創作者とは、創作物を作り続けるからこその創作者だ。
何も生まない奴は、ただの読み手に過ぎない。
「ふざけるな。都合がいい言葉で甘えやがって。自分が気に入らないからって消すなんざ何様の話だ、全く」
SNSで、怒りをぶつける。
「筆をおったやつは死人だ。死人は死人らしく死ね」
ひとり虚しく布団の中で、ブツブツと怒りをスマホに打ち込んでいった。
しかし、全て書き終わる前に、
『ブロックされました』
「ああ、クソが!!!」
逃げやがって、創作者失格だな。
スマホを床になげつけた俺は、心でそう感じながら、拾いに行った。
「あのやろうぜってえ許さねえ。晒してやる」
呪詛をブツブツと呟くさなか布団に戻ろうとした矢先、ふと自分用のPCと『妖精の幻想花』と書かれたノートが見えた。
「……ッチ、くそがッ」
見たくないものを見た。
そう思い、忘れようと寝ようとした。
通知音がスマホからなる。
「あ? コレ……」
炎天下のある日
「よお、久しぶりだな」
「ああ、久しぶり。大学以来か?」
小さな公園で、私服の友人と再開した。
「珍しいな、お前が呼び出しなんて。珍しいじゃないか」
「俺だって、応じてくれるとは思わなかったさ。会社は大丈夫かよ」
「そこに関しては、昼周りって事で」
「……サボりか」
「まあな」
それを聞いた途端、何故か友人は渋い顔をする。
「そういやなんだけどさ、最近なんか書いてるの?」
「? 、あ?」
「ほら、よく大学時代に書いてただろ。すっげー楽しいって」
「ああ、小説か」
確かに大学時代は、やってたな。
「書いてないよ」
「そうか。やっぱりか」
「俺には向いていなかった」
そうつぶやく俺に、
「ああそうかい」
と彼は返した。
「なあ、あれまだ書いてるのか? 俺は、早く続きが読みたくてうずうずしているのだが」
「書いてないって言っただろ。聞いてなかったのか?」
「別腹だと思ったんだよあれは。なんか特別そうにしてたからな」
ギリッっと食いしばる。
「別腹って、別に変わらないさ。他のと、あれと」
「の割には、最初あんなに熱く語ってたけどな。俺はこれがやりたかったんだ! って」
「うるせえよ。それに、仮に書いたとしたって、今はまだ人に見せられる物じゃない。不完全な物で妥協するなんて俺にはできないよ。それは……、俺のプライドが許さない。半端なんて許したくない。認めて貰えるものができるまでは」
それを聞いた途端彼は表情を変えた。
「はっ、そうかよ。バカみたいだな、お前さん」
「は? お前なんだよ、急に」
「呆れただけさ。最近見かけないから、心配になって会ってみたら、この体たらく。あーあってだけさ」
「……お前」
「それに、俺は知ったこっちゃないがな。クリエイターの都合なんざ読み手には関係の無い話だ。それを待っていたのに、自分が気に入らないからって消すなんざ何様の話だよってな」
「……」
「それに、プライドね」
彼は嘲笑う。
「自分は書きもしないくせに、人様に説教垂れるのがか?」
「黙れ」
「消したの何年前だ、てめぇ? それで、ずっと修正中ですつって、うだうだしながら新作も書かず、挙句Twitterでは『筆をおったヤツがしゃしゃり出てくるな。土に埋まって死ね』とか、自分と似たような境遇のやつに暴言吐いてるんだよ?」
「黙れ!」
咄嗟に胸ぐらを掴む。
「何すんだ。離せよ、死体」
「っ、俺は死んでない! 生きてる! 今も書いてる! 書こうとしても、動かないだけだ」
「Twitterではあんな元気じゃないか」
「っ、黙れ! 黙れよ!!! 分からないくせに、死んでるなんか言うなよ!!!」
「っ、死んでるさ。……お前はもう死んでるよ」
悲しい顔で彼はつぶやく。
「何も生まない時点で、クリエイターとして」
「生んでるって言ってるだろ、まだ纏まらないだけだ。誰にだってあるだろ、スランプが。書けなくなる日が」
