スライムになった私が女の子の体を使ってどうにかなった話 作:あやちん
絶望からなんとか立ち直ったメンタル豆腐な私は、恐る恐る絶望、いや絶壁の際まで近寄ってみた。
「ふわぁ~~!」
誰も居ないのに無駄に可愛らしい声で歓声を上げてしまうほどにそこから望む景色は素晴らしかった。
筆舌に尽くしがたいとはこのことではないですか?
私の居る場所からいびつな弧を描きつつ入り江をなしているその向こう側の崖。
数百メートルほど離れたその場所に遠目から見れば白い糸を引いているように見える大きな滝が存在していた。その滝は何と豪快にも崖の上から直接海に注ぎ落ちていた。その豪快さに、かなり離れているにもかかわらず落下による
……。
現実逃避終了!
いや、なんですあの高さ。あっちの岸壁とこっちの岸壁。高さはほぼ同じじゃん!
それってすなわち、あの高さを降りなきゃ下に行けないってことじゃん!
もうサイっテー!
周りの様子だってすごい。入り江の周囲は波で浸食された岩がそれはもう複雑に入り組んでて、そこに寄せてくる波が砕けて白い泡が飛び散りまくってるんですけど。
はぁ、仕方ない……。
岸壁沿いに辿っていけばそのうち標高も下がるに違いない。急がば回れ。無理してここから降りなくていいよ、たいしたことない、すぐ普通の海岸に変わっていくに違いないのです!
その言葉はフラグ。
そしてそれは何の解決にもなってないことに気付けよ
結局、小さな女の子の亀のような歩みでは、普通の海岸にたどり着くまでまるっと一日かかりました。
「海だー!」
白い砂浜。透明度の高い、透き通った水から沖に向かうにつれ青空を写し取ったかのように鮮やかで美しい青い色へと変わるホントに綺麗な海。
私は
んん、なんだろこの
「あ゛ーもう、あ゛~もうっ! だから、ここ海! この先ないよ、どーするのこれ?」
ずぶ濡れになった高級虎毛皮を脱ぎ捨て、真っ裸になったところで、はたと現実に戻りました。
いつから海岸にたどり着けばゴールだと勘違いしていた?
くぅ。現実とは残酷です。
どうしよう。北東は海。目的地はきっとその先。
――その日は浜辺で海の魚を取って栄養とした後、雑草寄せ集めベッドでふて寝した。波の音が心地よくって案外気分よく眠れた。
翌朝。
改めて辿って来たルートを振り返ってみれば、まるで空に向かって登っていくかのようなスロープ状の台地が目に入った。ちょっとかすんで見える。もう二度とあそこには行かない!
繰り言はこれくらいにして、この先どうしよう。
私は眼前に広がる綺麗な海を睨みつけつつ考える。思えばワイバーンは飛んできてるから海なんか関係ないんだよね。うーん、向こう岸は一応見えてはいます。ワイバーンだってそんなに長距離を飛べるような奴とは思えない。
っていうかです。ここからあちらを目指さなくてもだよ。このまま岸沿いに歩いていけば普通に陸続きかもしれない。いや、逆に延々海岸線が続いて……、ぶっちゃけここは島って可能性も有ります!
ああ、考えがループ!
スライム脳、記憶力はあっても思考力がもしかして……、残念なのかしらん?
すまん。おじさんの時からたいしたことなかった!
自虐はこれくらいにしよ、もう悩むのもメンドクサイし。
自分(スライム浸透特製ボディ)を信じて行くか? 行くしかないか! それとも
おい
馬鹿なことを考えつつも。
私は遠くに見える北東の目的地。人が居るであろう希望の地へと!
ふわふわ漂いながら、ついでに、たまには泳ぐ練習をしたりして向かうことにしました。
ふふっ、忘れてもらっては困ります。私ことスライム娘。生まれも育ちも湖の中。水の中こそ故郷。
女の子ボディに入居してからは人間らしく生きようと、
うーん、なんか私、いったい何を目指しているんだろう?
まあいいか。
ちょっと海なのでしょっぱいのが玉に瑕ですが。塩漬けにならないよう気を付けて、いざ海の旅!
***
などとなんの気負いもなく無計画に海に出て早半日。
変わらずのんびりふよふよと進んでいる。実のところ直線距離はたいしたことはなかったようだ。断崖絶壁と海に落ちる滝のインパクトに騙されたのは私です。
せいぜい二、三キロってところなんです。とっくに向こう岸についててもおかしくない。おかしくないんです。
はい、そう。
私、流されてる。
流されてるんですよ~う(涙)
北東に向かっていたはずが、いつの間にやら東南方向に流されてます。陸が両側に並行し、ずっと見えているこの様子。どうやらここって海峡なのか。これ、やばくない? このまま流されたら大海原へとご案内じゃないか!
ああ、半日前の自分を半殺しにしてあげたい。
海流という存在をなめてた。というか気にも留めてなかった。これはちょっと、気合い入れて本気で陸に向かって進まないとまずいよ。海でずっと漂う生活だけはなんとしても避けたい!
遅まきながら、なめた気分を引き締め、いざと気合を入れたところで、あざ笑うかのように急変してくるのが天気というもの。
見る見るうちに雲がわき、強い雨と雷まで伴った、すさまじいばかりの時化模様と化したのでした。
私ってほんと日本人だったころから間が悪い。
スライム娘になっても一緒みたいです――。
次は◆のターン!