ありふれた量子の異例界<イレギュラー> ~異端世界の崩壊譚~ (仮)   作:siera

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ブルックの小さい画家

異世界「トータス」――剣と魔法、魔王と勇者、魔人と人間が存在する異世界。

 

そんな映画や絵本の様な世界にたたずむ一つの町「ブルック」に、一際目立った姿をした3人組が町を歩いている。

白髪に眼帯、黒い服装が特徴的な強面な男「ハジメ」。長い金の髪をなびかせ、朱い目で周囲を見渡す小柄で綺麗な女性「ユエ」、顔や体のスタイルがよく、露出多めの兎人族の女性の「シア」だ。

彼らはギルドの依頼で魔物の退治を終え、その報告をする為町へ来たのであったが、とはいえ、やる事は報告を済ませるだけなのでかなり時間が空くことになった。其の為二人の美女の提案もあり、この町をもっと探索しようということで今町を散策中なのである。

 

「(それにしても……なんだ?この視線)」

 

ハジメに伝わる謎の視線の数々。それは頬を赤らめた女性たちであったり、ハンカチを強くかみしめ涙を流しながら睨む青年であったり、なにやら企んでいるのか不気味な笑みを浮かべながら路地裏で覗く男であったり……様々だ。

だがこの視線の殆どは、ユエやシア達に向けられているモノである。初めてこの町に来た時ちょっとした事件があったのだが、それをスピーディーに解決した美女二人の事が広まっていた。

街行く女性たちには彼女の尊敬と恋心に似た感情を抱かせ、邪な男どもはあらゆる手で二人をモノにしようとして秒殺、撃沈していった。そういった出来事があったので、このブルックの町ではちょっとした有名人になっている。

 

「ん…ハジメは、気にしなくていい」

「そうですそうですぅ♪なーんも気にしないで大丈夫ですよぉ~♪」

「お前等……余計な面倒だけは増やさないでくれよ?特にシア!お前だ!」

「んえぇ~‼私そんなトラブルメーカーじゃないんですけどぉ~‼‼」

「シア……引き付けるから、色々と……」

 

そういいながらユエはシアの体をゆっくりの見上げて、降ろす。そして自身の体へ視線を移し…胸に手をあてため息交じりに落ち込んだ。

 

「そう…色々と」

「なんか今失礼な事思いませんでしたぁ⁉」

「発育の暴力装置…」「酷い⁉」

「……ん?」

 

ユエの言葉の暴力にワーギャー泣きわめくシアの事は気にせず、なぜかユエは目の前の人だかりが異様に気になった。あそこは確か、噴水広場でその噴水がある場所。普段から人の集まりはある場所ではあったが、今日は一部に一際人が集まっているようだ。

 

「ん?ユエ、どうした」

「ハジメ…あれ」

「アレって……なんだ?」

「前にシアと買い物来た時は、あんな人集まってなかった…」

「なにかやってるのかもな、少し寄っていくか?」

「うん…気になる」

「シクシク……ってアレ!ハジメさん、ユエさん!どこ行くんですかぁ~!」

 

3人は人が集まっている噴水前の人だかりに向かう。どうやら何かを見てワイワイと盛り上がっているようだが…人が多すぎて何をしているのか全く見えない。

 

「ほぉー、よくできてるねぇ!」「すご~い!」「綺麗な絵じゃなぁ~」

「なんだ?何やってんだコレ?」

「むぅ~……見えない」

「すご~く盛り上がってますねぇ!」

 

これじゃあいつまで経っても何をしているのかわからない、仕方なくハジメは前で見ていた一人の男性に訪ねてみることにした。

 

「おい、これ何やってるんだ」

「お、あんた知らないのかい?絵描きだよ絵描き!」

「絵描き?」

「そう、小さい子が書いた絵を見てるんだよ!すげぇ綺麗で繊細なんだぜ!」

「ほぉ…すこし見たいんだが――」

「――ならここに来るといいさ、俺は十分堪能させてもらったからね」

「いいのか、悪いな。ユエ、前行けるぞ」

「ホント?行く!」

「ああ、待ってください~」

 

