ありふれた量子の異例界<イレギュラー> ~異端世界の崩壊譚~ (仮)   作:siera

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1話 トータス
プロローグ 事故


 

「人生とは奇なモノだ」という言葉をどこかで聞いたことがある。

人生ほど摩訶不思議で不安定で面白いものはない、そう言った戦友程早くこの世を笑いながら去ったものだ。まさしく奇妙、生に執着がない私が生き残り、未来に花が咲くと笑う者ほど先に消えていく。まったくこの世界は――

 

――怒れる程に、奇妙なものだ。

 

「――…か…?」「――。―――長~」

 

小さい声が聞こえてくる。子供の声だろうか。声が聞こえる方角には一筋の光が煌々と、私を呼んでいるかのように光輝いている。

だが自分が向かわなきゃいけないのは戦火だ。私の眼前に見える…崩れた廃墟と轟々と燃える炎が揺らめく戦場へ……目的を果さなければ――

 

 

 

 

 

「艦長、おきて」「かんちょ~!起きなさいよ~!」

「……ん」

 

自室のベッドで目が覚める私、騒がしい声の方を見るとロザリアとグレーシュが横にたたずんでいた。どうやら寝ていた私を起こしに来てくれたようだ。

 

「もう9時よ!さっさと起きなきゃ芽衣さんの朝ご飯さめちゃうわよ!」

「…もうそんな時間か、すまないなロザリア」

「ふふん!もっと頼ってくれていいのよ~♪」

「……。」

「ん、どうしたグレーシュ?」

「……悲しそうな色」

「えっ?」

「艦長さん、暗い色してる……なんか、寂しそう?」

「え、そうなのグレーシュ?ほんとだ!艦長涙流れてる」

 

リリアに言われ指をさされた方の目元を触る、すると指には一滴の涙が付いていた。近くの鏡で顔を確認すれば、右目に涙が流れた痕だろうか、濡れた一筋の線が瞳から頬を伝い流れていた。

 

「艦長さん……だいじょうぶ」

「――大丈夫」

 

心配そうな顔でこちらをみあげるグレーシュ、私はすかさず彼女の頭に手を当て優しく撫で大丈夫だと伝える。撫でられている彼女の顔は先ほどの心配そうな顔ではなく、少し頬を赤らめ嬉しそうな表情を見せていた。

 

「少し夢を見ていただけだから…じゃあ、行こうか」

 

私は立ち上がり、自室の椅子に掛けていた隊服の上着を羽織り、立てかけていた刀とホルスターに仕舞われた銃を装備して部屋からでる。部屋の扉を閉めようとした時、机の上に飾られている写真立てが目に入った。その写真を見た艦長は少し……微笑んでいるように見えた。

 

「ほらほら、早く行きましょう!」

「みんな、艦長さんをまってるよ」

「ああ、すぐ行くよ」

 

テトテトと元気な足取りで先行する二人、私は彼女の後を追うようにゆっくりと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイペリオン、時空を移動し虚数の樹から剪定された世界「世界の泡」を調査する為、量子の海を航海できる超大型旗艦だ。この艦には私の他に、先ほどの少女や名前だけ上がった「芽衣」など多数の人員と共に旗艦で量子の海を旅している。

といってもここに乗艦している者のほとんどは、この量子の海に揺蕩う「世界の泡」からはじき出された一種の漂流者達。「ありえたかもしれない世界」の「違う自分」、そういった者達が集まっている。

先ほど私を起こしに来てくれたグレーシュなんかもそうだ。とある「世界」の切り離された「断片」、そこで出会った一人だ。

 

「おおー、相変わらず変な空間とんでるねー」

 

ハイペリオンの通路の左側、ガラス張りとなっている場所に手を当て覗き込むロザリア、外の景色は……街並みとも空模様とも違う、"寒色の何か"が水流の如くうねっている異様な景色。だがこの景色は"量子の海"の景色、異空間を通る一種の時流のトンネルといったところだ。

 

