スライムになった私が女の子の体を使ってどうにかなった話   作:あやちん

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女神とミーア、そしてアンヌ

 女神のいた世界? 空間には何もありませんでした。

 

 映画やアニメ、神話のような天界と呼べるような物質を伴ったようなところでは全くない、まさに虚無でしかないところ。

 

 ある意味、私の謎空間にも似た場所でした。

 それでも光源不明な、謎の明るさがあるだけ謎空間よりはましでしょうか。

 

 明るい灰色に染まった世界。

 

 普通の人がこんなところに一日でも居たらちょっと精神的にやばいかもしれません。

 

 

 目の前に確かに存在している女神の姿も、結局のところ私がアールヴの樹上宮(ツリーヴィラ)や、人の街で見かけた女神像のイメージをもとに作り上げた見せかけの姿であるのだということです。高次的存在……わかりやすく言うなら意識体のような存在……である女神や神にとって、物質世界とそこから無秩序かつ数多(あまた)に生み出される低次的存在である生物は、女神たちにとって興味の対象であり、遥か昔からまさに神の視点で(なが)め、観察され、時には干渉すらしてそのあり(よう)と変化を興味深く見守ることが常なのだという。

 

 カッコつけて話てるけど、それって壮大な箱庭遊びみたいなものじゃないの?

 案外稚拙(ちせつ)だし、よっぽど暇だったのかしらね。

 

 自らを女神だ、神だなんて称して、それってちょっと痛い存在じゃない? なんて私は思います。まぁ、人々がそう呼びだして、それを気に入り受け入れただけなのかもしれませんけれどね。

 

 ちなみにアンヌのいる世界と地球世界のヒト種はとても似ていますがそれも当然で、地球人類を元にして女神があの世界でヒト種を広めていったそうです。

 

 それとは逆に、地球における伝説の幻想生物なんかは、女神世界の生き物が渡ったものらしい。

 

 なにそれ、めちゃくちゃ干渉しまくってるじゃんか。

 

 

 そんな干渉も、宗教戦争が頻発(ひんぱつ)し、それになにより科学技術の発達、通信、ネットを代表とする情報化社会になったことにより、下手な手出しはヤバいとなり、地球における神の干渉は次第になくなっていったのだとか。

 

 ふ~ん。

 

 

 ま、いいか。

 余談がすぎました。

 

 

 

 そんなこんなで女神との対話は最初の一触即発(いっしょくそくはつ)な状況からは抜け出し、いつしか女神様の苦労話を聞かされる羽目になっている私がいました。

 

 

 どうしてこうなった。

 

 

【ヒト種のわがまま、傲慢(ごうまん)さには本当に手を焼いているのです。あなたもそう思うでしょう? 見ていましたよ。閉じ込められたり、(さら)われたりしていたではありませんか】

 

 

 ああ、うん、そうだね。

 でも見てたのなら助けてよね。

 

【我がせっかく魔素溜まりに対する啓示をアールヴたちに出しても、あろうことかそれを迫害し、無駄にしてしまったのですよ? あきれ果て、我はもうヒト種を見放そうかと思ったほどです】

 

 

「けど、私を呼んだじゃない?」

 

 

【地球の神に(なだ)められました。地球の神もヒト種にはほとほと手を焼いているようで、それに比べれば私の世界なんて可愛いものだ……なんて、ため息交じりに言われたものです】

 

 

 ああ、うん。そだね。地球って、どこ行っても戦争ばかりだしね。核兵器と比べたら災禍(さいか)の凶龍も可愛いものかもしれない。

 

 っていうか意識体であるはずの神がため息って……。

 

「そ、そっか。でも、でもさ、だったらどうして私のことずっとほったらかしに……」

 

【ずっと啓示を出そうとしてました~、我は頑張っていました~!】

 

 

 うわ、駄々っ子か? かぶせ気味に主張してきたっ!

