スライムになった私が女の子の体を使ってどうにかなった話   作:あやちん

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開戦!

 乾いた、いえ、乾ききった硬い土壌が、地の奥からだんだん迫ってくるものの影響を受けてか、次第に細かい(ひび)に覆われて行きます。

 

 一度地に降り立った私ですが、地響きを伴う地震が続く地面にそのまま立っているのはいかにも危うい感じがするので今は再び空に浮かんでいます。

 

 細かい罅と言っても範囲がやたら広いせいでそう見えてるだけで、実際は私なんか平気で出来たスキマに落っこちそうなくらいのサイズ感があります。こっわ。

 

 そんな光景をしばらく眺めてると出来た無数の罅から、どう見ても毒っぽい、いかにもやばそうな限りな~く黒に近い紫色のもやもやが(にじ)み出てきました。

 

 魔素です。

 

 完全に可視化出来る、濃縮されきったやば~いやつ。

 

 いったいどうすればこれほどまで濃厚な魔素を出す存在が出来上がるのでしょうか?

 

 人の存在はほんと、世界に悪い影響しか及ぼさないのではないでしょうか?

 

 ずずずずずぅん――。

 

 また大きな、空気を揺さぶるお腹に響く振動が起こりました。

 

 それに伴い、至る所に出来ていた罅がびしりびしりと不気味な音を立てながら崩れだし、見る見る大きな亀裂へとその様相を変えていきます。

 

「くうぅ……」

 

 スライム体魔力センサーがもう限界突破して大変なことに!

 

「はわわっっ」

 

 

 そう感じたのとそれが起こったのはほぼ同時。

 

 

 中心位置と思われるところが一気に隆起!

 

 一面(ひび)や亀裂に覆われたその山の中腹が、耳をつんざくばかりの凄まじい(ごう)音とともに吹っ飛びました!

 

 

 いくら怖いものなしのスライム娘、ミーアちゃんもビックリの凄まじい音です。

 もう世界中の雷がその一点に集まって、落ちたんじゃないかってくらいのすさまじさです。

 

 そんな地面が破裂したかの如くの轟音……いや実際破裂したようなものですけれど、それと共に吹っ飛ばされた大小の(つぶて)が四方に飛び散っています。

 

 (つぶて)と言ったって爆発規模、そう、もうこれ爆発だよね?……からそう見えるだけで、私よりでっかいのです!

 

 巨大な岩塊がぶっ飛んでます!

 

「ひあぁっ!」

 

 もういやぁ。

 

「風の被膜! エアバリアっ」

 

 未だ次々ぶっ飛んでくる石礫を、体の周りに三百六十度、高速で循環回転する空気でありながらも強固な球状被膜を創りだすことで防ぎながら、あまりの状況に呆然としてしまいます。

 

 いや、私、こう見えて元日本のしがない中年サラリーマン。

 さすがにこんなの想定の外の外ですから!

 

 さっき雷と表現しましたが、実際稲光が至る所に発生し、もうもうと立ち込める魔素の噴煙も相まって、もう目の前は「ここ地獄じゃないの?」って感じの様相を呈してるんですから!

 

 

 ――――。

 

 

 しばし張り詰めた空気と濃厚な魔力と魔素が漂う緊張感を味わうも、何も起こらない時間が過ぎます。

 

 

 辺り一面、もうもうと立ち込めていたガスがだんだん薄まり、石礫の周囲への飛散もようやく収まりました。

 

 けれど私の警戒心はずっと限界突破です。

 

 この世界に生まれてこの方、こんな気持ちになるのは初めてでは?

