鬱キャラはどうしてあんなに愛おしいのか。
笑いかけるマボロシ
ボクはいったい、何方に嫁にもらわれればいいんだろう。
なぜか会川のマスクを付けているカイマンと、栗鼠。
ここは服を剥ぎ取った栗鼠のお嫁に行けばいいのかもしれない。というか40cm近く身長が違うので、ヤツの服の股下が膝に来ている。袖も裾も大量に捲ってようやく手足が出せる。博士の白衣でもよかったけど前が閉じられないから、栗鼠のツナギにした。会川のはプロテクトなど、装飾が多く着にくいので遠慮願う。
「栗鼠さん、ふつつか者ですがどうぞよろしくお願いします。ちなみに家事はできません。なのであなたが主夫になってください。金はワタシが稼ぎます」
『突然何を言ってるんだ、貴様?』
「え、栗鼠さんにお嫁にもらってもらおうと…」
『「え?」』
無意識なのか、カイマンは栗鼠の胸ぐらを掴んでボクの顔を見る。そうやって直ぐ暴力に出るのよくないと思いますよ。
「はは…えっと、冗談さ。だから険悪なムードになるのは止めようよ」
っていうか、栗鼠はどうしてカイマンのことを「会川」と呼んでいるんだ? 確かにマスクこそ会川の物だが、その下はトカゲ頭じゃないか。
そもそもカイマンはベリスで煙に殺されて…いや、あの時点で頭が戻ったわけだし、この男って本当にカイマンなのか?
というかココどこ? ボクは確かボスに駆け寄って、それで首に痛みが走って……それで、どうなったんだ? もしかして死んでいた?
「えっ」
その時目に入ったのは、床に転がっている男の生首。壊か会川なのかわからないが、いずれにせよ何かがあったのは間違いない。ボクは混沌とした渦中に巻き込まれている、確実に。
『…! おい女、その生首をどうする気だ!』
「どうするって、回収するだけだよ」
『俺に寄越せ、“ソイツ”のすべてを俺は奪う』
それって貴方の意見ですよね?
彼はボクのもので、ボクは彼のものです。その間に栗
『ならば力づくで奪うま………ぐあああああっ!』
二人が仲良く壁を向いていた間に回収しておいた「いっぱい入るくん」から、お目当ての物を取り出す。円盤をプレーヤーに設置すると、ソレが回り出す。
食らえっ、
ついでに頭を入れたポケットをツナギに取り付ける。
魔法が解けた男が
それでも怨嗟の篭った目でポケットから生首を取り出そうとする栗鼠に、止めに入るカイマーーいや、会………アイマン。
「ひとまず小夏、状況を説明しつつ走るから付いて来い!」
「はーい」
栗鼠も呪いの姿に戻り、ボクは二人の後を付いていく。
意識の戻った博士はアイマンに背負われている。ボクを見るなり、彼は安堵の表情を浮かべた。ごめんね、心配を掛けて。
アイマンと栗鼠の情報を合わせると、ここが中央デパート
その発言の意味はすぐ理解できた。だってデパートの中に、ホールの街があるんだから。
この場所は“奴”──ボクと一緒にいたボスの中らしい。
中には煙ファミリーやニカイドウもいるそうだ。栗鼠は元々ニカイドウや
肝心のニカイドウは、“奴”に連れて行かれてしまったとのこと。
ボクが回収した男の生首は、その際に起きた戦闘でアイマンに斬り落とされたものだった。
「アイマン」
「…その呼び方やめて欲しいんだが」
「貴方、「覚悟してる人」……ですよね? ボクのストアさんの包丁を勝手に使ったってことは、逆にボクにその包丁を使って殺されるかもしれないという可能性を理解した上で使った、「覚悟している人」ってわけですね……」
「え、コレお前のだったの?」
「あぁ、ボクの愛しのストアさんのものだ。安心しろ、ラクに逝かせてやる」
「……わ、悪かったって」
そもそもストアさんの包丁の在処を知ったのは、アイマンがニカイドウと居た際に謎の悪魔から包丁の存在を教えられ、「黒い家」を使ってその包丁を持つ人物のところにまで来たからで。
包丁の入ったポケットを持っていたのが、博士。
その博士に聞けば、ハルちゃんから死んだボクを助けるよう頼まれた上で、お助けアイテムとしてポケットを渡されたそう。
「おかあ、さん……」
ハルちゃんが魔法使いに戻されたと知り、手の震えと汗が止まらない。
でも死んではいないそうだから、少し安心した。今は黒い家に居るらしい。
つか、ストアさんも絶対来てるじゃん。
「いや、待ってよアイマン。何で君、突然ニカイドウの前に現れたんだよ」
「それは俺も知らねぇ。…けど、多分だが、俺とニカイドウの前に現れた悪魔が何か関係してんじゃねェかな。ニカイドウ曰くこの首って、ホルマリン漬けにされてた奴らしいし」
「わざわざその悪魔がここへ君の頭を運んで来たとか? ……いやいや、だからまず、何で生き返ってんのかがわからないんだよ」
「だァーー! 俺も知らねェんだから聞くな!」
無理やりな感じで、話を切られてしまった。
途中、博士が魔法使いの頭(リンリン時代に煙の屋敷で見た気がする)を見つけて回収しつつ、ボクもボクで色々状況を整理する。
