スライムになった私が女の子の体を使ってどうにかなった話   作:あやちん

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それぞれの想い

 入水し、じゃばじゃば歩みを進めれば、低い身長のせいですぐに全身は水の中へと入っていきます。

 体は浮こうとするので謎空間スライム体を出しながら比重調整し、湖底をぽてぽてと、どんどん奥深くへと進んで行きます。

 

 うーん。

 

 当然ながらこんな毒々しく濁った水の中、ミーアの目では視界確保は全然できません。

 ですのでここからはミーアボディは休眠、本体であるスライム体に活躍の場を譲りたいと思います。

 

 かつて知ったる我が住まいである湖、「見えなくてもどうということはない!」と言いたいところなのですが、正直私は長きに渡り住み続けてはいたものの、これっぽっちも理解なんて出来てないんですよね。

 

 なーんにも考えてませんでしたしねぇ。

 

 あるがままに暮らしていましたし、ぶっちゃけ出たとこ勝負のその日暮らしでうん百年?とか……訳の分からない時間感覚で、また~りと過ごしていましたから。

 

 よく言えばおおらかで自由、悪く言えば究極の無関心。

 

 湖に薄く広く、びろーんと広がって周りから色々頂いて暮らしていましたが、なにしろやたらだだっ広い湖です。今となっては馬鹿みたいな大容量を誇るスライム体をもってしても、湖の全てを網羅するなんてことも出来るわけでありませんし。

 

 

 それでも、こんな私でもこの湖の環境を整えることについて一役以上の役目を担っていたんですね。

 

 今のこの状況を鑑みて、私は我ながら自画自賛したい心境でいっぱいです!

 

 全体を網羅はできてなかったですけど、それでもふらふらふよふよ漂いながら至る所を巡っていたとは思いますし、魔滓……でしたっけ? そんなものもいっぱい取り込んで糧としてたとしても何ら驚きではないです。

 

 それにしてもたった数ヶ月でよくもここまで……。どれだけ周囲の樹海(もり)からこの湖に魔滓が流入したのでしょう?

 

 それだけでこんなに変わってしまうものなのでしょうか?

 いっぱいいた魚とか生き物はどうなったでしょう?

 こんな環境下でも生きていけるのものなのでしょうか?

 

 見た目は毒々しいですけど案外飲んでも平気だったり、もしかしてさわやかな味だったするのかもしれません。

 

 うん、それはないな――。

 

 この世界の生き物は色々たくましいですからね、どうにかなってるのかも知れませんが、まぁ私には関係ないですし。少なくともなんらかの生き物がいるのはスライム体が感知しまくってるので間違いないところではあります。

 

 

 などと取り留めなく思考を巡らせながら、スライム体のあらゆる感覚を駆使し湖の深いところへと、今や全スライム体をもって突き進んでおります。

 

 すべてのスライム体を外の世界へと出したのは何気に初めてではないでしょうか?

 体積というか質量を把握することは難しいですが、延べ広げれば一体どれほどの面積となるでしょう?

 

 比較対象がないのであれですが、とりあえず私が住んでたレイナールの町くらいなら余裕で収まって、お釣りのが多いくらいの広さはありそうです。

 

 それでも湖を全面覆うにはほど遠いのですがどう思って?

 

 まあ、いいです。

 だから何ってことですし。

 

 

 

 とりあえずほどほど深くって、流れもない穏やかな場所まで来ました。

 周囲は浅いとこよりさらに淀み濁りがきつくって、試しにミーアの目で見てみれば視界ほぼゼロ。

 

 なんなんでしょう、ほんとに。

 文句言っても仕方ないので、だらけよう、さあだらけよう。

 

 ここ数ヶ月、なんのかのあって忙しくって面倒くさくって大変でしたから。

 まぁ魔力の使い方を知れて、魔法とか空飛ぶとか楽しいこともありましたけれど。

 

 やっぱ人間関係は疲れます。

 アンヌ、それにドリスやオルガと知り合えたのは良かったですが、お貴族様、あいつらはダメです。まじ、めんどうが過ぎます。

 

 リイ=ナやシイ=ナはまだ付き合いが浅いので保留です。

 他のアールヴは正直どうでもいい。

 

 エルフっぽいのも、ただの人も結局等しくどうでもいい。

 

 うーん、私ってやっぱダメスライムなんでしょうか?

 元日本の中年サラリーマンが中の人では、心が枯れてしまっててやる気が長続きしないのかしらん。

 

 ミーアの体を得て、湖から出て、人のいるところを探し歩いてるときは何のかの楽しかったはずなんですけど。

 

 

 けれどまぁ、今からやることは変わらない。

 

 ぐうたらする。

 

 アールヴのお願い?

 湖のお水を綺麗に?

 

 しらんがな!

 

 ま、結果オーライで綺麗になったらラッキーなぐらいでどうぞ。

 

 

 ミーアの体、どうしましょう?

