スライムになった私が女の子の体を使ってどうにかなった話   作:あやちん

16 / 102
シリアスに見せかけた、なにか……


ミーアの表情

 魔法。

 魔法だよ、魔法。

 

 空っぽだった桶にどんどん水が湧いてきて、見る間に桶いっぱいになったよ!

 水道の蛇口みたく上から注ぎ込むんじゃなく、湧き水、まさに底から湧いてくる感じでっ!

 

 かっこいい!

 しゅごい!

 

 ……っと、いけない。興奮しすぎ。おお、落ち着け俺。

 

 アンヌは息をするかのように、ごく普通にそれを行ってた。

 考えて見ればワイバーンみたいなファンタジー生物わんさかいるような世界。何より()()()()()()自体ファンタジーそのもの! だったら魔法だってあってもおかしくもなんともない。

 

 これはもしや、ワンチャン俺も使える可能性あるんじゃないのか~?

 いやある。あるに違いない!

 

 そう思うと興奮してなかなか眠くならない。

 思考もなんだかいつもより荒々しい。

 

 マジ落ち着こう。落ち着きましょう……。

 

ᛞᛟᚢᛋᛁᛏᚨᚾᛟ(どうしたの)? ᚾᛖᛗᚢᚱᛖᚾᚨᛁ(ねむれない)ᚾᛟ()?」

 

 そんな調子で寝付けずベッドでモソモソしてたせいか、寝ていたはずのアンヌがこちらを向き、何か話しかけながら、いたわるように撫でてくれた。

 

 ああ、起こしてしまったなぁ。

 

 こんな得体の知れない子供(がき)だというのにこの()はとても優しい。長きにわたったエコな生活ですさんだ? 心も癒されそうなくらいに優しいんです。

 

 アンヌに気を使わせてもあれなので、なんとかがんばって寝るとしよう。そうしよう!

 

 おやすみなさい……。

 

 

***

 

 ミーアちゃんが魔法に興味を示したようでした。

 

 桶に水を満たすのに使った、ごく普通の基礎四元魔法です。

 基礎四元魔法の中でも、人が生きる上で欠かせない水や火は生活魔法と呼ばれ、特に親しまれている魔法です。必要とする魔力もわずかで属性の影響も無視できるレベルのため、人並みの魔力さえあれば使えるお手軽魔法です。

 ちなみに風は扱うに癖が強く、土は必要魔力が若干多めとなり、大多数を占める庶民の少ない魔力基準だと、生活魔法の仲間入りには一歩及ばないといったところです。職人の方に使う人が多いみたい。

 総じてちょっとした道具扱いの魔法であり、出来ることだって限定的です。とはいえ、どんなものでも使い方次第では大事故にも繋がるんだから注意が必要なのは当たり前ですね。

 

 そんな生活魔法すら知らないミーアちゃん。

 

 生活魔法、基礎四元魔法なんて普通に生活してたら必ず目にする魔法だよ。暖炉や(かまど)への火入れ、毎日の炊事。子供なら家の手伝いで水がめに水を張らされるなんて、よく聞く話だ。

 

 ここみたいな辺境の村なんてそれこそ、生活魔法無しの暮らしなんて考えられない。

 

 ミーアちゃんの魔器官は非活性(パッシブ)。だからまだ魔法は使えない。本来なら活性化(アクティベート)は親の仕事。でもミーアちゃんにその親はいない。この村では代わりにそれをしてくれる大人なんて居なかったに違いありません!

 

 すごい(いきどお)りを覚えずにはいられないけど、ある意味罰以上の犠牲を払ってしまったこの村。それでも私の胸のもやもやは晴れないよ。

 

 たまに変な、意味のわからない言葉をつぶやくだけで、まともに会話すらできない。

 笑わず、泣かず、表情が全く変わることがないミーアちゃん。

 悲しいこといっぱいあったはずなのに、涙すらこぼすこともありません。

 

 わかってるのかな?