前へ行けるようになったユエ達が人をかき分け絵描きが見える所まで移動する。そして人の隙間から噴水が少しづつ見れるようになり、絵描きの姿が見える位置に着いた。

絵描きは噴水の塀にちょこんと座り、立てたキャンバスに筆とパレットをもってスラスラと絵を描いている。

だがその絵を描く人物は……とても小さい子供であった。それも小学生くらいの本当に小さな子供だ。水色と白のクラゲを思わせるようなふわりとした可愛らしい服に身を包み、空色の優しい髪が風に揺れるのを気にする素振りすら見せず、黙々と絵を描いている少女。

 

「おいおい、ホントに小さい子供じゃねぇか」

「カワイイ……♪」

「それしても、あんな子供が描く絵になんでこんな集まってやがるん……だ……」

 

ハジメは彼女が書き終えたのだろう絵が絵描きの少女の足元になんで置かれている事に気が付き、一目見たその絵に言葉が出なかった。

置かれている絵…そのどれもが、とてもあの小学生程の少女が書いたとは到底理解できない程に繊細かつ美しい絵画が並んでいたのだ。小さい少女が書いたあどけない落書きなんかでは無く、一つの風景、一つの世界を表現し描き上げている。まるでその道のプロが何か月も掛けて創り上げた力作、と思えるような絵画が何枚も、足元に展示されている。

 

「すっげ……ほんとにこの絵を、あの子供が?」

「ふわぁ…!凄いです凄いですよこの絵!青い空に浮かぶ島々、それを結ぶ鎖に雲のクジラ……もうきれいすぎますぅ♪」

「ホント、とても綺麗……家に飾っても良いと思える程♪」

 

普段絵画なんか興味を示さないハジメすら虜にする少女の絵画、そんな中目の前にいた一人の女性が少女に問いかけた。

 

「ね、ねえ貴方?このタイトルの絵を買わせてもらえないかしら⁉この「空飛ぶしま」って奴!」

 

女性が先程シアが見惚れていた絵画を指さし少女に告げる。少女は少しぽかんとした表情をしつつも彼女の言葉に返答する。かなりふわふわした子の様だ。

 

「買う?私はいいよ……?けど、おかね…どれくらいか、分からない」

「そうね……銀貨30でどうかしら?」「いやいやそれじゃあ安すぎる!銀貨50だ!」「い~や、俺なら銀貨100なら出すね!」「お前の低賃金で買えるわけねぇだろ⁉」「私なら150は出しますわ!」

 

まるでオークションでも始まったかのような熱気があふれ始めた。絵描きの少女は突如白熱した値段に関する白熱した会話に絵を描く手を止め、目をまるくしてポカーンとしてしまっている。それもそうだ、正式な値段なんか考えていない(そもそも商品として売っているのかすらわからないが)絵画に熱中してだいの大人が「幾らだ!」「いや○○だ!」といきなり叫び始めたんだから、そりゃあ驚いただろう。

結局女性が指さした絵画は銀貨80でハンマープライス。革袋いっぱいの銀貨を何故か周囲の大人が確認し、少女に渡し絵画を持っていく。

絵を買い取った女性はとてもうれしそうな表情をみせながら、スキップでこの場を離れていった。

 

「な、なあお嬢ちゃん。ここにある絵、俺も買っていいかい?」

「わ、私も買いたい!」「お嬢ちゃん、俺にも買わせてくれ!」「わたしも私も!」

「え、えっと……いい、よ?」

「「「やったーーーー!!」」」

 

歓喜の雄叫びが響き、大人達が次々と少女の絵を購入していく。価格は大きなキャンバスの絵画は先程の女性が買い取った価格である銀貨80で統一。写真立て程の大きさの絵には銅貨10枚という優しい値段にせっていされ、買いたそうにしていた家族と共に来ていた同じぐらいの少年少女達も嬉しそうに絵をとっていた。

 

