スライムになった私が女の子の体を使ってどうにかなった話 作:あやちん
元自分の家から出た私は今後のことを考えようと寂れた公園のベンチに座りみました。
サラリーマン時よく飲んでいたブラックコーヒーを自販機で買ったので、とりあえず飲んで落ち着きましょう。
「ぶっ」
に、にがっ、まっず!
ミーアの子供舌にやられました。
ついその場でふき出してしまいました。
…………。
気を取り直し、ココアを買って飲みました。
「ぷはぁ~」
ココアは甘く優しい味で、とてもおいしかったです。
でもなんか負けた気がします。
そ、それはさておき。
元の自分の家から出てきたものの、これからどうしたらいいのでしょう?
現代社会は幼い体で身元保証もない私にとって、とてつもなく生きづらいところなのです。
ネカフェにしたって本人確認必要でしょうし……。
「う~~~~ん」
…………。
うん、悩んでも何にもいい案浮かばないです。
とりあえず正攻法ではこの日本に私の居場所が作れないのは間違いないです。そうとなればこれはもう能力使って裏から手を回すしかないと思うのです!
で、裏からって言ってもどうすればいいのでしょう?
普通のサラリーマンだった私には皆目見当もつきません。
「ああもう、
さっきから考え事してる私の頭をツンツンしてくる精霊たち。
そういえばこの子たちのこと、すっかり失念してましたが街中歩いてた時も特に誰の注意もひかなかったですね。
むしろ目立ってたのは私ばっかでした。
「あなたたち、他の人たちからは見えないんですかね? でもそうだとしてもあまりフラフラしないでくださいね。なにしろここには魔素ないんですからね。私の目の届かないところで燃料切れになっても私は知りませんからねっ」
勝手についてきた精霊の面倒なんていちいちみてられませんから。
行動は自己責任でお願いします。
わかったのかわからなかったのか、よくわかりませんが精霊たちのツンツンに拍車がかかったし、まぁわかってくれたのでしょう。そう思っておこう。
「とりあえず困ったときは魔法です。魔法で大体のことは解決できます!」
私はもう考えることを放棄し、勢いで適当に済ませることにしました。
もうね、場当たりでなんとかなるでしょ。ヤバくなればどこへでも逃げればいいのです。
究極、またどっかの湖にでも
ああ、でも魔素を吸収できないとスライム体の増殖がはかどりません。人のご飯や普通の動物では得られるエネルギーはたかが知れてるのです。魔石も取れないし……。
「ま、とりあえずどっかのネカフェに
***
目立ちたくないのでスライム体による光学迷彩で姿を隠し、空を飛んで移動しました。
街中の移動もそれです。
適当にネカフェを見繕って侵入。空いてた部屋を不法占拠します。
不用意に入室されないよう簡易結界を展開、それと共に認識阻害も展開し、あたかもその部屋は貸し出し中であるように見せかけ、店員にもそう認識させます。システム的なところはどうしようもありませんが、それを使っているのは人です。どうとでも誤魔化せます。
私が消費するだろう材料とか通信とか……金銭管理的な矛盾が後々出てくるでしょうけれど、そんなことは私は関知しませんです、はい。
(よい子のみんなは真似しないでね。まぁやりたくても絶対出来ないのですけれど)
それにしても、この日本でもごく普通に魔法とか使えてしまってちょっと違和感半端ないですが、私の存在そのものが異物感満載ですし、さっきまでもさんざん使っておいて今更といったところでしょうか。
「よ~し、とりあえずの拠点ゲットです! まずは久しぶりの日本。満喫しようじゃないですか」
異世界でうん百年と生きてきたはずなのに、なぜかこの日本で生きてきたことはつい最近のように次々意識上に浮かんできます。読んでいた漫画や見ていたアニメのことだって昨日のことのように思い起こせます。これも向こうで精霊とも呼ばれたスライム体というスペシャルな存在であるおかげなのかしらん?
