「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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最終回が書けたァァ!推敲の作業でまた時間がかかりそうだけど、ひと段落した感じです。
話は順繰りに出していくので、最後までお付き合いいただければ私としても幸いです。


私と鏡の向こうの彼方。

 チューブに繋がれたカイマン。

 咄嗟にニカイドウがストアの包丁でチューブを斬ったが、カイマンは頭を押さえ蹲ってしまった。

 

「カイマン、しっかりしろ!」

 

「うぅ……」

 

「博士、カイマンを連れてそこの葬儀場に逃げてくれ! 私が奴と戦う!」

 

 しかし、カスカベは一点を見つめ動かない。否、動けない。

 釣られて博士と同じ場所へ視線を向けたニカイドウは、目にする。

 

 女の頭がチューブで体を支えられるようにして浮いている。他のチューブ人間のように、体が繋がれている様子はない。

 

「何で奴がなっちゃんの死体を…?」

 

「ニカイドウくんっ!」

 

「わかってる! なっちゃんを回収するんだな!」

 

「もし余裕があったら頭を潰さない程度に衝撃を与えてくれ!」

 

「え? …あ、あぁ、任せてくれ!」

 

 なぜ小夏の頭を殴る必要があるのか。一瞬困惑したニカイドウだが、すぐに思考を切り替える。

 カスカベに支えられて葬儀場の中へと入って行く相棒の姿を見届け、彼女は宙に浮く男に向き直る。

 

「お前を倒せば、このデパートから出られるってわけだな」

 

 包丁を握り駆け出すニカイドウ。

 男が手を前に振り翳すと、それに合わせてチューブが彼女に襲いかかる。だが元々徒手格闘の達人な上、悪魔化で無敵パワーの恩恵を受ける今、相手にとって不足はない。

 

(にしても、あのシッポみたいなのは何だ? まるで悪魔みたいな…)

 

 彼女を狙うチューブは空を切り、地面や壁に突き刺さる。

 

 男の目的が何なのか。殺すにしても、かつてカイマンの首が再生したように生き返ってしまうのではないのか。

 様々な疑問が残る。

 

 そして思考に気を取られたニカイドウの目に、包丁の風圧で取れたフード下の男の顔が覗いた。

 

「あっ……」

 

 その一瞬が致命的な隙を生む。

 

 

 彼女の動きが止まった瞬間起こった、凄まじい倦怠感に、頭痛。

 

 立っていられなくなったニカイドウは、地面に手を付く。その感覚は紛うことなきホールの雨の現象。しかも今彼女が体験しているのは、その比ではない。

 ホールの雨は魔法使いの悪魔腫瘍に作用する。従って悪魔化している彼女でも、その効果は健在である。

 

「くっ…」

 

 ニカイドウの取り落としたストアの包丁に伸びる、男の手。

 振るわれた包丁の衝撃は風圧のみで、彼女の肉体に大きな被害を与える。着ていた服も破けほぼ全裸となり、ポタタッと、血の滴が地面に落ちた。

 

 伸ばされた男の尾が、ニカイドウの体を絡め取る。また彼女のボックスも宙に浮き、男の手に渡った。

 

(まずいっ…! だが人間どもに付いていたチューブと違って、このシッポは解けそうにない……)

 

 男はそのまま、葬儀場の中に進む。

 その時ニカイドウは、自分の背後から近づく気配に気づいた。何者かが天井に張り付いている。

 

(……栗鼠! チューブから抜け出せたのか!)

 

 葬儀場の中ではチューブで操られた人間が博士を襲っており、その肢体を掴んで頭上から伸びてきた一つのチューブが、少年の首へと突き刺さった。

 

 カイマンの方は倒れており、首から先がまるで溶けたように無い。黒いドロのようなものがその周囲で水溜まりになっている。

 

(奴はカイマンの方を見ていて、栗鼠に気づいていない。ならば…!)

 

 

 “奴”の隙を作る。

 

 そう簡単には行くまい。だがニカイドウは自分と同じように宙に浮いている女を見て、一つ疑問に思うことがあった。

 

 彼女は十字目のボスと小夏のイチャイチャエピソードなど知らない。アイ=コールマンとの過去も同様。

 しかして、必要がないであろうにも関わらず、女の死体を男が持っていることが引っかかる。

 

(なっちゃんを狙えば、もしかしたら……可能性はあるかもしれない)

 

 動ける者は栗鼠のみ。

 ニカイドウは念話で、直接栗鼠の頭に話しかける。向こうは驚いた様子だ。

 

 聞けば、川尻の助言を受けて呪い(カース)状態だった男の体は魔法使いへと戻り、それが功を奏して緩んだチューブから抜け出したそうである。

 川尻の方は彼らがいる部屋にまだ捕まっている、とのこと。栗鼠はその部屋から“奴”の気配を察知して、ここまで来たようだ。

 