「怖いけど……きれい、空の青とはちがう……深い青?」

「どうだろうね、今見えている色ですら本当の色である可能性は低いって「AI」は言っていた」

「え!?じゃあ今見えてる色が虹色だったりピンクだったりするかもしれないって事⁉」

 

なぜか目を輝かせはじめるロザリア、いったい何がそんなにうれしく思ったのか。

 

「あ、ああ。まあその可能性も0じゃあないな……」

「おもしろい場所……ほんとうの色、見てみて……描けたら、いいなぁ」

「……おっと、芽衣たちを待たせてるんだろう、早く食堂へいこう」

「さんせー!」「うん…♪」

 

不可思議な海を眺めつつ、ハイペリオンを歩く3人。すると右側と扉が開き、中から二人の女性が談笑しながら現れた。一人は黒いフードを外しているが「ワタリガラス」、そしてもう一人は意外にも「パルドフェリス」であった。

 

「あらぁ、珍しい組み合わせじゃない!」

「ん。おおロザリア、それに艦長にグレーシュも」

「やっほー艦長~!」

「「イエーイ! ~♪」」

 

フェリスとロザリアは仲の良いようで、ふたりでハイタッチを交わしながら笑っている。この艦はかなり過酷な場所に赴いたりしているので、こういった笑顔があふれている環境というのはとてもありがたいことだ。

 

「珍しいな、二人が話すところなんてあまり見たことはなかったぞ」

「ん、そうか?私としては弓矢の商談なんかよくする中ではあるんだがな。そんなに珍しいか」

「例えるなら、「メビウス」と「セシリア」が会話しているところぐらいには」

「そんな珍しいか!?」

「フェリスおねぇちゃん、食堂いこ」

「食堂!うんうん、いこういこ~う♪」

 

また賑やかになってきた私の周り、4人で談笑しながら食堂に向かうとすでに「フカ」と「デュランダル」が食事を始めており、メイド服の「セシリア」と「リタ」が配膳を手伝っている。厨房には、フライパンをゆすり何かを作っている芽衣の後ろ姿が目に入った。

 

「おや、これまた賑やかですね。艦長」

「デュランダルも、珍しく遅めの朝食だな」

「ええ、昨日リタとフカで夜お酒を交えながらいろいろ話していました。色々話していたらかなり時が過ぎていまして…久々に遅めに起きてみました」

「フフッ、デュランダル様との会話はとても有意義なものでした」

「はい、いいお話が聞けて良かったです」

「いいなぁ~私もそこに混ぜてほしかったわ!」

「セシリアが入ったところで3人のムードには似合わないだろ……」

 

「フフッ賑やかなのは結構だけど、朝食冷めてしまうわよ」

 

厨房の芽衣がこちらに振り返る。目元の瞳孔は鋭く、額には角が生えていた。彼女は"律者"、世界を壊し文明を滅ぼす"崩壊"とよばれる現象と共に降り立つといわれている一種の化け物と称される者達の総称。

全14律者がいるの言われており、そのどれもが天災級。一人で国を亡ぼせるほどの力を有している者達だ。

では何故そんな危険な人物がいるのかというと、彼女も我々の仲間だからだ。

彼女は自身の意思を奪われることなく律者の力をコントロールしており自由に力を制御できるのだ。彼女"雷の律者"の他にも"薪炎","理","空","識"の合計5人の律者がこの艦に乗船している。

個性が強い人物が多いが、それでも私と共にこの艦で旅を続け、ともに戦場を乗り越えてきた大切な仲間なのである。

 

「…「キアナ」はまだ来ていないのか?」

「キアナちゃ……んは、まだ寝ているみたいです。「ブローニャちゃん」が言ってました」

「……まだ慣れないか?」

「はい……。違う世界のキアナちゃんだとはわかっているんですが」

「まあ芽衣の世界ではだいぶ悲しい別れ方をした後だったと聞いたから仕方ないとはわかっている。でも、せっかく別世界とはいえキアナと共に過ごせるようになったんだ。昔の事を忘れ、以前みたいに仲良くな」

