「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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次回で最終回です。


ギョ、ギョ、ギョッ。

 魔法使いが死んだら地獄に行く。

 一方で魔法使いに殺された人間たちは、ドロの中に沈んで一つの生命体となった。

 

 ならば魔法使いに殺されず死んでいった人間の魂は、どこへ行くのだろう。

 そんな彼らにも死後の世界があるのだろうか。

 

 

 I(ボク)は果たして死んだのだろうか。五感が働いていない。思考だけ漂っているような奇妙な感覚。ここはいったいどこなのだ。

 

 意識を努めて奥深くに潜らせ、それでいて木の根のように広く持てば、不思議と今何がホールで起こっているのか把握できる。すでに日は昇っていた。

 

 I(ボク)がいたはずの病院にはバウクス先生やサーティーン、ジョンソンがいて。“奴”がボロボロにした病院内部や魔法使いの死体を見て驚き、困惑している。

 

 またジョンソンが、外に落ちていたポケットを拾ったらしい。先生が危険物として回収した。

 

 ハルちゃんの頭がどこに行ったのか上手く思い出せない。彼女が殺されて以降の記憶がない。I(ボク)はどうなってしまったのだろう。

 

 “奴”の気配も変わらず存在する。

 その体内から複数の魔法使いの気配もあった。俄には信じ難いが、まだあの部屋で呑み込まれた魔法使いが生きているというのか。

 

 黒い家には川尻やカイマン、ストアさんや空気な栗鼠もいる。ついでに元悪魔たちも。

 

(────ッ!)

 

 ウロウロと意識を彷徨わせていた時、最強の悪魔と視線がかち合った気がして慌てて意識を浮上させた。ゼェハァと荒い息を吐きたいところだが、生憎体が無い。

 

 それでももう一度、自己をダイブさせる。

 

 すると今度はニカイドウが“奴”の────チダルマの言う「ホールくん」の前に降り立った。

 カイマンを守るため、ストアの包丁を握りしめる彼女。

 

 最初はニカイドウの優位であったが、敵の雨雲攻撃や彼女の魔法が不正利用された事で、包丁を落としてしまった。

 地面に突き刺さった柄を握り、引き抜くホールくん。

 

 包丁が振るわれ、起こった衝撃により彼女の肉体がバラバラになった。白いバケモノは大口を開け、悪魔の血肉に食らいつく。

 

 

「ニカイドウォ────ッ!!」

 

 

 外に飛び出て彼女に駆け寄ったカイマンに、ホールくんのドロが浴びせられる。

 その周囲では人間たちが静観している。彼らは白いバケモノに対し、怯えた様子はない。悪魔を蹂躙する存在が怖くはないというのか。

 

 いや、ホールくんが狙うのは魔法使い。人間ではない。ゆえに、本能的な恐ろしさを抱かないのかもしれない。

 

 カイマンが倒れ、彼の後を追った川尻の前にホールくんが。

 

 絶体絶命。このままこの世から魔法使いが消されるのだろうか。

 

 それはそれで、いいかもしれない。I(ボク)は魔法使いを好きでも嫌いでもないが、アイ=コールマンを殺したのは魔法使い。

 だから、すべての魔法使いが死んでいい。

 

 もうハルちゃんも死に、悪魔もチダルマに見限られた。まだ“奴”の中から煙ファミリーの気配もあるが、いずれ彼らも酸に溶かされて死ぬ。

 何もかも、ゼロになってしまえばいい。

 

 

 けれどまだ、諦めない者がいる。

 

 ボックス片手に現れたのは、ニカイドウ。先程食われたはずだが、ホールくんより魔法を使うのが早かったらしい。しかしこの場合、食われたニカイドウが使ったわけではないはずだ。

 

 川尻が起点を利かし、瞬間移動でニカイドウと共に包丁の斬撃から逃れる。彼らが移動した先に意識を向ければ、地下の部屋で二人が会話している様子が見える。

 

 ニカイドウの発言で、二点気になる事があった。

 

 “奴”を倒せる可能性があるのがカイマンという点と、過去に戻って彼女がカイマンを生き返らせたという点。

 

 もしやカイマンとニカイドウが見かけた謎の悪魔というのは、未来の悪魔ニカイドウだったというわけか? 

