「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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【前回のあらすじ】

あーん!ショウ様が死んだ!

いったいぜんたい、魔法が解けた藤田はどぉ〜なっちゃうんだぁ!?

次回、藤田死す!?デュエルスタンバイ!


ショウテン。

 空間の歪みにより、絨毯から落下した煙ファミリーの面々。

 

 デパートの屋上に落ちたのは心と能井、ターキーと鳥太、そして後頭部から落ちて即死した消の五名。他のメンバーはいずれも行方不明である。

 

 掃除屋二人は鍛え方が違うのか無傷であったものの、ターキーは両足を骨折。鳥太は鼻血を出している。後者二名は一時、気絶していた。

 

 奇妙なことに彼らが降り立った中央デパートは、通常よりも大きい。

 廃物湖を埋め立て建てられたこのデパートは、立地場所の問題で、蜃気楼のように遠目からでは大きく見える。しかし実際に近づけば、その大きさは正常なサイズで視認できる。

 

 はたしてここは本当に中央デパートなのか。

 先程の時空の歪みのようなものを体験したこともあり、心たちは沈黙する。

 

 だが、ただ佇んでいるわけにもいかない。

 

 現在優先して行うべきことは、キクラゲの回収である。

 

「キクラゲって恵比寿が持ってたんスよね」

 

「下を見てもモヤがかかって、何が何だかサッパリわかんねェな…」

 

 確実に、屋上から飛び降りれば自殺できるのは間違いない高さ。

 

 

「……あ?」

 

「えっ?」

 

 心や能井がいた屋上。そこにいたはずの彼らは、次の瞬間には建物内にいた。

 狐につままれたように、彼らは口を開いたまま立ち尽くす。いったい何が起こっているのだろうか。

 

「このままじゃしょうがねーし、俺がキクラゲを捜して来ますよ!」

 

「あっ…オイ、能井!」

 

 誰よりも切り替えの早い能井が、キクラゲを捜しに動く。この状況で無闇に動くのは危険であることは明白だが、修復系のケムリを持つがゆえか、無鉄砲に突っ込む。

 見かねた心がターキーと鳥太を残し、相棒の後を追った。

 

「ったく…お前が死んだらどうすンだっての」

 

 キクラゲと能井を失えば、煙ファミリーは全滅し得る。だが止めても聞くタイプでないことは、彼女のパートナーである心が一番理解している。

 ゆえに、心はかなり荒業な秘策を行う。

 

 使ったのは、デパートに行く際に絨毯の上で消が説明した小道具。

 元は毒蛾の服から押収されたものであり、ソレは小さなイモムシほどの大きさしかない。

 

 

 超回復魔法のケムリ瓶────。

 

 かつて小夏がハルに仕込まれ、ホールで復活するきっかけになった道具。

 これを能井の頭に仕込もうという流れになったが、彼女は拒んだ。偏に今度は十字目のボスに負けないとする、彼女の意地である。

 

 それを消からコッソリ受け取っていた心は、相棒に魔法をかけ悪魔腫瘍に抱かせた。

 

「世話の焼けるヤロウだぜ、ホント………ん?」

 

 ピクピクと、心の足元で震える能井。まだ治っておらず、ハムをスライスしたように頭部のパーツが転がっている。魔法をかけられた部位が脳ということもあり、意識はない。

 

 そんな二人に近づく黒い影。

 フードを被った、人型の何かが遠くに立っている。

 

「何だ…?」

 

 それに目を凝らした心は、不意に左足に衝撃を感じた瞬間、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

「うぅ……」

 

 次、心が目を覚ました時、側に能井はいなかった。

 

「何が、どうなってんだ…」

 

 心の周囲には人間の死体がゴロゴロと転がっている。痛みを感じる左足の部分は、脛にチューブのようなものが刺さっている。

 見れば、周りの人間にも同じようにチューブが繋がっていた。

 

「クソ、取れねぇ」

 

 無数のチューブは地面を伝って奥へと続いている。その先は暗闇に包まれ、窺い知ることはできない。

 

 悪寒を感じた心は冷静になろうと、視線を彷徨わせた先で天井に何かが引っ付いていることに気づいた。

 

「脱皮みてぇだな…何かの抜け殻か?」

 

 まじまじと観察していた矢先、突如転がっていた人間が起き上がる。「うおっ」と間抜けな声が上がった。死体かと思ったが、生きていたらしい。

 

 しかし白目を剥く人間たちの肌に、生気の色はない。個体にもよるが、尋常ではない量の血を口や鼻、耳から流している者もいる。

 列になって歩き始めたその後に続いた心は、足を止める。

 

 

 奥に、“何か”がいる。

 

 同化した暗闇から少しずつ浮かび上がるようにして、そのシルエットが現れた。

 

 その姿は心が気絶する前に見たもの。

 地面から浮かび上がっているソイツは全身をレインコートのようなもので覆い、尾のような物も生やしている。

 

