スライムになった私が女の子の体を使ってどうにかなった話   作:あやちん

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絡み合う想い

「うっわ、目が合ってしまった……」

 

 リイ=ナたちの前にいた、窓を背に座ってたのは逃げ出した砦にいた人たち。私を監禁したあのお貴族様(強面イケメン)でした。

 

「最悪です。でも横をチラ見すればアンヌも居ます。……ああもうっ!」

 

 

 ううぅ、仕方ない。

 逃げてばかりではいつまでたっても状況は変わりませんからっ。

 

 いい加減、腹をくくろう!

 

 空飛んで、(はね)だしてるところも見られてしまったし……、もうどうでもいいやって感じです。

 私は大きなため息を一つこぼし、そのまま開いてる窓に向かい近づいていきます。扉? 何それ?めんどくさい。

 

 

「おじゃま、しま~す……」

 

 

 お貴族様が居ようが、アールヴ族がいっぱい居ようがもう知りません。構わず突入したった!

 

 

「おおっ、主フィーラヴ! 湖の精霊様がいらしてくださるとは。湖の(けが)れもみるみるうちにその領域を狭め、おかげさまをもって、以前の美しさを取り戻しつつあります。感謝の念に堪えませぬ。ありがたいことですじゃ!」

 

 入った早々、じじい……いえ、長老アズ=イにお礼を言われました。

 じじいのくせに目ざとく素早い。そして律儀だね。

 

 他のアールヴ族の面々は驚いてるけど、場の空気を読んでるのか発言控えてるみたい。いや、どちらかといえば場を(つな)いでほしいんだけど。

 

 特にリイ=ナ!

 

 

「ミーアちゃん!」

 

「きゅふっ」

 

 強面イケメンがまず何か言ってくると思ってたけど、その前にアンヌが飛び込んできて、がばりと抱きかかえられました。ちょっと不意打ち気味で、アンヌのオデコで胸を打ち、変な声出ました。

 

「けひょけひょ」

 

 お、おかしい。

 

 万能スライム体仕込みのミーアボディにこんなにダメージを与えて来るとは、実はアンヌの体は(はがね)で出来てやしませんか?

 

「ああっ、ごめんなさい。ミーアちゃん、大丈夫? い、痛かった? わ、私ったら……、気が動転しちゃって」

 

 窓際で宙に浮いてる私の胸に顔を埋める様に抱き着いていたアンヌが、ようやくひと心地ついたのか私から少し離れ、アタフタしながらも上目でそう言ってきました。アンヌからその目線で見られるのはちょっと新鮮です。

 

 強面さんはまだ何も言わずに私のことをじっと見ている感じです。いかにも様子(うかが)いされてる感じでなんか嫌です。

 

「だ、だいじょぶ。あ、あんにゅ! あえて、うれしい……」

 

 噛んだ!

 

 く、くぅ……、相変わらずこの口は。

 

「ぷっ、聞いたかドリス。『あんにゅ』だってよ! ミーアのやつは相変わらずだな。飛んでるけどっ」

 

「感動的なとこで笑っちゃ悪いよ、オルガ。ミーアちゃんは真面目に言ってるんだから……、ぷふふっ」

 

 むうぅ、オルガと、ドリス。居たんだ……、くっそぉ、あとで覚えといてください!

 

「ああ、もうミーアちゃん、色々聞きたいことだらけだけどっ! そんなのいいから、もう一度抱きしめさせてっ」

 

 私はそんなアンヌの気持ちに答えるよう足を床に落とし、役目を終えた背中の翅も透明度をどんどん増し、消えて見えなくなった。これでもう邪魔じゃないし目立たないね。

 

 久しぶりのアンヌは相変わらず優しくて、柔らかくて、いい匂いがした。

 私はつられるようにアンヌを抱き返し、お互い確かめるように抱擁(ほうよう)しあった。

 

「ああ、ミーア様が汎人族の女とぉ……」

 

 私の耳にシイ=ナの(ささや)くようなつぶやきが聞こえてきましたが、聞かなかったことにしておきましょう……。

 

 

「さて、感動の対面はそれくらいにしてもらおうか」

 

 

む。

 

 

「す、すみません、隊長。つい……うれしくって」

 

 ああ、アンヌの体温が遠のいてく~。

 なんなんでしょう、このお貴族様は!

 

 私の前に、背が高くていかにも自信たっぷりで居丈高(いたけだか)な、強面イケメンがアンヌを脇に追いやるようにして立ち塞がりました。ほんっと、お貴族様って無駄に偉そうだよね。

 

 あ、アンヌは別。

 お貴族様なんてくくりからは別枠の、大事な人だから。

 

「こうして向き合って話すのは初めてか……、つくづくその方には振り回されたが、ようやく会えたな」

 

 なんか勝手なことおぬかしあそばされていますが、そんなの知らんがな! です。

 どちらかと言えば、一方的に私の方が迷惑(こうむ)っていると思います。

 

 砦の隔離室?に閉じ込められて、変な魔法陣刻まれたことはまだしーっかり覚えてますから。

 私は話しかけてきた強面さんに返事もせず、無言のまま睨みつけてます。礼儀? あいさつ? なんでこの人にしなきゃいけないの? 

