いたままだった男は壁に衝突し、その上に誰かが馬乗りになる。
「は……発明家リンリン!?」
何を言っているかはわからないが、女は何かを叫びながら、しかも愉しそうに執拗に右パンチで煙の顔を狙う。
「おっ、お前! 煙さんに何してんだ、この野郎ッ!!」
松村も慌てて女を止めに入るが、これまた右フックを食らってノックアウトした。その後、部屋の中が変化し、リングが現れる。その周囲には松村など、観客はすべて煙ファミリーの魔法使い。リングに立つ二人の服装も、ボクシングの衣装へと変化している。
最初から真っ白に燃え尽きたぜ…な状態の煙に対し、部下たちの応援が飛び交う。その声は藤田には聞こえないのだが。
『────!』
何かを叫び、駆け出した女はまた強烈な右パンチを繰り出し、その衝撃で煙が華麗な放射線を描いてリング外に落ちた。
これに見ていられなくなった部下たちは、客席を飛び出し次々とリングに上がる。
「何だこれ…」
ニィ、とニヒルな笑みを見せた女は、高速右パンチで迫り来る魔法使いを吹っ飛ばす。
これまで中の人々の声が聞こえなかったが、その瞬間だけ、藤田は女が放った言葉を理解できた。
『オラオラオラオラオラオラッ!! ボクが不死身の小夏ちゃんだァ────ッ!!』
吹っ飛ばされた松村が、藤田の目の前の窓にぶつかる。
ズルズルと滑り落ちる男は、拳にした右手を掲げ、そのまま下へ落ちて行った。
「ま、松村ァ──」
「────ハッ!」
目を覚ました青年の前に広がっていたのは、側近の三人が異形を囲んでいる光景。
気を失っていたのかと、近くの壁を支えにして藤田は立ち上がろうとしたが、足に力が入らず上手く立つことができない。
その間にも鉄条が異形に斬りかかろうとし、逆にホースが動いて刀を持っていた腕ごと吹き飛ばす。
(あれ…十字目の死体が無くなっている?)
部屋に散らばっていた死体の数々が、血痕のみ残して消えていた。
そこでだらしない体つきになった異形の肉体を見て、藤田の頭が凍りつく。まさか、食ったとでもいうのか。
否、異形の側に転がっている側近の“食いかけ”を見るからに、過ぎった考えは正解のようだ。
しかして夢の中で暴れ回っていた発明家の体と生首は、手付かずである。頭の方は異形がホースの一つを器用に使って抱えており、目を瞑ったままの女はやはり、死んでいる。
(さっきの夢は何だったんだ…? 松村も煙さんも発明家のヤローも、みんな死んで…………死んで、いる?)
まさか、先ほどの夢は単なる夢ではなく、地獄に片足を突っ込んだ結果のものだったというのか。
わからないが、ひとまず彼は受けた傷を治す鉄条に近づき、辺りに舞った能井のケムリを利用して自身のケガを治した。
そして奇妙な夢を思い出しながら、思考する。
(もしあの夢に、何か意味があるのなら。それが
側近たちが異形と戦っている隙に、藤田は床を這い女の死体へ近づく。
夢の中でキーワードになるものを探し、そこで不意に脳裏に過ぎったのは、女が執拗に右手で煙やファミリーの魔法使いを殴っていた点。
それと、松村が最後に右手を掲げた動作。
(「右」に何が意味があるのか? いや、待て────そうか、「
小夏は異形が流す血を押さえようと、その頭に触れた。
藤田はてっきり煙の悪魔腫瘍に傷がついてボスの復活が不可能になったのだと絶望したが、まだ煙の悪魔腫瘍は残っている。
亡きパートナーが残したメッセージを信じ、彼は握られた女の右手を窺う。
(あった………!!)
その中には、複数の悪魔腫瘍が付着していた。何個かは潰れており、完全に無事であるのは一つだけ。
その一つを回収した藤田は、ここから逃げようと動き出す。
「佐治!! 牛島田!!」
対し側近たちの方は、鉄条を残し二人が殺害された。
「………くっ!」
鉄条は二人の首を斬り、その頭を持つ。悪魔腫瘍さえあれば、まだ二人を生き返らせる可能性はある。キクラゲの力を使うことが前提であるが。
だがまだ食い残しの豚と、異形が持つ女の頭を回収できていない。最悪豚だけでも、鉄条としては回収しておきたい。
だがその望みを遮るように地面にヒビが入り、その下からボコボコと、黒い水が覗く。
「ホールの……」
(水……!?)
