ありふれた量子の異例界<イレギュラー> ~異端世界の崩壊譚~ (仮) 作:siera
ブルックの町にある小さなカフェ、そこでユエとハジメ達は遅めの昼食を取っている。目の前に置かれた料理を二人は軽い談笑をしながらいただき、優雅なゆったりとした時間を満喫していた。
そんな中、後方の少し離れた席で同じく昼食をとっている男女のグループの"ある話"がハジメの耳に入ってきた。
「ホントだって!森の奥から、何か大きなモンが飛び去って行ったんだよ!」
「ん?」
「馬鹿だなお前、そんなのありえねぇって!」
「嘘じゃねぇよ⁉俺は絶対何かでかい何かだった!」
「"デカイ何か"って、その"何か"は見たの?」
「い、いや……見てねぇけど……」
「ブッハハハハハ‼姿も見てねぇのに何か飛び去ったとかw お前夢でも見てたんだろ?」
「そんなわけはない……!姿は見てない、けど……!あのとんでもない風は絶対何かが飛び去ったに違い!この前の森の方角から響いた轟音の件もある……。絶対何かが住み着いてるって」
「「ナイナイ!アッハッハハw」」
「う、嘘じゃねぇぞ。絶対何か居るんだぁ……!」
「―――森、か」
「ハジメ?」
「……ユエ、この後森の方に行ってみていいか?」
「ん。いいけど……どうしたの?」
「……いや、ちょっと確認したくてな」
昼食を取り終えた二人は、町を一人自由に探索していたシアをとっ捕まえ、ブルックの町を出てすぐ近くにある森の中へと足を進めた。
森の中はあちこち雑草が生え、むき出しの根が行く手を妨害するように地面から出ていたりと人が行きかう事もない場所のようだ。
「うえ~、ハジメさん……この森の中に行くんですかぁ~……?私、町でショッピングしたかったです~……」
「文句言うな。気になる話が聞こえてきたんだ、確かめないとな」
「それって、カフェで聞こえてきた話?」
「ああ。妙に気になってな」
「でもそれ、姿見てないって話……」
「そうは言ってたが、自分の目で確かめないとな」
話しながら森の奥へと進んでいくと、目の前の木々の隙間から陽光が差し込み始めてきた。開けた場所に到着したのだろうか。
「お、前が明るいな」
「あれ?森抜けちゃいましたかね?」
「それは無いはず。多分、広場かなんか」
「ユエ、空から見てきてくれないか?」
「うん、まかせて」
ユエは快く返事し、ふわりと体を浮かせ森を空から眺める。森を出て進行方向を確認すると、森の途中が開けていることが分かった。
「ん、やっぱり少し開けた場所に出る。……ん?」
森にできた広場を見ていたユエ、だがその広場は何か違和感を感じるような開け方をしていた。
森の左側、奥から森の中心にかけて大きく横長に森が開けているのが気になる。もう少ししっかり確認しようと、高度を上げ全体をしっかり確認をしに上へあがる。
そして……。
「っ‼何っ……これ―――」
その光景にユエは驚きを隠せなかった。明らかに異様な光景がユエの視界に広がっていたからである。急ぎ下へと降り、ハジメたちに先の様子を伝える。
「ユエ、どうだ?」
「……ハジメ」
「――武器、準備した方が、いい、かも……!」
「っ⁉……ああ、わかった」
「え、え、え?な、何をみたんです、ユエさん⁉」
「……見た方が、早い」
「シア、こりゃ何かあったに違いない。注意しろよ」
「は、はいですぅ……!」
ハジメがホルダーにしまっていたドンナーを引き抜き、先ほどまでとは打って変わり、細心の注意と警戒をしながら先へと進む。
樹々の隙間を通り抜け、広場へと足を踏み入れたハジメ、底には驚くべき光景が広がっていた。
「な、なんだ……これ⁉」
眼前に広がる深く抉れた地面、左の方へ続く抉れた後はざっと4~50mは続いている。抉れた地面の周囲にはいくつもの折れた巨木が散乱しており、そのすべてが何か強い力によって無残に折られたのが見てわかる。
異質で以上な現象、まるで強大な魔法を放った跡のような。ドラゴンによるブレスでできた地形かのような光景だ。
「おいおい…なんだよ一体」
「森が、地面がえぐれてるです……」
「一体……何が起こったの?」
シアが折れた樹の幹に近づき観察する。断面は刃物で斬ったような跡は無く、焦げたような跡もどの樹にも見当たらない。樹々が折れた原因はおそらく大きな力による衝突だろう。
「この傷の感じ、多分大きな何かにぶつかったんだと思います」
「シア、分かるの?」
「なんとなく、ですけど。森で暮らしていたので…これが動物の爪なのか、人為的なのかぐらいは、なんとなくわかるんですよ」
「なあユエ、これって魔法によって出来た奴とか、分かるか?」