「…待て、まだ誰かいる」

 

 “何か”の後ろに、同じように宙に浮いている生首。チューブが絡み合ってその頭を運んでいる。長い黒髪が顔を隠し、その表情は読み取れない。すでにその生首が死んでいることは間違いない。

 

「………っ!」

 

 その時、足に違和感を感じた心。

 体内を蠢く得体の知れない感覚に、鳥肌が立つ。

 

 うぞうぞと、左足に繋がっていたチューブが、男の体内に侵入してきたのだ。骨や筋肉を押し退けるようにし、チューブは心臓めがけ上ってくる。

 

 心はシャツを脱ぎ魔法でどうにかしようと思ったが、体内に侵入するそのスピードに追いつけない。

 

「ぐっ、……がっ」

 

 終いには心臓にチューブが繋がれる。

 目や鼻、耳など、黒い液体が心の体から溢れ出る。正気を保っていられるのは最初の内だけ。

 

 自我が、黒いヘドロによって呑み込まれていく。

 心が最後に見たのは、己の腕の繋ぎ目から漏れ出る、黒いドロドロとした悍ましい色だった。

 

 

 

『ホール』

 

 

 

 “ホールの狂気”は、幼虫からサナギへとその姿を変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 場所は変わり、藤田(シン)デレラ。

 

 黒い水から逃れエレベーターへ逃げ込んだところで、青年は閉じる扉の隙間から、奥に人型の“何か”が立っていたのを目撃した。

 その後ろには、通路を塞ぐように黒い水が存在したのである。

 

 その直後、起こった停電。

 

 電気が点いた時には藤田デレラの魔法は解け、敵と密室で二人きり。

 

 しかし煙ファミリーの幹部(自称)藤田は、チャンスをモノにする男である。

 

 彼は自身の命を奪わない代わりに、生首になった側近たちを生き返らせる取引を持ちかけた。

 あくまで自分が彼らを監視していた行動は、独断行動であるとした上で。

 

 鉄条も愚かではない。煙ファミリーの幹部の情報だけでなく、下っ端の中でも目立つことの多い藤田の情報を入手していた。藤田が持つ魔法が透明になる力ではないことも、把握済みである。

 

 その上で鉄条は仲間の命を天秤にかけ、その取引に応じることにした。

 この取引には、行方がわからない毒蛾を捜すことも条件に含まれている。

 

 

 ただやればできる男藤田は、ポンコツでもある。

 

 いや、ここは相手が悪かったと言うべきか。何せ相手は魔法に頼らぬ十字目の、それも幹部。身体面や精神面など、どれを取っても藤田より優る。

 

 不審な動きをすればすぐに斬れるよう藤田を前に歩かせていた男は、その不審な歩き方に気づいた。

 

 左手には鉄条が預けた佐治の頭を持っているのだが、その持ち方は完全に汚いものを持つ持ち方。有事の際に武器を扱えるよう、どうしても頭の一つは藤田に渡す必要があった。

 

 逆に何も持っていない右手は強張っており、尻ポケットの近くに添えられていた。

 

 その動きから、鉄条は藤田が右の尻ポケットに何かを隠していると判断。

 結果、煙の悪魔腫瘍が見つかってしまったのである。

 

 

 

「……あ、心さん!」

 

 そんな折二人の元に現れたのは、心。

 

 鉄条と藤田も気づいているが、エレベーターを降りた場所が元いた所と変わっている。

 異形が廃物湖に移動した際に起こった変化。ニカイドウが体験した停電であったり、煙ファミリーが遭遇した空間の歪み。

 

 それに二人も知らず知らずのうちに巻き込まれていた。

 

「止まれ、掃除屋の心!」

 

 煙の悪魔腫瘍を持っていることを告げ鉄条が牽制するが、心は止まらない。

 不気味に笑う男は口や鼻から黒い血を流している。

 

 何かがおかしいと肌で感じ取った鉄条に対し、藤田は涙さえ見せる。

 

「クソッ! 俺は止まれと…言って……」

 

 一歩一歩と、足からチューブを引きずる男は二人に歩み寄る。相手が止まらぬことを悟った鉄条は、佐治と牛島田の頭に視線を向け、唇を噛み締める。目の前の相手が戦って勝てる相手ではないことは十分にわかっている。

 

 ここで自分までも死んでしまえば、いったい誰が亡くなった仲間を助けるのか。0.1パーセントであっても残された希望を捨てるわけにはいかない。

 

「……わかった、煙の悪魔腫瘍は返す」

 

「!」

 

 悪魔腫瘍が、藤田の手に返された。

 切腹間際の武士のように座り込んだ鉄条は、瞳を閉じる。

 

「バカなことをしたな、俺も……」

 

 項垂れる男の側に、ゴロンと、何かが落ちる。

 それは、足。

 