 ちなみに二人が捕まっていた部屋の下には、煙ファミリー幹部の首が転がっていたらしい。まだ生きが良かったそうだ。

 

【ところでサッカーは得意か、栗鼠?】

 

(……何で急にサッカーの話になったんだ? 俺が奴の隙を作る、って話だったろ)

 

【あぁ、だから、お前の技術が必要になるんだよ。別に足じゃなくて素手でもいいけどな。それかお前が操る錘の付いた鎖でもいいが】

 

 どの道狙うのは、今しかない。

 

 ニカイドウの頼みに頷いた栗鼠は、呪いの姿へと変わる。

 

 その間にもカスカベがチューブから何か毒素のようなものを送られているのか、呻く。

 

 

「……!」

 

『何ッ…?』

 

 

 そして立ち上がる、ガスマスクの男。

 

 カイマンが付けていた物とも異なる、そのマスク。

 

 

『会川!?』

 

 

 頭はトカゲ頭のままの会川と、宙に浮く男が相対す。チューブが会川を拘束し、ニカイドウと纏めてその首を撥ねんとばかりに、ストアの包丁が振るわれた。

 その殺意の伴う攻撃を目の当たりにした栗鼠は、反射的にその衝撃の前へと移動する。

 

 普通ならば死ぬ。それも悪魔さえ殺す包丁によって生み出た攻撃。

 

 だが「殺意」がそこにあるならば、そのすべては呪いの前で等しく無効となり、反射される。

 

 仮に反射が起きなければ体が真っ二つになるが、栗鼠の体は五体満足。

 代わりに跳ね返った攻撃を受けた男の両腕が吹き飛んだ。さらにその反射された衝撃により、会川の拘束も断ち切られる。

 

「やればできる子だな、栗鼠!」

 

『一言余計だッ、ニカイドウ!』

 

 ストアの包丁は男の両腕と共に、地面に落ちた。

 それを拾った会川は一撃振るい、そしてもう一撃振るう。

 

 最初の一撃はチューブを。二撃目は男の首を刎ね飛ばす。

 

「っ……!!」

 

 落ち行く女の生首。それに会川は手を伸ばした。マスクの下で、必死な形相を浮かべながら。

 彼の隣には、うっすらとキャップを被った少年の姿も重なる。

 

 その手が、頭に触れようとして。

 

 

 

『オラァ────!!』

 

 

 

 しかし選手栗鼠、会川のハンドを許さないと言わんばかりに、横から現れ女の生首を蹴り飛ばす。

 

「な、何してんだテメェ──ーッ!!」

 

 会川の絶叫が響く。吹き飛んだ女の頭はカスカベを囲っていたチューブ人間にぶつかり、亡者たちは呻き声を上げる。

 

 その間に頭を斬られ痙攣していた男の体は、尻尾にニカイドウを絡めとったまま上へと姿を消す。

 捕まったニカイドウと吹っ飛んだ生首の間で、どちらに駆け寄るかわずかな時間に会川が逡巡する中で起こった男の逃亡。

 

 ニカイドウが連れ去られた天井を見つめた会川は、首を振りカスカベの元へ向かった。

 博士の首に繋がったチューブを斬り、亡者どもも殺す。

 

『首がどこかに行った…』

 

「お前マジで絶対許さないかんな」

 

『ちゃんと探しているだろう、今』

 

 葬儀場の中は棺桶や花など、様々なものが並んでいる。博士を背負いつつ先程の奇行の理由を栗鼠に尋ねる会川だが、返答は「ニカイドウがそうしろと言ったから」である。

 

『その気絶しているガキはどうする気だ。まだ死んでいないようだが』

 

「連れて行くさ、俺の知り合いだからな」

 

『…知り合い?』

 

 会川と話す栗鼠は、いつものパートナーと少し違うような、奇妙な感覚を覚えた。

 

 一方パートナーの方は生首を見つけたらしい。棺桶が並ぶ台の下に入り込んでしまったようだ。布や壁に隠され、視界も暗く悪い。うっすらと頭に形がわかる程度である。入ろうにも、木の骨組みが邪魔をする。

 

 一旦カスカベを置き会川が手を伸ばすが、届かない。するとデカい尻が左右に揺れる様が、栗鼠の眼前に晒された。

 

 

『会川、俺は今すごく不快な気分だ』

 

「手 伝 え よ!!」

 

『その包丁でぶった斬ればいいだろ』

 

「それで頭に当たっちまったらどうすんだよ」

 

『……そもそもあの生首の女は、お前の知り合いなのか?』

 

