ありふれた量子の異例界<イレギュラー> ~異端世界の崩壊譚~ (仮)   作:siera

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艦を飛ばすこと4時間――

 

ハイペリオンは湖の少し離れた森、その上空で停艦した。艦長とワタリガラス、そしてイヤイヤと駄々をこねていたが、無駄たと悟り諦めてついてきたパルドと艦の真下へワープした。

森は上に止まっているハイペリオンの陰で暗く、あたりから鳥や動物たちの鳴き声や、風に揺れる草木の音だけが耳に伝わってくる。

次第にハイペリオンの陰が薄くなっていく。ステルスモードによる空模様との擬態を行った為であろう。その為、近くの森に棲んでいる動物たちも少し騒がしくなっていたのだろう。

 

「うん、動物たちはいるようだな」

「そうだな。上から見た感じだと、ウサギや鹿といった普通の動物も居た。これなら大丈夫だろう」

「ねぇ……これ本当に私いるぅ?」

「なんだ、パルド?まだ駄々こねる気か。お前、一応13英傑の一人だろうに」

「それでも最弱だよ、最弱!?一番弱いのが私なの!」

「それでも十分強いだろうに……。ほら、狩り始めるぞ」

「了解だ」「は~い……」

 

森の散策を始める3人、遠方を駆け回る小さいウサギやリスなど、魔物などという存在がいるというのに、以外にも普通の動物たちが生活しているんだな、と少し意外だった。

とはいっても普通の動物とは違い、リスなのに背中に小さい翼が生えていたり、木の上まで跳躍するウサギだったりなのだが……もしやこれも魔物の一種なのだろうか?

 

「まてまて~!」

 

パルドが一匹の鹿を追いかける。猫の俊敏性と行動力をもっているパルドにとってはこの森の悪路など問題はないのだが…それでも追いかけるので精一杯、この鹿、私達がしっている鹿より明らかに健脚…全速力で岩や木を避けながら逃げていく。

だが、逃げた先には艦長が弓を引いて待っていた。そう、追い込み漁ならぬ、"追い込み狩り"だ。

 

「行ったよ艦長ー!」

「了解、見えている」

 

艦長がしっかりと狙いを定め、矢を放つ。だが驚くべきことに、追い詰められた鹿は、その素早いスピードを落とす事もなく、驚愕の反射神経で首を傾け放たれた矢を躱したのだ。

 

「あれを避けるか!」

「うわぁ!こっちに矢が!?危ないでしょ‼獲物ならしっかり仕留められてよねぇ‼」

 

避けられた矢が自分に向かってきてきたことに怒るパルドをよそに、鹿は艦長の頭上で大ジャンプ。艦長を飛び越え逃げようとしているのだ。だが――

 

「そらっ!」

 

少し離れた樹の上で、待機していたワタリガラス。片足を樹から生えた枝に引っ掛け、ぶら下がった姿勢で鹿の前に姿をみせた。

彼女の黒い服のせいで気づけなかったのか、鹿はいきなり目の前でぶら下がって通せんぼした彼女に驚き体制を崩す。そこを狙い、彼女が構えた弓から3本の黒い矢が放たれ、喉と頭に命中―― 鹿は、大きな声を上げたのち地面に倒れ動かなくなった。

 

「助かった、ワタリガラス」

「問題ない。それにしても、中々大変な狩りになっているな」

「ゼェ…ゼェ…。あの子達早すぎるよぉ…!前の世界の鹿なんて追いついて背中に飛びつけるぐらい遅かったのにぃ……!」

「異世界ならではの生態や力を持っているんだろう。このウサギなんて、角から炎出したぞ」

「え!?それ本当に動物?魔物なんじゃない?」

「まさか、魔物っていうのは……スケルトンやゴブリンみたいなモノだと思うぞ?うん」

 

まあまあ苦戦はしたが、一応ウサギ4羽。鹿が6頭、あと野草やキノコ等は得られたが……歴戦の戦乙女でもある彼女たちが、狩りでこれだけしか捕らえられないとは想定外だった。これは……全員外に連れ出して狩りさせた方がよかったか?

 

「まぁいいや、私はもう一度獲物が居ないか探ってくるねぇ~」

 

パルドが樹々を飛び渡ってこの場を後にする。その時、ワタリガラスが手で何かジェスチャーをして艦長を呼ぶ。あのハンドサインが表すのは「現地人 3人 北西」の3文、どうやら私達以外の人がいるみたいだ。

 

「…そうか、パルド!」

「ンニャ!?何?艦長~」

「ここら辺はだいぶ探索した。今度は反対側、北の方へ行くことにする」

「こっから離れるんだね!了ー解!」

 