「な、なんかスゲー現場に居合わせたな、俺達」

「うん、恐ろしいモノをみた……」

 

その光景にユエとハジメはドン引き、大人達の恐ろしい本性の一旦を覗いてしまったかのような気分で合った。そんな中――

 

「ハジメさん!ハジメさん!私もこれ欲しいですぅ!」

 

シアは目をキラキラさせながら写真立てに飾られている、赤い花とその花を手に取り微笑んでいる少女の絵を指さしていた。

 

「お前もそっち側かよ、ていうか…俺らがかった所で飾る場所がねぇだろ」

「えぇ~!いいじゃないですかぁ~!ユエさんだってほしいですよね!ね⁉」

「……ちょっとだけ///」

「ユ、ユエさん……?」

「ほらぁ!ユエさんもこういってますしぃ、お願いしますよハジメさぁん!」

「デートの…おみあげ♪」

「……ハァ、分かったよ。ただし、でけぇのは無理だかんな」

「ヤタ~‼‼ ♪」「ん♪ハジメ……ありがとう!」

「おい嬢ちゃん、俺もその絵買っていくけど良いか?」

「……。」

「嬢ちゃん?」

 

絵描きの少女は何故かハジメの顔をみてボーっとしている。だが彼女の瞳はハジメの顔ではなく、何か別の…ハジメが宿している何かを必死に見ようとしてるように感じた。

 

「えっと、嬢ちゃん?なにか顔についてたか?」

「……あ、…ごめんなさい。大丈夫、です……絵なら、良いよ」

「…?そうか?じゃあ買わせてもらうか」

 

少女の了承も得たのでハジメシアが指さしていた小さな絵を手に取り、代わりに銅貨を絵が置いてあった位置に置いた。近くでみると本当に丁寧で繊細、少女の表情までは髪で読み取れないが、美しい綺麗な絵であるのが分かる。だがハジメはそれ以外に気付いた事があった。

 

「ん?この絵の女……ユエに似てる?」

 

購入した花を持つ少女の絵。よく見ると髪は金髪で長く、服装はいまユエが着ている白い上着。なにより顔の印象、目は髪で隠れており見えないが…少し微笑んでいる口元が、ハジメの脳になぜかユエを連想させた。

 

「なあ嬢ちゃん、これって――」

「――おや。グレーシュ、此処に居たの?」

 

絵の少女のモデルを聞こうとした直後、背後から綺麗な女性の声が聞こえて来た。ハジメが振り返ると、そこには修道服に似た胸元に星をモチーフにしたような宝石が輝く衣服に身を包み、頭には同じく修道女が身に着けるおうなベールを身に着けた、美しい女性の姿。瞳は目を瞑っており、とても清廉な雰囲気がヒシヒシと伝わってくる。

 

「アポニアお母さん」

「グレーシュ、あまり離れてはいけないわよ」

「ごめん……気になる色があったから……描きたくて」

「そう、良い絵は描けたかしら?」

「うん……楽しかった。あと……コレ」

「これは……銀貨に銅貨?これはどうしたの」

「あの……えっと…」

「俺達が買ったんですよ」

 

ハジメが途中で割って入り彼女に起こった事の事情を説明した。女性は少し困ったような表情をしながらもグレーシュとよんだ少女の頭を優しくなでている。

 

「そうでしたか、そんなことが」

「良い絵だったから……みんな欲しがってた」

「ええ!私達も買わせていただきましたですぅ!」

「よろしかったのですか?グレーシュの絵を買っていただけるなんて――」

「ああ、綺麗な絵だったのは事実だしな。アレぐらいの値段を出す価値はあっただろうぜ」

「うん…そうおもう」「ですですぅ♪」

「そうですか……では、この銀貨は頂きますね」

「アポニアお母さん、また絵…描いていい?」

「ええ。でも今度は、私達と一緒よ」

「!……うん♪」

 

少女と女性は仲良さそうにほほ笑み合いながら広場を後にしていく。仲睦まじい二人の姿はまるで聖母を見ていたかのような、心仇やかになるような浄化された感覚が心に広がっていた。

