待ってくださった方がいたらいいな〜と思いつつ、このサイトの片隅に投稿します。
年末も近づいてきたので体調崩さないよう、皆様もどうぞお気をつけください。
ともに歩むよボクらの明日。
発明家リンリンが復活してから早一年。
ボクは今日も元気に発明している。
魔法界は順調に復興が進んでいる。
現在ボクの発明品をマーケティングしているのは夏木ちゃんだ。彼女は商いをする才覚があったらしい。どんどん逞しくなっている。
壊くんの方はエプロン姿と餃子マスクが様になった。顔は人殺しだけど専業主夫。…いや、ボクと結婚してるわけじゃないから主夫じゃないか。じゃあ奴隷かな。……うん? 奴隷もちょっと違うな。まだ、たまに悪魔的思考が出てしまう。それじゃあ使用人かな。
ボクらの屋敷は都市近郊にある。ボクだけならまだしも二人がいるから、秘境の地に家を造るわけにもいかない。
建物の内装については、工房以外すべて夏木ちゃんに丸投げした。
ついでに、ボクをよく思わない連中が殺しにも来る。
有名人ってのも大変だね。包丁持った壊くんが、全身血まみれで魔法使いの死体を片付けてることなんてしょっちゅうだ。
死体の首だけはボクがもらってエントランスに飾っている。これは人間が物をコレクションするのと同じ心理。
やがてはその首を『偉大なる発明家リンリンを殺そうとした魔法使いの生首展』として展示会を開き、悪魔を招待したい。
話を戻すね。
最近新しく妹もできて、嬉しくも困惑するボクに、ドッキリが起こったんだ。
名前に「冬」が付く妹を見るため、ホールへ行こうと考えていた矢先である。
というか、明日行くとハルちゃんに伝えてある。ちょうど次の日に彼女が赤ん坊と退院する。
なのに今日起きてみたら、ボクが急成長を遂げてしまったのだ。
つーか、性別が変わっている。
こんなもの、悪魔の仕業しかあり得ない。
遡ること、お昼時。
寝ぼけながら洗面台に立って顔を洗おうと思ったら、ボクの顔がイケメンになっていた。ついでに顔の筋肉が強張っていて、無理やり笑おうとすると凶悪な面になる。
ははは、ははは………と、ひとしきり笑い、ボクは部屋を出た。
「夏木ちゃぁぁん!!!」
どの悪魔がイタズラをしやがったのかは後で特定するとして、このままじゃ明日ハルちゃんたちに会えない。姿を変えるにしても、この体じゃ魔法が及ぼす人体への影響を考えて、おいそれと使えない。
すでに起きて書類のお仕事をしていた夏木ちゃんは、ボクを見るなりギョッとする。
「え? ────き、きゃああぁぁぁ!!」
「夏木ちゃーん!!」
「こっ、来ないでぇぇぇ!!」
そんな逃げたって、すぐに追いついちゃうのだ。
次第に彼女の悲鳴に悦を覚えてきて、わざと足を遅くしていると夏木ちゃんはボクの部屋に逃げ込んだ。
「あだっ!」
額を扉の上部にぶつけつつ、ボクの工房へ繋がる地下の階段を降りて行く。
「小夏さん小夏さん小夏さん!」
「うん。だからね、夏木ちゃん」
「小夏さん起きてぇぇぇ!!」
とっ散らかった部屋の隅。そこにあるベッドの上でぐっすり眠っているボクを、無遠慮に揺する夏木ちゃん。
あれ、小夏ちゃんは今ここにいるじゃん、って?
そうなんだよ。ボクの体、入れ替わっちゃったみたいなんだよ。
「壊さんが全裸で私のこと追ってくるんですッ!!!」
あ、服着るの忘れ──────うぎゃああああっ!!
⚪︎⚪︎⚪︎
夏木ちゃんにボクの体に入っている壊くんが起こされて、暫しの時間。
彼女はようやく事の事態を理解した。ボクもボクで、一度着替えに戻った。
「つまり小夏さんが壊さんで、壊さんが小夏さんになってるってことっスか…?」
「そうなんだよ、分かってくれてよかった」
「………ボ、ボスがいっぱい喋ってる…」
確かに壊くんは無口だけど、全く話さないわけじゃないでしょ。
当の壊くんは、もくもくとご飯を食べている。そしていつもの量をボクの体で食べようとした結果、吐いた。
おいおい、ボクをゲロインにする気かい?
