「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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Ⅷ【さよなララバイ】

 後日談…というか。まずホールくんを倒した後どうなったか、このなっちゃん様が語って進ぜよう。

 

 

 ホールくんが倒された直後、巨大な爆発音が聞こえた。魔法界に雨を降らす原因であった扉が破壊されたのだ。

 

 一人の女が起こした、勇敢な行動。

 

 彼女の存在は意識だけの時に感じ取っていた。ボクは後日、店を訪れてミートパイを食べた。もちろん客として。メチャクチャ美味かったよ。

 

 女の方は爆発に巻き込まれ大怪我を負っていたようで、能井ちゃんのケムリ瓶をこっそり置いて行った。

 その瓶は怪しんで使っていないかもしれないが、店の魔法使いも優しそうだったし、いずれ彼女のために修復系のケムリを買ってあげるだろう。

 

 

 そして扉が爆発し、ホールくんも最後の力を失ったのか、ドロでできた洞窟が崩壊して出現した中央デパート。建物は中途半端に埋もれていた。

 ボクらの居た一帯が地上から見ると穴の中で、地面を踏みしめるとパキパキと、小気味のいい音が鳴った。辺り一面、大量の人骨で覆われていたのである。

 

 同時に地上で起きていたリビングデッドデイも終わり、ゾンビたちが次々に倒れた。

 異様に眩しかった太陽の光が、記憶に新しい。

 

 煙ファミリーの方はというと、爆発が起こって間もなくボクらの前に現れた。空中に突如出現して落下し、各々人骨から体を生やす愉快なオブジェに変化した。

 

 曰く、彼らは幹部の消の魔法で脱出を図り、成功したのだとか。

 

 ホールくんの体内にいた彼らは、危うく“奴”の消滅に巻き込まれる寸前だった。いや、非物質化? ──しているから死にはしない。

 しかしホールくんの消失を受けて、消が把握していた「出口」の位置が曖昧になり、そのまま地中の奥深くへ落下していく可能性があったんだって。

 

 まぁ、助かってよかった。仮に失敗してもキクラゲちゃんと能井は助けてあげるから安心してね。あとドクガたちも。情けで一応シンも助けてあげるよ。

 

 ちなみに残った十字目の側近はテツジョーとドクガのみ。その他はドロの中に消えてしまったようだ。

 

 

 また、地面にあったはずの黒いドロの湖についても、同様に消失。

 

 本当に終わったのかイマイチその時は実感湧かなかったが、本当に終わってしまったのだと思う。

 

 カイマンに別の人格だった時の記憶を取り戻した様子はない。彼もまたアイ=コールマンで間違いないのだが、やはりボクの愛する人ではない。

 

 それから悪魔同士の賭け事でチダルマが敗北したことで、皮なし魔法使いたちは悪魔へ返り咲いた。

 ストアさんが肉が消えたショックで悲しそうだったので、必ず解体されに行くことを誓い、ボクらは熱く抱擁し合ったのである。

 

 ボクと彼の感動的な一場面に、悪魔たちも感動する──と思ったら、引いていた。どうやらボクがストアさんに恋したのは知っていたけど、解体の約束までは知らなかったらしい。ついでに、家の中で体育館座りしていた栗鼠も引いていた。解せぬ。

 

 

 ハルちゃんと博士については悪魔に頼んで、復活させてもらった。

 ポケットの中だと、物体の時間は止まった状態になる。だからドロの影響を受けた博士がどうなったのかと思ったが、まだゾンビのままだった。

 

 しかしそこは悪魔。あっという間に生き返らせる。無論、何の代価もなしに彼らが引き受けてくれるわけはない。

「修理屋」時代にひっそりと作っていた新作の発明品を渡した。

 

 目を覚ましたハルちゃんは博士に抱きついて──で、まぁここら辺は娘のボクが語ることじゃない。

 