 

「………あ、し?」

 

 

 ボドボドと、床に落ちていく物体。鞘に手をかけた彼はその音の方向に視線を向ける。

 ついさっき心の元に駆け寄った藤田。その青年の肉体がバラバラに崩れている。

 

 混乱し、状況を読み込めぬ鉄条のその一瞬の隙に、ケムリが彼の体を覆った。

 

 

「貴様、なぜ仲間、を……っ」

 

 

 そして二人に続き、ターキーと鳥太、ついでに死んでいた消も現れた心にバラバラにされた。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

「うぅー……先輩のヤロォ〜…」

 

 

 一方、こちらはまだ意思のあった心にバラバラにされた能井。

 

 負傷から回復した彼女は、途切れ途切れに落ちている心のスーツやマスクを追い探したが、見つけることができなかった。

 そのため元の場所に戻ってみれば、ターキーや鳥太たちも姿を消していた。

 

「どーなってやがんだ……?」

 

 ひたすらに歩き回り、能井は仲間の姿を探す。

 その途中、心の魔法にかかったバラバラの肉体の一部を発見し、それを手がかりに辺りを捜索することにした。一応バラバラになっているパーツもゴミ袋に回収しながら。

 

「ありゃ? コレって…」

 

 一定の間隔で一つのパーツが落ちていた場所から離れた場所に、もう一つのパーツも落ちている。

 それを繰り返し、見覚えのある仲間の靴や服の一部を目にすれば、いよいよ能井の頭は混乱を極めた。

 

「藤田の物っぽい靴もあったし、さすがに先輩も間違って仲間に魔法はかけないはず……だよな?」

 

 ウーンと、唸る能井。

 

 そんな彼女の背後から忍び寄る影。背後に迫った気配に咄嗟に動いた彼女は、瞠目した。先ほどまで能井がいた場所に、ケムリがぶち当たる。

 

 

「心センパイ?」

 

 

 様子のおかしい心。しかして、それよりもパートナーが生きていたことの方が能井には喜ばしい事実。

 心に飛びついた彼女は、ガッツリ抱きついた。

 

「もォ〜〜〜心配したんスよ!」

 

 彼女のハグの代わりに返されるのは、翳される手。

 首を傾げた能井は、慌てて後ろに飛び退く。

 

「ちょっ、何で俺にケムリを飛ばすんだよっ〜!」

 

 次から次へとケムリが放射される。弾丸の如きそれを持ち前の身のこなしで避ける能井だが、一度当たればバラバラになってしまうのが、心の魔法。厄介なことこの上ない。

 

 どうしようか迷い、このままではジリ貧だと、彼女は内心謝りつつ男の左腕を殴って吹き飛ばした。

 

 一瞬吹き飛んだ腕に視線を向けた心は、ニィ、と口角を上げて右手を振りかざす。

 流石にこれで心が止まるものと思っていた能井のどたまに、男の武器であるハンマーが突き刺さった。

 

「ぐえっ」

 

 その一撃は見事に、彼女の命を刈り取る一撃へとなったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 デパート内で起こる異変。

 否、そのデパートそのものが今は沈み、代わりにかつて埋め立てられたはずの廃物湖が地上に姿を現している。

 

 心にバラバラにされた藤田たちのように、恵比寿もピンチである──と問われれば、まだ生きている。それも、優秀な「召使い」を引き連れて。

 

 

 絨毯から落ちた恵比寿は目覚めた時、何かの配管の内側のような場所にいた。

 

 キクラゲは無事であり、彼女は左腕が折れるサプライズもあったが、持参していた能井のケムリで事なきを得た。

 同様の手段で、少女が落下のクッションにして「く」の字になっていた煙の遺体も、証拠隠滅している。

 

「ふっふっふ…これがカンゼンハンザイ」

 

「アニャ?」

 

 そして、バラバラになっていた毒蛾も()()()治した。

 

 頭を打っていた男は、記憶を失っていたのである。少女はそれを利用し、都合のいい「召使い」を作り上げたのだ。

 

 瀕死から蘇った男は、もはや別人の有様である。

 

 

「お任せくださいお嬢様! この「カイコ」があなた様のことを必ずや、この命に変えてもお守り致します!」

 

「ウム、くるしゅうないぞ」

 

「ニャイコ」

 

 

 その召使いは途中で現れたチューブ人間をいとも簡単に倒す。その上、忠誠心が強い。

 控えめに言って藤田の100倍くらいは有能な、できた召使いである。

 

 そも煙の死体が入った袋を肩に担ぎ、両脇に恵比寿を抱えて苦もなく歩けるのだから、藤田と自力が違う。

 

「しかしいったい何なのでしょうね、この死体もどきは…」

 

「わたしにきくでない」

 

「ニャーイコ!」

 

 二人と一匹は、暗い道を進んで行った。

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