「小夏さんが壊さんと入れ替わった原因って、やっぱり悪魔ですよね?」
「うん。どうしてイタズラするのが、よりによって今日なんだろうね。ボク明日ホールに行くのに…」
ってか、この体じゃケムリ出せないじゃん。ボク一人で行くのは無理だから、夏木ちゃんと壊くんも連れて行くとして……問題は、壊くんがボクの演技をできるかどうかなんだけど。
「ムリムリ、博士とハルちゃんだぜ? すぐにバレるよ。バウクス先生ならまだしも」
それに、あまりこの体でホールに行くのは避けたい。
壊くん──元十字目のボスが生き返ったことは、夏木ちゃんや博士に、ハルちゃんくらいしか知らない。
もし煙に知られれば絶対殺しに来るだろうし、ボクもお互い不干渉な今の現状を崩したくない。
「ホールでニカイドウやカイマン…特にドクガたちに遭遇したら面倒だ。壊くんは側近を殺した事実があるわけだし」
「………」
「アッ、別に壊くんを責めてるわけじゃないよう!」
「………」
壊くんには彼が自分の過去を知りたがったから、大まかには話してある。
別に殺してしまったのはしょうがないし、今の壊くんは生まれ変わった身。昔の自分が起こしたことを気に病む必要なんてないさ。ボクみたいにね。
「行かないって選択はないんですか?」
「夏木ちゃんはボクに、カワイイ妹に会うなって言う気か?」
「そういうわけじゃ…ない、ですけど……」
思わず睨んだら彼女の元気がなくなった。この顔怖いもんね、わかる。
「行くか」
──と、立ち上がり突然言った壊くん。正気かな?
「会いたいんだろ、妹に」
「そうだけど……もしもがあったらどうすんのさ」
顔は魔法被害者を装ってマスクでも付けときゃあ、問題ないけどさ。
でも何が起こるかわからないのがホールなんだよ。ホールくんの件を挙げても。
「もしもの時は、俺が守る」
うーん、さてはボクらの話をほとんど聞いていなかったな、君。
けれどそんなカッコいいこと言われたら、断れないよね。ボクってこんなイケメンだったのか? 初めて知ったよ。
「……仕方ないね、行こうか」
⚪︎⚪︎⚪︎
翌日。
退院後、博士の家に先回りしていたボクらの元にマイファミリーが来た。運転手はバウクス先生で、四人を送り届けてくれたらしい。
先生は一瞬餃子マスクのボクを見て、「………カイマン?」と言っていたけど、ボクはカイマンじゃない。
よく見ろ、このボディはメイドイン筋肉で、デブじゃない。
彼は病院の仕事があるからと、すぐに去って行った。
ボクと壊くんの状態をハルちゃんに説明すると、気の毒そうな顔をされる。
反対に博士は興味深々だ。マスクを取られそうになる。やめろ。
「しかしタイミングが悪いぞ、小夏」
「え?」
「いや、私の出産祝いを今日行う予定でな」
「うん」
「私の負担を考えて、
だから、二階堂たちがこぞってこの家にやって来ると。それももうすぐ。
そういうのはもっと早く教えて欲しかったな。
いやまぁ、ホールと魔法界じゃ物理的に住む世界が違うから、連絡もクソもないんだけど。
花だけ渡して帰ろうか、うん。赤ん坊を見てデレデレしている夏木ちゃんと、ボクの弟に抱きつかれている壊くんを引っ張って逃走経路を考える。
扉を出すのは夏木ちゃんだから、玄関に置いた靴だけ回収して魔法界に戻ろ────、
「ごめんくださーい」
二階堂の声と共に、玄関の開く音が聞こえた。
靴は中・中・極小の三足プラス、ボクと夏木ちゃんと壊くんの三足。当然来客と思われるよねぇ、後半の三足は。
「おっ、私たちより先に誰か来てるみたいだな」
「ギョーザ持ってきたぜ、博士ェ〜」
靴は尊い犠牲になったのだ。今すぐ扉を作ってくれ夏木ちゃん!!
「わ、わかったッス!」
できた扉を開けて後はもうダッシュするだけ……するだけだったんだ。すでにノブに手はかかっていた。
「……夏木?」
そりゃあ当然、空腹虫で働いているドクガたちも来るわけだ、ハルちゃんの出産祝いに。
カイマンは背を向けているボクに「餃子!?」と叫び、ニカイドウは顔の死んでいる壊くんに「なっちゃん…?」と声をかける。
後に問題は残るが、このまま怪しさ満点で逃げるしかない。
「…………行ってしまうのか、小夏?」
少し寂しそうな、ハルちゃんの声。
その声を聞いてしまったこの体は、彼女に正面を向けようとする。
ズルいよ、ハルちゃん。ボクがママに弱いって知っててさ。
…まぁ、どうせ隠し続けるのは難しいんだ。ボクとニカイドウたちに接点がある以上。
「ハァ…仕方ないか」
ボクの声を聞き、誰よりも先に目を見開いたのはドクガ。
「………」
壊くんはこちらの顔を見て、ボクの前に立つ。君が懐に持っているナイフが活躍しないことを願うよ。
「えっと…アンタはどちらさんだ?」
「ボクか? ボクは餃子の妖精、ギョーザマンだ」
「嘘吐けい! ギョーザの妖精はニカイドウの店に住んでんだぞッ!」
「「エッ………?」」
ニカイドウの店に餃子の妖精が住んでいるの? ボクが適当に作った設定が実際に存在するっていうの…?
