「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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残り3話です。


ボクの笑顔はどうですか。

 小夏たちの裏では煙の復活や“奴”の敗北など、様々なことが起きていた。

 

 まず、煙の復活。

 

 操られる心にバラバラにされ、一箇所に集められていたファミリーの幹部。

 彼らは藤田が回収していた煙の悪魔腫瘍をターキーの魔法で作った人形に託し、一縷の望みに賭けた。

 

 人形は恵比寿。少女の側には煙の死体とキクラゲがいる可能性が高いためであった。

 

 人形の材料に使われたのは、バラバラになったファミリーの肢体。これに鉄条も巻き込まれ、彼らは正真正銘の生首に。

 

 その場に五体は満足な能井もいたが、彼女は頭に心の武器がめり込んだまま微動だにせず。藤田たちもどうにかハンマーを取ろうと躍起した。

 

 一方で同じ部屋でチューブに釣られていた川尻は、悪魔に餃子係として拉致された。

 

 その際、川尻を回収しようとした悪魔のビールジョッキが能井の頭に落下。

 かくして心が頭に忍ばせたケムリ瓶が割れ、能井が復活。

 

 彼女の目の前には生首だけの仲間と、タイミング良く現れた“奴”の姿があった。男の周囲にはニカイドウとキクラゲの入ったバッグを持つ恵比寿、そして毒蛾が浮いていた。

 

 少女と青年に関しては、肉体の一部がキノコに変わっていたのである。

 

 

 そしてエビス人形が届けた悪魔腫瘍により、復活を果たした煙。一時記憶を失っていた毒蛾も、この時には戻っていた。

 

 全裸な男の前に現れたのは、半裸の心。

全裸VS半裸VSダークライ。勝敗は明白である。

 

 全裸だろうが、魔法界最強の男は一瞬で心の全身をキノコに変えてしまった。その結果心に繋がっていたチューブが解け、彼を操っていた元凶が無くなったのである。

 

 ちなみに服については、毒蛾のズボンと恵比寿のサイズの大きい上着を煙が献上させた。

 しかし毒蛾によりキクラゲが恵比寿ごと攫われ、煙が追い込んだものの頭上から伸びたチューブにより二人と一匹が連れ去られた。

 

 さらに復活した心と煙の周囲の建物が液状化し、黒いドロの大洪水が発生。

 

 キノコの遠隔操作で意識のない男を抱え、心はあっぷあっぷと、溺れかけた。

 

 

「し……死ぬ…!!」

 

 

 やがて二人は渦を巻く黒い水の中へと巻き込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 ボクらが着いた時には全員大集合!──といった具合。

 

 ありゃ? 煙ファミリーの幹部はほとんど生首になっていたんじゃなかったっけ。

まぁ能井とキクラゲちゃんがいるし、揃えば生き返らせる事もできるか。彼らも彼らで一波乱あったのだろう。

 

 そしてなぜ煙が生き返っているのか。ヤツの悪魔腫瘍は壊が利用済みだったはず。

といってもこの場にいるのは、以前バウクス先生の誕生日に現れた人型キノコ。それに煙の顔がある。

 

 川尻とテツジョー&ドクガ以外は、キノコの防具スーツを着ていた。ニカイドウが能井より大きくなっているのも気になる。悪魔化が進行しているのだ。

 

『なっちゃんに栗鼠、それに会川も無事だったか!』

 

 彼女の声も変わって、悪魔(デス)ボイスにより磨きがかかっている。

 

 

「にしても…」

 

 部屋の中央に、チョーおデブになった“奴”がいるんだが。眼球の隙間や鼻、口に耳などキノコが内側からはみ出ている。

 

 ここで煙との戦闘があったのは間違いない。“奴“は体内にキノコを形成され、負けたというわけだ。

 

 でも壊くんには魔法使いを再起不能にする力があった。それを使われれば、さすがの煙でも一溜りもないはず。

 

「…ん?」

 

 ちょうどその時、天井が黒い液体に包まれ渦を巻いたと思ったら、半裸のシンと休日のオッサンな格好をした煙が落ちてきた。煙の方はシンに肩車されている。

 

「なるほど。もし使われても、遠隔操作をしていれば影響を受けないってわけか」

 

 それと“ホール”についてだが、全身が痙攣したように動いており、まだ生きていると思われる。

 アイくんの腹を突ついてジト目で見ると、「悪ィ、まだ生きてたっぽい」と返された。

 

 

 そして部屋の上部にある窓が割れ、そこから現れた悪魔の面々が突如出現した黒い家に入っていく。ボクが追いかけている間にいつの間にか消えたデビルハウスだ。

 

 ハルちゃんが心配だが、アイくんと天秤にかけて今はここを離れるわけにはいかない。

川尻の場合も魔法使いに戻された後、その場から抜け出せたみたいだから故意に悪魔が殺すことはないだろう。

 

 

「最後の首を殺さなければ、“奴”は終わらない」

 

 ストアさんの包丁を軽々と振るい、その衝撃波で不特定多数の魔法使いを吹っ飛ばしながら、アイくんは“奴”の首を刎ね飛ばす。

 

「ハァ、やっぱり(ストアさんの包丁)カッコいい……」

 

 見惚れていたボクの視線に気づいたアイくんが、頬をかく。

 

「そ、そんなに見んなよ。照れんだろ…」

 

「ハァ? 勘違いしないで。君じゃなくて、その包丁にこの小夏様のハートが奪われてたの」

 

「………お前、俺のこと好きなんじゃねーの?」

 

「うん。でも、ストアさんとは将来を約束(解体する・される)した仲なの」

 

「何ィ〜〜〜ッ!?」

 

 俺という者がいながら──などと彼は宣っているが、ボクが恋愛したのは壊となので、厳密に言えばアイくんとではない。

 

 何だよ、自分に想いを寄せていた女の子が別の男に想いを寄せていると知って、モヤモヤしているのか? 