 

 

 怖い。

 

 おふざけで言う「こわ~い」じゃない、ほんとうの恐怖。

 

 

 怖いと感じるのはその身に命の危険、生命を絶たれるのではないかと警戒させる、生命の根源的な本能。

 

 

 私にもそれはあったみたいです。

 

 

 

「!」

 

 

 

 その形はまさに災禍。

 

 女神がその表現を伝えて来るのも仕方ないと思えるおぞましき姿。

 

 それがその姿を現しました。

 

 

 山の中腹を砕き抜き、災禍の凶龍はその姿を現しました。

 

 

「うっわ、えっぐ。頭いったいいくつあるのっ?」

 

 

 胴体どこにあるの?と思えるくらい、その体と思える部位からは無数の長い首が伸び、その先には元の世界でもおなじみの西洋竜風の頭が鎮座し、その(あぎと)を大きくを開けて、耳障りな雄叫(おたけ)びを上げています。そんな口からは赤黒い紫色をした息を吐き出しています。

 

 あれって魔素……っぽくない?

 吐く息が魔素ってあなた……、まあ、そうもなりますか。

 

 そんなやつが。ワイバーンよりも厳つくて怖い顔をしたそれが、それがもう数えるのもいやになるくらい、うじゃうじゃうねうね四方八方にの伸び、何かを探すように周囲を見回しているのです。目の機能はたいしたことないのかな?

 

 ちなみにその頭一つだけでもすでに私より大きいというその事実。

 

 

 まじ、もう帰っていい?

 

 

「っわ、いったっ」

 

 女神うざっ。

 頭の中の考えにいちいち反応しないで!

 

 

 と、とにかく、災禍の恐龍です!

 

 目の前のそいつは湖の底で倒した、いそぎんちゃくモドキの百万倍厳つくてデカくてヤバい、何ってったって触手の一つ一つがドラゴンヘッドとかいう訳のわからない存在です。

 

 そしてそれがまだ序の口といえるその事実。

 

 そのドラゴンヘッドイソギンチャク風ボディ?の、イソギンチャクなら大きく口があいてるだろう場所からはにょきり、というには余りにも太い、太すぎる首が更に伸び上がって、三叉の首となっていました。

 

 その風体を表すならドラゴンヘッドイソギンチャク風襟巻(えりまき)をした三叉ドラゴン。

 この期に及んでまだ首が分かれてるって、そんなサービスいらないです。

 

 三つの首に据えられている頭は西洋と東洋をごちゃまぜにしたような顔と言えばいいのでしょうか? 伸びた鼻面には長いひげがナマズのように生えてます。(あぎと)からは鋭い牙がずらりと並んでいるのが見え、先端の牙はひと際長く、それだけでも私の身長の数倍はありそうです。頭の後半には長い角が生えてますが、後ろに伸びてる途中からぐるりと向きを変え、その凶悪に鋭い角先は手前に向けられ、先端は鼻面に届きそうなほどの長さです。こっわ。

 

 三つの頭はそれぞれ属性で分かれているのか、見るからにその属性を示した様子が(うかが)えます。口元から火が出たり、雪か霜かわからないけど、いかにも氷ついてしまいそうな息吹を吐いていたり、あともう一体はよくわかりませんが、時々放電してるみたいで、いかにも雷属性って感じです。

 

 ちなみに雷は属性の派生で備わるものだけど、風や火、それに水というか氷、それぞれからの派生があるので一概に何属性とは決めつけにくい。ま、どうでもいいな。

 

 ようやく全体像が把握できた感じですが、その身の丈は二百メートルを優に超えそうです。一気に伸び上がったそれは私が浮かんでいた場所をあっさり突き抜け、呆然としていた私は一瞬で見下ろされるポジションになってしまいました。

 その巨体は山の中腹から直接生えているように見え、脚や尻尾がその先にあるのかどうかは見ただけでは分かりません。もしかしたら、地面の下はびっしり根が張ってるようになってたとしても私はもう驚きません!

 

「き、きもい。きもすぎる。こんな気持ち悪いビジュアルのドラゴンなんて見たくなかった」

 

 通常、ドラゴンと言えば鱗に覆われた強固な肌を連想するかと思いますが、こいつはなんというか、表面の見た目が安定しません。うごめいているというか、うねっているというか、鱗状の模様は見受けられるものの、それが硬いのか?と言われれば……疑問です。とにかく不気味で気持ち悪いとしか言えないおどろおどろしいビジュアルです。

 

 

 こんなの龍って言っていいのっ?

