スライムになった私が女の子の体を使ってどうにかなった話 作:あやちん
冒険者ギルドにその通達が届いたのはオルガから
「マスター、ケーヴィック砦の領境警備隊隊長、スヴェン=ソールバルグ様から
何、ソールバルグだと? また面倒な方から……。
「ありがとう、もらおう」
スヴェン=ソールバルグ。
領主であるヴィースハウン公セヴェリンの母君の生家であるソールバルグ侯爵家の第三子であり、ヴィースハウン公はスヴェン様の従兄にあたる。
ここレイナールの町もソールバルグ侯爵家配下のレイナール子爵が治めている土地だ。
書簡を読んでみれば、面倒ごとしか書いてないのかと言うほど厄介な内容に終始した。
ヴィーアル樹海より、ワイバーンが襲来しソルヴェ村が壊滅したという。その村の調査中、唯一の生き残りかもしれない、ミーアと言う名の幼子を保護したとある。
そんな滞在調査の
――なんだと、これは本当なのか? 十三頭ものワイバーンの襲撃を受けたというのか。良く生きて戻れたな。いや、ともかく続きだ。
そこで保護した幼子ミーアが、魔力暴走で凄まじい火柱をあげる魔法を発現し、巻き込まれたワイバーン二頭が消滅、そのおかげもあり撃退に成功したと……。
――幼子が火柱をあげる魔法だと? ワイバーン二頭が消滅?
意味が分からん……。
不明な点が多く、危険な魔法を放った幼子ミーアをケーヴィック砦に隔離したのはいいが、逃げ出され、以降行方不明。
現在は行方不明となった幼子を保護すべく捜索にあたってはいるが、多くの人手を割くようなことも出来ず苦慮しているか。
それを踏まえ、ミーアの捜索に協力して欲しい……とある――。
うーむ。
しかし幼子を隔離とは、また思い切ったことを……。
よほどのことがなければそうはすまい。
しかしこの件、ハウゲン子爵家は見つけたものに謝礼を出すと前向き、ダール伯クリスティアンはミーアの保護には協力するとの回答を得ている……か。
なんだこのヴィースハウン貴族までからめた捜索網は。
いったい、その幼子に何があるというのだ? いや、魔法が関わっていることはわかるが……。
恐ろしく関わりたくないぞ!
とは言っても協力しないわけにもいかない――。
などと頭を悩ませていたところに、今度はオルガからの
期間を空けオルガからは二通届いたが、これの内容はさすがの俺も驚いた。しかもここレイナールの町に
運が良いのか悪いのか。
とりあえずその判断はミーアという幼子を見てからの話だ。
問題が大きくならないことを祈るしかあるまい。
***
「マスター。オルガさんが無事戻ってきました。マスターに会いたいとのことでしたので、小会議室にお通ししてあります。対応お願いしてもよろしいですか?」
来たか。
しかも幼子をギルドの見習いにするなどというという面倒事まで俺に振ってくるとは。
「わかった。オルガからも
俺はエリーネを伴い、オルガらが待つ小会議室へと向かう。
部屋に入り、オルガと今までの一連の出来事について改めて情報交換と認識のすり合わせを行う。これに関しては事前に報告を受けていたこともあり、
次が問題の幼子だ。
得られた情報では幼子は十歳となっていたが、実際目の前にしてみればもっと幼く見える。しかも女児だ! どちらとも書いてなかったが、まさか女児とは。こんな愛らしい幼子が報告にあったようなことを仕出かしたとはとても思えんな。
とは言え、何事も先入観を持って当たるのは判断ミスにも繋がる。ここは通常の対応を心掛けねばな。
「ふむ。ミーアだったな? 話はオルガから聞いたが改めていくつか確認したい。それに魔力紋の登録と属性の把握も必要だ。断っておくが拒否は出来ない。これは冒険者登録時の義務だ。誤魔化しは許されない」
こう語りかければ、表情からは読み取れないものの緊張していることがわかり、まるで俺が幼子をいじめているようで、やるせなさを感じる。
当たり障りのないところで名前、年齢、出生地などの確認をエリーネに頼む。俺がやるより女性の方が警戒心もゆるむだろう。
「ミーア、十歳。そる
この発言に場の空気が重くなる。十歳より幼く見えるし、言葉も年齢の割にたどたどしい。苦労したのだろうし不憫にも思うが、孤児などさほど珍しいものでもない。
とりあえずスヴェン様から聞いている情報とも一致する。本人で間違いなかろう。
「次は魔力紋の登録だ。魔器官から出る魔力には一定のパターンがあり、魔力紋はそれを登録したものだ。人によりパターンは必ず異なるため、確実な個人判別が可能となる。それを用いた最たるものが冒険者登録プレートであり、他にも様々な用途に活用される。見習いとは言え登録は不可避だ」
エリーネが魔力紋登録用の特殊なプレートをミーアに手渡す。
「ミーアさん、そのプレートを手で握りしめて魔力を通して欲しいのだけど、出来る?」
「できる!」
エリーネの問いかけに元気に答え、無邪気な様子で魔力を通しているミーア。
俺に対する態度と随分違うじゃないか。
「うーん……」
「どうしたのだ?」
ミーアからプレートを受け取り、魔導ボードで確認作業をしていたエリーネが首をかしげているので問いかける。
「魔力紋の転写は出来ているのですが、わずかですがノイズが混じってしまいまして……」
「ふむ、運用上問題が生じるわけではないのだな?」
「はい、それは大丈夫です。ちょっと気になっただけで運用上の支障はないと思います」
「そうか。まぁ使ってみて不具合が出るようなら作り直せばよかろう、安いものではないからな。では続けて属性把握だが、合わせて魔器官の発達深度についても確認したい」
この言葉にミーアがまた緊張したことが窺える。何やら不都合でもあるのか? だがやらずに済ますことは出来ない。
「エリーネ。やってくれ」
「はい。ではミーアさん、ここに手を乗せて先ほどのように魔力を通してください」
エリーネが用意した魔道具は、魔力の各属性の把握が出来るのはもちろん、魔器官の発達
外観は卓上鏡を一回り程大きくした程度のもので、土台、支柱、それに魔石を配置するための二重になった円状の細い枠組みで構成されていて、枠の形に沿うように各属性を示す魔石が等配置されている。それらの枠とは別に上に向かい支柱から枝枠が螺旋状に伸びていて、そこには魔器官深度測定用の魔石群が配されている。支柱を支える土台からは手前に向かって枝枠が伸び、そこに魔力を通すための魔石が据えられている……といった構造である。複雑極まりなく、高価なことも
ミーアが恐る恐るその手を測定魔石に伸ばす。
「なーにビビッてやがる、観念してとっとと測っちまいな!」
見かねたオルガが活を入れる。
全く、若い娘がどうしてこんな風に育ってしまったのか……。やはり周りの環境が……、いや、今考えることではない。
「ん~、まぁ、いっか」
ミーアがそんなことを口にしながら魔石に触れ、魔力を通す。
それは劇的で、あり得ない、奇跡のような光景だった。
魔道具に填め込まれた魔石、その総数二十一個。
属性確認のための魔石が十一個。魔器官深度測定用には十個。
それらすべての魔石が残らず、その役目を全うさせるかの
これが示すことは誰が見てもわかることだ。
だが。
誰が見たとしても、それを素直に信じることが出来るものなど居まい。
そう断言できる。
この俺ですら……、この魔道具を用意した冒険者ギルド、ギルドマスターであるこの俺ですらそうなのだから。
それほどまでにこの結果は恐るべきものだった。