異形が緩慢な動きで、その中へ向かい出す。その際中の重みに耐えきれず異形の腹が裂け、そこから食われた十字目たちの死体が現れた。
『グ、チャ……………ニエ』
────イケ、ニエ。
ボチャンと水中に落ちた、その巨体。
そして空いていた穴から、黒い水が噴き出した。
二人は慌ててその場から逃げ出す。残された豚の遺体や小夏の肢体も、その水の中へと呑まれていった。
***
一方で、中々戻って来ない藤田を追跡するべく、煙ファミリーはターキーの魔法を使うことにした。
それで一度はフジタ人形を作ったが、製造した場所や方法が悪く、大鍋がひっくり返りそのまま病院の屋上から落下したフジタ人形は帰らぬ人となった。
再度作ろうにもすでに病院の食料は底を尽き、周囲の店を探せども閉店状態。
というより、日が悪かった。
ホールの医者(バウクス)曰く、今の時期開いているのは中央デパートだけだという。閉まっている店の多くも、そこに出店しているのだ。
またバウクスに巻き込まれた
今朝、いつものように彼女の店に訪れた彼が、店の貼り紙を見て知った情報である。
弁当を売る場所として、考えられるのは人通りが多い場所。つまり、ニカイドウたちは中央デパートにいる可能性が高い。
「俺からも、一ついいか?」
さらにカスカベから話を聞いていた心から、これまた大きな情報が。
それは十字目のボスの目的が、人工的に「悪魔になろうとしている」というもの。些か信じられない話である。当然ファミリーの幹部たちも鼻で笑った。
しかし、ボスが元人間であったことを踏まえれば、不可能である、と決めつけることができない。
ひとまずターキーの材料やその他の物資の調達を考え、消の決定でファミリーはアジトを中央デパートに移すことに決定。
そして幹部全員に、毒蛾(心の魔法でバラバラ状態)や煙の死体を乗せ、病院の屋上から絨毯が飛び立った。
「あぁ、やっと行ってくれた…」
ファミリーの部下たちは残っているが、それでもとりわけ厄介な面子が消え、胸を撫で下ろすバウクス。
カスカベは絨毯を見送り、タバコを吹かす。
「そういや博士、小夏って今どうしてんですかい? 俺ァてっきり、
「小夏くんかい? さぁ……一度会った時は記憶をまた無くしていたみたいだし」
「え?」
「私が囚われていた十字目のボスに接触して、うっかり殺されかけて、ハルに助けられて……それで、気づいたら彼女にホールへ連れて来られてたんだよね」
「えぇ……」
「ハルが少し暗かったのが気になるが……まぁ、大丈夫じゃないかな。小夏だし」
「「小夏だし」…って、自分の娘を何だと思ってんですか」
「ははぁ、文字通り、あの子なら大丈夫って意味だよ」
「………」
口をモゴモゴと動かし、心配そうな顔をするバウクスの背を笑いながら叩くカスカベ。
小夏にべったりだったハルも、何がきっかけか、少し子離れをし始めた様子だった。
考えれば、ずっと子どものように思っている彼女も、すでにアラサーと呼ばれる歳。
「気づけばすぐ、大人になっているんだよねぇ…」
しみじみと話すカスカベは歩き出し、その後にバウクスと、空気だったサーティーンが続く。
バウクスは「そう言えば」と、博士に要件があったことを思い出し、話し始めた。
***
さらに一方、元悪魔な魔法使いと、悪魔になりかけ魔法使いに、絶賛呪い中の下級魔法使いな三人組。
ニカイドウの魔法を使い、栗鼠を殺した犯人が十字目のボスで間違いないことが判明した。
数年前のホール。当時のニカイドウが見た首のない死体と、彼女が仲間を呼びに行った間に現れた、死体袋をかぶって歩いていたトカゲ頭の男。
その一連の出来事の前に飛び、ニカイドウと栗鼠は何が起こったのかを見た。
ちなみにニカイドウの魔法はブラックボックスの中に銃の弾のようなものが装填されており、その数は五つ。
内一つは彼女が自身の過去の清算のため使用し、かつて家族だった一人の少女の命を救っている。
もう一つはホールで使用し、残り過去や未来に飛べる回数は三回。
また時を渡る上で、ニカイドウに同伴できるのは一人のみである。
そして、ボス=会川=カイマンという事実が発覚。
パートナーに殺されたことが確定した栗鼠は、暴走し殺しに行こうとしたが、川尻に止められた。
さらにニカイドウの悪魔化が進行。時折悪魔な言動を取り始めた彼女。悪魔ニカイドウと魔法使いニカイドウで、まるで二重人格のような状態である。
「ハッハッハ!」
悪魔ニカイドウはギョーザへの熱意が強すぎた。結果生まれた、大量の激うまギョーザ。
それらを売るべく、彼らは中央デパートへと赴いたのである。
「あれ、停電か?」
ニカイドウたちがギョーザを売っていた折、起こった停電。
同時に外でも異変が起こった。
デパートの内部から溢れ出るように滲み出た、黒い水。その光景を絨毯に乗った煙ファミリーの面々も、目の当たりにした。
まるで時空が歪むような現象が起き、彼らはその歪みに巻き込まれ、デパートの屋上へと落下する。
メンバーの大半はいたものの、キクラゲや恵比寿、死体の煙やバラバラの毒蛾が消えた中。
身を起こした心は、あっ、と声を漏らす。
「イッテテ……どうしたんですか、先輩」
「いや、死んでる」
「え?」
「消さんが……死んでる」
あーん、ショウ様が死んだ!