スライムになった私が女の子の体を使ってどうにかなった話   作:あやちん

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朝に?


◆嵐が明けた朝に……

「それにしても昨日はひどい嵐でしたねぇ」

 

 朝の会合を終えたところで、先ほどまでと違い、気の抜けた雰囲気でアンヌが話しかけてきました。例の日記の件で落ち込んだ様子を見せていた彼女でしたが、なんとか気持ちの切り替えができたようです。

 

「そうですね。午後から降り出して、そのまま夜更け過ぎまで降り続いたようですから。遅い夏も近いですし、これからは昨日のような嵐も時折あるでしょう。ふっ、アンヌ――、もしや怖くて眠れなかったのですか?」

 

 私は彼女の言葉を受け、そう返しました。残念なことに()みを抑えることが出来なかったかもしれません。

 

「もう副長! からかわないでください。子供じゃないんですから、嵐くらいで怖がったりなんかしませんー」

 

 アンヌが口をすぼめて抗議してきますが、なんともかわいいものです。

 

「ふふっ、そうですね。我が隊の精強、アンヌに限って雷にびくついて寝具の中で頭を抱えて丸くなっていたなんてこと、あるわけがないですね」

 

「なっ……」

 

 面白いのでもう少し追い打ちをかけたところ、今度は口をぽかんと開け言葉を詰まらせてしまいました。どうやら図星をついてしまったようです。ふむ、これくらいにしておきましょう。ご機嫌を損ねてしまいますからね。

 

 

「アンヌ。何してるんだ、巡回に行くぞ。剣士どもはもう出たし、僕らも行かないと」

 

 レナートが軋むドアを開け、アンヌに声をかけてきました。いいタイミングです。

 しかしまぁ、彼は相変わらずです。クルトたちともまだ打ち解けていないようで、頭が痛い。

 

「はーいレナートさん、待たせちゃいましたか。すぐ行きますから少しだけ待っててください」

 

 そんなレナートの様子を気に留める風でもなく、マイペースな対応を見せるアンヌ。気を緩めすぎるのも問題ですが、彼女の存在はちょうどよい緩衝材です。これからもその人柄に期待したいものです。

 

 結局レナートが呼びに来てから出る準備が整ったのは、皆の報告書を二通ほど読んだ後でした。私たちとアンヌでは、時間の概念が少し違うのかもしれません。それでもあのレナートが愚痴の一つもこぼさないのですからアンヌは大物です。

 

 ようやく巡回に出る二人を見送ろうと、揃って村長宅から出てみれば外は実に良い天気となっていました。昨日の嵐のおかげか空気も澄んでいて非常に気持ちがよい。ここ数日の鬱々(うつうつ)とした気分も晴れようというものです。

 

 しかし、そんな空気はすぐ霧散しました。

 

 

「……ふくちょーー……大変だ~っ……」

 

 

 入り江の方。まだかなり離れているのですが、到着まで我慢できないのか、喉が張り裂けんばかりの勢いでクルトの叫び声がここまで届いてきます。

 

 崖の上の台地に広がっている村落ですが所々に入り江や小規模な河口があり、わずかながらの砂浜、小さな港も作られ、漁をする船や交易船なども出ていたはずです。そんな場所ですらワイバーンらの襲撃を受けていました。

 

 クルトたちにはそういった村の外周りを巡回してもらっていました。

 

 そのはずなのですが朝日に輝く綺麗な海を背景に、急な丘の道をクルトがなぜか一人、息を切らせながら駆け(のぼ)ってきました。

 

「ふ、ふくちょぉ~。はぁ、はぁ……」

 

 普段飄々(ひょうひょう)として、ふざけた姿しか印象に残らない、あのクルトが随分慌てた様子をみせていて、ちょっと意外です。アンヌにレナートも呆然とした様子でクルトを見ています。

 

「一体なにがあったのです? まぁ、とにかく一度落ち着いて。息を整えて水でも飲んで、それからしっかりと報告してください」

 

 冷静になるよう声をかけたのですがあっさり無視され、息も絶え絶えのクルトの口から出た言葉――。

 

 

「そ、そんな悠長なこと言ってられませんって! は、浜、砂浜に、人。それも子供っ、子供が流れ着いてるんでさぁ!」

 

 

 皆、息を飲むしかなかった。

 

 

***

 

 

 クルトの案内であの場にいた全員で入り江の砂浜まで来ました。エリクの姿がなかったのは漂着者保護のためだったようです。

 漂着者はすでに波打ち際から引き揚げられ、今は木陰の下、警備隊で支給しているシートの上に横たえられていました。

 

「……まだ意識はない、です。目立った傷なし。水を飲んだ形跡も、なし、です。後は副長の判断にお任せ、します」

 

 エリクがこの事態に普通すぎて呆れます。荒事や戦闘時とのギャップがひどい。

 

「わかりました。漂着者は以後私の方で対処しましょう。クルトとエリクは職務に戻ってよし」

 

 そう告げたのですが、当の二人に動く気配はありません。エリクも興味自体はあるようです。まぁ、それはそうでしょう。さすがに私も無理に職務に戻れとは言いません。

 

 見つけたのもこの二人ですしね。

 

「うそ……、女の子じゃない……。それもこんなに小さい……」

 

 アンヌが少々ショックを受けているようです。先日の件からようやく落ち着いたと思えば今度はこれです。

 

 一体どのような素性の子供で、どうしてここに漂着することになったのか?

 特徴的な外見を見せるこの子供に、興味と疑問が湧き上がることを抑えるのは容易ではありません。

 

 とはいえ、まず先にやることをやってからの話ですね。

 

「アンヌ。取り急ぎ漂着者の簡易的診断をお願いします」

「はい!」

 

 体の状態把握が最優先。

 エリクの簡単な報告は受けましたが、ここは専門であるアンヌの判断が必要です。

 

 女児のようですが、その子に何もないことをまずは祈りましょう。




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