ドリンクバーで色んな飲み物をとっかえひっかえ飲み、コンビニでお弁当やお菓子を買ってきて食べ、見損ねていた漫画を一気読みし、アニメや映画を堪能したり、動画サイトで色んなコンテンツを楽しんだりしてダラダラと過ごし、ふと気づいたらあっという間に三日たってました!
寝ることさえしてませんでした。
ええええ。
自分で自分にドン引きです。
これからどうするか考えるとか思っておきながらこれです。
反省しましょう、はい。
私はこっそり不法占拠してる部屋備え付けのソファに横になり思考を巡らせます。決して眠るわけではありませんからね。
しばらく敢えて考えないでいましたが……、そろそろ現実逃避から戻りましょう。
「あちらは今どうなってるのでしょう? 災禍の凶龍とかいう魔素をため込みまくった災いが居なくなったわけですから、ぶっちゃけ私が居なくても大丈夫になってるのでしょうけれど」
向こうの人たちだけでなんとかなってたんだから、これからもなんとかなるのでしょうし。またやばくなったら第二の私みたいなのがまた女神に呼ばれたりするのかもしれませんけれど。
女神的には私は余りにも何もしなさすぎるやつ、とか思われてたのかな?
でもそれは私みたいな引きこもり気質のおっさんだったやつを、そんな役に押し付けた女神が悪いと思いますね!
うん、私は悪くない。
私が湖に引きこもって、そのせいで凶龍になるまで成長していったのだとしても……、そんなことは私が知ったことじゃあないです。女神だって放置だったじゃないですか~。
はっ。
そんな、済んだことはもうどうでもいいですね。
…………。
あの世界に戻ることって出来るのでしょうか?
日本はとても便利でらくちんでご飯もおいしくって、とても快適な暮らしができます。
でも。
それだけです。
ここにはもう私の居場所がありません。
サラリーマンのおっさんだった頃だってボッチコミュ障ぎみのやつでしたが……、それでもあの時は居場所がありました。
でも今の私にはなんの拠り所もありません。
誰にも認めてもらえません。
大手を振って暮らすことも出来ません。
「寂しいです……」
ああ、スライム体で湖で暮らしていた時だってこんな気持ちになんてならなかったと思うのに……。
「アンヌに会いたいです。ドリスやオルガ。それにリイ=ナやシイ=ナ。みんなにまた会って……、色々お話がしたい」
私の心はもう向こうの世界が自分の居場所だって、故郷はすでに向こうなんだって……、そう認識してるのです。
「帰りたい――」
ミーアの目からまたいつしか暖かいものが流れ落ちていきました。
もうこの体は完全に私の一部になってしまったのでしょうか?
借り物であったはずのミーアの体。
スライム体を全身に浸透させてあったとはいえ、所詮別の生き物。交わることなどないはずだったのに。
涙もそう、頭から移れなくなったのもそうですが、日に日にこの体が本当に自分であるかのように感じられてきています。スライム体を通してではなく、まさに自分の体であるかのごとく。
女神の呪いだと
膝から下がない左足を上げて見ます。
今は出歩くこともないので義足代わりの木の棒もつけていません。
「ああ、この足だってスライム体であるなら意識を向けるだけでみょ~んと伸ばして終わるのに。みょ~んって……」
出来ないとわかっているけど、だから……ふと、何気に願望を口にしただけでした。
なのに。
それは目の前で起こりました。
ムズムズとしたうずきを
「え、えっ、なに?」
ありえないです。
ミーアの体の感覚が私にダイレクトに伝わってくるなんて!
あ、でも、いえ。
もう、ありえる……の?
左足が変化していきます。
「くぅ……」
遠い遠い昔。
まだ男の子であった頃の私が味わったあの痛み。
成長痛。
それを少し痛い方に強化したような
「うっそ……」
奇跡……なのでしょうか?
それとも……、ここへきてあのクソ女神のサプライズ?
「足、生えた。生えちゃった……」
横になっていた私は半身を起こし、その突然の奇跡とも思える出来事を驚きをもって見つめます。
そしてスライム体となり久しく味わうことのなかった喜びの感情でその体が震えるに任せ、ただ涙するほかないのでした。