 ボクが悪魔を目指す事になって。ハルちゃん(彼女の場合は賭け事とは別の理由で魔法使いに戻されたから、悪魔には戻らなかった)も一緒に試験を受けると思ったが、どうやら暫くはホールで博士といる事にしたらしい。

「やることがある」と、彼女は真剣な表情で言っていた。

 

 ボクもまた悪魔になったらやりたいことが一つある。少し寂しさもあったが、ボクもそろそろ親離れしないとさ。

 

 あとカイマンは自分がいくら最強でも魔法使いであることは嫌なのか、人間に戻してもらっていた。

 ギョーザ棒との別れ際、彼は口を開けてギョーザ棒を──いや、これ以上は言うまい。

 

 

 

 

 

 それで、暗闇を日の光が照らして。

 

 穴の中に降りてきた黒い家から出てきたのは、ニカイドウと川尻。

 突如ニカイドウの首が消えて混乱していたカイマンは、彼女を見て目を丸くする。

 

 抱き合い、笑い合う二人。

 

 二人の姿を見て、自然とボクは泣いていたんだ。

 

 二人が出会えて良かったな、って気持ち。それと、アイくんが居なくなってしまったんだな、ってしみじみとした気持ち。

 

 不思議と胸の中は、スッキリしていた。

 

 君がいない明日を生きていく不安は、あったけれど。

 

 でも、この気持ちだけはずっと消えない。

 

 

 ボクはこれから他の人を好きになっても、この世で一番君を愛してる。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 まだその時期ではないけれど、悪魔に頼んで試験を受け始めてから数ヶ月。担当はダストンが引き受けてくれた。

 

 魔法の強化もあるので死ぬことはない。死にかけることはあるけど。

 

 150キロの甲冑を身につけ、試験用の巨大なコウモリの世話。修行場所はボクの屋敷である。

 さらに最終試験は一年間魔法を使わない。最後の試験がボクの最大の関門になるだろう。

 最初に受けた診断では、ボクは悪魔の適性が非常に高いらしい。

 

「にしてもダストン、何で他の悪魔はこぞって忙しそうなんだ?」

 

『それはチダルマの力を封印するために、色々準備してるからだにゃー。俺はお前の修行監督があるからサボれてラッキーだにゃー』

 

「封印…?」

 

 曰く、今回の勝負で負けたチダルマは、五千年間人間にされるらしい。そのためにその強大な力を封じる準備を行っているのだそう。

 ソレってチダルマが約束を反故にしたら、いくらでも意味がなくなりそうだが。

 

『アイツは約束はちゃんと守る奴にゃー。その点に関しては心配いらない』

 

「ふーん、そっか」

 

『それにしても、ハルちゃんがお前と一緒に試験を受けないなんて、いったい何してるんだにゃー?』

 

「さぁ…ホールに行けてないから、彼女が何をしているかは分からない。もしかしたら、博士と旅行にでも行ってるんじゃないかな?」

 

 魔法界の方は煙が被害を受けた分、復興を目指して齷齪している。ボクはその間修行をしたり、ミートパイの店に行ったり、能井ちゃんの相手をしている。

 甲冑でハンデがある上であの怪力ガールと戦うとなると、骨が折れる。その分コウモリに捕食された時のために、彼女のケムリをもらっているけど。

 

『ん?』

 

 二人で紅茶を飲んでいた折、窓の外に何か見えた。その人物──いや、悪魔は扉を開けて部屋の中に降り立つ。

 

 

『ようダストン、それとハルのお気に入り』

 

『お前が悪魔試験を覗きに来るなんて、珍しいにゃー』

 

『カカッ! ちょっと借りてくぜ、コイツ』

 

「え、ボク?」

 

 最強の悪魔に担がれ、誘拐されたボク。

 恐怖で膝がガクガク笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 最強の悪魔に連れ去られたボクは甲冑姿のままショッピングをしたり、映画を観たり、魔法使い共の絶叫が耳に心地いい地獄のレストランで食事をしたり…。

