スライムになった私が女の子の体を使ってどうにかなった話 作:あやちん
ミーア様と一緒にフィーラヴ村へと向かうことになった。
湖の現状についてどうやって話を切り出すか悩む必要すらなく、ミーア様はすでにご存じで僕は気負ってた分だけちょっと肩透かしを食らった気分になった。
まぁ、説明しなくていいなら楽でいいんだけど……。
出会ってまだほんの短い時間でしかないけど、ミーア様には驚かされることばかりだ。フィーラヴ湖の主様で湖の精霊と呼ばれてるミーア様が空を飛んでくるなんて誰が想像できるだろう。しかも誰も見たことがなかったそのお姿が、小さくて可愛らしい女の子だったりして、僕はもう混乱の極みだった。
何より人が空を飛ぶなんて、見たことも聞いたこともない。
まぁ、ミーア様は精霊様であるのだから、そもそも人と同列に考えてはいけないのだろうけど……。
驚くことは更に続いた。
初めて会ったはずなのに僕のことも、じじ様のこともご存じで、ここに来た理由までも言い当てられた。遠く離れたこの場所に居ながら、どうやってそれをお知りになられたのだろう? やはり精霊様ってすごい!
けれど、それをお話になるミーア様の口ぶりはたどたどしくて、話し慣れてない様子がとても愛らしい。どうしようもなく守ってあげたくなる気分にさせられた。
精霊様相手にそんな心配、余計なことだとわかってはいるんだけど……。
そんな勝手な思いを抱く中、またまた驚くことが起こった。
ミーア様の体の輝きが弱まり、背中から優美に伸びていた四枚の羽が緩やかに小さくなっていき、ついには消えてしまったんだ。
透き通るかのように見えていた肌も普通になり、ミーア様はどこから見ても汎人族の女の子の姿へと変わられてしまった。とは言っても淡い紫色の髪に、紫水晶の瞳は神秘的であることに変わりはないし、青白さが目立つ肌にさっきまでの名残を感じさせはするんだけどね。
どうして
でも考えてみれば大きな羽を伸ばしたまま歩き回るのはけっこう邪魔だろうし、体が輝いてたりしたら目立っちゃうだろうし、色々面倒な感じなのかもしれない……。
地面の上を歩くしかない僕に合わせてくれたと考えることにして、少し嫌な気分になったことを誤魔化した。
戸惑いを隠せない僕をよそに、ミーア様はあどけない笑顔を浮かべつつ興味深そうな目でこちらを見て来る。うん、細かいことを気にしてても仕方ない。ミーア様は主様なわけで、やりたいことを好きなようにしてもらうことが大事なんだ。
フィーラヴ湖へ向かうことになったとはいえ、すでに日が暮れて辺りは暗くなってきた。夜の樹海の移動は危険以外の何物でもないし、今日のところは野営したいとお願いした。
ミーア様は特に反対をする様子もなく一安心。夜でも気にせず突き進んで行かれたらどうしようかと思ったよ。そうなったら付いて行くしかないもんね……、ほんとホッとした。
夜の樹海でやれることはないし、こんな時は早めに食事を終え、さっさと眠るに限る。
かさばる天幕なんて持ってきてないので、起こした火で暖をとりながら毛布にくるまって寝るだけなんだけど、今は主様が一緒だし、どうしたもんかな?
焚き火用に調整してもらった火属性魔石を投入してあるから、少なくとも朝まで火が消える心配はいらないと思う。よく乾燥させた木炭以上に発熱してくれる火属性魔石はとても便利で重宝してる。
フィーラヴ湖に移り住んだ頃はアールヴに火属性魔法士は居なかったらしいけど、汎人族との混血が進むにつれ、火属性のアールヴが生まれるようになってきたのはなんとも皮肉な話しだと思う。
「これ、ごはん」
いつもと勝手が違う夜営に、どうしたものかと思案に暮れていた僕に主様が声をかけてくる。
見れば、ぷりぷりとした大ぶりの腸詰が紐でクルクルとまとめらものが小さな両手のひらの上に置かれていて、それを僕に向けて差し出してくれていた。
腸詰はアールヴでもよく作られてて、僕も燻製したものはいくらか持ってきてたけど、少ない手荷物の中、無くなるのは早かった。ここ最近の食料は狩りをして得ていたんだよね。幸い樹海は食べられる獲物も多いし、アールヴであるからには僕も狩りは得意だから食うに困ることななかったわけだけど……。
「え、ええっ?」
出会って間もないのに、こうやって驚かされるのはもう何度目だろう?