 

 カイマンがホールくんを倒す鍵というのも気になる。

 

 

「あっ……」

 

 しかし、これは彼女にも誤算だったか。

 

 ニカイドウの魔法には時を渡れる回数に限りがあったようで、ホールくんと彼女が使った分で底を尽いた。

 

 結果魔法の使えなくなったニカイドウはケムリも出せず、悪魔の資格を失った。

 それにより起こった悪魔の肉体の崩壊。そこから、核だった魔法使いの本体が姿を現す。

 だがストアさんによって解体されていないためか、そのまま全裸のニカイドウが出てきた。

 

「カイマンを助けなければ…」

 

 川尻の上着を羽織るニカイドウが、そう言う。

 

 まだ、戦うのか。よくもまぁ、諦めないね。

 

 

 

 

 

『お前は諦めちまったのか?』

 

 

 声が、聞こえて。二人がホールくんの側に移動したのを見ていた意識が唐突に引き戻される。

 

 気づけば病院のベッドにI(ボク)は腰掛けていた。

 

 この病室は中央病院じゃ──ない。ここは、カスカベ診療所の病室だ。

 周囲には大量の花があり、華やかな匂いが充満している。

 

『……アイ、くん?』

 

『おう、さっきぶりだな』

 

 全身包帯まみれの少年が、ベッドに横たわっている。ミイラ男みたいで、まるでかつて廃物湖に落ちた後のような姿だった。肝心の自分は窓にうっすら映る姿を見ると、お姉さんのままだ。

 

 なぜ彼がここにいる? I(ボク)は意識だけになっていたのに、肉体の感覚がある。夢…なのかな? 

 

『ここは何、君は本当にアイ=コールマン?』

 

『ここはお前の世界でもあるし、俺の世界でもある。疑うんなら、お前が十字目のボス()に色々言ってた言葉を言っても──』

 

『オマエヲコロス、イマ……ココデ』

 

『じょ、冗談だって』

 

 ここはI(ボク)が「これで一生一緒だねっ☆」と、勢い余って彼の首を食べてしまった事で生じた、バグみたいなものらしい。

 

 それで、I(ボク)は死んではいないと。

 生きているかも怪しい状態だそうだけど。なぁにそれぇ。

 

 

『お前、ドロに耐性があるみたいだぞ。気付かなかったのか?』

 

『え、知らない』

 

『知らねェのか……昔ホールで側溝で溺れかけた時に、微量でも体内に取り込んじまっただろ。それが原因だと思うぜ。お前も知らない内に、耐性を獲得しちまったんだ』

 

『何で君がI(ボク)よりI(ボク)の体について詳しいんだよ』

 

『そりゃあ……お前の体内に入っちまったから』

 

 何てどすけべな発言をするのだろう。I(ボク)の体内に入っちまったからだぁ、なんて。責任取って結婚しろよ。してくれないなら栗鼠とするから。

 

『やめろ。俺の純情を弄ぶな』

 

『君こそI(ボク)の精神を弄んでんじゃん』

 

『うっ……』

 

 “奴”を倒してもトカゲ頭の体は残るから大丈夫と見せかけて、無事なのはカイマンで君は死んじまったじゃないか。嘘吐くの、良くないと思いますよ。マジで(殺意)

 

『んで、話の続きは?』

 

『……それで、“奴”はお前を操ろうとしたみたいだが、耐性があるから操る事ができず、食われた俺がそのまま残っちまったわけだ』

 

『ホントに一生一緒!!? やった!!』

 

『いや、“奴”が死ねば俺も消える』

 

『(殺意)』

 

『そんな睨むなよ! 俺にだってどうしようも………………ごめん』

 

 謝るなら悪魔(ケーサツ)はいらないんだよ。

 

『まぁ、謝罪の件は一旦保留にして。I(ボク)ってハルちゃんが殺された後さ、どうなったの?』

 

『溶けたんだ』

 

『えぇ…?』

 

 文字通り、全身が溶けた。でも悪魔腫瘍も完全に溶けたわけじゃなくて、I(ボク)が溶けた残骸から生まれたケムリの一部になっているらしい。

 

 強化を極限に行った末で引き起こされた肉体の崩壊。感情によって無限に強化できても、当然肉体の限界はある。

 

 強化&強化&強化………etcで、我が身がたどり着いたのは一つの答え。

 

 

『お前は進化した。別の次元に存在する、意識だけのものに』

 

 

 ハ? ──と、自分の口から出るのは頓狂な声。

 