「わかる……わかるけど、これは違う。魔法を使った時にでる魔力…それが見当たらない」
「となると、これを作った原因は……」
「抉るほどの巨体を持った何か……って事になる」
「ど、ドラゴンでもこんな大きいモノは聞いたことないですよ!」
「……魔族か?」
「わからない、でも……何かデカイのが、ここにいたのは事実」
敵か味方かわからない、だが得体のしれない何かがこの場で森を荒らした事実に冷や汗がでる3人。本来の森に吹き荒れる優しい風が、巨大な化け物の吐息にすら錯覚してしまう。
未知という恐怖は、生き物の想像力を掻き立てより深く悍ましい恐怖の渦へといざなっていく、ハジメは空を見上げ呼吸を整え落着きを取り戻す。
いま見上げている青い空と白い雲、そのそばに……森を破壊した"ナニカ"が飛んでいることにも気づかずに……
ブルックの町、そのはるか上空でゆっくり動き出すハイペリオン――
艦長は艦首の席に座り、計器を観測しながら不時着したハイペリオンの様子をうかがっている。艦の底を擦りあらゆる箇所に傷ができた、無事に航海を進められるか不安が募る。いつしか艦長の白い手袋の中、手が汗が滲んでくる。
今まで体験した事のない異界の地、いつもの航海以上の不安な感情が艦長の脳内を曇らせている。
「艦長、何してんの?」
「ヴィルヴィ……いや、
「フフ、そりゃこの場に来るとすればもちろん[発明家]のボクさ」
ヴィルヴィ、彼女は自身の人格を8つに分割した天才。すべてにおいて超常的な程の才能を持ち、天才と呼ばれたある組織にくみしていた少女。
今の彼女はメカニック、他のヴィルヴィも発明に関しては天才的だが、この発明家のヴィルヴィ、ある兵器を何もない無人島で設計図を書き上げたり、実験したりと他より抜きんでている才能持ち。
そのため、時折艦橋へとやってきては計器の確認や調整、大きな改造を許可している。その為このハイペリオンの内装や内部機構は初期のころからガラッと変わっている。この機構を理解しているのは私と
「それで?何か問題でもあったかい?艦長」
「おや、今のところ順調だ。計器にも異常はない……だが、あんな不時着や強行策を取ったのは初めてだからな、不安なんだ」
「大丈夫だろう。この私が設計して手を加えた装甲だ、地面擦ったり、ミサイルやエネルギーキャノン如きで壊されるようなヤワな設計はしてない」
ミサイルを如きで済ませるところが、彼女の恐ろしい所。かつて無人島へと島流しにされた所以、ここにあり。
『艦長!この世界の情報が少しずつ手に入ってきたよ。モニターを見てみて』
艦長が座る席のモニターに、アイから送られてきた世界の情報が次々と映し出される。この世界の植生や簡単な世界の遍歴、世界を統治する者の存在や、世界の名前……などなどだ。
「<WP:0353.04.0,9 解析名「トータス」>……それが名前か」
「初めて聞く名前、やっぱり異世界だったんだ」
『改めて思うけどヴィルヴィちゃんの作ったシステム怖すぎるよ、今まで現地で手に入れてきた情報がアイ一人で手に入るようにしちゃったんだから』
「良かったでしょ?次は君のホログラムを実体化でもさせてあげようか?」
『き、気になるけど遠慮しとマース……』
「…植生はともかく鉱物の方は聞いたことのないモノばっかだな」
『そうだねぇ、修理用の鉱石探しは少し骨が折れるかも』
「まあこれからについては、後でじっくり見るとしよう。マップを」
『りょうかーい♪』
艦長の目の前にこの世界の簡易的な地図が表示される。現在飛んでいる周辺の地形だけではあるが、高低差を含め正確な地図を見て着艦場所を探している。周囲は森や山岳、舗装された道のようなモノがあるところを見ると、人通りはあるようだ。よく見ると進行方向の右側に湖があるのが見えた。
「……離れた場所に湖か、それにいくつか家もある小さな集落か。よし、このあたりで着艦するか」
『おっけー湖ね、それだと~……4時間後くらいだね』
「よし、あとは食料だが――」
この世界の知識に関してはこの後、ゆっくり読み漁るとして……まずはこの後、どこに降りて探査をしようか。まずは簡単な食糧集めをしたいが……この世界の通貨が無い。いや、グレーシュの幸運のおかげで硬貨は無いわけではないが……貯蓄分を買うには少ない、というかそもそも相場がわからなすぎる……。
町に降りて買おうとしても、変に硬貨出して目を付けられでもしたら面倒になる。
「――
艦長がいったこの言葉が意味する事、ズバリ「自分たちで狩り」という事だ
『え、買うんじゃないの⁉』