 まだ一度だって笑顔をみせてくれてないことに。

 

 

***

 

 起きたらアンヌがいつも以上に優しい。それに異様に張り切って見えます。

 何か機嫌がよくなることでもあったのかな?

 

 小さなテーブルセットに座らされ、寝起きでぽやっとしていたら(いやスライム脳だって微睡(まどろみ)とかあるから!)アンヌがどこからか何か持ってきてテーブルの上にカタリと置いた。布のカバーが被ってて何かはわからない。何これと問うようにアンヌを見てもにこりと笑うだけです。

 

 うむうむ、サプライズ的な何かかな?

 

 アンヌが私の横に立ち、ちょっと勿体つけながらも大げさな所作でカバーをぱさりと外しました。

 

 

 目の前に女の子がいました。

 

 綺麗な紫色した大きな目を持つ女の子。

 淡い紫の髪をツインテールにしたまだ幼い、とても可愛らしい女の子。

 その女の子が感情の見えない面持ちでこちらを見返してくる。目をぱちくりしたら、向こうも同じにぱちくりした。

 

 つうか私じゃん!

 

「か、鏡っ!」

 

 つい日本語で叫んでしまった。そう、目の前に置かれたのは鏡だった。

 ちょと大きい雑誌サイズで、簡単な足がついててテーブルの上で自立するようになってる。軽い装飾の施された木枠は色あせや虫食いがあり、ガラス面にも所々腐食が見られる。年季が入ったそれは、でも(まご)うことなき鏡だ!

 

 鏡に向かい思わず手を伸ばした。小さな指で鏡に映った自分をなぞる。自分の顔をここまではっきりと見るのは初めて。

 スライム体を延ばして見る光景は人の目で見るのものとは違うし、水面に映る姿はやっぱり鏡には数倍劣るから。

 

ᛟᛞᛟᚱᛟᛁᛏᚨ(驚いた)? ᚲᚨᚷᚨᛗᛁᚹᛟ(鏡を)ᛗᛁᛏᚨᚲᛟᛏᛟ(見たこと)ᚨᚱᚢ(ある)?」

 

 アンヌが何か言ってるけど鏡に映る自分に夢中な私。しかしなんだろ。私少し無表情すぎない? なんだこの不愛想な娘は。せっかくの可愛らしいお顔が台無しじゃん。

 

 そんなことを思ってたらアンヌが腰を落とし、私の顔の横に自分の顔を寄せてきた! ほっぺが触りそうな、というかもう思いっきり触れ合ってますん。

 

 な、なにするの? アンヌさん?

 鏡を前に、すぐ横で百面相を始めちゃいました、この人!

 

 笑った顔、怒った顔、困った顔、それから……泣きそうな顔……。

 並んで映る私の顔は変わらず無表情。なんとも対照的な絵面(えずら)……。

 

 なんだろ、なんなんです? 私ってこんなに表情変わらないの?

 少なからず面白いと思っている自分がいるのにこの表情。

 つい自分で自分の(ほほ)を摘まんでみた。あっかんべーとかもしてみた。

 

 でもそれだけ。やめると元の無表情。

 そんなの当たり前だけど……、何か違和感。

 

 アンヌが百面相をやめ、そんな私をじっと見つめてました。

 

 なぜか目が潤んでるんですけど!

 百面相してた手が私の(ほほ)に伸びてきて、それから……、ああ、ちょ、ちょっと待って、私の顔で遊ばないで~!

 

 あのぉ、泣きながら私の顔で百面相をやり出したんですけど!

 

 

 

 でもおかげで分かりました。理解しました。

 アンヌが何を伝えたかったのかも……。

 

 うん、そりゃアンヌも心配だったろうね。ずっと無表情で泣きも笑いもしない幼女。

 ひくわぁ、ひいちゃうわー!

 

 

 私、スライム娘。

 顔の表情動かすこと忘れてましたーーーーー!

 

 てへぺろー!




おい~~(笑)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。