 全くもって、訳のわからない状態にある。

 

 金は全部チダルマ持ちと言うのだから、何か裏があるように思えてならない。これではまるでデートのようだ。

 

 

『アァ? オレ様はそのつもりだぜ?』

 

 

 その一言で、ボクは泡を吹き倒れた。ついさっきまで優雅に見た目も味も血のようなスープを飲んでいたのにおかしい。

 椅子からひっくり返り、ビクビクと痙攣するこちらを見て、悪魔様は首を傾げる。

 

『おっと、勘違いすンなよ。オレ様が魔法使いのオメーに惚れるわけねーだろ』

 

「よかった…!!」

 

『コイツァちょっとした──お前で言うところの“実験”ってヤツだ』

 

「実験?」

 

 一日、カップルの真似事をして、チダルマは一つの感情を味わってみたかったのだと言う。

 それは、魔法使いや人間が等しく抱くもの。悪魔でさえも、抱きうる感情。

 

『一番最初に引っかかったのは、ハルだったな。これまで悪魔になろうとする殆どの悪魔は、死を恐れて目指すヤツが多かった。例外としては、特に何も考えてねェ能井なんかだ』

 

(ノー)天気(テンキ)チャン…」

 

『だが春日部は違った。娘と会いたいがために、悪魔になりたいと言う。この話をハルの修行を担当した悪魔から聞いた時にゃあ、面白そーな話だと思ったぜ』

 

 悪魔たちがボクやハルちゃんを題材にして映画を作っていた話は、ダストンから聞いている。

 実際の出来事とは異なり、脚色された部分も多い。だがあらすじだけ見るに、大まかなボクや彼女の人生が準えてある。

 

 観てみるか聞かれたが、それは断った。何が好きで自分の過去を見なければならんのだ。せめて悪魔になって、ヒトの不幸が大好物な状態になってからにしてくれ。

 

『オレ様が監督したんだぜ。面白かったろ?』

 

「アッ……まだ、拝見してないです」

 

『そうか。後でゼッテー見ろよ』

 

「はい…」

 

 それで、映画を作る内にチダルマの中で一つの疑問が育って行った。

 彼は孤高であるがゆえに、抱けない感情。映画でソレっぽく作る事はできるが、肝心の彼自身がその感情を理解できない。

 

 

『「愛」ってのは、何なんだろうな』

 

 

 愛。

 

 ハルちゃんが際限のなく注いでくれるもの。

 あるいは博士が見えにくいながら、ボクにくれるもの。

 あるいは、ニカイドウやカイマン、能井ちゃんたちに抱く友情の名前。友愛。

 あるいはキクラゲちゃんへの、あの腹に顔を埋めて呼吸をしたい想い。

 あるいはストアさんに抱くビックラブ。

 

 そしてあるいは、ボクがアイ=コールマンに捧げたもの。

 

 最強であるがゆえに、共感できない。ふいにかつて博士と魔法界に行って、この悪魔と出会った時言っていた言葉を思い出した。

 

 孤独な悪魔。だからこそチダルマは、誰よりホールくんの誕生を待ち遠しにしていたのかもしれない。ホールくんが倒された後、地面に転がってブスくれてたもんな。さながらカーチャンに叱られた子どもみたいに。

 

『まぁ、理解できねぇもんはしょうがねェ』

 

 悪魔様は酒をグビグビ飲む。カァー! と空になった瓶を置くと、こちらに向き直った。

 

 

『それで、こっからが本題だ』

 

「な、何でしょうか?」

 

『オマエが強化の果てに、悪魔より高次元の生物──いや、意識の生命体と言うべきか。それになったのは知っている』

 

「やっぱり気づいてたんだぁ…」

 

 そりゃあ当然だよな。地獄や魔法使いの創造主だし。目が合ったとは思っていたが、しっかり気づかれていた。

 