 

「いいお母さんですねぇ」

「うん……優しい人」

「……。」

 

ただ、ハジメには彼女、修道服を着た彼女の雰囲気には……聖母の様な慈愛のオーラの様なモノを感じながらも、何か黒く淀んだ何か……悲しみにあふれた何かのようなモノを感じ取っていた。それは、自身も同じようなモノを持っていたが故の無意識な共感だったのか……それは本人ですらわからない。

 

「ハジメ……?」

「ん?いや……何でもない。行こうか」

「ん!」「はいはいはーい!次どこ行きましょうか‼」

 

あの女性から感じた雰囲気の事は一旦忘れ、ハジメ達はデートを再開し再び歩き始める。あの女性が何で黒いモノを感じたのか、そんな事はどうでもいい。今はユエとの街歩きを楽しもう…そう思う事にしたハジメなのであった。

 

 

 

―――――

 

 

 

 ブルックの町から大きく離れた森の中、先ほど町の中で注目された小さい絵描きのグレーシュとアポニアが森の中を歩いている。彼女たちが歩いている場所は舗装された道でもなく、獣が通った獣道でもない。誰も通った形跡がない木々の隙間を歩いていく二人。

ブルックの町が見えなくなるほど離れた森の深部に向かう二人、進む先には木漏れ日が溢れていく。長い間歩き彼女たちがたどり着いた場所は大きく開けた場所。だがそれ以前に…何十、何百の木々がなぎ倒され、直線状に大きく地面が抉れていた。まるで竜がブレスを放ったかのような、強大な魔法の詠唱による痕跡か、魔人族による影響か…と、"この世界の住人"であればそう認識し、調査をしようと動き始めた事だろう。

 

「……旅人、アポニアです」

 

突如虚空へ話しかけるアポニア。すると彼女の目の前、抉れた地面が途切れた個所からジリリと電流のようなエネルギーが虚空を奔り、何もなかった抉れた地面から徐々に大きな何かのフォルムがゆっくりと表れ始め、森の中心に大きな戦艦…「ハイペリオン」が姿を現した。

 

『お疲れアポニア。町はどんな感じだったか報告してくれ、艦橋で待ってる』

「わかりました。色々収穫がありましたので報告しに行きますね」

「グレーシュも……色々描けたよ」

『それは良かった。どんな感じ立ったか、教えてね』

「……うん!」

 

艦内へ続くハッチを開き、中へ入る二人。飛行能力を持っているアポニアにとってこの巨大な艦の移動へ苦にはならないので、グレーシュの手を繋ぎ少し浮遊してスイーッと移動してく。エレベーターや移動床があるとはいえ歩きや走りでは時間がかかってしまう為、各所に中継地点をつなぐテレポートに入りアポニアとグレーシュは艦橋へと到着した。

 

「戻りましたよ、旅人」

「艦長さん、戻ったよ」

「二人ともお疲れ」

 

艦長席が振り返り、二人をねぎらう。グレーシュは久しぶりに艦橋に入ったため周りをキョロキョロと見まわしている。円形の艦橋、長い通路の先にある艦長席とコントロールパネル、その奥に3~4つの操作席とそのパネルを動かし何かを行っている人型アンドロイド達……ちいさい子にとっては新鮮で目新しい光景なのだろう。

少し興奮しているからかなのか、少し顔を赤らめワクワクした表情でパレットと絵筆をとり、ナイトがどこからか取り出したキャンバスと小さな椅子を置き、ちょこんと座って何やら書こうとしていた。

小さい子による興味深々な顔とそれによる微笑ましい行動は、その場を和ませ、少し冷えていた艦橋の空気を柔らかくする。

 

「グレーシュ、報告するんじゃなかったの?」

「大丈夫だアポニア。グレーシュは自由に絵をかかせてやってくれ」

「まあ、旅人がそういうのなら良いのですね。では町であった事をお話しますね」

 