押し込む。
無理やり押し倒す。
地面に倒れ込んだ彼は、悲しげな声でつぶやく。
「……膿んでるの間違いだろ?」
「っ」
感情的に暴力的に、拳を思いっきり振り下ろす。
「腐って、崩れ落ちてるの気づかず、さまようゾンビの間違いじゃないのか? 今のお前は!」
「違う、クリエイターだ。誰がなんと言おうと」
「違わない! 今のお前はやっぱり、そうだよ。クリエイターになった過去に縋ってる一般人だ」
「黙れ!」
再び振り下ろした拳が止められる。
「所詮、その程度の人間だったんだよ。なあ、なんで書かねぇんだ? 昔のお前は楽しそうだったじゃねーか。好きにやってたじゃねーか」
「好きにしてたさ、でも出来ないんだよ。出来ないんだ! 頑張って書いても見向きもされない。渾身の1作は、否定される!!! 俺は! 短編ではバズったさ。でも、人気ソシャゲの長い二次創作や、長編は見向きもされなかった」
目から、涙が溢れてきた。
ずっと、ずっと抱えて来たものだ。
「需要と供給が異なるからな。読者だって、選ぶ権利がある。読む権利が。そんなの当たり前の事じゃないか」
しかし、そんな俺の言葉は飄々と返された。
「短編だけ書けってことかよ! お前は!」
声を荒らげる。
しかし彼は、
「そうだ」
はっきりと断言した。
「バズりだけを狙いたいんだったらな」
一言付け足して。
「……」
「所詮、その程度だったんだろ。なら気持ちを満たすためにすればいいだろ。最初から!」
「ふざけるなよ、まるで要らないみたいに」
「いらないだろ。独りよがりのクリエイターなんて」
「ふざけんな!!! なんだと思ってる! 簡単じゃないんだぞ! 大変なんだぞ! 苦しいんだぞ! なのに、そんな」
「そんなの、読者は知った事じゃない。どんなに苦労して、どんなに必死こいて作ったとして、そんなものは知らない事だ。そんなのは評価に値しない」
泣きじゃくりながら怒りをぶつける俺に向かって立ち上がった彼は、
「正直、読者からすれば、誰だっていいんだよ」
残酷な真実を告げてきた。
「…………なんだよ、それ」
「気づいてんだろ、お前は」
「何を」
「自分には誰も見向きもされていないって。適当な作品で素晴らしいと持て囃されたが、所詮その時だけで、感想もPVも徐々に減って行ってだんだんわかんなくなったんだろ」
「……」
図星だった。
「あとから出てきたような奴は、今でも人気があるのに、俺は誰も見てくれない。そう思いながら疲弊して言ったんだろ。かけなくなるくらい」
俺たちふたりは、公園のベンチに座った。
お互いタバコを取り出し、吸い始める。
「ああそうだよ。なんなんだよ、クズが」
「クズね。お前も典型的な他責思考だと思うんだがな」
「うるせえよ。そんなこと言いたくて、逢いに来たのかよ」
「いや、初心を思い出せって言いたかっただけさ」
火を消し、持ち歩き用の灰皿にタバコを入れた彼が立ち上がる。
「なんだよそれ」
「最近のお前のTwitterの言動、目に余ったからな。だんだん、昔の自分のようなヤツを否定していく様とかさ」
「……」
「バズりとか需要とか誰が読んでるとか、そんなん忘れていいんじゃねーのか? 1回さ。案外読むやついるかもだぜ」
「居ないさ」
「多くはな。でも、一人や二人はいるはずだぜ」
「……何だよそれ。同情なら」
「誰の為の創作か。忘れるなよ。読者もエゴイストであるし、作者もまたエゴイストなんだから」
「は?」
出口に向かって歩き始めた彼は、
「なあに、それでも無理なら解釈してやるよ。じゃあ、またな」
その言葉を呟きそのまま出ていったのだった。
「誰の為の創作……か」
公園に取り残され、1人つぶやく俺。
立ち上がり、会社に向かう。
「やってみるか。自分の為に」
しょーみ個人ならこんなに乗りでええわ。
(尚できるとは言ってない)