 高次元の存在になったあの時、目が合っただけで我が本能が「恐れ」を抱いたんだから、この悪魔は紛う事なき最強である。

 だからこそ、ボクの彼に対するビビり具合が生まれたての子鹿のような具合なんだけども。

 

『ここで一つ過去話を持ち出すが…小夏、お前はオレと以前話した事は覚えてるか?』

 

「えっと…どの部分ですか?」

 

『オレ様がお前に会いに来てやった時の話だヨ』

 

 悪魔の鋭い爪が、コンコンとテーブルを叩き、リズムを刻む。

 

『先に例を挙げるとして、例えばホールくんが肉体に選んだ人間の場合だ。あの人間は廃物湖(ホール)に飛び込び、その結果、「魔法使いになりたい」という奴の想いにホールくんが反応した。そして選ばれた奴は、魔法使いの死肉を乗せた肉体として、魔法使いに殺された後にホールくんと一体化した』

 

 だが、ボクの場合はどうだろうと、彼は言う。

 

 

『お前はあの人間と出会い、オレにはわからねぇ人生を送って来たわけだ。しかしホールにお前までも操作された人生だったと、本当に思っているのか?』

 

「…どういうこと?」

 

『カッカ! その顔は、自分の人生がホールの闇に操られていたと信じてやまねぇ顔だなァ』

 

 意味がわからない。だってボクの人生は、ボク自身が選んだものではない、選ばされたものじゃないのか? 

 

 でもホールくんが消失し、ボクの人生はようやく自分の足で進むものに────。

 

 

『そりゃあ違うぜ。オメーは最初から今まで、自分で歩いている。オレが説教臭く言うのもナンだが、他人のせいにしてんじゃねェーよ。魔法使いや人間を大量に殺したことまで他所のせいにしてんのか? だったら傑作だな。サイコーに悪魔に向いてるぜ』

 

「そっ、それは、殺したことを他人のせいにする気はないよ。すべてはボクの知的好奇心や、私情で殺しただけなんだから」

 

 赤の他人を殺すことに罪悪感はない。でも、ハルちゃんの気に入っていたマグカップを誤って壊してしまった時などは、罪悪感を抱く。

 

『そこらの魔法使いと倫理感がズレてるオメーだが、一番お前をお前たらしめるものと言ったら、アレだろ』

 

「えっと…発明家ってこと?」

 

『そうだ。よくわかってんじゃねェか』

 

 発明家の素質。もっと言えば、発明欲求。

 

 そこが他の魔法使いや人間はおろか、悪魔と比べても飛び抜けているボクの特徴。

 たとえいくら忘れても、ボクが「発明家」の原点となった博士との記憶を忘れなかったように。「発明」のふた文字は、ボクの生き方にこびりついている。

 

『中でもフツーじゃねぇのが、ハルが管理してたポケットに入った発明品だ』

 

「ポケットじゃありません、「何でも入るくん」です」

 

『………その発明は、場合によっちゃこの世界さえ一瞬で消す物もある。常識じゃ作れねぇ。物によっては悪魔でさえ作れねー物もある。オレ様ならできるがな』

 

 ヤバいシリーズは、ボクでさえどうやって作ったかわからない。「いっぱい入るくん」で言えば、いったいどうやって異次元と繋がるポケットを作れたのか、という話だ。

 

 でも頭にその設計図が浮かんだ時は作れてしまう。小夏ちゃん57不思議の一つでもある。

 

 

『その“知識”は、どこから来てんだろうなァ』

 

 

 ニヤニヤと、楽しそうに笑うチダルマ。

 

『ここで話を戻して、お前がオレに話した一つの説を持ってくるぜ。オレ様が地獄や魔法使いを想像したなら、人間界にも「創造主」がいるかもしれねぇ──って、話は覚えてるな』

 

「あぁ…うん」

 

『オメーはまぁ、思い付きで言ったんだろうな。オレも魔法使いの戯言として流したが、ちと見逃せないことがあってな』

 