 

 どうせ(ミーア)なんか出自の知れないどこぞの孤児で、中身は元日本のおっさんサラリーマンですからね。

 

 関係ないんだもんね!

 

「ふっ、無視か。随分嫌われたものだ。その方がそのような態度をとることも一応理解はしているぞ。そこのアンヌから随分口うるさく言われたからな。だが、あの時はああする他なかったのだ。正体もはっきりせず、強力な魔法を使い、あまつさえ息もしないで、それでも腐ることなく存在していたのだ。アンデッドであることすら想定したものを放置することなどできまい?」

 

 ぐぬぅ、正論ぶっこんできました。っていうかアンデッドって、ひどい。

 で、でも、だからといってそのぉ……。

 

 うう、よくよく考えれば、偉そうな態度ではあるものの、あれ以来私が直接なにかされた訳でもなく。虹色魔石のこともギルドやレイナール代官(やかた)での色々はあったものの、結果だけ見れば私が逃げただけだし。

 

「あれから俺も色々調べたぞ。まったくその方には驚かされることばかりだ。ここの湖のことについてもそうだが、今もアールヴ族に精霊などと呼ばれていたな。俺はお前に会ったならまずは聞いて見たかったのだ」

 

 そう言って強面イケメンが腰を落とし、私の真ん前まで顔を寄せ目を合わせてきた。

 そういやこの人、名前なんて言うんだっけ? ハンバーグ?

 

「その方、一体何者だ?」

 

 そう言いながらじーっと、まばたき一つせず見つめて来る。

 金色の目。

 感情が感じられない透明感の全くない、マットな金色。

 

「……なにもの……って」

 

「そう、何者なのだ? お前は。 何、強張る必要はない。力を抜き、心を楽にすればよい。素直な心持ちで我の問いに答えればよいのだ」

 

 むむぅ……。

 

 何でしょう、この目。

 引き寄せられるかのように逸らせません。こんな強面イケメンと見つめ合うなんて、ちょっと勘弁してほしい。

 

 

 ああ、なのにっ。

 

 これ、ちょっとやばい気がします。

 いつの間にか体も強張ってきて、体の感覚がおぼろげになってきました。

 

 な、なんぞこれ?

 

 まじやばいです。

 アンヌのそばであれですが、謎空間スライム体をここに……。

 

 

「そこまでにしていただきたいものですな」

 

 横から誰か割って入ってきました。

 強面イケメンの顔が逸れ、強張っていた体の力がふっと抜けます。

 

「おや、これはアズ=イ殿。そこまでといわれてもな、こちらは我が部下であるアンヌの大事な知人である女児に挨拶をしていただけのことなのだがな」

 

 悪びれもせずぬけぬけという強面イケメン。

 

「ふむぅ、とてもそうは見えませんでしたがの。ここは我がアールヴの神聖なる樹上宮(ツリーヴィラ)。控えて欲しいものですなぁ」

 

 おじいちゃん! もっと言ってやって。

 でも何だか知らないけど助かった。じじいグッジョブ!

 

「ほう」

「むむぅ」

 

 うわぁ、周囲を置き去りにしての、じじいと強面イケメンのにらみ合いです。

 なんだか、異様な魔力の高まりを感じるのですが?

 

 そんな時。

 

 広間の奥にある祭壇から、硬い木が裂けるかのような高い音が響き渡りました。

 

「きゃっ」

「うわっ」

「何事?」

 

 居合わせた面々から色んな声が飛び交い、その音の出所を一斉に見つめます。

 にらみ合っていた二人も同様です。

 

私もここぞとばかり、そばに居たアンヌに抱き着きながら、そこを二人で見つめました。

 

「な、なんということだ」

 

 もう一人の長老、エボ=ツさんだっけ? が驚きの声を上げてます。なんぞなんぞ?

 他のアールヴの人たちも続いて次々悲鳴めいた声をあげてます。

 

 

 その人たちをかき分け見て見れば……、

 

 ご神体である木彫りの女神フェリアナ像。

 その優美な立像の肩口より斜め下に向かい、袈裟切りされたかのごとく大きな亀裂が入っていました。

 

 それを見ていた時です。

 

 私の頭の奥が、以前ここで女神像を見た時感じたものとは比べ物にならないくらい大きな痛みを伴う疼きを感じ、思わずその場に座り込んでしまいました。

 

「ミーアちゃん!」

「ミーア様!」

 

 アンヌやシイ=ナの呼びかけを耳にしながら……、私はまさかまさかの事態、そのまま気を失ってしまったのでした。

 

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