『え、えっ…? メッチャ格好いいことになってるじゃん、I(ボク)

 

『このアホッ! 死も生もないような状態なんだぞ! 今はまだお前らしさが残ってるけど、やがてその意識自体達観して、別の「何か」へと昇華しちまう』

 

『つまりI(ボク)が「小夏(ボク)」でなくなって、ハイパーな生き物へとグレードアップしちゃう…!?』

 

『嬉しそうに言うな、バカ夏』

 

『いや、普通にI(ボク)が小夏でなくなるのは嫌だから、戻りたいよ?』

 

『……そ、そうか』

 

 アイくんとイチャイチャしたら戻れるとか、そういうオチじゃない? 

 え? そうですか、違いますか…。

 

『戻る方法は簡単だ』

 

『何だ、知ってるの』

 

『強く願うんだ、「元に戻りたい」って』

 

 戻る、か。元の魔法使いにってこと? そんなのすぐにホールくんに殺されて終わりじゃんか。

 残った魔法使いがまだ抗っているけれど、それもいつまで保つかって話でしょ。将来性のない投資は意味がない。

 

 だから、このまま──。

 

 

『俺といるって? …ふざけんな』

 

『あは、“奴”さえ消えなければ君もずっとI(ボク)と一緒。それに高次元の存在にI(ボク)が進化したとして、今進行形で意識が変わっているというなら、君を巻き込んじまえば、そのまま君も消える事が無くなるんじゃないの?』

 

『………』

 

 ずっと一緒にいられるなら、それでいいじゃないか。I(ボク)はもう二度と、君と離れたくない。アイ=コールマンを失いたくない。だから、だから一緒にいて、アイくん。

 

『…ダメだ』

 

『何でさ』

 

『お前にはカスカベ先生や母親、それにカイマンにニカイドウに……たくさん「残っている人」がいるだろ』

 

『それでも、君といたいんだ』

 

『……いいか、まだ()()()()()()()()

 

 ニカイドウと川尻は、カイマンを助けようとして白いバケモノに頭を斬られた。

 

 けれどカイマンは二人の助けが寸前で入った事で、黒い家に移動し助かった。

 そんな彼に元魔法使いたちが入れ知恵を働いている。彼らは全員の魔法を使い、彼を最強の魔法使いにしようと画策している。

 

 ホールくんの体内にいる煙ファミリーの面々も、煙がケムリで膜を作って仲間を守っている。そして魔力切れを起こさないよう、能井が常時回復させている。

 

 魔法界でも、一人の女が雨を降らす原因──天上に浮かぶ巨大な扉と、その中から出てくるホールの雨を含んだ太古の亡霊たち──を発見し、行動に移そうとしている。

 

 確かに終わっていない。

 分からない。彼らは何故、諦めない? 

 

 ──変だ。頭の中に様々な情報がどんどん入ってくる。その情報に自分の意識が埋もれて行くようだ。

 

 

『諦めたらそれで終わりだからだ、小夏』

 

『でも、勝てないさ』

 

『ンなの、やってみなきゃわからねェだろ』

 

『ハハッ…熱血教師みたいな事を言うね、アイ=コールマン』

 

『俺はまだ、諦めてない。お前を救うこと含めてな』

 

『ふふふ、今日の君は一段と面白いね』

 

 

 彼の体が少年の姿から、見慣れた青年の姿へと変わった。大きい体でボクを抱きしめる。広い胸板に顔をすり寄せると、すごく安心する。

 

『………ハァ、しょーがないなぁ。ボクの方がお姉さんだから、君のワガママを聞いてあげるよ。だからチューしろ』

 

『エッ』

 

『じゃないと現実に戻った後、ボクが魔法使いだけじゃなく人間どもも皆殺しにしちゃうから』

 

 目を瞑って顔を突き出すが、なかなか唇に感触が起きない。

 

 なので薄目を開けてみると、今世紀最大級に顔を真っ赤にして、顔中から汗を流す男の顔があった。

 その顔を見た瞬間思わず笑ってしまって、そのまま軽くボクからチューをする。

 

 アイ=コールマンくんはとうとう固まってしまいましたとさ、アハッ。

 

『じゃあね、アイく──』

 

 離れようとしたら、ガシィと、腕をつかまれた。

 一周回って無表情になった男の顔が近付いてくる。えっ、何か顔に影ができてて怖いんですけど。

 

