「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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終わりの目処ができたので、がん……がん……がんば…。


三人旅。

 悪魔化の進行しているニカイドウは現在、もう一人の人物と行動を共にしている。

 彼女の体にはツノや尻尾があり、小悪魔な姿へと変貌している。

 

 停電が起こった後、川尻(アス)と栗鼠の三人で外に出ようとしたが、出口は黒い壁のようなものに阻まれ出ることは叶わなかった。

 

 アスの瞬間移動は使えず、唯一魔法を使える彼が扉を作ろうとした。

 しかし作る前にチューブ人間に襲われ指を負傷し、ケムリを出せなくなってしまった。

 

 ニカイドウは魔法を発現させた際に一生分のケムリを使ってしまったためケムリを出すことができず、もう一人の男は戦闘面では活躍したものの、それ以外は役立たずである。

 

 そしてチューブ人間と暫く戦っていたが、男二人がチューブに捕まり連れて行かれた。

 悪魔であったニカイドウだからこそ外せたチューブ。繋がっている人間が操られている点といい、疑問は多い。

 

 

 

「にしても、いったい…」

 

「どうしたんだよ、ニカイドウ」

 

 

 現在ニカイドウと行動を共にしているトカゲ頭の男。悪魔状態の彼女が正気に戻ったあと、更衣室の側で出会ったのがカイマンである。

 

 控えめに言って、訳がわからない。

 

「そもそも壁から覗く悪魔の尻尾に向かってみたらカイマンがいて、さっきも私たちの前に、恐らくさっきのと同じ悪魔が梁の上に現れて……」

 

「ハァ、腹減った…」

 

 今のカイマンはどうやら一年前、リビングデッドデイで殺される前の記憶しかなく、その後の記憶がごっそり抜けている。頭のトゲはなぜかカットされている。

 

「悪魔はストアの包丁を手に入れろ、と言っていた。「家」に行けば、その手がかりが得られるとも……うーん、普通なら信じられないが、あの悪魔の言っていることは妙に信じられるんだよなぁ…」

 

「ギョーザが食いてェよ──ォ!」

 

「……お前はさっきから「ハラヘッタ、ハラヘッタ」って、うるさいぞ」

 

「しょうがねぇだろ、事実なんだからよォ」

 

「まったく……ん?」

 

 不意にニカイドウは、カイマンの頭のトゲを観察する。

 

 そう言えば、このカット具合に見覚えがある。一年前というわけではなく、最近だ。

 心臓ヤローに吹っ飛ばされた首は彼女が回収したが、その後の首はホルマリン漬けにしたその日に、停電と共に姿を消している。

 

 自身の首を持っていたカイマンが誰かの気配を感じたようだったが、結局病院には関係者以外、誰もいなかった。

 

「────あっ! コレってベリスで発見されたっていう、お前の首!!」

 

「ハ?」

 

 その首になぜ体が生えているのか。

 そもそもなぜホルマリンの首がベリスにあったのか。

 いや、まずカイマンが持っていたホルマリン漬けの首を盗んだのは誰なのか。

 というか、本当に今自分の隣にいるのかカイマンなのか。十字目のボスがニカイドウの魔法を狙い成りすましている可能性もあるのではないのか。

 

「うぐぐぅ…」

 

「お、おい、大丈夫かよニカイドウ」

 

 

 そして、ボンと、彼女の頭に衝撃が起こった。ニカイドウの目が翡翠に近い色から、血の如き色へと変化する。体を伸ばした彼女は、考えるのをやめた。

 

 思考の放棄。しかし体は動かす。

 

「あの悪魔は「家」に向かうよう言っていた! 探すぞカイマン!」

 

「え、ちょ、引っ張んなよ!」

 

「ついでに私が知っているお前のこと、一から十まで全部教えてやるぞー!」

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 家は存外早く見つかった。というより、二人がいる場所から然程遠くない位置に存在したのである。

 

「家」だけではいくらでも当てはまりそうなものだが、ニカイドウはすぐにそれが悪魔が指していたものだとわかった。

 地面から浮いており、さらに家の表面が温かい。

 鍵は閉まっていたが、本能的に彼女は尻尾を使い、中への侵入を果たした。

 

 家の中央には、小さな家の模型がある。

 

「ウッ……何かスゲェ血の匂いがする」

 

「取り敢えず中に入ってみよう」

 

 二人が中に入ると、部屋の明かりが自動的に点く。部屋一面に血が散乱しており、スプラッタな光景が広がっている。

 

「あり? 誰が倒れてるぜ、ニカイドウ」

 

「何? …ホントだ」

 

 全身の皮を剥いだような人物が、部屋の隅に転がっていた。意識はあらず、カイマンが突っついてみても起きる様子はない。死体かとも思ったが、まだ肺は動いており生きているようだ。

 

「ム?」

 