 

 ん~、謎空間に放り込みましょうか。

 謎空間に人の体を入れていいものなのでしょうか?

 道具とか服とか、食べ物とか……、色々放り込んでますし今更かな。

 

 ま、生ものとはいえスライム体も浸透させてあるし、呼吸するわけでもないから大丈夫でしょう!

 

 

 よーし、ぐうたらするぞー!

 

 おー!

 

 

 

***

 

 

 ミーア様がフィーラヴ湖にお戻りになって早、三十の日が巡った。

 

 シイ=ナはミーア様が湖に戻ったあと、数日は元気が無かったけど、今はそんな様子は表向き影を潜め、僕に毎日小言を言ってくる小うるさい奴に戻った。

 

 じじ様は相変わらず樹上宮(ツリーヴィラ)で、他の長老たちと共に女神像と主様の器に祈りを捧げてる。

 

 表向きは。

 

 けど実態は奥の部屋で、長老たちでお酒飲んだり、おいしいもの食べたり……、他にも色々お愉しみであることを僕……、いや、()()()は皆知っている。

 ま、これまで色々苦労を掛けてきた長老たちへの敬意の気持ちを皆持っているから、敢えて見ないふりをしている訳なんだけどね。そしてそれはじじ様たちもわかってると思う。

 

 そもそも相手もいることだからね。

 年を考えてほどほどにとしか言えない。

 

 そういうのに関して、長命であるアールヴはとても大らかで、それに村全体で一つの共同体という側面が強く、家族と言う(くく)りは一応あるものの、子供が出来た時の一時的なものという扱いをされている。

 

 だから……その点でも汎人族とは相いれないものがあるのかもしれない。

 ま、こんなのほんの些細な事だと思うんだけどね、僕は。

 

 ちなみに、万が一、授かった場合、村の人たちは怒るどころか大喜びでみんなして面倒を見たり世話を焼いたりすることになると思う。

 

 フィーラヴの村ではそれほどまでに子供は大切なんだ。

 

 

「ミーア様、元気に過ごされてるかな? お腹壊したりしてないかな?」

 

 シイ=ナは時折、そんな風に僕に聞いてくるけど、それは僕だって知りたいよ。

 あんな淀んで紫色に濁った湖に入って行ったんだ。

 

 普通のアールヴなら数分も持たずに逃げ出してくる、あの湖に……だよ!

 

 小さくて幼いちょっとたよりなさが目立つ女の子。薄紫の長い髪に濃い紫色をした瞳がひと際目立つ、透明感あふれる白く綺麗な肌をした汎人族の姿をした女の子。

 皆が精霊様と敬うのも道理な、背中から淡く輝く向こうが透けて見えそうな四枚の羽を伸ばし、重さを少しも感じさせず、空を楽し気に軽々と飛んでみせる女の子。

 

 その姿は本当に綺麗で、とても可憐で、それでいてちょっと儚く見える、神秘的なまでの美しさがある……にもかかわらず、常識を疑わせるような突拍子もない行動をとることもある女の子。

 

 そういや僕、ミーア様の非常識で死にかけたことあったっけ……。

 

「大丈夫だよ、それが証拠にほら……」

 

 湖の水に視線を送る僕。

 それにつられて視線を移すシイ=ナ。

 

「ずいぶんきれいになってきたね……」

 

 あんなに濁って浅い処でも全然底が見れなかった湖が、その美しさ、以前の美しさを取り戻そうとしていた。まだまだ透き通った……というにはほど遠いけど、それでもミーア様が湖に入ってからというもの、日に日に濁りが薄れ、透明度が上がっていくことを僕らは実感出来てるんだ。

 

 魔滓に汚染されてしまうのは本当に……驚くほど早かったけど、水がきれいになっていくのもそれに負けないものがあると思う。

 

「あのミーア様だもん、当然さ」

 

 

 可愛いんだけど何を考えてるかわからない、表情の変わらない顔で、なんでもないように日々を過ごしてるんだろうか?

 

 この汚染された湖の中での生活がどんなものかなんて、僕には想像もつかないけど……。

 すぐ(おか)に戻って来ないことからも、何とかなってるんだと思うほかないわけだし。

 

 湖の中に危険な生き物がいるのかどうかさえ分からないけど、それはまぁ、ミーア様のことだから心配するだけ無駄な気もする、うん。

 

「早く、戻って来れるようになるといいね!」

 

「……、そうだね。うん、この調子だときっともうすぐだよ。その時はまた慰労の宴ですごいことになるだろうね!」

 

「だね! そうだよね。私、また思いっきり甘やかしちゃうからね」

 

 

 

 シイ=ナとのある意味平和な、日々のやり取り。

 

 アールヴの村だって悪い環境なりにも、先の目処が立ちそうで前向きな暮らしが続いていた。

 

 

 ……そんなある日。

 季節が更に進み、雪がちらほら舞い落ちる頃、そいつらはやってきた。

 

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