 

 

【あなたときたら何もしようとしないし、湖から一向に動き出す様子もないし……、どうしたものかと。本当にやきもきさせられました!】

 

 

 ううっ、怠け者ですみません……。

 

 おかしい、なんで私が責められることに?

 

【ようやく動き出したら出したで訳の分からない、意味不明な進化を始めますし。元素(エレメント)の精霊として生を与えたはずでしたのに、どうしてそのような訳の分からない存在へと変わっていってしまうのです! アールヴたちと共生し、そこから災禍の凶龍を抑え、ヒト種への教導を緩やかに進めて行ってもらうことこそ、望みでしたのに】

 

 

「うえぇ。そ、そんなこと言われましても……ねぇ」

 

 しがない日本の中年おっさんサラリーマンに、そんな高尚なことを求められましても。

 

【はぁ。ですが我としても色々行き届かなかったことがあったことはお詫びいたします。(わが)世界より高次である地球のヒト種の、強固な魂の力を見誤っていたゆえの手違いでした】

 

 驚いたことにお高くとまっていたはずの女神様がなんとも素直に私に謝ってくれた。どこから仕入れた知識なのか、日本風のしっかり腰を折った、頭を深く下げてのお詫びです。

 

 ここまでされれば、さすがの私もこれ以上何かを言おうという気持ちにはなれない。

 ああ、ここでも弱腰中年おっさんサラリーマンの心根が……。

 

「ああもう、わかりましたから頭を上げてください」

 

 私の言葉に女神様がゆっくりと頭を上げます。大理石のような冷たい印象しか持てないクソ女神であったはずなのに、上げられた顔は、微妙に人間味の現れた多少冷たい印象は残っているものの、とても優しい雰囲気をもつ美女に変わっていました。

 

 これは私の心象変化によるものなのかしらん。

 

 意識体である女神。

 その見た目は見るものの心のあり様によって、いかようにも変化するものなのかもしれません。

 

 

「じゃあ私がこのままあの世界に戻っても、もう文句ないよね?」

 

【ううぅ、い、(いた)し方ありません。ですが、本当に無茶しないようお願いします。今のあなたの力……、地球世界で得たあまりにも強大な力は、扱いを誤れば我の世界が崩壊(ほうかい)してしまいます】

 

 女神様がちょっと恨みがましそうな表情を浮かべながら私に言いますが、そんなこと私に言われても。

 

「こうなったそもそもの原因は()()()のせいなんだから。私を地球に戻さなかったら、こうはなってなかったんだからね?」

 

【そ、それはそうかも知れませんが……】

 

「はいはい。もういいでしょ? 私だってちゃんと常識ある日本人のサラリーマンだったんだから。世界壊すような恐ろしい真似はしないです。女神……、え~っと、フェリアナ様でしたっけ? 心配しすぎです」

 

【そ、そうでしょうか……】

 

「そうです! もうきりないから私は行きます。くれぐれもこれからは余計なことしないでくださいね。もうここにはいつだって来れるんですからね? お仕置きしますからね?」

 

 

 

 私はそんな言葉を残し、なんとも余計な手間がかかったものの、再びアンヌのもとを目指し、謎空間転移の旅に戻ったのでした。

 

 

 あっ、別れ際の女神フェリアナの不安そうな表情に、ちょっとSっ気が()いてしまったのはナイショです。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ミーアちゃんが居なくなってから三年の年月が過ぎました。

 

 

 ミーアちゃんが災禍の凶龍のもとへ向かったのち、当初は色々大変でした。

 

 あの当時、スヴェン隊長たちは慌ただしくアールヴの人たちの村を後にし、ヴィーアル樹海から脱出し、領都の安全確保のため対応に追われたようです。女神フェリアナ様が封印していたという災禍の凶龍? が暴れ出した影響で、騒然となった魔獣たちはヴィーアル樹海から逃げ(まど)うようにあふれ出し、どんどん海峡を渡って、ヴィースハウン領はもちろん、それ以外の領、更には他国にすらその暴走の影響が出たようです。