 えっ、え、えっ……。

 

 

 

『覚悟しろ』

 

 

 

 ボクはハルちゃん講座で習ったはずだったんだ。

 

 男は狼なんだ、って。

 

 

 

 でもすごく今、幸せだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 残った者たちは、希望を求め活路を見出す。

 

 ホールくんの体内にいる心たちの場合、煙の限界も間近となり周囲を囲むケムリの膜が崩壊し出した中。

 救世主となったのは、生首から生き返った消だった。

 

 彼の真の力は「非物質化」。普段は抑制する装置を使い能力を意図的に調整していた。強力なその力は、この世から完全に物体を消す事ができる。

 

 これを皆に使い、ホールくんの体内から脱出する目処が立った。

 しかし最悪魂のみとなった彼らはその重みに従い、この世の果てまで高速で落下し続けることになる。ゆえにリスクの高い作戦である。

 

 

 また魔法界でも、ミートパイ専門店の従業員の一人──「キリオン」という女が頭上に浮かぶ巨大な扉を破壊するべく、爆発系のケムリ瓶を大量に用意し事に起こそうとしていた。

 

 ちなみに壊の顔面を包丁で斬ったのが彼女である。

 

 過去にホールで攫われ、魔法界で売られたキリオン。人間である彼女は社長や従業員、それと、社長に一方的な好意を寄せる女も一応救うため、ホウキに跨り空を飛ぶ。雨の影響で視界は悪い。

 

 

「待ってて、みんな…」

 

 

 彼らはまだ、終わっていない。

 

 

 

 一方、最強の魔法使いとなり、「ギョーザ魔王」となったカイマン。

 

「ギョーザ魔王の杖」なる棒の先に炎、さらにその先にギョーザが浮かぶ杖を使い、ホールくんと戦っていた。

 

 ギョーザを模した羽根で空を飛び、もげた脚をギョーザを食べる事でたちまち回復させ、肉汁たっぷりの揚げギョーザを相手にぶち当て大ダメージを与える。防御もギョーザの中に入ればお手のもの。

 

 攻撃・防御・回復──そのすべてに特化した、チート級の能力。

 

 しかし、ギョーザである。これが頭の中の半分以上がギョーザで占められている男の末路…否、力であった。

 

「コイツでトドメだァ!」

 

 ストアの包丁が白い異形の頭を刈り取る。すでにカイマンの攻撃で、胴体にも重傷を負っていた。

 これで終わりかと、黒い家の中にニカイドウと川尻、ホールくんの頭を運んだ男。

 

 だがまだ、巨大な白い頭は生きていた。

 

 ニカイドウの頭を触手で絡め取り、ホールくんは外へ逃げ出す。異形の行き先は、水が消えて干上がった深淵に包まれた廃物湖。

 

 そもカイマンが元悪魔たちに選ばれたのは、ホールくんのドロの影響を受けなかったためである。

 

 白い異形の元を辿れば、アイ=コールマンに繋がる。ホールの一部に少年がなったということは、黒いドロが少年の力でもあるということ。

 だからこそ、元悪魔たちは最後の足掻きにカイマンを利用する事にした。

 

 すでにホールの闇から切り離されたカイマンに、ドロの力は効かない。

 

 ただし魔法使いになったことで悪魔腫瘍ができた以上、その影響は受ける。

 

 

「ウゲッ、何か大量の死体が沸いてきやかった」

 

 ホールくんの地面に倒れていた肢体から噴き出した黒いドロ。

 そのドロはホールに舞い、この地に眠る死者を蘇らす。まだ時期にしては早いリビングデッドデイが始まった。

 廃物湖を埋め尽くす人間の死体の山は幻覚である。

 

「俺が助けに行くからな、ニカイドウ!」

 

 固唾を飲み込み、意を決してカイマンは死者の山の中へ飛び込んだ。

 

 

 

 廃物湖に入った男を待っていたのは、最強の悪魔と、太古の人間たちの怨念。

 魔法使いに殺された人間の恨み辛みが、そのまま殺された方法をカイマンに追体験させる。

 

 だが人間の恨みを体験し、魔法使いへのヘイトが湧き起こったからといって、ニカイドウへの想いが薄れることはない。

 

「うぅ…ギョーザの匂い……」

 

 太古の人間の悪夢から呼び覚ましたのは、ギョーザ棒の匂い。

 よだれを垂らしたギョーザ魔王に、ギョーザ棒は己を食べたら確かに絶品だが、食べないように注意した。

 

