スライムになった私が女の子の体を使ってどうにかなった話   作:あやちん

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い、いくぞ~!
いくからな!


旅立ちました?

 あっという間に(おか)についた。

 

 私のがぼがぼタイムを返せ!

 

 スライム生初上陸。しかも自分の足で!

 

 いや、正確には自分の足では……。

 いや、これはもう言うまい。言わないこととしよう、そうしよう。

 

 陸から今までいた湖を見てみる。自分の目で! ()()のね!

 

 広いなおい。だだっぴろでドン引きです。向こう岸全く見えないし。ほんとに湖なのこれ? ま、まぁいいですけど。

 

 改めて今度は周囲を見渡す。雪はもうほとんどない。延々と続く広々とした湖岸。遠目にはうっそうとした樹海っぽいものがこれも延々と続いて見える。目に入る範囲には人のいる気配なんて微塵もありゃしない。

 足元にはさざ波が押しては引きを繰り返し、細かい石や貝殻、木くずなんかが入り混じり、波と共に出入りする。吹き付けてくる風に、まだ肌寒い気温が感じとれ、思わず露出したほそっこい腕をもう一方の手でなでる。

 

「おおぉ……」

 

 感嘆からでたか細いながらも可愛らしい声。自分が出した声に思わずびくっとする。ずっとおじさん……、いや、スライムだったので、自分の声にまじびっくりした。

 

「いや、女の子ってわかってはいたけど。こうやって自分自身として動き出してみればちょっと、いや、かなり戸惑うね……」

 

 そんでもって、こうしてしゃべっておいてなんですけれど。これって日本語? いや日本語しか知らないし日本語だよねぇ。女の子の記憶も全くないし。どれだけ経とうが、覚えてるものなんだなぁ、うん……。

 

 なんかこう、自分の声で言葉を発してみてしみじみ思った次第です。まぁ心の中で使ってたのはきっと日本語だったんだろうし、忘れるはずもないかもね。

 

「俺、転生したんだよな? 間違いなく。ここってやっぱ別世界、異世界……とかいうものなのかな?」

 

 空を見上げ、まぶしさに手をかざしつつ、二つある大小の太陽っぽいものを見ながらつぶやいた。私にしてはめずらしく、俺とか言ってるし。それは自信のなさの表れなのかな。誰もいないのに周囲に向けて強ぶったりして。

 

 なんか自己分析してしまった。

 少なくとも湖中での私は弱い存在ではなかった。スライムっぽい何かですけどね。

 

 けど、(おか)の上ではどうでしょう?

 

 水の中で漂いながらどこまでも広がっていけるような自由はないはず。危険を不安視するならずっと湖で生活する方がよっぽどいい。安全がほぼ保障されているから。

 それでも。それでもやっぱ私は……、俺は! この先を見てみたい。

 

 このスライム生。今までだってさんざん生きた。きっと日本人、人間だった人生なんか軽く超えるくらいは生きた。このまま湖にいるだけの生き方にはもう飽き飽きだ!

 

「よし、行こう!」

 

 俺はふんすと鼻息あらく(いや息はしてな……もういいか)、決意をし。

 素足の小さい足をふみだし、まだ見ぬ地上の風景(らくえん)を思い描き、そこに向けての第一歩を踏みしめた。

 

 

 ああ、靴とかいるかな?

 服だってもうボロボロのボロ。

 やらなきゃいけないこと多いな~。

 

 ま、ぼちぼち、死なないようにのんびり行こうか~。

 

 

 

 

 

 

 

 そう思っていた時もほんのちょっとだけありました。

 

 

 

 

 

 

 ここは深い森の中。

 

 まさに樹海とよぶべき樹々たちの集う大海。

 

 決意を小さな胸に秘め、湖岸から足を踏み出して早三日がすぎ。

 今の私はもう素っ裸。野生のスライム娘です。

 

 そう、それは森に入ってすぐ。樹海の洗礼は待ってましたとばかり、すぐさま訪れました。

 

 その時はまだウキウキルンルン気分で森林浴とばかりに浮かれて歩いてた私。

 

 いきなり足元からなにかがパックン。

 目の前は真っ暗。

 

 全身はぬるぬるした何かに覆われてる感じです。

 

「ちょ、なんなのこれ!」

 

 声を出したもののそれが何かの足しになるなんてことはなく。

 

「うあっ」

 

 周囲からの締め付けがひどい。ぬるぬるアンド締め付け。

 これって明らかに捕食。捕食されてるよね!

 

 ないわー! 幸先悪すぎだわー!

 

 普通に考えれば危機的状況だけど、腐ってもスライム娘。これくらいでやられはしないんですけどね。

 

 とりあえず締め付けてくるぬるぬる壁を、ちょ~っとだけ強めに押してみる。

 

「よっ」

 

 かけ声とともに、バフンと一発くぐもった炸裂音がしたかと思うと、私の腕が脇まで一気にめり込んだ。

 

 ああ、壁の向こうはひんやりしてるね。

 

 壁が痙攣したかのように脈動し、締め付けを増してきたのでもう一度今度は「おらっ」とばかりに強い突きをお見舞いしてあげた。さっきより大きな炸裂音で耳が痛いくらい。そう感じられるスライム娘の出来は完璧である!

 

「お~、外は明るい」

 

 すっかり見通しがよくなった。

 

 爆裂した私を封じ込めたものは地球でいうラフレシアっぽい花? 植物? で、私は馬鹿正直にそいつの上に乗っかり、四方に広げられていた花びら?をばか~んと閉じられ、封じ込められ食べられかけたということみたい。食虫植物? いや、私、虫じゃないし。怖すぎだわ! ま、今はもうすっかりしおしおのふにゃふにゃになり果てた。

 

 しかし、馬鹿か私は。

 油断しすぎ! うかれすぎ。 猛省しなければいけない。

 

 外に出た私はラフレシアもどきの出した消化液でどろどろ。スライム浸透効果で私自身はまったくの無傷とはいえ……、着ていたボロキレ服はもうきれいに溶けて無くなってしまった。

 ほんとボロッぼろだったとはいえ、見えてはいけないところはきっちり隠してくれてたんだけどなぁ。

 

 

 と、そんなことがあり、素っ裸で樹海の中を歩く野生のスライム娘が誕生したわけである。

 

 はぁ、どうしようかな、これから。

 先が思いやられるわ~。

 

 とか思いながらも引き返す気はこれっぽちもない私なのであった。

 




書き溜めなんかない!
書くから待っててください、お願い!

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