そういい彼女は町で得た情報、グレーシュによって町の硬貨が得られた事などを事細かく話した。町の文化は艦長や他の面々が過ごしていた文化よりだいぶ衰退した世界、感覚的には数世代前の建築で構成された町であった事が少し気にかかった。

グレーシュのお手柄で手に入った硬貨も一目見ればお粗末な出来であり、簡単な文字や絵が彫られてはいるが、その表面は歪であり、凹みや隆起していたりと様々である。

 

「……文化が遅れすぎているな」

「そうなのかしら、私の記憶でもこのような硬貨は見た事は無かったわ。だけど、それだけで不自然とは到底――」

「アポニアの考えも分かる、だがこれほどの文化の遅れとなると……どこの分岐なのかが分からないのが問題なんだ」

「どこの…分岐、ですか」

「量子の海に揺蕩っている世界の泡は、"虚数の樹"に実っている世界の泡から枝分かれした"もう一つの可能性の世界"なんだ。だから枝分かれした世界の年代が分かれば、対処がしやすくなる……だが」

『こ~の世界古すぎて追えないんだよねぇ。幾つもの文化が消えては創られてを繰り返してる"私達の世界"が元なのは泡の性質が似てるからあってるんだと思うんだけどぉ……」

「それがいつの文化の時かが分からないんだよねぇ、多分これとんでもなく古い時代にできたモノだよ。それも他の泡とは一味も二味も違う、特異な泡だねぇこりゃ』

 

世界の泡についてある程度分かりやすくすると――

 

ここに「とある犬が病気で死んだ」という結果が起こった世界があるとしよう。

その世界を「原点」とする。そこへ、ある「とある犬が病気を患ったが、治療し完治した」という可能性の世界が、枝分かれした果実の様に現れた。これを「分岐A」とする。さらにそこから新たな可能性が生まれ、「分岐A」以外の分岐が次々と出来上がっていく。だが、そうなるといくつもの分岐世界が「原点」を淀ませ、「原点」が滅茶苦茶になってしまう。そうならない為に、虚数の樹は分岐した世界、「分岐A」等を"剪定"し「原点」を維持しようとするのだ。

 

その剪定により、落とされた世界が量子の海に揺蕩う世界の泡となる。これが量子の世界の仕組み。艦長達は泡に侵入し調査する前に泡の情報を「原点」から解析し、事前に世界の情勢、文化、崩壊に関する情報を入手してから調査する。

だが今回の場合、仕方なく侵入してから泡の解析をしているが……どの時代にも当てはまらないのだ。崩壊によりいくつも消えた文化…何千、何万年も前の時代の情報まで遡っても該当しない……こんな事は初めてなのだ。

 

『うーん、こりゃあ"あの説"の可能性が高まって来たぞぉ~……』

「あの説?聞いてないぞ、アイ」

『ああ、実はね。ロザリアちゃんとブロニーちゃんがね、この世界の事話した時にこう言って盛り上がっていたんだよ、「まるで異世界みた~い!」ってね』

「異世界……まさか」

『もしかしたら艦長、この世界……別の原点世界の泡かもしれないよ』

 

別の原点世界……私達が暮らしていた崩壊という現象が起こる世界とは別の、全く別の枝に実った原点世界、その分岐した泡というのだ。まさかとは思うが、あり得ないわけでは無い。この辺りは私達の世界から落ちた泡しか見つけられなかったが、まるで海に漂う漂流物の様に、別の量子海域の世界が流れ着いたという事も無くはないのだ。

 

「旅人、それだとどうなるのかしら?」

「自分達の文化が違う、だけなら良いけど……世界の根底から違っていた場合、植生や鉱石、生物etc…全てが違うことになる。船の修理や食料・水、燃料確保も難しいかもしれないんだ」