「頑張ってね!芽衣の姉ちゃん!」「ガンバって…!」「仲直り、しなきゃだめよ!」

「なかなおり…とは違うんだけど。うん、ありがとう。皆」

 

「フッ…さて、私はそろそろ食事をいただこうかな」

「私もいただこう」

「ロザリアも食べる―!」「きれいなご飯……描いたら綺麗かな…♪」

「ニャハハ~♪朝から芽衣姉ちゃんの和食とか贅沢~♪」

「よし、それじゃあ――」

 

「「「「――頂きまー」」」」

 

艦長達が机に座り、(いつの間にか)セシリア達が配膳してくれた和食を楽しみにしているグレーシュ達と共に手を当て食事前の挨拶を済ませようとした、その時だった。

 

トゴォォオォォン‼

 

「っ⁉」

「な、なになになに!」

「キャア!」

 

とてつもない轟音と共に船体が大きく跳ね上がり、一瞬腰がふわりと宙に浮き無重力状態に似た状況が起こった。跳ね上がった船体が元の体制に戻るのと同時に無重力が解除され浮遊した机や椅子、芽衣が作った朝食のおかずやみそ汁、焼き魚などが一機に落下しガチャガチャと音を立てる。

私や芽衣、フカやデュランダル達は少し慌てた様子を見せてはいたがきれいに着地し、ロザリアはあまりの唐突な出来事に対応できず、顔面から地面に落下し食堂の床と熱いキスを交わしていた。

その隣にいたグレーシュはお付きの白鎧のナイトの腕に座り無事なようである。

 

「ふぎゃっ⁉」(ゴチンッ‼)

「な、ナイトさん…ありがとう」

「な、何事だ。皆無事か⁉」

「こちらは何とも……!」「私たちも大丈夫よ~!」

「こちらも、特に怪我はしていない」「私達の方も大丈夫ですよ」

「だいじょうぶ…!」「……。(シーン)」

 

(一名を除いて)ケガはなく、全員無事な様ではあるが…船体がこうも大きく揺れ衝撃が走ったという事は明らかこの艦に何かが起こった事は明白、そろそろ――

 

『はいはーい!アイちゃんからの連絡だよ~!かんちょ~!聞こえてる~!』

「ああ、聞こえているよ」

 

早速、この戦艦のAIであるアイから状況の報告であろう館内放送が響いてきた。彼女はこの艦のシステム面など全てを管理しているAI、自身の体に害が起こったら分かるように、艦に異常が起こったらアイにはすぐに分かるのだ。

 

『第1と第3のエンジンが故障しちゃったよ!航海については2~3日なら第2、第4エンジンとブースターで賄えるけど……流石に修理がひつよ~だよ~(泣)』

「そうか…原因は」

『多分、エンジンへの負荷と劣化による影響だね。ここ最近修理やメンテナンスはしていたけど、長い間航海を続けてきちゃったから限界が来ちゃったみたい』

「おい、それって大丈夫なのか?残りのエンジンは動かせると言っていたが同じ状況なんじゃないのか」

『ワタリガラスちゃんの心配は最もだね。確かに今んとこ変な感じはしていないけど、いつか同じように壊れちゃう可能性は十分にあるよ、艦長』

 

おもったより被害が大きいようだ、この先の未来を踏まえた上で。となると最初にすべきことは一つだろう。何処かの泡を超え、"平行世界"へ赴き修理、メンテナンスを行うのが最優先だ。

 

「よし、では近くの泡に向かう。そこで修理・メンテナンスを行う事にする。アイ、ここから近い世界は――」

『そーいうと思って既に見つけ出してるよ~!眼前、"距離"4500,"量子海域深度"62!エンジン壊れているけどこの程度なら大丈夫だよ!』

「流石だ。ステルスシステム、量子干渉バリア、ムーンライトスローンに異常は無いか」

『すべて正常!いつでも行けるよ!』

「よし!」

 

艦長が後ろに振り向き、壁に設置されていた艦内アナウンス用の無線を手に取り大声で艦内の仲間達に告げる。その声は力強く、皆の心へ直接響く様に語り掛けるかのような、声であった。