というか、何でそれをカイマンが知ってるんだ? ニカイドウとか、メチャクチャ驚いた顔してるけど。
「んと…じゃあ、この男はなっちゃんの知り合いか?」
「………」
「なっちゃん?」
「………」
なっちゃんは君のことだよ、壊くん。腹を小突けばようやく反応した。ボクにフォローさせるなよ。
「あはは…うん、そうそう。ボクは彼女の使用人をやっていてね。人畜無害でそれはそれはもう、善人で素晴らしく人徳のある男なんだ」
「…そうなのか?」
「そうだよぉ、小夏ちゃん」
お前は俺のことそう思ってたのか? ──な、意味合いが壊くんの言葉に含まれているのはわかるけども。
ちょっと嬉しそうにするなよ。ボクの顔クソ可愛いな。
「…だ、そうだ」
「だ、そうだ、って………全部なっちゃんの自称使用人が語ってるんだが? いや、その前に色々ツッコまなければならないところが多いんだが……」
ニカイドウやカイマン、テツジョーにドクガの視線が突き刺さる。
ボクだって分かってるさ。ここまで来たら真実を言うしかない。「回収していた十字目のボスの首を復活させました!」ってさ。
悲しいかな、今のボクはケムリも使えないし、壊くんのように超絶技巧のナイフ技術もない。
だから本気でドクガやテツジョーに狙われたら殺されかねない。
この肉体を少しでも傷つけたら絶対に許せないし、そうなった暁には怒りで彼らを殺してしまうかもしれない。というか殺す。だって、ボクが壊くんを絶対に守るって決めたんだから。
でも今は、その壊くんが頼りだ。夏木ちゃんは戦闘要員ではないし。
いざという時は彼女はボクを守ってくれるだろうけど。それでも、この強い四人の面子だからねぇ…。
「えっとねぇ、怒らないでねぇ…?」
ボクは自分の体の後ろに隠れ、マスクを取った。
「「「──────は?」」」
ドクガ以外の顔が凍りつく。彼、やっぱり声を聞いたタイミングでボスだって気づいていたみたいだ。
「よくも貴様ッ、俺たちを…!!」
テツジョーくんの怒りが爆発した。殴ってかかろうとする男を咄嗟にニカイドウが間に入り、意図せず彼女のお尻でテツジョーを吹っ飛ばした。
対し壊くんの目も人殺しモードになる。懐からナイフを取ったため、一応ボクが腕をつかんで止めておく。
「どういうことだ、なっちゃん」
「説明すると長くなるんだけど……」
「お前じゃない。私はなっちゃんに聞いてるんだ」
「かくかくしかじかなんだ」
「本当に「かくかくしかじか」で説明してどうす────って、もしかして、お前がなっちゃん……?」
「そうです。ボクが発明家リンリン、カッコ壊くんバージョンカッコ閉じです」
ということは……と、四人は小夏ちゃんに入った壊くんを見た。
そして、ボクは行った壊くん蘇生方法を彼らに説明した。
元々、悪魔になったボクが史上最速で魔法使いに戻った武勇伝は、以前彼らに話してある。その際ボクは、満場一致で「イかれ野郎」の褒め言葉を賜っている。
今回新たにボスが生き返った件を知った元側近の二人は、疲弊した顔だった。
ボクにも詳しい原理はわからないが、今の壊くんはカイマンみたいにアイ=コールマンから切り離された存在である。
これはボクが悪魔パワーで生き返らせたことも原因にあるのかもしれない。
とりあえず、もう壊くんは本能のままに魔法使いを殺したりしない。
ただ、殺し自体が好きな男の子なだけです。人畜無害でしょ?
