スライムになった私が女の子の体を使ってどうにかなった話 作:あやちん
私をしっかり両足で掴んだワイバーンは大きな翼をバッサバサと羽ばたかせ、ある一点目指して飛んでいます。
はい、言うまでもなく巣に向かってますね!
私のこと完全にエサ扱いしてますよ、この空飛ぶトカゲちゃんは!
でも私は素直に食べられてしまうような、やわなスライム娘じゃないのです。まぁスライムはやわやわですけどね。
小さなミーアの体は腕ごとワイバーンの足に拘束されてて身じろぎするのにも一苦労です。でもそれが何だというのでしょう?
スライム娘たる私にそんな拘束は無意味!
ここは豪快に全身からスライム大放出です!
私の体から放射状に放出されたスライム体は、まるで水面に水滴が落ちた時に出来る王冠のようにするりと滑らかに広がりつつ、急激に上へと伸び上がっていきます。
その範囲は優にワイバーンの広げた翼までも囲える大きさになりますが、さすが野生、気付いたワイバーンはすかさず急上昇に転じます。
でもざ~んねん、やっぱオツムもトカゲ並みです。
私掴んだままじゃ意味ないんだよ~!
スライム体から成る王冠がワイバーンを越える高さになったところで内側に向けその壁をなだれ込ませます。
スライム体に全身覆われたワイバーンは慌てふためき羽ばたきを強め、スライム体から逃れようとしますがこうなってはもうジ・エンドなのですよん。
でも不思議ですね?
拘束してスライム体もどんどん体積を増していて、羽ばたきも満足に出来なくなってるのに……、なぜか落ちないのです。
そもそもこんな大きな体で、しかも私も掴んだまま、大した羽ばたきもしないで空を飛んでいられるなんて、滑空をしていたとしてもありえないです。
やはり空を飛ぶための補助に魔力を使っているに違いありません!
なんて余裕ぶっこいて考察してたらワイバーンから魔力の高まりを感じ……、
ヤバいと思った時にはもう遅かったです。
半ば強引にワイバーンはファイアーブレスを放ちやがりました。
満足に口も開けない状態にしてあげていたというのに、それでも放ってくれたのです。
敵ながらあっぱれ!
「くぅ~」
口を犠牲にしながらも放ったファイアーブレスのせいでスライム体が少し蒸発してしまいました。さすがにワイバーンのブレスには耐えきれませんでしたね。
私の一部よ、安らかに眠って。
ワイバーンはそのブレスを最後に急激にその動きを弱め、とうとう落下し始めました。
私は気にせず、息も絶え絶えになってきたワイバーンへスライム体を浸透させていきます。もちろん狙いは魔器官さんです。お肉も吸収しつつしっかり頂きたいと思います。
こんなことを普通に当然のごとく行っている私は、やっぱり人との暮らしなんて無理だったのかもしれません。
っと、烈しい衝撃が来ました。
海に落ちたようです。
盛大に水しぶきが上がり、それが収まったころには大きな姿はすでにありません。
私に完全に包まれ色々吸収されてしまったワイバーンは既にこと切れていて、深い海の底へとどんどん沈んでいきます。この先はお魚のエサとなる余生を送ることでしょう。
ああ、死んでるので余生じゃないね。すまない。
魔器官の吸収を終え、沈みゆくワイバーンから離脱した私は、スライム体を海面で
空を見上げればワイバーン達が三頭、小さく旋回しながら耳が痛くなるくらいの大きな鳴き声をあげ、こちらを威嚇してきます。
その鳴き声が悲しそうに聞こえたのは気のせいではないでしょう。
でも世の中は弱肉強食。あなたたちもさんざんやってきたことなのです。
私に慈悲などないのです!
などとちょっとだけ感傷にひたっていたら、ワイバーン達三頭が一斉にファイアーブレスを放ちやがりました。
息ぴったりかいっ!
まじか~。
でもこっちだって負けないっ、迎え撃って相殺、いや、逆襲してあげよう!
「
迫りくる三条のファイアーブレスに向けすかさず放ったとはいえ、後手に回ってしまうのはどうしようもなく、互いの炎がぶつかり合った時にはすでに眼前近くまで到達していて、それは化学反応を起こしたかのように一瞬にして超高温の火球と化しました。
火球の周囲はとんでもない温度にまで上昇し、とっさに身に
魔法で防御する余裕など
私はそんな中でも放った魔法への魔力供給を続けきりました!
炎熱の奔流はファイアーブレスとぶつかり合って尚、勢いはとどまらず、上空のワイバーンまで一気に到達し、そのまま三頭を飲み込みます。
それに構わず更に上へと伸びて行く白熱の炎を見て、ようやく私は魔力の供給をやめました。
熱さの余韻が未だ残る中、三頭のワイバーンの姿は空のどこにもありません。
超高温の炎に巻かれれば、さしものワイバーンといえども跡形もなく……、この世から消え去ってしまうこととなったのでした。
残すは巣に籠ってたワイバーン二頭のみですが……、
「あ~、居ないねぇ」
視線を巣の方に送ってみれば、そこは既にもぬけの殻でした。戦ってる間に逃げちゃったみたいです。
要領いいです。
というかいつの間にか随分沖の方に流されていて、岸壁の巣を確認するのも大変でした。
身体強化していなければ見えなかったでしょう。
「ま、仕方ないけど……」
ここでようやく全身のスライム体に満たしていた魔力をおさめます。淡い輝きを帯び、透けたように見えていた青白い肌もいつもの様子に戻っていきました。
驚いたことに肌に火傷を負った跡もなく、不健康そうな見目ではあるものの綺麗なままで健在でした。
痛みを痛いという記号でしか認識していない私は、身体のダメージに無頓着でしたので今ようやく気付きました。
「火傷……、すぐ治っちゃったんでしょうかね? 髪の毛も焦げてチリチリになっててもおかしくないんですけど、無事のようですし……」
腰まで伸びた薄紫色の髪を首筋から前にたぐり寄せ、確認してみればいつも通りのサラサラ髪が手のひらから零れ落ちて行きます。
アンヌやドリスがそばに居ない今、私の髪の手入れは誰もしてくれないので、
自分で手入れするのも面倒くさいし、普段はローブのフードを被ってるから問題ないのです。ツインテールはバランスがむずいし、ポニーテールも髪質のせいか、私のまとめ方が悪いのか、すぐほどけてばらけちゃうのですよ。最初はがんばったんですよ? 私だって。
どうでもいいですね。
とりあえずまた海で流される羽目になりました。
前と違ってスライム体謹製
水の中でも問題ないとはいえ、前もこうしていればよかったですね。
あの頃の私はまだ若くて無知でしたから仕方ないです。
よく泳いで渡る気になったものです、バカでしたね。
ほんの二ケ月くらい前? の出来事なのにはるか昔のように感じます。
どんどん岸壁から離れて行きます。
もう今さら戻るのも
そうですねぇ……、荷馬車で盗み聞いた話のこともありますし。
しばらく樹海暮らし、いえ、いっそ帰郷するのもいいかもしれません。
なんのかの言ってもあの湖でぷかぷかふわふわしてた頃が一番の平和な時代でしたから……。
どうせすぐ飽きちゃうでしょうけど、それまで里帰りすることにいたしましょう!
これも運命……