スライムになった私が女の子の体を使ってどうにかなった話   作:あやちん

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スヴェンの方策

「廃村となったソルヴェ村より東に向かった先の岸壁に巣を張っていたワイバーンが討伐された……と?」

 

 警備隊副長であるヨアンから興味深い報告が上がってきた。

 (くだん)の場所は、例の女児、ミーアを保護した際に村を襲ったワイバーンのうち、討ち漏らした個体が混ざっているとみていた営巣地だ。海峡渡りの魔獣は近年ほとんど確認されることがなかったのだが、今年に入ってからというもの、よりにもよってワイバーンが多数渡ってくるようになり警備隊はその討伐に苦心している。

 

「はい、仮設にて運用中の監視砦からの報告ですので間違いありません。営巣中のワイバーンは特に危険なため、光属性持ちの監視員も駐在させ、何者かとワイバーンの交戦状況についても撮像魔道具に幾つか記録描画として取り込んであります。残念ながら必要魔力が多いため極めて短時間ではありますが……」

 

 ほう、光属性持ちと言うとニールスか。(にわ)かには信じがたい内容だが、そうであれば早くその内容を確認してみたい。

 

「そこには確か六頭のワイバーンが居たはずだったな。早速確認したい、準備出来るか?」

 

「大丈夫です。投影魔道具を使いますので執務室の明かりを落としますがよろしいですか?」

 

「問題ない、頼む」

 

 

 投影魔道具は光属性を持つ魔法士が撮像魔道具に取り込んだ光粒情報を外部に再び取り出し、誰でも確認できるよう描き出すためのものだ。記録絵師が描く絵画など比較にならない、極めて実物に近いものが得られるが、それ相応に魔力を使うため上級以上の等級(グレード)がないと使い物にならない。

 

 ――万物、全ての存在は天より降り注ぐ光の粒をその形や色に応じた跳ね返し方をしていて、我らの目が様々なものを物として認識出来るのは、その多種多様に跳ね返った光の粒を、両の目が捉えて形として再現しているからなのだ――と、クリスティアンが喜々として説明してくれたことがあったが、これらの光属性による魔道具は目の代わりにそれを行ってくれるものなわけだ。

 

 さてどのような光景を見せてくれるものやら。

 

 

***

 

「何度見ても、なんとも非常識な……」

 

 うぬ。

 ヨアンの言葉が描き出された記録描画を見た者の総意と言っても過言ではない。ないのだが、あやつは自分の足跡を隠そうということを考えておらぬのか……。

 

 我らの前から逃げ()せたというのに、これでは見つけてくれと言わんばかりではないか。

 

「このような非常識な行い、まさにミーア以外に考えられぬな」

 

「そうですね。空中より不可思議な物体でワイバーンを(おお)ったのちに落下し、海に沈んでいった場面もなかなか興味深いものでしたが、何と言っても最後の記録描画、三頭のワイバーンが同時に放ったファイアブレス攻撃を相殺して尚、ワイバーンへと向かう火炎の凄まじい奔流(ほんりゅう)……。あれはなんとも末恐ろしい威力の火属性魔法でした」

 

 正に。

 

 あれはソルヴェ村でも見た火柱を彷彿(ほうふつ)とさせる……、いや、今確認した記録描画の中の魔法は、それどころではないほどの威力を見せつけていた。

 空を飛んでいるワイバーン三頭を、逃げる間を与えず、跡形もなく滅してしまう……、早さ、威力、射程距離。どれをとってもまさに末恐ろしい。しかもまだまだ余力が有るようにも見えた。

 

 あれほど高威力かつ長射程の火属性魔法など、過去に(さかのぼ)っても聞いたこともなく、人が放てる魔法の威力を逸脱(いつだつ)している。

 

 年端も行かぬ少女の姿をしたミーア。

 可愛らしいその姿に多くの者は(だま)されているが、俺はそんなことで(まど)わされたりせぬぞ。

 

 今回の記録描画のことも(しか)りだが、アンデッドではないかと思えるような様子を見せたり、クリスティアンの調べでわかった魔力紋の事実を鑑みれば、あやつは人ならざるものと結論付けざるを得ぬ。

 

 クリスティアンが『魔喰の精霊』などと称していたが、あのミーアが精霊であるなど(いま)だに信じがたいが……。そもそも精霊などという存在は子供に語る物語や女神信仰の伝承の中でのみ出て来る、空想上の存在にすぎぬ。

 

 そう認識していたのだ。

 

 だが……、(かたく)なに否定しているだけでは物事が進まぬことも事実。

 幸いなことにこうしてミーア自ら、居場所を示してくれている。我々の考えが間違っていないことの証左(しょうさ)でもある。

 

 あやつはあのまま海峡を渡り、ヴィーアル樹海へと向かったに違いない。その先には例の湖もある――。

 

 

「ヨアン、これを見て確信に変わったぞ。ヴィーアル樹海にあるはずの湖探索予定を早める。出来ればひと月の内に出立(しゅったつ)できる様にしたい」

 

「はい。了解いたしましたが……、探索員数と人選はいかがしますか? 多数の魔獣が生息する恐ろしい場所です、生半可(なまはんか)な人員では全滅する恐れすらあります」

 

 ヨアンの言うことはもっともだが、それを理由に探索を行わないなど、それこそありえぬ。

 正直、なぜここまでミーアにこだわるのか俺自身不思議に思うところもあるが、少なくともあの存在をこのまま何もせず放置しておいては、ヴィースハウン領の不利益になるような事態になる可能性がないとは言えない。

 

 もっとも今現在において、領に害をなすような行為は何もしておらぬから、穏便に済ませれるのであればそれに越したことはない。

 

「人員はあまり多いと迅速な行動がとれぬゆえ少数精鋭としたいが、その中にアンヌ=ハウゲン、そして冒険者ギルドに所属しているオルガ、及びドリス、以上三人を加えることは必須としたい。それを踏まえたうえで残りの人選、段取りはヨアンら副長に任せる」

 

 その三人はミーアを懐柔(かいじゅう)するためには必須だ。良く(なつ)いていたらしいからな。

 俺のことは良く知らぬだろうし、これまでのしがらみを考えれば、嫌われていてもおかしくはない。ゆえに物事を少しでも有利に運ぶためには多少危険であろうが連れて行かない手はない。

 

「わかりました。では、早速準備に取り掛かることといたします。しかし、アンヌは……、ハウゲン子爵が参加させることを良しとしますでしょうか?」

 

 ふふ、確かに。娘が可愛くて仕方ないらしいからな。

 警備隊に入るときもかなり反対したらしいからな、ハウゲン子爵は。まったく、甘いやつで困ったものだ。

 

 だがそれとこれとは別だ。

 

「アンヌは必ず参加させる。俺からも手を回しておくから構わず進めろ、頼んだぞ」

 

 

 ミーアには色々驚かされ、振り回されているが何としてでも我の目が届くところで管理しておきたいものだ。魔喰の精霊などという眉唾なものがどういった存在であるのか、やはり懸案するべきものとして残るが……。

 

 

 ともあれ、まずヴィーアル樹海を無事突破せねば始まらぬことでもある。

 

 待っておれよミーア。

 

 必ずやそなたの顔を驚きで満たしてくれよう。





またヘイトがたまる~(笑)
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