「グレーシュのおかげで硬貨があるとはいえ、金貨や銀貨がほとんどだ。あれをポンポン使って、目立つことになれば後々面倒だろ?」
「それなら私は面倒だからパスさせてもらうよ。料理するとなったらコックでも呼んでくれ。私は艦のメンテナンスと点検をしておく」
「……。仕方ない、他のメンバーを探すか」
大食堂――
建てられた食堂と、いくつかの樹々が点在する庭が一緒に入っているドーム。周辺のドームの壁や天井はすべてスクリーンとなっており、青空や星空など、切り替えてまるで屋外カフェにいるような感覚を作り出すことができる。庭ではまだ幼い戦乙女達が笑いながら遊んだりもしている、大勢に人気な場所だ。
そんな食堂のカフェの庭、大きなケヤキの木陰で、一人ハンカチで自分の武器である弓を手入れしているワタリガラスがいた。
「どうした艦長、休憩か?」
「まあそれもあるが、ちょっとした"依頼"だな」
「……へぇ依頼か。久しぶりだ」
ワタリガラスの顔から薄く笑みがこぼれる。任務や依頼……そういったモノを請け負っていたヨルムンガンドの一人。実力はかなり高く、弓以外の武器もある程度使いこなせるという、私…艦長と似ている所がある。
「お前の頼みだ、多少安く見積もってやるよ」
「そうだな…報酬は異界の硬貨でどうだ?」
「へぇ、異界の金か……悪くない」
「これから下に降りて行動することが増えるんだ、悪くないだろう?」
「いいだろう、乗った」
彼女からの承諾を得て、艦長は胸ポケットから一枚金貨を取り出し指ではじく。ワタリガラスは艦長が打ち上げたコインを華麗に掴み確認する。ワタリガラスは慣れた手つきで手に取ったコインを指で転がしていく。2本の鋭利な赤い鉤爪があるというのにうまく転がすものである。
「これが異界の金貨か、確かに今までとは違うな。それで?依頼はなんだ」
「食料確保したいがこの世界の貨幣価値がわからない。その為、現地でのトラブルを避ける為に狩りに出ようということになった」
「……まさか、それだけの為に依頼だしたのか?」
「まぁそれがメインの依頼だな、うん」
「お前……人望無いのか?(汗)」
「そんなことはない、と思いたいが……まあそれはいい。依頼の意図は別にある」
「意図だと?」
「ワタリガラス、貴方にはこの後の狩りに同行してもらう。そして、偵察もかねて森の周囲をめぐり…そして――」
「――現地人がいたら、あえて此方と出会える用に仕向けてくれ」
「……。現地人との自然な接触が目的…それが狩り中に襲われていた現地人、又は襲われている狩人という形に持っていく……といった感じか」
「そういう事だ、さすが頭が回るな。他に狩りに連れていく予定の戦乙女にはこの事は知らせない。その方が自然に接して、自然な感情で接していくからな」
私達もこの世界を解析し情報を得ようと思えばできるが、それでは艦のエネルギーを使い続ける。それに、得られた情報が正しいモノという確証がある調査ではない。その為、自分達の足で知識を得るのがやはり一番なのだ。
だけどここは私達の世界とは違う、いきなり話しかけても違和感を与えかねない。その為多少自然な感じで接触するのが一番いいと思いいたったのである。
「相方は……そうだな、パルドあたりでいいだろう」
「あいつか、確かにアイツは耳が良い。それに動物的なものなのか、直感も働く」
「それに商人として動いてみたいと言っていたからな、すこし現地の感覚に慣れてもらおう」
「なるほど、了解した。そうとなれば早めに弓の調整を済ませておこう」
「よろしく頼むぞ、パルド!」「ウニャ!?アワワワワ…!アイタッ‼‼」(ドサッ!
ワタリガラスが寄りかかっていた樹の上で昼寝をしていたパルドを呼ぶ。先ほどまで寝ていた為か、バランス感覚が良いパルドが珍しくバランスを崩し地面に尻もちをつく。上から落っこちてきたパルドをヒョイと交わして話を進める。
「パルド、狩りに行くから着いてきて」
「イタタタ……って狩りぃ!?嫌だよめんどくさい~!」
「貴方異世界で商売してみたいって言っていたよね?現地に降りて、その下見もかねてだと思って」
「えぇ、確かにこの世界でも物売ったりしたいけど…猫は気まぐれっていうし、今日じゃなくても――」
「――17日前の作戦も同じ理由ですっぽかしたよね?」
「ゲッ…!」
「38日前の探査も、46日前の現地補給の際も……」
「ちょ、ちょちょちょ!なんでそこまで細かく覚えているのさ!分かった、わかったよ!行く、行くからさ!」
「……。良かった、じゃあ4時間後に艦橋に集合だからね(ニッコリ)」
「ハ、ハイッ!」