パルドがこちらに戻ってくるのを確認してから、二人は北西へと歩みを進める。

しばらく森を練り歩くと、前方から何か戦闘音の様なモノが聞こえてきた。どうやら、誰かが戦っている様だ。

少し様子をみるため、離れた草むらや木の上から様子を伺う3人。どうやら戦っているのは3~4人の青年少女、そして彼、彼女達がかばう一人の小柄な女性とケガした男一人。相手は大柄の熊、黒い毛皮をした大柄で狂暴そうな顔をした熊と対峙している。よく見ると、少し前から戦っていたのか、双方切り傷などが見えている。

 

「先生から、ははは、離れろ!」

「グルウアアアアア……!」

「皆、固まって……変に行動しないこと…!」

「は、はい……!」

「大丈夫ですか、ケガが……!」

「う、うう……」

 

 

「どうやら襲われているみたいだな」

「は、早く助けようよ」

「ああ、そうするところだッ!」

 

艦長が一人飛び出し、帯刀していた刀を抜きながら全力で駆け出す。熊はすでに大きな前足を振りかぶり少女を切り裂こうとしている。それを見過ごすことなどできず、少女達の前に立ちはだかり、刀を両手で抑え攻撃を受け止める。

 

「えっ、あ…あなたは!?」

 

突如現れ庇われた少女は声をかけてくるが、それに返答する前に目の前の障害を取り除こう。私は受け止めた前足をはじき、回し蹴りで熊を吹き飛ばす。

体制が崩れた所をすかさず木陰と草むらに隠れていたパルドとワタリガラスが攻撃を仕掛ける。ワタリガラスが打ち出す矢が毛皮に覆われた熊の体や喉に深々と刺さり、それに苦悶している所をすかさずチャクラムで切りつける。

熊は喉が裂け、大量の血を吹き出し、ゴボゴボと口内で音を立てて絶命した。

 

「よっし、終わり~」

「まったく、いきなり飛び出すな。お前、私達の代表だって自覚を忘れるときあるよな?」

「すまないね、どうしても行動が先にでてね」

「んへへぇ、まあそれが君のいい所でもあるんだけどねぇ」

「まったく……」

 

急に状況が一変し、何が起こっているのか理解できず唖然としている少年少女。そんな中、後方で匿われていた女性が前にでて、こちらに話しかけてきた。

 

「あ、あの!助けてくださり、ありがとうございます!」

「気にするな、困ったときはお互い様だろ」

「え、えっと……皆さんは」

「私達はこの森に狩りをしていたんだ。獲物を追っていたら君たちの声が聞こえたので、助けに入ったというところだ」

「そうだったのですね!えっと……」

「ああ、名前を名乗ってなかったですね……。」

 

私は自分の名前を出そうとするが、少しこわばり黙ってしまう。自分の名前、それを口に出すのが一番嫌いな行為だから……過去を、忘れたい思い出を思い出しかねないから。

 

「えっと…どうしました?」

「い、いえ…私は、"シエラ"と呼んでください」

 

もちろん偽名。だが……偽名だとしても、自分の付けられた名前を口に出すのは…とても辛い。頭に鋭い串が刺さったかの様な痛みが走る。"あの時"の記憶が、私を苦しめてくる……。

 

「私達も自己紹介しないとねぇ、私はパルドフェリス!「パルド」でも、「フェリス」でも、好きなように呼んでねぇ。あ、それとこの子は缶ちゃん!」

「ニャアオ♪」

「私はナターシャだ。だが仲間からは"ワタリガラス"の呼び名で呼ばれている。よろしくな」

「ナターシャさんにパルドさん、それにシエラさんですね!改めて有難うございました!」

「「「「ありがとうございました!」」」」

 

女性に続くように、4人の男女が声をそろえてお礼を伝えてくる。話方や会話していた時の雰囲気から感じた感覚だが、この5人は狩りをしにきた感じではなさそうだ。

 

「それで、あなた達はなぜこんな森の奥に?服装や装備の感じだと……私達と同じ狩人って感じでは無いですよね」

「え、えっと……ですね」

 

事情を聴くと、どうやらこの近くの町「ウル」の狩人グルーブが先ほどの熊に襲われ、一人、いま倒れている男が殿を務めほかの男たちを町へ逃がしたそうで。それを聞き、いてもたってもいられなくなってしまった彼女が森へ走って行ってしまったらしい。その後を追いかけてきたのが4人の男女、といった事らしい。

 

「また無謀な事を……」

「うう、分かってはいます。ですが……それでも体が動いてしまって……」

「もう!先生は戦う力ないんだから、無茶しちゃダメでしょ!」

「は、はいぃ……!ごめんなさい…!」

「ん?先生?」

「あ、自己紹介がまだでしたね。私は畑山愛子といいます」

「私は園部優花っていいます!」「俺は玉井淳史っていうんだ!」「宮崎奈々です」「菅原妙子って言います」「相川昇です、よろしく」「仁村明人です!」

 

名前を聞いて驚いた。全員、私達の世界でも耳にした「日本」という国の名前にそっくりだったからだ。まさか、私達と同じ異界の住人とも一瞬思ったが、あまり力を持っていなさそうな少女達、そんな力など持ってないだろうと考えを改めた。

 

「変わった名前ですね」

「あはは……、この世界の人たちにはやはり珍しいんですね」

「この世界?」

「えっと、私達実は……この世界とは別の世界から来た、異世界人ってやつなんです」

「っ⁉」

 

まさか、本当に異界から来た人間だとは思わなかった。私やΔのような世界渡航者なのだろうか!?