 ボクが高次元の存在になった時。

 所詮魔法使いでしかないボクに、噛み砕いて彼が感じた感覚を言葉で表現してくれた。

 

 それは、糸のようなもの。ボクに繋がる“何か”を彼は感じ取った。

 

『カカッ、あながちその説もマジかもしれねぇってことだ。その糸の感覚を辿れば、オレ様も会えるだろうよ』

 

「ボクちゃんやっぱり選ばれし者コース…!?」

 

『いや、繋がってるってだけで、お前はただの魔法使いと人間のハーフだよ。それと、発明欲が高次元なだけの』

 

「しょぼん……」

 

 ってことは、ボクはその“何か”に操られていた可能性もあるんじゃないの? 

 

 

『あの人間もお前も勘違いしているようだが、それはただの運命ってヤツだろ。出会うべくしてお前とあの人間は出会った。そこに深い意味なんてねぇさ』

 

 

 ────チダルマにとっては、意味のないものに感じるらしい。

 

 けれど、ボクにはかなり重要なことだ。

 だって好きな人と運命で出会ったんだぜ? すごく、燃えたぎってしまうよ。ヤッバイな。

 

「それでチダルマは、今から会いに行くの?」

 

『あったりめーよ。逆にそれ以外でオメーに用はない』

 

「そ、そうですよね…」

 

 立ち上がった悪魔様は、ボクのおでこに人差し指を付ける。

 そのあと思い出したように、彼は言った。

 

 

『さっき話した「繋がり」の話の部分は、記憶から消しとくからなァ』

 

「えっ?」

 

 

 次の瞬間、ボクの意識はブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 この間チダルマ様に、まだアイくんへの想いを引きずっている件を相談したら、ボクは最強の悪魔様からありがたいお言葉をもらった。

 

 ボクと彼の運命はホールに導かれたものじゃなくて、出会うべくして出会った「運命」だったんだって。

 もう、嬉しすぎて50回転トウループを決めてしまうよ。

 

 そのままの勢いで酒を飲んでしまい酔ったボクは、かの偉大なチダルマ様の前で寝てしまうという大失態を起こした。

 

 でもボクが起きた後、ニコニコしていた悪魔様は「気にしねぇーぜ」と言ってくださって、その寛大さにボクは涙が止まらなかった。

 さすが地獄の創造主。みんなチダルマ様に出会ったら、頭を地面に擦り付けて崇め讃えなければならないね。

 

 

 

 それと最近、夏木ちゃんから接触があった。彼女は魔法で雨を防御して生き延びていた。

 

 魔法界では十字目も壊滅して、再び煙ファミリーが頂点に返り咲いた。

 屋敷に残っていた十字目の連中も、雨の影響で動けずそのまま亡くなっている。

 

 夏木ちゃんは十字目が無くなりドクガとも連絡が取れず、途方に暮れていた。

 どうにか探そうと思っていた際に、彼女の魔法に目をつけた悪魔から名刺をもらって、そのツテを辿りボクにたどり着いたようだ。

 

 ホールで起こったことをありのまま伝えると、彼女は唖然とした。また、サジやトン、ウシシマダが帰らぬ人となったことを話すと、涙を……流して。

 

 しばらく、静寂が部屋を支配した。

 

 でも無理やりに笑顔を作った彼女は、前を向くことを決めたのである。鼻水と涙で、顔をぐちゃぐちゃにしながら。

 

 生き残ったはずのドクガとテツジョーは、ホールくんが倒れた後のどさくさに紛れて姿を消している。

 だから、その後どうなったかはわからない。ただし扉を作れない以上、ホールにはいるだろう。

 

「夏木ちゃんもその力があれば、扉を作れると思うよ。探すのは大変だと思うが、十字目の刺青の手がかりはあるから、不可能ではないはずさ」

 

「わ、私は……」

 

 そしてボクの顔を見て、彼女は意を決したように言う。

 

 

「私はあ、アネゴの……小夏さんのところで働きたいです!」

 

 

 と、かわいい子分に言われちゃあ、断れるわけないじゃん? 