 ニカイドウの脳内に、何かが語りかけてくる。

 キョロキョロ辺りを見回せど、二人と死にかけの一人以外には誰もいない。

 

 自身を「家」と名乗る存在は、先程この中で起こったことを話す。どうやらこの「家」との意思疎通は、悪魔しかできないらしい。

 

「どうやらそこに転がっているのは、悪魔から戻された「ハル」という魔法使いらしいぞ」

 

「魔法使い? ……って、悪魔?」

 

「私も悪魔になっているだろう、カイマン。お前の目は節穴か? ここにツノと尻尾があるではないか!」

 

「え、ソレって魔法の影響のモンじゃねぇの?」

 

「違う。悪魔になりかけている魔法使いなのだ、私は」

 

「………な、エッ!?」

 

「そしてお前も魔法使いだ。正確には、栗鼠が言うには人工的に魔法使いになった元人間だが」

 

 豪速球を急所めがけて投げるようなニカイドウの発言に、混乱するカイマン。

 

 また、現状のカイマンはホルマリン漬けになった首から復活し、別個体の会川or十字目のボスも存在していて、ガイコツ少女の魔法や、口の中の男が栗鼠という男の呪いであることなども知らされる。

 

「大丈夫か、カイマン? 顔色が悪いぞ」

 

「そりゃあ一片に色々知っちまったら、頭がグチャグチャになるだろ…」

 

「………お前が何でも、私は気にしないぞ」

 

「…ッハ、何つーか、似た者同士な状況だな」

 

 ニカイドウもまた、悪魔とも魔法使いとも言えない状態。だが「家」と会話できることなどを踏まえ、完全に悪魔へ変化するのも時間の問題であろう。

 

「家」はニカイドウの頼みを聞き、ストアの包丁を持つ者の場所を目指して移動する。

 

 ジッと窓の外を眺める男の横顔を見て、ニカイドウはそっと自分の手を伸ばす。

 握った手は、振り払われることはない。暫くすると、その大きな手は彼女の手を握り返す。

 

 何が起こっているのかはわからないが、確実に変化が起き始めている。

 

 それでもこの手だけは決して離すまいと、ニカイドウは心に誓った。

 

 大切な、友の手を。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

「家」が目的の場所にたどり着き、ひとまず倒れていた魔法使いをニカイドウが背負って外に出ると、「え?」と彼女の頓狂な声が上がった。

 

「カスカベ博士がなぜここにいるんだ?」

 

「君たちが乗ってきた「家」に、私も乗って来たんだよ。それで……先程まで悪魔の体内いたはずなんだが、気づいたら違う場所にいてね。人を探して歩いていたんだ」

 

 ツノと尻尾の生えたニカイドウに、大して驚いた様子のないカスカベ。しかし瞳は爛々と輝いている。

 つい最近同じような視線を浴びて解剖されそうになったことを思い出した彼女は、一歩後退した。

 

 ちなみにカスカベはサーティーンから、ニカイドウが悪魔化している情報を得ている。この情報は煙ファミリーの魔法使いには知らされていない。

 

 

「もしかしてその悪魔って、「ハル」か?」

 

 ピタリと、カスカベの歩が止まる。

 そしてニカイドウの後ろに背負われた存在に気づくと、少年は走り寄り、状態を確認した。

 

「……なるほど、魔法使いに戻されてしまったわけか。しかも私が原因だろうね」

 

 カスカベは白衣を脱ぎ、筋肉が剥き出しになっていた女の体にかける。そも、胸自体も削ぎ落とされており、ぱっと見では性別が判断できない状態にある。

 

「博士の知り合いなのか、この魔法使いは?」

 

「…あぁ、そうだった。ニカイドウくんは私に魔法使いの嫁がいることしか教えていなかったね」

 

「と、いうことは、嫁が悪魔だったのか! あれ……そういやカイマンが魔法界に行く前に博士がなっちゃんの父親って聞いたことがあったけど、じゃあ今私は背負っている女は──────母親ッ!?」

 

 一瞬素の反応を見せたニカイドウは、すぐに悪魔な彼女へと戻る。

 

「この父にして、あの娘アリって感じだな!」

 

「ねぇ、ニカイドウくん、ちょっといいかい?」

 

「何だ?」

 

「実はハルを治療したいんだが、生憎着の身着のままで来たもんだから、医療道具を持っていなくてさ。何か持っていないかな?」

 

「それなら私が「家」に頼めば、色々と出してくれると思うぞ」

 

「本当かい! じゃあお願いしてもいいかな?」

 

「ガッテン承知の助!」

 

 

 この間、空気のトカゲ男。

 

 リビングデッドデイ以降の記憶がないため、その後に出会ったカスカベ博士のことを、彼は知らないのであった。現在の印象は「魔法使いを嫁にするとか正気かァ!?」である。

 

 