「食料や水でしたら大丈夫でしたよ、私達は町で頂きました」

「ながいパン、美味しかった…♪」

「……食事は問題ないとして、後は修理用の鉱石だな。この世界しかない鉱石出った場合変えが効かん。私達の世界の金属に似た鉱物を探さなければな……」

「また何か調べる事があれば私達に言ってくださいね、手伝いぐらいなら出来るわ」

「私も、頑張る」

「ありがとう二人共。今は体を休めてくれ」

「ええ、そうさせてもらうわ」「部屋に戻って、絵の続き描くね」

 

2人は仲睦まじい親子の様に艦橋を後にする二人、その姿を笑顔で見送った後に席を戻し溜息をつく。平静を装ってはいたが、この艦の状況は想像以上に悪い。

この世界にやって来たのは、約4日程前の事……エンジンの故障による不安定な着艦、その無理が祟ったようでさらにブースターとエンジンがショート。バリアを張っていたが、地面を抉りながら森を横断したせいで艦の装甲にも目立った傷は無いが、大小幾つもの擦った傷跡が出来上がってしまっていた。

ムーンライトスローンのエネルギーを緊急潜降の際にエンジンやブースター、バリア等複数に裂いた結果、バリアの強度が従来の43%しか出ていなかった為、バリアが壊れ艦本体に傷を付ける結果となってしまった。

 

……不運に不運が重なり、艦体のダメージは潜降前より悪化。挙句、ムーンライトスローンを無茶したせいで冷却にも長い時間を必要とする羽目になってしまった……。

着陸してから、艦体のダメージレポートと仲間達の確認を済ませた後、代表としてグレーシュとアポニアを離れた個所にある町に向かわせそれから四日立った今日、ようやく様々な情報が手に入るようになってきた。

 

「……はぁ。修理用の鉱石、どう探そうか」

『なんか鉱山みたいなのでもあれば、コソコソと探って探索出来るんだけどねぇー』

「そんな都合のいい事があれば良いけどな…まぁ、まずは現状得られた情報の精査だ。皆を集めてくれ」

『りょーかーい!集める場所は第二デッキの「大ホール・作戦室」で良いよね?』

「ああ、そうしてくれ」

 

アイに指示をだし、機体をステルスモードへ移行させる。薄い水色の菱形が連なった様なエネルギーが艦を包み、姿を景色へと同化させていく。完全に姿が見えなくなったのを確認すると、席を立ち、第二デッキへと足を進める。艦長は第二デッキへと足を進めながらこれからの事、重要事項を脳内でまとめていく。

 

(まずは修理新調する為の鉱石の確認が最優先だな。ムーンライトスローンは…時期が経てば冷却が完了するし放置でいい、あと食料や水の確保……それと、予備の燃料の確保も視野に入れておくべきだな。何かあった場合ムーンライトスローンを使わず世界を航行する必要も出てくるだろうしな。あとは……)

 

「おーい艦長!」ドンッ‼

 

後ろからロザリアがやってきておもむろに背中へ飛びついてきた。後ろには姉妹であるリリア、そして彼女達を連れて艦長の艦にやって来た()()()()"次元渡航者"のΔ(デルタ)も少し離れて付いてきている。

Δの衣装は少し近未来チックな衣装を身に纏い、ロザリアの顔と等身にリリアの要素を足したような姿、他者から見ればロザリアと瓜二つと思うだろうが、性格や思考は全く違う。血の繋がっていない赤の他人だ。

 

「ロザリア、いきなり飛びかかるのはやめな」

「だって凄い困り顔してんだよ!気にするじゃ~ん?」

「二人共、艦長に迷惑をあまりかけないように」

「ロザリア、リリア、デルタも……どうした?招集のメンバーには入っていないはずだが」

「訓練の帰り、アイが緊急着艦の際に不具合が無いか確認したいからって、色々施設を使わせてるのよ」

「おかげで腕ぱんぱ~ん!アイドル目指してるのに、このままじゃ筋肉付いちゃうよ~!」

「そんなすぐに筋肉付いたら筋トレなんて流行らないよ……。」

「二人共、強くなってもらわなきゃ困るわ。艦長の為にも、アタシの為にも」

 