 

 というわけで、ボクが悪魔になって魔法使いに戻るまで、彼女はボクの屋敷で使用人をすることになった。幸い、悪魔は今ほとんどいない。

 

 

 それから約半年経ち、チダルマ様が封印されて。

 

 この時期に川尻と栗鼠が悪魔試験を受けることになったという話を、ダストンから聞いた。

 

 また一度ホールに行った夏木ちゃんから、白くてツノが複数ある恐ろしい存在を人間たちが崇拝し、宗教化しているという話を小耳に挟んだ。信仰対象は絶対ホールくんですね、わかります。

 

 売られていたホールくんの置物の中には、どうやら中央デパートの穴にあった人間の遺骨を入れてあるようで、それを見た瞬間夏木ちゃんは卒倒したそうだ。魔法使いに効果大なのか、その置物は。恐ろしや…。

 

 教えたニカイドウくんの店にも行ったようだが、そこでカイマンと、バイトとして新しく入ったテツジョーとドクガに会ったらしい。

 

 別にハングリーバグでそのまま働いてもよかったが、夏木ちゃんは戻って来て、今も使用人をしている。

 

 ボク絶対この子を幸せにするよ。子分的な意味で。

 

 

 

 

 

 そしてさらに月日は経ち、ボクは悪魔「なっちゃん」になった。

 見た目は鳥の頭に、黒いローブを身に纏ったような格好である。ひれ伏せ、魔法使い共。

 

 煙の前に現れて土下座させるプレイは楽しかったね。なんて、やっている場合じゃない。

 

 ボクが悪魔になってやりたかったことは一つ。それは、「いっぱい入るくん」にまだ入れたままの、頭の復活。

 

 悪魔に頼んで彼の頭を復活させることもできたけど、ボクが生き返らせたかった。ニカイドウくんにもできたんだから、ボクにできないはずがない。

 

 まず体を治して、ついでに悪魔パワーで服も見繕う。博士と同様にドロが残っていたので、それも消した。

 

 目覚めはもちろん、“アレ”である。

 

 眠りから姫を覚ます方法。それは王子様の熱いチューと相場が決まっている。

 見届け人に夏木ちゃんとダストンが勝手にスタンバイして、ベッドに横たわる姫に王子様はチューを、チュー………。

 

 

『クチバシが邪魔でできねぇ!!!』

 

 

 というわけで一旦仕切り直し、核の小夏様が外へ這い出て、眠る男に近寄った。

 

 外野二人の「はいチュー、チューゥ!」という手拍子が耳に入り、悪魔パワーで二人を移動させて、部屋の中はボクと彼と、悪魔のボクだけ。

 

 さぁ、君はボクのキッスで目覚めるのだ。

 

「ん……?」

 

 顔を離すと、男の瞼がフルフル震えて、開いた。真っ黒な瞳。ボクの大好きな、彼。

 

「やぁ、ボクの名前は小夏。君の名前を教えて?」

 

「俺、は………」

 

 男は全裸なコチラに一瞬ギョッとして、ついで悪魔のボクに再度驚く。

 彼は、ボクの顔や名前は、覚えているみたいだった。けれどその他の記憶がない。でも自分の名前は覚えていた。

 

 

 

「俺の名前は──────「(カイ)」」

 

 

 

 自分の口が、綻ぶのを感じる。

 

 いいぜ、君が嫌というほど、一緒にいてやるよ。今度は絶対に失わせない。

 ボクの側にいろ。魔法使いだろうが人間だろうが悪魔だろうが、守ってみせる。

 

『ヤベッ、死ぬ』

 

 慌てて悪魔の肉体に戻るボクを、壊くんは呆然と見ていた。刺青は消えたけど、極悪ヅラは相変わらずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 その後、ストアさんとの約束を果たして、今は魔法界で発明家として再始動している。