 そしてさして時間もかからず、ハルの治療を終えたカスカベ。全身真っ赤だった女の体は、包帯に包まれている。有能な「家」は患者服も用意した。

 

「ところで本題に入りたいんだが、博士はストアの包丁を持っていないか? 「家」が案内したのが博士の場所なんだ」

 

「ストアの包丁? それならハルから渡されたポケットにあるが…その前に使う用途を教えて欲しいかな」

 

「ここに来る前に一匹の悪魔と出会ってな。ソイツにこのアパートを生きて出るには、ストアの包丁が必要不可欠だと教えられたんだ」

 

「なるほど…。いいよ、悪魔化している君なら使いこなせるだろうし。その代わり私も一つ二人ににお願いしていいかな?」

 

「私とカイマンに?」

 

 カスカベは、小夏の遺体がこのデパート内に居ると思われる十字目のボスの側にあることを告げる。

 

 一応「修理屋」の小夏のことはカイマンも覚えていたため、知っている。カスカベが彼女の父親と聞いた時も驚いた。そもそも、魔法使いだったことに驚愕した。

 

 しかしリビングデッドデイ以前のカイマンが修理屋に抱く感情は、「俺を轢いたヤベーヤツ」である。

 その後紆余曲折があり起こった友だちイベントは、すっかり無かったことにされている。

 

 ゆえに、あまり意欲的に助け出そう、という気が起こらない。

 というか、自分のことで手一杯である。

 

「やはり十字目のボスがいるのか…。どの道ここから出るには奴を倒すことになるだろうし、私は構わないぞ。アスや、栗鼠も助けておきたいしな。問題ないだろ、カイマン」

 

「…あぁ」

 

 戦力は人間が一人と、人間か魔法使いかわからない一人と、これまた悪魔と魔法使いの中間が一人。

 

 だがニカイドウは自分の内に湧き出るような悪魔パワーを感じ取っており、増幅されるプライドも相まって、負ける気がしなかった。さらに悪魔をも殺せるストアの包丁があれば、希望は見えてくる。

 

 

「これがそのストアの包丁が入っている、小夏の発明品だよ。本人曰く、中が異次元になっていて──」

 

「おしっ、じゃあ俺が取り出すぜ!」

 

 カスカベが説明する前に、ポケットに手を突っ込んだカイマン。別名、絶対に付属の説明書を読まない男。

 あ、と二人が声を出した時にはすでに遅く、カイマンはその中へと吸い込まれた。

 

 驚くニカイドウに、カスカベは説明の続きを行う。

 

「確率で中に吸い込まれるから、気をつけなきゃいけないと言おうとしたんだけど……」

 

「カッ、カイマン……!!」

 

 どうやって戻すのかニカイドウは尋ねるが、カスカベにもわからない。こと小夏の発明に関しては、理論云々が通用しないものが多いからである。

 

「ハルなら戻せたかもしれないが、すでに魔法使いに戻ってしまったし…」

 

「あ、悪魔なら戻せるかもしれないということか!?」

 

「うん。だが、今のニカイドウくんでは難しいんじゃないかな。完全な悪魔じゃないから」

 

「じゃあどうすれば……」

 

 そこまで考えた時、ニカイドウの視線にブラックボックスが映った。

 

 過去へ戻ることができる。あと、三回。

 その残り三回の一回を使う価値は────、

 

 

「────ある。残りすべてをカイマンのために使えるさ」

 

 

 彼女は、魔法を使った。

 

 確率だと言うならば、二回目なら問題ない可能性が高い。

 

 カスカベやカイマンにその一回目を引かせるわけにはいかない。カスカベ曰く悪魔のハルが普通に使っていたのなら、なりかけ悪魔の自分なら吸い込まれても戻って来れるかもしれないと考えた。

 もしダメだったら、その時はその時である。

 

 ニカイドウは目を瞑り、ポケットに手を突っ込んだ。

 そして。

 

 

 

「ストアの包丁、取ったどぉ────!!」

 

 

 

 彼女の手には、一本の包丁が握られていた。

 

 これで大丈夫だろうと、治療したハルを「家」に残し(体の状態も踏まえ、連れ歩くのは危険と判断した)、三人は外に出た。

 

「ヤベェって、これメチャクチャ重いって…!」

 

「私は普通に持てるけどな」

 

「はは、私には持ち上げるのも無理かな」

 

 包丁を使いまわせるのはニカイドウのみ。カイマンが使えればそのナイフ使いで無双できそうだが、まず持ち上げるのだけで限界である。

 

 ニカイドウがカイマンから包丁を取り返し、歩き始めたその時。

 

 ドスッ、と何かが刺さる音がした。

 彼女が振り向けば、カイマンの背中にチューブが刺さっている。

 

 その奥には暗闇に混じるように、何者かが宙に浮いていた。

 

 

『ホール』

 

 

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