 ニカイドウや川尻曰く、栗鼠を解剖する気満々だったらしい女。十字目のボスと懇ろな様子は一度見たが、会川とは特に接点がなかったはずだ。ニカイドウたちが煙の屋敷から逃げた後に接触した可能性はあるものの。

 

 少なくとも会川とパートナーであった間、「小夏」といった女に関連するワードを聞いたこともない。

 

「………」

 

『沈黙か』

 

「…ちゃんと話すから、まず頭だけ回収させてくれ」

 

 と、その時、台が揺れた。

 ゴチンと何かがぶつかったような音が響き、ズルズルと這うような音が響く。

 

「ギャァ!」

 

『寄るな、俺に』

 

 悲鳴を上げ抱きついてきた男を、栗鼠は蹴り飛ばす。台の上にかけられていた布の下から飛び出してきたのは、手。生白い手が床を探り、頭が出てくる。長い髪を床に垂らすその姿は完全にホラーだった。

 

『惜しい男を亡くした』

 

「死んでねーわ!」

 

 起き上がった会川は生白い手を掴み、下から引きずり出した。すると生首だったはずの女が出てくる。寝起きのような顔で、彼女はゆっくり瞬きする。

 

『なぜ生き返ったんだ、この女?』

 

 状況を知らない栗鼠の疑問も尤もだろう。「超回復魔法」のケムリ瓶は、簡単に言えばキクラゲと能井の魔法を足して合わせたような、強力な力を持つ。

 

 ただし対象者が死んだ後、ケムリ瓶が割れないと回復せず、場合によっては割れないことも多々ある。

 そのケムリ瓶を入れる手術の危険性や不具合が相まって、あまり広まらなかった代物である。

 

 

 

 

 

「……かい、まん…くん?」

 

 

 女の手が、ガスマスクに触れる。

 微動だにしない男から視線を外した女は辺りをキョロキョロと見回し、カスカベを目に留めると駆け寄った。

 

「パパ!? ………よかった、脈も呼吸もある」

 

『パパ………?』

 

「えっ? 君は栗鼠………栗鼠じゃないか!」

 

 押しかけ女房ならぬ、押しかけ小夏。

 栗鼠に迫った彼女は逃げようとした男の鎖をつかみ、引き寄せる。

 

『な、何なのだ! なぜ貴様に殺気がない?!』

 

「うわぁすごい! 顔の中に顔! 目が四つ! 手の中から手が出てる! この黒い布みたいなのも触れるんだね!! あははぁ────抵抗するなよ」

 

『あ、あ、会川!!』

 

 栗鼠がパートナーに助けを求めるが、会川は女を引きずり出した位置から固まったままである。

 

 小夏は鎖を触り、黒い布を捲り、栗鼠の手に触れてグーパーと動かせ、口から骨の中に手を突っ込んでその下の顔に触れる。さらに口内にも指を突っ込み、舌や歯などお構いなく触った。

 

『ぐッ…!』

 

 驚きで硬直していた栗鼠も女を振り払い、会川の背後に逃げる。

 ハァハァと、呼吸を荒げる女は頬を赤く染め、よだれをも垂らす勢いで迫り来る。間違いなく変態だ。奇しくも以前会川が女に抱いた同じ感情を、彼も抱くことになる。

 

「………小夏」

 

「なぁに、カイマンくん。君が生き返ってるのもボクとしては気になるんだが、というか今の現状を把握できていないんだが、それよりも優先思考(リスの解剖)があってだね」

 

「…いいか、それ以上動くな」

 

「何だい、顔なんか背けちゃって。栗鼠を庇おうとしても無駄だよ、もしボクの前に立ちはだかるなら、いくら友だちの君でも容赦しないぜ」

 

「…………っ、だからなぁ! 

 

 

 ──────服を着ろォォ!!!!!」

 

 

 会川の悲鳴ないし絶叫が、空気を震わす。

 

 そこで小夏は自分の体に視線を向け、そのまま蹲り、顔を覆う。

 

 

「もうお嫁に行けない……」

 

 

 泣き始めた彼女に、男二人は困惑した。

 

 


 

【即・滅・斬】

 

 

 男二人、仲良く壁を向いている状態。

 後ろでは栗鼠のツナギを奪──拝借した小夏が着替え中。栗鼠はカースの姿になれば黒い衣装で隠れるため、パンイチでも然程問題にはならない。

 

「……〜〜っ」

 

『何をそんなに葛藤しているんだ、会川』

 

「小夏!」

 

「何ィ?」

 

 会川は大きく息を吸い、吐いて、男の顔をする。

 

 

「胸を揉ませてください」

 

 

 栗鼠の正義の鉄拳が、会川の顔面に炸裂する。

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