スライムになった私が女の子の体を使ってどうにかなった話   作:あやちん

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うそでしょ?

 汚かった海も都市部から離れていくにつれ、ましになっていってくれたのでホッと一安心のスライム娘――、いや、今の姿を娘と言っていいか至極(しごく)疑問ではありますが、まぁ細かいことは置いておいて。

 

 今は人の姿をしていない、でも可愛いらしい幼女、ミーア十歳です!

 

 夜明け前に海に入り、大きく突き出た半島を越えてからはひたすら岸沿いを北上していくようなイメージで突き進んできたわけですが、一体今はどのあたりまで来ているのでしょう?

 スマホとか使えればアプリで位置や時間とか確認出来るのでしょうけれど、さすがにあれを持ってくることは(はばか)られました。あんなの持ってきたら色々情報だだ漏れになってしまうのは目に見えてますから。

 まぁそれ以前に私が茅野(かやの)さんの部屋でネット使って色々調べてたことだって筒抜けになってるに違いないのです。けれどそんなの気にしてたら情報社会である現代では何も出来ないのです。調べるなら好きにすればいいです。邪魔できるものならやってみろ! ってなものです。

 

 自重しない私に敵はないのです!

 

 ただし、魔力が潤沢(じゅんたく)にあれば……の話ですが。

 

 そういえば三精霊たちはどこに行ったのでしょう?

 空を飛んでる間は付かず離れずで側にいましたが、海に入った時点で離ればなれの行方知れずです。

 

 まぁ腐っても異世界の火、水、風の大精霊なのです、はぐれてもどうとでもなるでしょう?

 

 

***

 

 

 たまには外の様子を見てみようと海面にぷかりと浮かび周囲の様子を(うかが)えば、お日様が西に傾き出しています。あと二時間もすれば日が沈むでしょう。ここまでどれくらい進んだのか知るすべがありませんが、少なくともその辺の船よりは早い速度で移動してきたのは間違いないです。

 

 そろそろ目的地近くまで到達していると思うのですがどうでしょう?

 

 私はスライムセンサーを広範囲に広げ、魔力、まぁ今は放射線なわけですが、その残滓(ざんし)となるものを探ります。

 

 日本の原発は環境にうるさい世間の圧力に見事に応え、放射性廃棄物は極力抑えて排出しているはずですが、どうあがいたってゼロには出来ないのですから。

 

 半身を水中に沈め、移動速度も少々落として外の様子を確認しつつ、周囲の探知を続けます。

 

 

 お日様が水平線に届こうかという時間。

 

 

「みつけたっ!」

 

 

 ついにその反応を探り当てました!

 

 急ぎ海中に身を沈め、かすかに(つか)んだその反応のもとへと全速でもって突き進みます。

 くふふっ、これでようやく魔力確保できます。ここまでほんと長かったです。魔力を得るのにこんなに苦労をしなきゃいけないなんて……、ほんとあのクソ女神のやることときたら。

 

 いや、そりゃね、現代日本に帰ってこれたのも嬉しくないわけじゃないけれども!

 それでも帰り方というかね。

 

 スライム体のまま戻すなよっ!

 

 現代日本にですよ、ミーアの体があるとはいえスライム体のまま放り込まれてですよ、どう生活していけばいいんですか? って話です。この日本で、人と関われない、仙人みたいな暮らしを私はしたいとは思いません!

 

 はっ。

 

 こんなところで熱くなってどうするんですか、私。

 いけませんね、女神のことを考えるとどうしても気分が(たかぶ)ってしまいます、落ち着け私、自重自重。

 

 進むにつれてどんどん反応が大きくなってきたところで様子を窺うため再びぷかりと海面に浮かびます。

 

 おお、遠目からでも大きな発電施設があることが確認できます。

 防波堤っぽいのがにょきにょきと施設前の海を抱え込むように伸びていて、その奥に白い壁の大きな建物が幾棟も建ち並んで見えます。合間に高い塔もそびえ立っていて、いかにも発電所って様相を(てい)しています。

 

 さてあそこにどうやって侵入するか、ですが。

 

 そんなの決まってます。

 

 何のために海から来たのって話にもなりますが、もちろん移動が楽だっていうのが一番の理由ですが、副次的に排水口経由からの侵入にそのまま移行できるってこともあるのです。

 

 ミーアはちゃんと先のことを考えて行動できるすごいやつなのです!

 だてに中年サラリーマンしてたわけじゃないのですよ。

 

 さあ、早速侵入しようとスライム体をまたも水中に沈めようとした矢先、私のスライムセンサーがやたらでっかい魔力を察知します。急に反応が現れました。これほどの反応、どうして今まで気付けなかったのでしょう?

 

 っていうか、なんでこの日本近海で魔力反応?

 

 そりゃもう私は大困惑です。何しろ日本どころかこの地球上に魔力を持つ生き物とか居るはずないんですから!

 そりゃあ私だって地球全て(あまね)く確認したわけじゃありませし、絶対なんて言っちゃいけないのかもしれないですけど、ほぼ間違いなく居ませんよね?