さっきまで何も持ってなかったよね?
っていうか、そもそもミーア様、荷物とか何も持ってないし!
一体それってどこから出てきたのっ?
早く持てって感じで、ミーア様が差し出した両手をフルフルされるので、僕は慌ててそれを受け取りお礼を言う。
「あ、ありがとうございます?」
びっくりしたためなんか変な口調になってしまった。
けど、晩ごはんのおかずが増えるのは素直にありがたいよね。受け取って脇の糧食用の袋にとりあえず収め、ミーア様の方へ顔を向ければ、また両手を差し出された。
手のひらの上にはまた何か置かれている。こ、今度は何?
パンだった。
こんがり黄金色の焼き目がついた、表面がつるっとしたパン。まるで焼きたてのようないい匂いが僕の鼻を刺激する。大きなお皿くらいのサイズで厚みも僕の拳くらいある。
それがしかも三段積み!
そんな驚きのやり取りが何度か続いたのちの晩ごはんのなんと豪華だったことか。
腸詰とチーズの組み合わせは最強だと思ったし、瓶に入った柑橘類を絞ったと思われる飲み物も、とても濃厚な味わいで疲れた体に染み入るおいしさだったし……、これはもうフィーラヴ村に居た時よりよっぽど上等な食事になったのは間違えようのない事実だと思う。
ミーア様は、にこにこと可愛らしい笑顔を僕に見せてくれるけど、全然お話しをされないので疑問ばかりが膨らんじゃうよ。
数々の品物はミーアさまの脇の下、お腹の横あたりから現れる。地に降り立ち、羽を消した後、これもどこからか現れたローブを羽織られていたので、出て来るところは見れないんだけど、そんな感じでどんどん取り出されたものだから不思議で仕方ないよ。
まるでお腹に無限にしまっておける収納袋があるみたいだ。
しかも食べ物も腐ってないし、なんなら飲み物は熱いのやら冷たいのやら出て来るしで……、もう最高かよ!
精霊様のやることだからと納得するしかないのだろうけど、旅を続けるうえでミーア様のそんなお力はうらやましすぎるし、僕もそれ欲しい!って思っちゃうのは仕方ないことだよね?
まあ無理に決まってるけど。
寝るときは寝る時でまた
外で焚火に当たりながら並んで寝るものと思っていたんだけど、ミーア様が一言二言つぶやけば、たぶん土魔法で創り出した、半球状の土の家が瞬く間に出来上がった。モリモリと地面が盛り上がり、中が空洞になり、ついでに天井部に魔力の明かりが灯されたりする
そりゃあ土魔法で手間をかければ同じものは出来るのかもしれないけど、詠唱あったの?ってくらいの短い言葉で魔法を行使し、早さ、ち密さも段違い。僕なんか真似をしようとも思えないほどの出来。
ここまでするのにどれだけ魔力も必要なことか。
改めてフィーラヴ湖の主である、ミーア様の力を見せつけられた気分になった。
いざ眠る段になって、出入り口までぴたりと閉じられてしまったのには驚いたけど、その時は魔獣に襲われることを思えばまぁいっかとそのままミーア様と並んで眠りについた。
精霊様とはいえ、可愛いらしい女の子と並んで寝るなんて初めてな僕は、しばらくドキドキして中々眠れなかったのはナイショだ。
しばらくして、息苦しくなってきて目が覚めた。
おかしいなとは思ったときにはもう遅く、息をずっと止めたような苦しさが僕を襲う。
くぅ、まじ死にそう!
「ごめん……、わすれてた」
僕が苦しんでる横で、まったく平気そうなミーア様がそう言って謝られた。さすがに申し訳なさそうな表情を浮かべてたけど、僕はそれどこじゃない。
し、死ぬっ!
ミーア様が壁に小さく穴を開けてくれたことで、なぜか息の苦しさは無くなり、僕はなんとか死なずに済んだ。
やばい。
精霊様と僕とでなんか色々常識が合ってない気がする。
このまま一緒に旅を続けて大丈夫なんだろうか?
一抹の不安を胸に抱いてしまった僕は絶対悪くないと思う!
まあまあまあまあ(笑)