ボクが死んだのは、おそらく首謀者の男に撃たれたからだろう。状況的に見ても、そうとしか考えられない。
その後、生首になったボクをボスは持っていたわけだ。
二人の話すそのボスと、ボクが知っている異形になったボスの見た目が食い違うから、ボスはまた変化したってことになる。
否、「変化」ではなく、「進化」なのだろうか。
なんと、面白い。
「君らが向かっている先は、ボスのところでいいんだよね?」
『あぁ、俺なら奴の気配がわかる。あの悍ましい殺意がな』
進むと、ニカイドウの店が現れた。その扉をアイマンが開けて入り、二階へ向かう。
「あれ? 博士、持ってた生首はどうしたの?」
「落としちゃった……」
博士大丈夫かな。見るからに衰弱して来ている。ハルちゃんのことも心配だし、仮に二人が亡くなったらボクはホールと魔法界を本気で潰してしまうかもしれない。せっかく記憶が戻ったのに。
『どこへ向かう気だ、会川』
「ここには抜け道があっから、そこを通ってる。奴より先回りしなきゃならんからな」
『抜け道? なぜお前がそれを……ここは“奴”の世界ではないのか? それになぜニカイドウの店を“奴”が知っている』
「………ここは奴の世界でもあり、俺の世界でもある」
なるほど。カイマン=会川=壊だから、それぞれの体験した記憶がこの世界に反映されているのか。
クソ重いストアさんの包丁をアイマンが持っているのも疑問に感じていたし、彼にも何らかの補正がかかっているのだろう。
生き返ったのももしかしたら、この世界が影響しているのかもしれない。
ってことは、仮にこの世界から脱出したとして、アイマンが生首になるなんてこと……ないよな?
そのまま二階に行ってカイマンが窓の鉄格子を取り開くと、そこに広がるのはホール中央病院の廊下。
そこを進んでいる時、栗鼠が反応した。この場所に来たことがあるらしい。
何でも、以前呪いが反応してホルマリン漬けの首を取ったとか。
「「盗んだのお前じゃん!!」」
『…それが俺の魔法だ。呪った奴のすべてを奪う。だから女が持っている奴の首も食らわなければならん』
スッ…とボクがポケットに手を入れれば、苦い顔をした栗鼠が視線を逸らす。悪魔のソングはご所望じゃないようだ。
で、カイマンが煙に殺された時に、呪った相手を殺せなかったことで魔法の完遂ができず、長らくカイマンの口の中に囚われたままだった
呪いが閉じ込められていた理由の一つに、カイマンの体に同時に魔法がかかったことが挙げられる。
栗鼠を殺した壊は、逆に栗鼠に呪い殺されることになった。彼はホールに逃げたが呪いからは逃げられず、結果ニカイドウが首のない男の死体を見つけた通路でボスは息絶えることに。この時も栗鼠はもぎ取った壊の首を食らったのだと言う。
しかし死に行く間際、ボスは持っていたケムリ瓶の一つを握りしめ壊した。
その瓶がトカゲに変身できる魔法だったというわけだ。呪いとトカゲの魔法が重なり、カイマンは頭だけトカゲになり、体内に潜り込んでいた栗鼠の呪いもその中に閉じ込められることになった。
カイマンに魔法が効かなかったのも、二つの魔法が同時にかかっていたことで、他の魔法がかからぬ特異な状態であったから。
こうして気になっていたカイマンの謎が解けると、スッキリするものだね。
ベリスで彼の頭が戻ったのも、かけた魔法使いが死ぬなりして魔法が解けたからだろう。
そしてそのベリスから呪いが戻る際に、ホルマリン漬けの首を落としてしまった──と。
元々栗鼠の魔法の発動条件は殺された時らしく、相手を呪い殺すまで魔法は解けないそう。
『…会川、俺はずっと気になっていた。お前はいったい何者なんだ?』
「俺はお前のパートナーだ。……それで」
『それで?』
歩いても歩いても、廊下の先が見えない。時折窓の外に人影が見えたりして興味深い世界だ。
立ち止まった二人を残して進んでいたら、名前を呼ばれる。「小夏」と、アイマンに。迷子にでもなったらどうするのか、と。ボカァそこまで方向音痴じゃないぜ。
戻ったら手を繋がれる。ボクを何歳だと思ってるんだ、君。アラサーですのことよ。
「栗鼠、俺は魔法使いに憧れていた、人間だった。でも、これでもな、本当に自分が魔法使いになれたと信じてたんだ。お前を騙してたわけじゃない」
『………』
「俺は俺が怖かった。自分の内側に潜む“何か”を恐れ、ずっと見て見ぬフリをした。……奴がお前を殺したことも、煙のパートナーになったニカイドウを一度殺そうとしたことも」
手が、離れない。
離れない離れない離れない!!!
「逃げないでくれ、小夏」
真っ直ぐに、彼はボクを見つめる。
幻影の一瞬に幼い姿のボクもいたなんて、そんなの気のせいであったはずなのに。違う、今ボクの目の前にいるのはカイマンか、会川か、もしくは壊だ。
だから違う、違う。違う!!
「俺の名前は──────アイ=コールマン」
違う彼はもう、死んだんだ。
もういない、いない、いないのに。
Ⅶ【レイニーデイ】