スライムになった私が女の子の体を使ってどうにかなった話   作:あやちん

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いやいや難産。


深淵からの光

 アールヴの人達の家はみんな樹の上……、なんてことはなく普通に地面の上に建てられた建物でした。

 ただ、間引きされた森の中を縫うように建てられた家々は地面の上に直接と言う訳ではなく、高床式住居と言った方が良い佇まいで、樹上宮より規模は小さいですが同じように細めの丸太を組み上げて作られた家です。

 

 招かれて泊めてもらったシイ=ナの家も同じ佇まいで、中に入ると高床というくらいですから当然板敷きの床ですが、もちろん土足のまま入室しました。間取りは前世風に言うなら2LDKと言えばわかってもらえるかと思います。

 ご両親と三人暮らしだそうです。ただし、泊めてもらったその晩はお父さんは酔っ払い集団の中に居たようで、家には居ませんでした、はい。

 

 母親に驚かれつつも大歓迎を受け、接待を始める勢いでしたが、さすがに夜も遅いということで、小さい子(私のことです……)は早く寝ないといけないからとシイ=ナが強弁したため、接待(めんどう)は免れました。

 

 シイ=ナはご両親とは別の部屋で一人で寝てるようで、私はその部屋で木枠に(わら)っぽいものを詰めたものにシーツをかぶせたベッド、――この世界ではおなじみの様式ですが、正直私はスライム体でくるまって眠る方が落ち着くし何より寝心地も良いのですが――、に引き込まれ、抱き枕のようになって眠ることになったのでした。

 

「ミーア様、おやすみなさい!」

 

 そう言ってベッドに入ったシイ=ナはとても満足げな笑顔を見せていますが、ツンデレさんは私と添い寝するより、リイ=ナとの仲をベッドで進展させた方がいいのじゃないか? と、ちょっと下世話な考えを抱いたりしてしまいます。

 

 私がそんなこと思ってるとはつゆ知らず、シイ=ナは幸せそうに横になり私をぎゅーっと抱きかかえてきます。やれやれです。

 

 仕方ないのであきらめて寝ましょう。

 

 …………。

 

 シイ=ナは私を抱き枕に夢の世界に旅立っていきました。

 

 私はと言えば一応ミーアの体としては眠った体を成していますが、大容量を誇るスライム体として見た場合、全体が眠ってしまうということはないと言えます。

 そもそもスライム体という生命体? には睡眠という生理的欲求はなく、この世界にあると認識してからというもの長きに渡り、変わらず活動し続けています。

 

 ただ、これはスライム体が特別と言う事ではなく、どんな生物……、特に動物ですが本質は同じだと思います。だって、体は生きているのですから無意識下で、臓器やそれを構成する細胞たちは活動し続けている訳ですからね。

 まぁそうは言うものの、動物や人の意識外での活動は自分の意志ではどうにも出来ないことですから、この際無視していい事柄でもあります。

 スライム体はその点、もう少し融通が利きます。ミーアボディを生かしていることが最たるものですが、私の意志により人としての生命活動を命令している訳です。息させろとか心臓動かせとか、(まばた)きさせろとか……、そんな命令を出したりしてるわけです。周りの魔力を感知しろとか、吸収しろとかもそうです。自分の体に命令と言うのも変な話ですが、便宜上そう考えた方がわかりやすいのでしかたないね。

 

 能書きはともかく、私の意識を(にな)っている『スライム体=スライム脳』以外でも、スライム体は色々指示した命令を行う活動をしている部位もあると言いたいわけです、はい。

 ちなみにスライム脳たるスライム体は常に同じものではなく、流動的、移り変わるものであり、動物の臓器のように決まった役割を持つ部位はありません。

 

 それを踏まえた上で、『私』と言う元日本人の意識が存在していくためには、やはり睡眠と言う行為が必要不可欠であり、すなわち睡眠欲というものがちゃんと私にはあるのです。

 

 あくまで欲だから、なくても済むものでもあります……が。

 

 私は私と言う意識ある存在。

 

 だから私は眠るのです!

 

 これを言いたいがために、能書き垂れてしましました。

 では本当に……、

 

「おやすみぃ……」

 

 

***

 

 …………。

 

 

 …………くら…、暗……い。

 

 

 ……あ…………れ……………?