 

 

 私の心の声、こんな考えも実際はほんの数秒の出来事。

 

 

 

 邂逅(かいこう)した私たちは何の余韻もないまま、その戦いの火ぶたが切られました。

 

 

 

 私を認識した災禍の凶龍は、そのいくつあるか数えたくもない無数の頭を一斉にこちらに向け、それらがご挨拶とばかりに雄叫びというか、咆哮(ほうこう)を挙げました。

 

 その声は、もう声などとはとても言えないもので、音の爆弾、いえ、爆撃と言ってもいいようなものでした。空気の振動のみならず、魔力と周囲の魔素、それらがごっちゃり一緒くたになり、物理現象すら伴って私に襲いかかってきました。

 

「エアバリア、エアバリア、エアバリア~!」

 

 

 が、空中でそれは全く意味はなく。

 

 

 丸ごと飲み込まれました――。

 

 

 で、上からの撃ちおろし、瀑布のような攻撃で地面に凄まじい勢いで叩きつけられました。

 

 

 蜘蛛の巣状の亀裂を伴った、地面に穿たれた大きく深い穴。

 ちなみに直径三メートル、深さ十メートルくらい。

 

 

 それはエアバリアを(まと)った私が地面に叩き込まれて出来た穴。

 

 

「くはぁ」

 

 私はそこから勢いよく飛び出しました。

 支えるところがない空中。私は見事叩きつけられたものの、エアバリアー自体はちゃんと仕事してくれました。

 

 

 私は無傷です。

 

 

 でも精神的苦痛を一年分は味わいました。

 

 

「やってくれたね! お返し!」

 

 出し惜しみなし。

 

「エクスプロージョン! 全開(まっくす)!」

 

 ミーアボディで出せるだけ、目いっぱいの爆裂魔法、お見舞いしてあげる!

 

 

 目の前に眩い閃光と共に、凶龍の生えている地面から炎の奔流が立ち昇りました。その(まばゆ)いばかりの奔流は青白い炎となって龍の体高よりも更に高く吹き上がっていきます。

 

 周囲の岩盤は砕け、熱され発生した上昇気流に乗って舞い上がり、それはやがて石礫の雨となって帰ってきます。

 

 一発だけじゃ心配です。

 おまけしておきます。

 

「エクスプロージョン、全開サークル十ポイント!」

 

 さっきのがキャンプファイアーなら、今度のはガスコンロの炎です。

 立ち昇った炎の奔流の周囲にぐるりと細いけど超高温の炎の柱を十本ばかりプレゼントしてあげました。

 

 荒ぶる超高温の炎の嵐。

 

 プラズマが大量発生し、辺り一面に稲光が発生、強烈なオゾン臭を伴った旋風すら発生しています。

 

 どんな気象災害でしょう、これ。

 

 災厄の龍の姿はまだ続く立ち昇る獄炎にまみれて確認することが出来ません。

 

 岩盤が溶け、裾野に向け流れ出しています。

 

 

 

「やっば、やりすぎ?」

 

 

 

 

 うん。

 

 

 

 そんなわけ……、なかった。

 

 

 

 

「くあっ!」

 

 

 

 突然地面を突き破るようにして出てきた十数本に及ぶ尖った柱。

 その速度はすさまじく、消耗してたミーアボディで対処出来るはずもなかった。

 

 

 災禍の凶龍。

 

 そいつの尻尾?集団、だった。

 油断なんかしてなかった。

 

 ただ。

 

 あまりに周囲に漂う魔素濃度が高くて、それを事前に察知することは不可能だった。

 

 

 

 私は空中(そら)高く、そいつらに翅ごと全身串刺しにされてしまったのだった。

 





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