短編集 愚痴   作:金髪幼女ロリ

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リハビリ


心の闇

「なあ、愚痴を黙って聞いてくれないか」

 

 こんな時間に急になんだよと思った。電話の主は佐藤。今は、深夜の0時。こんな、みんなが寝ている時間に急に電話をしてきてこんなことを言い出してきた。

 

 ぶっ飛ばしてやろうかなと思った。

 

 でも俺は、「ああ、いいぜ」と言った。

 

 我ながら、人がいいと思う。でも、友人の頼みだ。黙って聞くだけでいいなら別に構わない。

 

「俺はさ、作家になりたいんだ。誰もが、あっと驚く作家にさ」

 

 知ってるさ、昔からお前を見ていたのだから。

 

「高校時代は口だけだったが、後半からは書くようにした。そして今は半分引退状態だ」

 

「頭の中で話を考えるのが好きで、好きでたまらなくて、それが最高に面白くて。それをみんなに分けてやりたかった」

 

「でも、それだけしかしてこなかった。頭の中では、最高の名場面が浮かんできても、それをみんなに伝える手段がなかった。たくさん頭で文字が浮かんできて、文が浮かんできて、話が浮かんできて、いざ、それを文字に起こそうとしたら、何も浮かばなくなるんだ」

 

「最初はわからなかった。ただ書くのが楽しかったから。今、見返せば痛い文だが、それでもあの時は楽しかった。何度も何度も思考してその時その時の最高の文を考えるのが楽しかった」

 

「でも、俺は詰まったんだ。ある日、言葉が出なくなったんだ。スランプって奴だ。初めての経験だった。訳が分からなかった。なんでこんなに時間があるのに、文が思いつかないんだって。考えに考え、考えた。そして、その時の結論が出た」

 

「経験不足だったんだ。俺は、人生のリソースを考えることしかしてこなかった。だから、見た事あるのに見た事がない。そんな感覚に陥っていったんだ」

 

「戻りたくなった。過去に」

 

「突然人生をやり直したくなった。わからなくなって、やり直したくなった。もう一度経験したくなった。でも、時代が、いや、俺がそうさせたくなかった」

 

「体験したくなったら、タイムマシンなり、坂をかけたりするはずだ。もしくは、学校に行ったり。でも、コロナを言い訳に在宅授業に甘んじた。人と話すことを面倒くさがった。そして、コロナを言い訳にして、話すことを怖がった」

 

「いや、コロナは逃げだな。知ってるか、俺さ高校時代たくさんの人間に嫌われていたんだよな。俺は友達だと思っていたやつも、俺のことが嫌いだった。なんとなくだけど、そうおもってる。それがさ、専門学校時代に、フラッシュバックしたんだろうな」

 

「隣にいるやつとは仲良くなったが、もっと高みを目指すなら色々なやつに話をかけるべきだった。所詮俺は、逃げたんだよ。誰かと繋がることから。誰かと関わって、話して、嫌われる事から。臆病だった。でもそれは作家としては致命的だった。経験値が積めないからな。一人ぼっちで学ぶには限度がある。馴れ合いでも、傷の舐め合いでも、誰かと関わった方が良かったって後悔している。俺は、馬鹿だ。せっかく、変わりたくて言った学校なのに変われなかった。変化をしたかったのにできなかった。嫌われることを恐れて、殻にこもり、壁を作った。無論、高めあえなかった」

 

「馬鹿だよな。怖がっていたら、恐れていたら何も出来ない。それは、たくさんの物語が話してきた事なのに今更刺さるなんて。もうちょっと、素直に、陰口を笑えるようになれたら良かったのに。無視されても、別に構わなないと心から思えたらどれだけ良かったか。高みに登りあえるライバルとバトルに参加して参加して、戦いに行ければ」

 

「何かと言い訳をして、して来なかった。俺は馬鹿だと。ただ何もせず、動画みて、自慰にふけって、飯食って、寝て、暇はあるのにしなかった。愚か者だ。結局お前は、何も出来ない。何もしてないから声が聞こえる。自分が楽な方を選んでいるから醜い馬鹿なんだと。お前がなりたくないモノになるんだと。毎日、毎日書いて書いて書いて書いて書けよ。馬鹿野郎。お前は無能なんだ。下手くそが何もしなかったら下手くそのままなんだ」

 

「……俺はなんにもなれない。雑魚のままだ。一生妄想の中で生き続ける。作家の自分と今の自分を永遠と対比し続ける。そんな愚か者になるんだと。何も浮かばないや。いや、浮かぶのに書けないや。昔は純粋に好きだったのに、今は現実逃避の一種だ。会社の中でトイレをしている時にはたくさんの面白い話を思い浮かべても、いざ携帯を、パソコンを取り出しても何も浮かばないし何も書けないんだ。逃げてるんだよ。愛したキャラ達に俺は縋っているんだ。勉強すると言っても、何もせず動画を見て過ごす日々なんだ。今の自分に必要なものは誰かの本を読むこと、誰かと話すこと、文を書くことなのに。嫉妬している場合じゃないのに、何もしない。俺はただの愚かな愚かな愚者だ」

 

「作家になんて慣れやしないんだ」

 

 

 

「っ……スッキリしたわ。じゃあな。おやすみ」

 

 ぶつりと突然、着信が終わる音がした。

 

 無心に聞いていた。多分これは彼の闇だ。でも、人間闇はあるもの。それを吐き出すのも抱え込むのもまた本人の決めることだ。

 

 沢山抱え込んだものを吐き出したかったのだろう。だから、突飛な行動に出たのだ。

 

「しかし、あんなことを考えていたんだな。あいつは」

 

 今度会ったら、面白かったくらいは言ってやろうと思った俺だった。




寝る

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