スライムになった私が女の子の体を使ってどうにかなった話 作:あやちん
樹海の旅も七日も経てば飽きてきます。
飛行速度はようやく普通に走る程度の速さにまで向上しました。百メートル十二、三秒くらいで行けると思います、たぶん。
オリンピックにはまだ遠いです。
ないですけれど。
飛ぶのはズルいでしょうか?
でも所詮走る程度の速度ではそうそう距離は稼げません。まぁそれでも前回の色々ありながらの三ヶ月に比べれば、まっすぐ湖に向かうだけの今回は、一ヶ月と言わず、数週間もかけず到着できることでしょう。
樹海で時々魔獣を狩りながら進めていると、久しく感じることのなかった力が向上する感覚に襲われ、何とも言えない高揚感に満たされます。
やっぱここに居るとはかどりますね!
人の世界はダルくて
「
空の上で大声出して叫ぶのは格別です。
何処までも広く雄大な世界を見ていると脈絡なく声を張り上げてみたくなります。
舌ったらずで可愛らしいばかりの女の子の声ではちょっとお間抜けな感じが先に立ちますけれど。
でもスライム体ではこうはいきません。
やっぱ人も捨てがたい……のです。
***
フィーラヴの村から半強制的に送り出された僕。
まさか父様や母様まであちら側になるとは思わなかった、うらぎりもの~!
村を出て早五日。
僕はときおり文句を言いながらも、主様に出会うべく歩みを進めている。もちろん、樹海に潜む魔獣との交戦は極力避けながらだよ。
まだ汎人族となんとか共存していた時代、アールヴ族は『森の民』とも言われていたらしい。
そりゃあ森の中で暮らしてるし、樹上に家を作って住んでるんだからそう言われていたのも納得なんだけど……、だからといって樹海の中をスイスイ進めるかと言えば、そんなこと
「あ~もう、ほんと、どうして僕がこんな苦労しなきゃいけないわけ~?」
身体能力を強化するのは当然として、風魔法を活用し樹の枝から枝へと飛び移ったり、土魔法で自分が通りやすいように最小限の地形操作を行いながらも、魔力消費は抑え、可能な限り効率よく進んで行ったとしても!
どこまでも広いこの樹海。代わり映えのしない景色。
ぜんっぜん、進んでる気がしないんだけど!
じじ様に与えられた、主のかけらを封入した魔石のペンダントを頼りに、黙々と進んでいたけどもう限界。
疲れた!
もう帰りたい。
何度目かの愚痴を一人寂しく垂れてた時……、その声が聞こえてきた。
それは主のかけらのペンダントが示してる方向で、僕が目指している方向でもある。
すなわち、主様がおられるであろう方向からだ!
「……あいあむふりー……」
まだちょっと遠いけど、それでもしっかり聞こえた。しかもなぜかずいぶん高いところから。
小さな女の子みたいな、幼さの残る声。
おぼつかない発音の高い声はとても可愛らしく感じるけど、言ってる意味はわからないな。
じじ様ならわかるのかな?
っと、そんなことより移動してしまう前に急いでそこへ行ってみなきゃ!
僕は警戒されないよう、極力静かに、でも
主のかけらからの反応がとてもわかりやすく、歩みを進めるにつれそれは更に強いものへと変わってきた。
空の色が夕暮れの茜色へと徐々に変わりゆく中、樹海の樹々が途切れたところで、ふと僕の視界に太陽とは違う淡く輝く何かが飛び込んできた。
それは向こう側が透けて見えそうなくらい透き通った四枚の美しい羽。
小刻みな、でもしなやかな羽の動きに合わせ表面を彩る色彩は変化し、虹を思わせる幻想的な美しさを見せてくれる。
僕は足を止め棒立ちになり、ただただそれに見入ってしまう。
けれどそれ以上に僕の視線を捕らえて離さないものがある。
ピンと伸ばされた透明感のある四枚の羽。光の加減で虹色の色どりを見せる羽の持ち主。それは驚くことに小さな女の子の姿をしていた。
飾り気のない半袖のシャツに、太ももが出るくらいの短いズボン。きっちりショートブーツまで履いているその姿は一見どこにでも居そうな子供の格好なんだけど……、露出した青白い肌は四枚の羽と同じように淡い輝きを帯び、透明感あふれる見た目をしてるわけで、ほんと人とは思えない。
淡い紫色をした腰まで届きそうな長い髪。
不思議と風に流されることもなく背中の羽の間を通ってさらりと落ち、漂うように髪先が広がっている。
幼さが残る可愛らしい顔は、紫水晶のような色合いを持つくりっとした大きな目がとても印象的で、小さな口がぽかんと開かれているのが、あどけなさを増し余計可愛く見える。
で、その印象的な目が確実に僕の方を見てる!
「うわぁ、あっさり気付かれちゃった……」
っていうか特に警戒されてないのであれば別に隠れる必要もないよね。
逆に切っ掛けを掴めて助かったくらいで、姿を隠されるよりは都合いいわけで。
目の前、空に浮かんでいるおよそ人とは思えない姿をしている女の子。
主のかけらのペンダントは強烈な指向性を示しているけど、すでにそれに頼る必要はなくなった。
主フィーラヴ。
まさか人の姿をしているだなんて。服まで普通に着ちゃってるしさ……。
しかも幼い女の子の姿。
どう贔屓目に見たって七、八歳程度だよね。
ん、ちょっと待って。
僕がナの世代で、母様たちがムの世代……。
じじ様でイの世代で、今三百ニ十歳でしょ。
主フィーラヴはじじ様の三つ前のフの世代がフィーラヴ湖のほとりにたどり着いた時、すでにそこに在られたって話だよね。と言うことはだよ……、
「す、少なくとも五百歳以上! うそでしょ~?」
こんな小さな見目の子がじじ様よりはるか年上!
主様だとすれば、そりゃ当然そうなんだろうけど……、見た目、幼すぎでしょ!
僕は改めて空に浮かぶ女の子、もし間違いないのであれば湖の精霊様である主フィーラヴを見る。
こちらを怖がる風でもなく不思議そうに見てきて、こてんと首をかしげてる。
か、かわいい。
……こほん。
確かに年齢的なものを除けば、背中から羽を生やした姿で空を飛び、淡く輝く透けてしまいそうな肌を含め、その有様はとても幻想的で美しく、どう見たって人ではあり得ない。
うん。
僕は考えることを放棄した。
こんなこと僕が考える必要ないよね。
あるがままを受け入れる。
森の民であるアールブは自然体なんだ。
僕がやるべきことは目の前にいる女の子をなんとかフィーラブ村に連れて帰ること。それが全て。
まずは意志の疎通から始めよう。
服着てるくらいだし、話せるよね、きっと……。
「主様、はじめまして!」
僕は意を決し、空に浮かぶ女の子、いや、主フィーラヴに話しかけた。
主様は飛び去ることもなく、変わらず僕を見下ろし……、いや、驚くことにこちらに降りてくるそぶりすら見せてくれる。
よーし、ここからが僕の正念場。
村に来てもらう、いや違うな、湖に戻ってもらえるよう……、
がんばろう!
がんばれ~