 

「総員に次ぐ!」

「現在、ハイペリオンはエンジントラブルが発生。これを解決する為、『無幻泡影』の観測によって観測した断片世界への侵入を敢行する!」

「各員自室にて待機、ブローニャ、ヴィルヴィは艦橋に集まりAIと私のアシストに回れ!行動開始‼」

 

 

『『了解!』』

 

 

艦内に大きく力強い返事が響き渡りそれぞれ行動を開始し始め艦内があわただしくなり始める。目をグルグルと回し気絶しているロザリアはグレーシュの騎士が引きずりながらグレーシュの自室に連れていかれた。

艦長も少し速足で艦内を進み、環境へと続くエレベーターへと乗り込む。エレベーターが上へあがり、途中のドックや艦内を巡回しているロボットなどが流れていくエレベーターのドアが止まり、ゆっくりと艦橋への道を開いた。

 

中には無数の機器やメーターが並んでおり、既にブローニャとヴィルヴィが真ん中の席に座り危機を操作していた。

 

「艦長、お疲れ様です」

「あ、艦長~!」

「挨拶は良い、急いで世界線の境界を突破する」

「了解です」「オッケー!」

 

艦長も真ん中の艦長用の席に座り、操作モニター付きのテーブルを操作する。本来なら世界の泡に関する簡単な情勢や内容を調べてから突入を決行するのだが、今はそこまで手が回っていないのか、かなりアバウトで断片的な情報しか手に入っていなかった。

 

「……「過去の文明」「魔法」「魔人」「神」…?アイ、なんだこの断片的な情報は」

『AIちゃんに聞かれても分かんないよ~。簡易"観測"して得た情報なんだけど~、なんかパッとしない情報しかすぐに手に入んなかったんだよねぇ。あ、あとこんな情報も今手に入ったよ』

「どれ……。「"崩壊"による文明破壊の形跡:無」…だと?」

 

今まで何十の異界をめぐり調査してきたが、「崩壊による文明破壊の形跡が確認されなかった」など初めての経験だ。今まで調査した世界では必ずと言っていいほど崩壊現象に関係する文献や歴史が残されていた。本来の崩壊現象とは違い、形を変えて"崩壊"という"概念だけ"は引き継がれていたのだが……。

 

「"崩壊"の形跡が無い、ですか。アイさん、そんな事――」

『ん~あり得ないって話じゃあ無いかもねぇ。なにせこの海に滞留する世界は「あり得たかもしれない」が具現化したモノだしぃ。その「あり得たかもしれない」が"崩壊が存在しなかった"ってなってる可能性もあるかもねぇ』

「んえ~⁉そんな世界だったら私達みたいなのが生まれずにすんだんだけどなぁ~!そしたら大々的に私のマジックが――」

『はいは~い!お話しも良いけど、そろそろ侵入コースに入るよ!』

「そうか。総員、これより境界侵入を試みる!対ショック姿勢!」

「「とっくに対ショック!」」

 

以前皆で見ていたテレビのセリフで応答する二人、以外にも心の余裕がある様で少し安心する。10秒ほど様子を見てから、私は自身の机の端末を操作を進める。

 

「転移シークエンスを開始――」

「崩壊エネルギー…確認。次元摩擦防護壁・作動。1~3エンジン機能停止によるブースター相互処理・終了……ムーンライトスローンの崩壊エネルギーを量子干渉への転用……完了!」

『エネルギー確認!必要エネルギー量突破、110%‼‼』

「量子干渉・観測領域転移…開始‼‼」

 

艦長の掛け声で艦体が青い障壁に覆われスピードを上げる。艦橋から見える景色が勢いよく加速し寒色の量子の海の本流が徐々に眩い閃光へと変移していき、我々が突き進む正面には、世界の泡の一部が姿を現し始め、徐々に緑や青の色が泡の表面に移り始める。

 

そして、強い衝撃と閃光と共に、ハイペリオンは異界へと舞い降りた――

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