 

 なんでウダウダ考えてる間にもその反応は私に向かって急速に近づいてきます。反応は水中からで、スライム的第六感がとてもとてもヤバい感を私に警告してきます。何しろ魔力反応の大きさが半端ないです。少なくとも今の私が脅威を感じるほどの魔力量です。

 

 ま、マジですか……。

 

 このまま水中に居ることに危機感を覚えた私はすかさずミーアの姿に変態し、同時に翅を展開し海中から一気に空へと躍り出ます。

 

 さらに飛び出た勢いそのままに高度を取り、自分が飛び出したばかりの海面を注視します。

 

 空中に出たというのに未だ魔力は感知できているというか、さっきよりさらに分かりやすいというか、もう肌で感じれるレベルになってきました。

 

「これもう、なんかヤバいんですけど! っていうか、この魔力の質、私知ってるんですけど?」

 

 誰かに聞いてもらえるわけでもないのに、私はそう(わめ)き散らさないとやってられない心境です。そう、この魔力の質は知っています。知っているというかこの魔力は私にとって日本に来る切っ掛けとなった因縁の相手――。

 

 

「災禍の凶龍!」

 

 

 まさかの奴が海中から空中に居る私に向かい、海を割りしぶきをまき散らしながら飛び出してきました。

 

 現れたのは特徴的な三本の長い首。

 海面から伸びる首の長さは三階建てのビルくらいでしょうか?

 

「むう、大きさはあちらで見た時よりも明らかに小さいです。それに、なんかちょっと……」

 

 魔力量にビビッて思わず空中に逃げ、いえ、飛び上がってしまいましたが、以前の凶龍に比べるとあまり凶悪な雰囲気が感じ取れません。以前は体中からおびただしい魔素が感じ取れ、口からはそれが溢れ出ていたものですが、それもない感じです。

 感じ取れる魔力の質は間違いなく凶龍のものですが、脅威ランクは相当劣ってるイメージです。

 

 凶龍の赤、青、緑色をした三つ首が上にいる私を確認すると、その(あぎと)を私に向け大きく開きました。頭の様相も以前に比べれば随分大人しいというか凶悪感が薄れ、すっきりした西洋ドラゴン風の面持ちが強く出た感じであり、東洋ドラゴン風味も抜けています。

 

 なんて少ない時間の中で考えてみたものの、こちらに害意を向けていることに変わりはありません。三つ頭それぞれ開いた顎から、相変わらず溜めもくそもない、いきなりの三属性ブレス攻撃を放ってきました。

 

「うっわ。いきなり三つ頭同時だなんて、もう!」

 

 私は愚痴りながらもヒラヒラそれをよけて、直撃から(のが)れます。雷撃も含まれているので、逃げるにしても気を使います。けれど動作が緩慢(かんまん)なこともあり当たる気はしません。見た目もそうですが、どうやら相手もまだまだ本調子ではない様子です。

 

 各属性のブレスを放った凶龍は、それを逃れた私の行方を確認すると、こちらに首を向け(にら)んできます。

 

 う~ん、首から下、胴体とかどうなってるんでしょう?

 

 以前の凶龍なら、魔素をまき散らすドラゴンヘッドイソギンチャク風襟巻(えりまき)をしていて、しかもその下は結局確認できず謎だったわけですが……。今のところ襟巻は確認できないし、そういう所からもまだ完全体とは程遠いように思えます。

 

「あれってやっぱ、あの三精霊たちがまた……ってことなのかな」

 

 考えたくはありませんが、先ほどの三属性のブレスといい、体色といい、そもそも災禍の凶龍のベースとなったのはあの三精霊です。

 

 この地球であれが出たとなれば、そういうことなのです。

 

「……バカ精霊。せっかく解放してあげたっていうのに、またこうなっちゃうなんて……、ほんと――」

 

 私は決して多くないスライム体を左右に広げた手からずりゅりと引き出し、そのまま海面から突き出す三つの首を覆いつくさんと放射状に広げ落とします。

 

 不思議なことに凶龍はそれを避けようとする素振りを見せません。

 夜空で花開いた花火が広がり、そしてしだれ落ちるかの(ごと)く、スライム体が凶龍の三本の首を覆いつくします。

 

 凶龍の三つ首と目が合います。

 その目からは狂気は感じ取れず、ただ寂しさだけが伝わってきました。

 

「だったらどうして?」

 

 そう思わずにはいられません。

 

 一緒に行動してた時だって、悪意や狂気を感じたことは一度たりともありませんでした。

 感じられたのはただただ、穢れのない好意。ただそれだけ。

 

 間違いなく懐いてくれていました。

 

「なのに、なぜなの?」

 

 スライム体は三つ首を完全に覆いつくし、更に海中にある本体にもその範囲を広げつつ浸透していき、魔力を奪い取っていきます。

 

 この魔力の源は、きっと私より先に発電所に到着した精霊たちが放射線を存分に吸収した結果得たものなのでしょう。私以外に存在を認識しえない三精霊ならば、私なんかよりもいっそう簡単にその行為に(およ)べたでしょうしね。

 

 

「くっそう!」

 

 

 私はどこにぶつけたらいいのかわからない(いきどお)りを空に向けて放ちました。

 

 

 そんな空に浮かぶ私の下、魔力を奪われすでに海中にその身を沈めた凶龍は、とうとうその巨体を維持することも出来なくなり、ボロボロと崩壊しだしました。以前の凶龍はその魔力、というか魔素を吸い出すのに七日以上かかりました。それに比べればいかに今回の凶龍のランクが低かったかということが(うかが)われます。

 

 

「三精霊だけでこんなことになるなんて……、そんなこと、あるわけ、ない」

 

 

 崩壊した凶龍の体。

 

 包み込んでいたスライム体の包囲網の中には何もない。

 体組織も何も残らない完全な崩壊――。

 

 そもそも異世界での、きっと魔獣ベースから成り立ったのであろう凶龍とは違い、物理的な存在ではなかったのだと思います。

 

 

 だから魔力がなくなった凶龍は跡形もなく消え去ってしまった。

 

 

 

 そして――、

 

 

 

 

 

 

 

 

 三精霊の存在すらそこには無かったのでした。

 

 





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