デルタは首に掛けていたタオルで顔に流れる汗を流しながら丁寧に答える。ロザリアが近くに居て、その少し離れた場所に同じ顔のデルタが喋っている。慣れない人からすれば頭がおかしくなりそうな状況だが、艦長には日常の為もう慣れてしまった。

 

「……Δ、少し話せるかな」

「ん、構わないよ」

「さぁ訓練は一通り終わりだ。今日は解散としよう」

「え、いいの⁉リリア、食堂いこ食堂!芽衣お姉さんがパフェ出してるんだって♪」

「ホント!食べに行こう♪艦長、またね」「じゃあね艦長~!」

 

2人は手を振りながら食堂へと駆け出していく。無邪気で愛らしい、アイドルを目指すという可愛らしい夢を持っている少女達だが、彼女達も過酷な環境を旅し、戦ってきた者達……少し悲しい感情が湧いてくるのは、まだ人間として正しい心を持っているととらえるべきか。それとも、指揮官、艦長として非情になれずにいる未熟な心と捉えるべきか……。

 

「私は…彼女達の様な少女でさえ戦場に立たせる。無情な者だと思うか」

「……なによ、どうしたの突然。気持ち悪い」

「君が、同じ"次元渡航者"である君が連れて来た彼女達を戦わせる私を、どう思ってるのか……ふと気になっただけだ」

「……確かに最初は思う所はあったわ。私的には"保護"として考えていたし、最初は怒りもあった」

「けど、今は何とも思わないわ。()()()の様に凝り固まった現実,効率主義者のアイツとはまるで違う。二人が危機だと感じれば自身が前に出て助け、冷徹に接さず娘の様に扱ってくれている……戦わせることも、今は彼女達の為と思えばなんともないわ」

「……そうか」

 

私より前からこの量子の海を、旅し次元を渡航していた者の言葉は艦長の心のわだかまりを少しほぐしてくれた。私の様に自在に、量子の海の世界…次元を渡ることが出来る"次元渡航者"の一人。

ハイペリオン等の機械等に頼る事なく、自力で世界を渡る事が出来る極稀な人物……貴重な戦力の一人である彼女の言葉は、重さの中に優しさを含んでいた。

 

「デルタ、君は私や伏龍(ふくりゅう)やリタと同じ単独で自在に次元を渡り世界を巡れる基調な人間だ。急ではあるが、この後の会議にきてもらえるか」

「話したい事はそっちなのね。それぐらい構わないわよ」

「そうか、では行こうか」「了ー解」

 

少し微笑んだデルタは艦長の後ろについていく。彼女の雰囲気は先程のゆったりとした雰囲気は違い、少し周囲を警戒しているようだ。

おそらく彼女にとってもこの世界は異質だと感じているようだ。何かが違う、この世界は今まで巡った世界とは大きく異なる"何か"があると、経験による感と本能の様な何かで感じ取っているからだろう。たとえ艦内であっても警戒は怠らないように、そんな考えなのだろう。

 

彼女の警戒もあり、特に何かが起こる事も無く作戦室へとやって来た。

中に入ると、目の前には大きな地球儀に似た量子の海の海図が映し出された大きなホログラム、それを囲う様に周囲には座席が惹かれており、艦の戦乙女(ヴァルキリー)達が着席していた。

Δは艦長を作戦室へと届けると、そばを離れ近くの座席へと移動していく。艦長を服の乱れが無いか確認し、軽く羽織っていた隊服のコートを直し皆の前に歩み出る。周囲を囲う様におかれた座席に座る戦乙女達の視線が突き刺さる。

 

「皆、集まっているようだな。それでは作戦会議を始める」

「まずは現状わかっている事の共有から始めよう。手元のモニターに移す」

 

こうして作戦会議を始める艦長達。とりあえず現状得られた情報と問題、それから優先目標の共有を済ませていく。

 

「――艦長殿、質問良いか」(霞)

「いいぞ、霞」

「この場所の簡単な知識や言語、文化等は理解したが、問題がある……この世界の住人達の戦い方や戦術面の知恵や技術が分からぬことだ」(霞)