 悪魔腫瘍の痛みはギョーザを頭に付けて守り、カイマンはホールくんの生首を追って奥へ進む。暗闇に明かりを灯すのは、やはりギョーザ。

 

 その先にあったのは、水溜まり──にしては大きい小さな湖のような場所と、亡者。

 亡者はこの湖からドロを吸い、魔法界に雨を降らしていた。

 

「揚げギョーザだ、ギョーザ棒!」

 

《ギョー意!》

 

 太古の亡者もしかし、カイマンのギョーザ愛の前では無力。あっという間に揚げギョーザによって爆発し、無数の肉塊が周囲に散乱する。

 

 そんなカイマンを前に、ドロの中から巨大な生首が現れる。ニカイドウの頭を咥えたその頭。

 栗鼠の記憶を悪魔ニカイドウによって共有された際に見た、カイマン自身の顔である。

 

 ギョーザ……ではなく、魔法使いに憧れた少年、アイ=コールマン。

 

 その人生はホールの闇によって、死んだ後も利用され続けた。アイ=コールマンは、カイマン自身でもある。

 奇妙な感覚だった。自分が目の前にいるというのは。

 

 少年の過去を知らなければ、カイマンの内に同情心など生まれなかったに違いない。

 

「アイ、コールマン……」

 

 ギョーザ棒と包丁を置き、カイマンは手を伸ばす。

 これ以上、己と戦いたくはない。

 大切な友人を返して欲しいと男が伝えれば、二つの瞳から黒い泥が流れ出す。まるで涙のようだった。

 

 あともう少しで、カイマンの手がニカイドウに触れる。

 

 その瞬間、ニィと、巨大な頭が口角を上げて。

 

 

 

 

 

「小夏ちゃんキィ────クッ!!!」

 

 

 

 どこからともなく現れた女が、ホールくんの頭を吹っ飛ばした。

 その衝撃で口の中から落ちたニカイドウの頭。それを慌ててカイマンはキャッチする。

 

「お、お前は修理屋!?……って、なんで何も着てねぇんだよォ!!」

 

「ハッハッハ! ヒーローは、遅れてやって来るのだァ!」

 

 高笑いする女と、両手で顔を隠すカイマン。ギョーザ棒はピュアボーイを発揮する主人のため、小夏にギョーザの服を作った。

 

 そんな二人に静かな視線を送る、最強の悪魔。

 

『カッカ! 発明家、オレ様としちゃあ、そのままお前が変化した姿を見てみたかったんだがなぁ』

 

「ボクは「小夏(ボク)」でいたいからね」

 

「何の話してんだ? アンタら…」

 

「あはっ。まぁそれより今は、最後の戦いっしょ」

 

 ゴゥと、口からケムリを吐く小夏。

 その相手はカイマンではなく、ホールくんである。

 

「!?」

 

 突然の女の行動に目を丸くするカイマン。それはチダルマも同様であった。

 

『ホールくんを強化してどうすンだ、小夏』

 

「確かに強化したけど、普通の強化じゃないよ」

 

『何?』

 

 

 彼女が行ったのは、「マイナスの強化」。

 

 これまで行ったことはおろか、この方法を思いついた事はない。だが高次元の存在に一時的でも進化し、そしてそこから戻った事で、彼女の中で生まれた「(マイナス)」の概念。

 土壇場の行使だが、上手くいったようである。

 

「よっしゃ、これで本当に終いだァ! ギョーザ棒!」

 

《ギョー意です、ご主人サマ!》

 

「超超特大のぉ、揚げギョーザだぁぁぁ!!!」

 

 さながら惑星に衝突する隕石が如く。その暑さで一気に周囲の温度を真冬から真夏に変える勢いのギョーザが、ホールくんに降り注ぐ。

 

 

『ギャアアアアアッ!!』

 

 

 辺りに漂うギョーザの香ばしい匂い。大爆発を起こしたその場所に、白い異形の姿はない。

 するとドロでできた世界が、崩壊して行く。

 

「あっ、おい、大丈夫かよ!」

 

 カイマンはふらつき倒れた女を抱えた。気を失った小夏は、そのまま小さな寝息を立て始める。

 

『………ちぇっ』

 

 最強の悪魔は舌を出し、不貞腐れたように地面に転がった。

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