 

「それは一体――」

「愛子!どこだ、愛子!」

 

話の途中、遠方から何名ものガシャガシャと音を立てこちらに近づいてくる音が聞こえてくる。これは、鎧を着た人間の音だろうか。

 

「愛子無事か!」

「で、デビットさん!」

「む、貴様ら何者だ!」

 

私達の存在に気付くと腰の剣を引き抜きこちらへ向けてくる。まさかいきなりこちらへ敵意を向けてくるとは思わなかった艦長は騎士達に囲まれる。

 

「デ、デビットさん!落ち着いて……!」

「大丈夫だ愛子!貴様ら、ここで何をしていた!」

「えっと……私達は彼女達を助けたのですが~……」

「……。」

 

騎士達は黙って私をみる。あまりにも直球な殺意を向けられてはたまったもんではないのだが……さりげなく愛子へアイコンタクトを送るが、彼女自身どうすればいいかわからず、オロオロとしている。騎士が守るような身分をしている彼女の声なら、少しぐらい耳を傾けてもらえるかもしれないのだが。

 

「え、えと……あの!その剣をおろしてくれませんか?」

「優花!?何故だ、この者たちに襲われていたのだろう!?」

「違いますよ、ほらあれです!私達と狩人さんを襲ったのはそっちです!」

 

優花が指を指したところには、血だまりができた地面に倒れる黒熊の姿。騎士達が仲間と顔を見合わせる。どうやら聞いてた状況と違うようなのか、困惑の表情をしたのちゆっくりと剣を下げてくれた。

 

「も、申し訳ない!とんだ無礼をした!」

「いえ、お気になさらず」

「デビットさん!なんであんな敵意むき出しで来たんですか!?私達熊に襲われた人を助けにいったんですよ!」

「熊だと?向こうで聞いたら「戦闘音が聞こえて、愛子たちがそこに向かってしまった」と聞いたぞ!それで私達が急ぎかけつけたのだ!」

「その話、ちゃんと最後まで聞いたんです?」

「いや、愛子が襲われているとなれば急がねばならないから、途中で森に入った」

「……はぁ、最後まで話を聞かず、勝手に見たことない人を敵認定しようとしたんですか……」

 

優花が呆れたような顔と声を騎士に向ける。デビットと呼ばれた男はなぜ自分が呆れられたのか分からず困惑している。それに仲間の騎士達もデビットへむなしい視線を向けていた。

 

「再度謝らせてほしい!愛子を救ってくれた者たちへの非行、誠に申し訳ない‼‼」

「私は大丈夫なんで……だけど――」

「――仲間は、だいぶ我慢していましたので……」

「仲間。っ!?」

 

騎士達は気づいた。近くの樹の上からこちらへ矢を向けていた黒服の少女と、円形の奇怪な武器を構え鋭い瞳孔でこちらを睨んでいた少女の存在に。

それは先ほどの騎士達が向けたさっきへの仕返しとでもいうのだろうか、ワタリガラスはとてつもない威圧感を向けていた。一方パルドは……怖くて相手をじっと見ていただけである。

 

「艦t……シエラ、こいつら信用していいのか」

「少なくとも愛子達の知り合いなようだから大丈夫だと思う。だから少し落ち着いてくれ、ワタリガラス」

「……ふん、いいだろう。お前の頼みだ、だが次同じように敵意を向けたのなら……お前たちの運命はそれまでだと思うことだな」

「何?確かに素晴らしい隠密能力と覇気ではあったが、私達が負けるとでも?」

「フッ、お前たち…()()()()()()()()()()?」

 

何?と疑問の表情を見せる騎士、だがすぐに理解した。確かに持っていた剣が軽くなっている。疑問に思った騎士達が自身の剣を見てみると、各騎士達の抜いた剣が折れているのだ。そじて足元に突き刺さっている折れた剣の先と、黒いナイフ。まさかと思いデビットがワタリガラスへ向き直ると、彼女が手で器用に回している黒いナイフがそこにあった。

 

「いつのまにナイフを……」

「あんた達が私の方を振り向いた時にな。これが警告だ」

「……わかった。本来なら王国騎士として我らに刃を向けた事は許されざる事でが、今回はこちらにすべての非があるのも事実。その警告、受け止めておこう」

「そうかい、気を付けることだな」

 

「「「「「「……はぁ」」」」」」

 

少年少女と愛子、そしてパルドが安堵の息を吐く。まったく、トラブルを避けようと行動していたはずなのに向こうからトラブルになろうと突っ込まれては注意した意味がない。今後も接し方には気を付けようと、心に誓った艦長であった。

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