「戦闘面、か」

 

たしかに。霞が言う様に、この世界が本当に別世界だと仮定すると、私達とはまるで違う戦い方、戦術、知識な可能性が大いにありえる。そうなると、私達の力がどれほど通用するか、それも問題になる。

 

「となると、何処かで戦闘する機会が必要になるのじゃが……」(霞)

「とはいえ原住民との戦闘は流石にできないな」

『その点は問題ないかもよ~♪』

「アイ?何か良い案でもあるのか」

『アポニアちゃんが得た情報だよ~。コレ観てみて』

 

そういい中央のホログラムの地図を解除し、幾つものウィンドウを表示する。

そこに映ったのはいくつもの大きな獣の画像。だが違う所があるとすれば、表示される獣達にはそれぞれ角や刃、雷を帯電していたりなど私達の世界では視た事のない、童話や漫画などでしか見たこと無いような獣の写真が表示された。

 

「これは?」(サクラ)

『ここら辺一帯の森をドローンで飛ばしてとった写真だよー。アポニアちゃんの情報から照らし合わせてみた感じ、"魔物"って呼ばれてるみたいだね~』

「魔物……か。儂らの世界の崩壊獣とも違う、奇妙な」(霞)

「本当にこの世界は私達の場所とは全く違い世界なのねぇ、興味あるわぁ~」(メビウス)

 

後方からメビウスの含みのある言葉と舌なめずりするような小さい音が聞こえて来たかように感じたが、気のせいだろうと無視し、会議を続ける。

 

『どうやらこの世界、魔物を退治する[冒険者組合]ってのもあるらしいね』

「成程、そいつらと戦って情報を集めてみるか。後ほど戦闘に派遣するメンバーを選別しておこう」

『了ー解。じゃあこれからの行動についてはどうする?』

「ハイペリオンで航行して、この世界をめぐりながら解決していこうと思う。どうせこの後予定があったわけでもないし、長期休暇兼、異世界に関する調査としよう」

 

「え、マジ⁉じゃあこの世界で冒険してもいいの⁉商売もOK!?」(フェリス)

「警戒しながらなら構わないが、まずはこの世界の文化を覚える必要が有るぞ?」

「ぜーんぜん平気!ついでに情報収集でもしておくよ!ニッヘヘェ♪」(フェリス)

 

「私は魔物の研究でもしてればいいのかしら?」(メビウス)

「まぁ、そうなるな。いつも通り、頼んだぞ」

「いいわよぉ♪異界の魔物に、未知の物質……ウッフフフフ……♪」(メビウス)

 

「各自自由に行動してもらって構わないが、ハイペリオンと共に動くという点は変わらない。各自無断で世界をめぐる事が無いように。私や伏龍の様な次元渡航者ならともかく、渡ることが出来ない者達が取り残されても、戻れる保証はないからな」

『『了解』』

「それでは今回の会議はこれにて解散とする。各自解散」

 

会議が終わり、それぞれ戦乙女たちが席を立ちこの場を後にする。だが一人、識の律者である華だけ他の者より動きが鈍く、何か考えているかの様に感じた。

 

「……。」

「華、どうかしたか」

「…あ、艦長さん。いえ…別に何もないですよ」

「そうか?あなたの意識を操り、視る事の出来る力は強力。何かあったら迷わず教えて」

「ええ、分かっていますよ!私の能力は強いですからね!フフン!」

 

本人が大丈夫だと言うので、それを信じ作戦室を後にする艦長。その後を華が追いかけるように部屋を後にするが、その顔を少し不安げな表情をしている事に、艦長はまだ気づいていない。

 

「……この世界に来てから流れてくる不快なノイズ…何なんでしょう」

「艦長には悪いですが、一人で探らせてもらいましょうか……」

 

後に知る事となる、この世界には、どす黒く淀んだモノによる策略が今も張り巡らされていた事を。

そして、それに巻き込まれた、艦長達以外の来訪者が居た事を。だがそれを知るのは…もう少し後の話である――

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