 

 

 な……、

 

 …………んだ?

 

 

 ………………こ、こ…………?

 

 

 …………。

 

 ひか、り。

 ひかり……が、まったく、な……い。

 

 かん、ぜん、完全なる、闇、……です。

 

 

 深い、深い……闇。

 

 

 ゆ、め、夢です……か?

 

 

 あ……、ああぁ……。

 あっ、あ~!

 

 だんだん、いし……き、意識がはっきりして……きま……した。

 

 

 な、なんなの、で、しょう?

 この、じょう、きょう……、この、状況……は?

 

 わたし、私、たしか、確か、寝ました、よね?

 

 

 なのに……、な、なんなのでしょう?

 この、この異様な感覚、と、状況……は?

 

 深い、とんでもなく、深い……、闇。

 

 闇の……深淵(しんえん)? とでも言えば良い……のでしょうか?

 

 私の意識、が、そんな闇へと向かって、落ちて、行っているような、スライム……として再び生を受けて以来……、初めて感じる底知れない……、恐怖にも似た感覚。

 

 この先に、先に行くのが怖い……。恐ろしい。

 前世での死に様は覚えていないけれど……、まるで死を、感覚として体験……してしまっている……ような、そんな感覚。

 

 …………。

 

 うっ!

 

 急に、目の前が真っ白に、なり、ました。

 まばゆい、眩いばかりの光。

 

 

 …………。

 

 ……*………………………………、

 …………*…………………………、

 ………………*……………………、

 ……*………………………………、

 …………*…………………………、

 ………………*……………………、

 *……………………………………、

 ………………………………………、

 ………………………*……………、

 ………………………………*……、

 ……………………………………*、

 ………………………………………、

 ……サイカ…………………………、

 ………………………………………、

 ……災禍……ガ……………………、

 

 …………………………来タ……ル。

 

 

 …………。

 

 

 な、に?

 

 な、なんなの、ですか?

 

 くぅ!

 

 思念の源から滲み出してくるような痛み、です。

 

 こんな痛みを感じることなんて、変……です。痛みはあくまで記号としてしか認識していない……、しかも、しかもそれはミーアの体での話……であって。

 

 スライム体に痛みを感じる感覚など、ない……はずなのに。

 

 でも、ああ、そういえば、女神像を前にしたときにも、微妙にそんな感覚を得た覚えが……。

 

 

 ああ、もう、一体なんなのですか!

 

 

 

 

 

 

 【……その力もて、……歪にして災凶。災禍たる凶龍を滅し滅ぼし崩潰せしめ……て……】

 

 

 

 ……っ、痛っ!

 

 

 

 くああっ……。

 

 

 

 

 ――――。

 

 

 

 

 

***

 

 

「ミーア様、ミーア様! 大丈夫ですか?」

 

 う、うん?

 

「んあ? ふあぁ……」

 

 な、なんなのでしょう、この気怠い(けだるい)気分……。

 

「ミーア様、随分とうなされておいででした。お休み中でしたのに起こしてしまい申し訳ありません!」

 

 シイ=ナがベッドで寝てる私の横で、膝立ちしてこちらを心配そうに見ています。

 どうやら私は寝ていたところをシイ=ナに起こされたみたいです。

 

 それにしてもうなされていたって?

 この私が?

 

「だ、だいじょぶ。起こしてくれて、ありがとう。もう朝?」

「はい! あの、それで僭越(せんえつ)ながら朝食を用意させてもらっています。湖の精霊たるミーア様のお口に合うかどうかわかりませんが、ぜひお召し上がりいただければっ!」

 

 万能スライム体たるこの私がうなされる?

 

 いやまぁ、あるかもですね?

 元日本人の中年サラリーマンたるこの私が中の人ですからね。

 

 ま、いいか。

 気にしないでおきましょう。

 

 シイ=ナが気合入れて朝食用意してくれたみたい(作ったのはお母さんでしょうけどね)だしね。

 さて、今日はどうしましょう?

 

 アールヴの村にいると面倒くさいことになりそうですし……、とっとと湖に行ってしまいましょうかね?

 

 くふっ、リイ=ナやアズ=イが困っちゃうでしょうか?

 

 

 うん、今日も一日楽しく行きましょう!

 





あれあれ?

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