「それは確定有害では?」
「ハッハッハ! ホールで魔法使いを殺しまくっていたニカイドウくんが言うと、説得力が違うねぇ!」
「違う……俺の中のボスはそんな風に笑ったりしない…」
ドクガくんがだいぶ解釈違いを起こしている。一番ボスに拗らせていたのはこの青年だものな。壊くんへの憧憬と仲間の死の裏で、精神を摩耗させる一人ソロプレイを享受していた苦労人ボーイポジションだったものな。
そんなドクガくんの疲れをぜひ癒やしてあげたいね。ちょうどボクが、『一杯飲むだけで一週間睡眠要らずでバリバリ動ける代わりに、副作用でその後丸一日精神が7次元を体験できるくんミキサー』で作ったジュースを持っているけど飲む? えっ……いらない? 悪魔の間で今流行してる飲み物なのに? 遠慮しなくてもいいのに。
「その…ボスは、俺たちのこと本当に覚えていないんですか?」
「あぁ」
「そう、ですか…」
捨てられた子犬のような反応を見せるドクガ。テツジョーも怒りこそ収まっていないものの、複雑な表情である。
「……悪いな」
壊くんは手を伸ばして、ドクガくんの頭を撫でた。
────ハァ?
ボク以外の奴の頭を撫でるって、それはどういうことなの壊くん? 剰えボクの体で。他人の頭を撫でるなら、必然とボクの頭を撫でる義務が生じるわけだからね? だってキミはボクのものじゃん。元側近の野郎共のものでも、ホールくんのものでもないじゃん。キミはこの小夏様のものだっていうことを、心に刻みつけてあげないとダメなようだね。
「あわわ………ボ、ボスの……じゃなくて、小夏さんの顔が怖くなって来ちゃったじゃないですか!」
「フフフ、小夏は私に似て嫉妬深い女だからな。なぁ、ヘイズ?」
「悪魔の力は精神を入れ替えることも可能なのか。いったいどんな原理で……」
「おい、ヘイズ。ヘイズってば」
人間と魔法使いが入り乱れるカスカベ邸。
ゴタゴタも収まり、改めてボクら三人もハルちゃんの出産祝いに参加することになった。
ちなみに遅れて来たバウクス先生の例の飲み物を盛ろうとしたら、博士に止められた。
また自分の体に戻ったら飲もう。
⚪︎⚪︎⚪︎
「いやぁー楽しかったね、パーティー」
「ふわぁい、たのしかったれすぅ…」
博士の家の扉を使って、魔法界に帰ってきたボクたち。
肝心の扉を作れる夏木ちゃんがアルコール摂取で早々にダウンしてしまい、ボクが背負っている。
やっぱり身長が高いっていいね。人間のボディのクセに、ハーフのボクより身体能力が高い壊くんの体ってどうなってんだよ。解ぼ……う、はダメだぞ、ボク。
「このまま宿を取って明日家に帰ろうか、壊くん」
「……うん」
「おや、お眠かな?」
「………」
ボクの肉体は酒乱だ。酔うとランダム上戸と化す。見たところ今回は退行上戸。
壊くんは船を漕いで、今にも寝そうだ。ボクに手を引っ張られているが、このままだとボクがボクの体を抱えることになる。
「一度吐いて懲りたせいか、お酒ばっかり飲んでたもんな、キミ」
「……こなつ」
「はい、何でしょ」
「ずっと」
「うん?」
「いっしょに、いよう」
「………」
「おまえのかぞく、みたいに」
「…博士と、ハルちゃんみたいに?」
「あぁ」
………何なんだ、それは? 今、入れ替わっている時に言うのかい、キミ。しかもメチャクチャ酔っている時に。
それはつまり……何だ? どういうこと? ボクがキミを嫁にもらうってこと?
いや、違うよ。嫁はボクのポジションじゃん。でも自分で言っておいてあれだけど、ボクに花嫁衣装って絶対に似合わない気がする。
じゃあボクとキミで新郎服を着て、間に新婦の服を着た夏木ちゃんを挟めばいいのかな? それで万字マジ解決じゃん。
…解決じゃないよ??
落ち着け ボクは 混乱している ようだ! ▼
「あぁ、えーっと……壊くんはボクとパートナーになりたいってこと? 勿論ブルーナイト的な意味じゃなく、人生の、的な意味で…」
「………」
「壊くん?」
「ぐぅ………」
「寝るな??」
結局眠った壊くんも抱え、ボクは取った宿で朝まで眠れない夜を過ごすハメになった。
そして後日、すっかりこの件を忘れていた彼。
ボクは怒りの反面、妙な安堵を抱きながら壊くんの腹を摘むことに専念した。親の仇のように、そのつかめそうで皮しかつかめない、筋肉の塊を。
そんなボクと壊くんの様子を、夏木ちゃんが微笑ましげに見ていたのもちょっと複雑だった。