 

 悪魔として不相応と認められるために、勝手にとある三人を地獄から生き返らせた。

 

 その三人は魔法界で、自身の生き方を模索中である。

 使用人として働く夏木ちゃんの話を聞いて、初めは雇ってくれないかなぁ──な視線を彼らは送っていたが、生憎むさ苦しい男どもを側に置く趣味はない。胸筋の主張が激しいのは壊くんだけで十分だ。

 

 

 

 それで、「リンリン」は死んだことになっていたが、見事に復活した。

 

 活動する上で色々とゴタゴタはあったが、ボクは別に発明さえできれば構わない。他人の評価はどうせ後から付いてくる。

 

 夏木ちゃんは助手として働いていて、壊くんには(無理やり)家事を任せている。

 彼は魔法使い絶対殺すマンではなくなったが、手持ち無沙汰にナイフをいじっていることはある。体も相変わらず鍛えているようだ。

 

 それと顔に違和感があったのか、いつの間にか目の周りに十字の刺青を入れていた。消す方法もあるが、本人が入れたのだからまぁいいだろう。

 ちなみにマスクは付けさせている。顔バレするとまずいんでね。その見た目はギョーザである。

 

 

 そして久しぶりにホールに訪れて、まずニカイドウの店に行って。四人を驚かせることに悦に浸ったり、人間どもにイタズラしたりして。

 

 最後に博士やハルちゃんがいるホール中央病院に訪れたら、見事にバウクス先生に歓迎されなかった。

 尻毛まで全身脱毛できるクスリでも盛ってやろうかな、後で。

 

 そうしたらさ、博士に会えたんだけど。

 

「こっ、小夏、来たんだね」

 

 今まで見たことがないくらい動揺する博士。

 まさかハルちゃんが亡くなってしまったんじゃないかと、ボクは病院をとりあえず探して、そこで見てしまった。

 

 

「やぁ、小夏。久しぶりだな」

 

 ベッドの上で、横たわっていたハルちゃん。

 病気、病気? いや違う。だって、彼女の腕の中に。

 

 

 

「名前は「秋良(アキラ)」だ、弟だぞ」

 

 

 

 ボクの絶叫が、病院内にこだましましたとさ。

 

 おしまい。

 

 

 

 

 




【後書き】

まずお気に入りや感想、評価や誤字報告等ありがとうございました!

おかげさまで、アンパンマン新しい顔よ、ソ〜レ!な感じで、元気をいただいて最後まで完走することができました。

本作を書き始めたのは、久しぶりに原作を読んで執筆魂に火がついたからです。壊や夏木ちゃんを救済したい思いがありました。
アイ=コールマンと主人公が恋愛に陥った初期の時点で、最終的にカイマンとは別でもう一人のアイ(=壊)を用意する算段でした。ニカイドウとカイマンの友愛、もしくはそれ以上の感情を壊したくはなかったんだ…。

ゆえの、「(A.)そうだ!分裂させよう!」

また原作だとホールくんのドロを受けて、自分が壊でもあり会川でもありアイ=コールマンであるーーと、自覚するカイマンの描写を省略。この時点でアイは主人公の中にいたので、カイマンが自分を理解する描写が無くなってます。

鬱が多いのはいつものことです。

もしまだ原作を持っていない方は是非買ってみて欲しいです。マジで本当に面白いので。

アニメも最近だと進撃の巨人やチェンソーマンを手掛けたMAPPA制作の、ハイパーウルトラ映像美なので見てほしい。


反省点を挙げるとキリがないですが、ひとまず誤字の量が多かったです……(白目)

番外もその後の主人公の話とか、何か思いついたら書きたいです。
他に質問や感想がございましたら、別途に活動報告で受け付けております。またリクも一応募集しようかな、と考えてます。


それではこの辺で。

アビ田でした。


・2022/09/26完結。
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