 

 生憎ボクは恋多き乙女でね。今にもこの場でボクを取り合いキクラゲちゃんとストアさんの戦いが起こるかもしれないって、内心ヒヤヒヤしているのだ。

 

 

「おっ……お前まさか、俺の気持ちに気づいてないのか?」

 

「?」

 

「す、好きってこと……」

 

「…? あぁ、そういうこと」

 

 彼がニカイドウくんに向ける感情は、すでに友愛から変化していたというわけか。

 

 となると、彼らの人格って壊がはみ出し者で、会川とカイマンとアイくんは同じ枠で囲まれてるのかな。

 

 いや、でもニカイドウくんはほとんど悪魔な状態だし、人間と悪魔の恋愛ってことになるのか。博士とハルちゃんの例があるから、問題ないと思うが。

 

「わかってくれたか…!」

 

「うん! 毎日ニカイドウの料理が食べられるの、羨ましいっ!」

 

「わかってねェわ」

 

 頭を抱え、深いため息を吐くアイくん。その隣で栗鼠はボクに「マジかコイツ…」な視線を送っている。

 

 えっ、まさか栗鼠もニカイドウ争奪レースに加わっている感じですか? 

 

 彼はニカイドウの修行中共にいたわけだし、ボクの裸を見ても反応のなかった理由をアイくんに聞かれていた際も、ニカイドウの裸を見る機会があったから、と話していた。

 

 ちなみにニカイドウの裸を見たのは、全部ハプニングによるものらしい。見ようとして見たわけじゃない、と。何ならアスなんてニカイドウが入る風呂に入り、彼女に怒られていた、と。

 争奪レースに川尻も参加かな? 

 

「ニカイドウハーレム……」

 

【聞こえているぞ、なっちゃん】

 

 頭にニカイドウの声が響いた。ハルちゃんと同じ芸当をできるだなんて、ますます悪魔だ。

 

 

「小夏」

 

 

 アイくんに肩をつかまれた。以前ならカイマンや壊くんに一方的に触られると体が拒絶反応を起こしていたけど、もうその心配はない。

 

「子どもの頃、胸を揉んでごめん」

 

「…急に何? というか、自分でソレ言って恥ずかしくないの? 周囲の目もあるのに」

 

「うぐっ……でも謝っときたいんだよ、ちゃんと」

 

 何だいそれ。今更胸を触られてビビるような女の子じゃないさ、ボクは。

 

 

「勝手に廃物湖に飛び込んで、苦しめてごめん」

 

「許すよ」

 

「お前の前で死んで、ごめん」

 

「……許します」

 

「その…色々と無体を強いて、申し訳ありませんでした」

 

「壊くんのこと? 別に抵抗しようと思えばできるし、その時点で受け入れてるよ。つまり、許してる」

 

「お前を殺したくなかったのに………ごめん」

 

「いいよ」

 

 彼が謝って、その度にボクが許して。

 アイくんのガスマスクをかぶった頭がなぜか、少しずつ崩れていく。ドロドロと、溶け始める。

 

 

 

「俺、アイ=コールマンは、発明家リンリンのことを愛してた」

 

 

 

 アイくんは、そう言う。溶けたマスクの奥に浮かぶ口元が、優しく微笑んでいた。

 けれど瞳は涙を浮かべている。

 

 ねぇ、どうして。

 

 

「今も、大好きだぜ」

 

「何だよ、それ」

 

「だから…………ごめんな」

 

 

 ガスマスクが溶け、目をパチクリさせたトカゲ頭の男が周囲を見渡す。すると手に持っていた包丁の重さにより、体勢を崩した。

 

 切れたはずの“奴”の首の中から、一つの頭が現れる。

 

 そちらに視線を向けることができない。

 

 

「やってくれ、栗鼠」

 

『………いいんだな?』

 

「あぁ、元を辿れば俺が始めたんだ。だからケジメは俺が付ける」

 

『…わかった、会川』

 

 

 前が、見えない。

 

 頭からは壊れたようにキュルキュルと音がして、目からは水分が溢れる。

 

 でも、それでもボクは見なくちゃならなかった。だって彼のことを、愛しているから。アイ=コールマンがボクにとって、かけがえのない存在で、失いたくなかった人だから。

 

 

 

「バイバイ、小夏」

 

 

 

 包丁で、斬られた彼の頭が飛ぶ。

 

 無理して笑ったボクの笑顔は、彼にどう映ったかな。

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