 

 私と冒険者の二人、オルガさん、ドリスさんは村に残ってミーアちゃんの帰りを待つことにしたわけですが、ヴィーアル樹海の奥、凶龍の封印地にほど近かったアールヴ族の村は当然のことながら安全とは言えない状況になるはずでした。

 

 けれど意外なことに、ミーアちゃんが残していってくれた虹色魔石についてスヴェン隊長指示によるヨアン副長の指導がなされていて、村の結界魔道具にそれを用いたことにより絶大な効果が得られたのです。おかげさまで村への魔獣の侵入は最小限となり、被害はほとんどなく、多少出た怪我人も樹海の様子を見るため、巡回していた一部の人たちに限られていました。

 

 ほんとに意外でした。

 

 私も治癒で協力したり、オルガさんたちも冒険者の経験を生かし巡回に協力したりして、アールヴ族の人たちとうまくやっているようでした。

 

 後から聞いた話では、スヴェン隊長たちも砦や領都の結界魔道具の魔石を虹色魔石に置き換えることで相当な効果を得られたようで、各個撃破で討伐して回る守備隊にとって、かなりの助けになったのは間違いないようでした。もちろんそれでも被害は出たわけですが……。

 

 隊長に再会したときは、それはもう、なんとも複雑な表情を見せていたものでした。

 

 虹色魔石を得られていない他国は甚大な被害が出たそうなので、ほんとミーアちゃん様様(さまさま)で、再会がかなった暁にはスヴェン隊長からも何かしら感謝や(ねぎら)いの言葉をかけてやってほしいものです。

 

 う~ん、無理なのかな……。

 

 

 肝心の災禍の凶龍のことだけど、ミーアちゃんが居なくなって数時間後、伝わる地響きがとても激しくなり、更に数時間後、その激しい揺れがぴたりと収まり、その後再び揺れが起こることは無くなりました。

 

 あの当時の私たちはそれにひどく安堵(あんど)し、きっとミーアちゃんがうまくやってくれたものと思い、その帰りを心待ちにしていたのです。

 

 激しい揺れが収まった後も、ヴィーアル樹海の騒然とした様子はしばらく続いていましたが、徐々にそれも収まっていき、海峡を渡る魔獣もその数を減らしていき、平常な状態へと収束していきました。

 

 

 でもミーアちゃんは待っている私たちのもとに帰ってこなかったのです。

 

 他所(よそ)の部隊の心無い人たちが、もう死んだに決まっている。とんだムダ金使いであり、領都に戻れと陰口を言われているのも知っています。

 

 けれど、それでもあきらめきれず、自費を出してでもアールヴの村でオルガさんたちと一緒に帰りを待ち続けていました。その間、お父様からも帰ってくるようにと、魔伝書簡(マナエピスル)を再三にわたって受けていたけれど、距離があることをいいことにそれを(かわ)していました。

 

 ただ、それもクルトとかいうやつがエリクと共にスヴェン隊長の命令書を持参してアールヴの村にやってきたことで終止符を打つことになり、私はとうとうヴィースハウン領へと戻ることになったのでした。

 

 

 ミーアちゃん。

 

 あなたはもう居ないのでしょうか?

 

 災禍の凶龍……と、共倒れになってしまったのでしょうか?

 

 

 そんなことは考えたくもありません。

 でも時は無常に過ぎて行ってしまうのです。

 

 私はミーアちゃんに渡されたお守り(アミュレット)を掲げ持ち、それに魔力を込めながらミーアちゃんのことを思います。その行為を一日も怠ったことはありません。

 

 

 これがミーアちゃんとの唯一の繋がりになると信じ、私は今日もミーアちゃんの帰りを待っています。

 

 

 

 無事な姿を見せてくれることを信じて……。

 

 







次で最終回。

あと一話、お付き合いいただければ幸いです。
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