スライムになった私が女の子の体を使ってどうにかなった話   作:あやちん

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ありえない状況

 ――発電所安全管理部にて――

 

 

「部長! そ、外、外見てくださいっ、外っ!」

 

 構内の外回りを巡回中の一人から無線連絡が入ってきたのを皮切りに、他の人員たちからも続々と慌てた声で同じような内容でひっきりなしに連絡が入ってくる。

 

「何なんだ、一体?」

 

 俺もそうだが、周りで事務処理をしていた数名もその無線報告につられ、皆興味深げに窓際へと歩み寄る。

 

「少し沖の方です! あれヤバイ、ヤバいですって!」

 

 無線は相変わらず、続々入ってきていてスピーカーからのがなり声が非常にうるさい。

 

「うわっ、マジか~」

 

「と、特撮? 怪獣映画の撮影?」

 

「海上で、しかもあんなバカでかい実物大の特撮撮影なんてあってたまるかっ、ありえないだろ!」

 

 窓から外を見た安全管理部の部下たちが、驚きの声音で矢継ぎ早に感想を出し、ああだこうだと意見を述べ合っている。

 

「あれは現実なのか? ううむ、し、信じられん……。俺は白昼夢でも見ているのか?」

 

「部長! みんな見てるんです、夢じゃないですって! ど、どうしましょう、あれっ」

 

 皆、(そろ)いも(そろ)って浮足立っている。

 

 どうしましょうと言われても正直、我々であんなものをどうにかしようもないだろ……、というのが本音だ。だが、俺の立場上そんなことを口にするわけにもいかない。

 そういえば朝一で県警の方から、『原子炉周りの施設警備に不備がないよう、より一層の警戒をしてほしい――』なんて、よくわからない通知も来ていたが、まさかあれのことってわけではないよな?

 

 俺は背中に嫌な汗をかきながら西の空が夕焼けに染まる窓の先、海岸沖に見える現実離れした光景を見つめる。

 

 十数メートルはありそうな、巨大な生き物が、海面からその首を伸ばしている。そう、首だ。しかもそれは三叉に別れ、それぞれに頭がついている。

 

 その見た目はありていに言えば、竜。三つ首のドラゴンだ。首から下は海に沈んでいて、その様子を確認することは出来ない。

 

 信じられん。

 アニメや漫画じゃないんだぞ、ありえないだろ。

 

「と、とりあえずこのことを警察に連絡。総務部も当然わかっていると思うが、誰か連絡入れたか? しょ、消防にも通報した方がいいのか? 自衛隊に出動してもらうにはどうしたら――」

 

 相当混乱しているのは自分でも自覚しているが、こんな状況、落ち着ける方がおかしい。

 

「あれ? えっと……、周りに何か小さいものが飛んでます。うっそぉ、羽が生えた女の子みたいに見えるんだけど!」

 

 俺の言葉に被せるように双眼鏡を持ち出して外の様子を見ていた部下が叫ぶ。

 

「っていうか、あの子裸なんだけどっ! なんなのあれ。天使かなにか?」

 

「うわ、裸ロリ天使!」

 

「スマホであれ撮れるかな? ちょっと遠すぎて無理っぽいかも~」

 

「うわ、やっべ! ドラゴン口からなんか(はな)った! まじ怪獣みてぇ。女の子大丈夫なのか?」

 

「あれこっちにきたらマジやばくない?」

 

 皆がもう好き勝手に騒ぎ出し、収集がつかなくなってきている。窓から見えるその様子はまさに怪獣映画を彷彿(ほうふつ)とさせるような状況を呈していて、俺はもう言葉が出ない。構内の無線も相変わらずお祭り状態で、対応している担当者が泣きそうな顔でこちらを見てくる。

 

 とりあえず、今すぐこちらがどうこうなる感じではないが、とても楽観できる状況でもない。

 

 部下たちが騒ぎまくってるせいで逆に俺は冷静になってきた。部長の俺がしっかりしなくてどうする。

 数時間前に発電部の廃棄物管理課から、使用済み核燃料貯蔵プールの放射線量が異常に低下し、水温の低下も見られるとの一報も入ってきていて、それについての状況連絡会議にも出なきゃいけない。まぁ、そんな会議やってる余裕がこの後あるのかどうかわからんが。

 

 色々なことがこの数時間の間に起きている。

 

 四の五の騒いでもどうしようもなく、順番にやれることをやるしかないが……。

 

「あっ!」

 

「なんだあれ、半透明のキラキラした膜?みたいなの……、つか、めちゃでかいな! そいつがドラゴンを覆ったぞ!」

 

「なんだか綺麗~」

 

 ドラゴンと羽の生えた少女? の状況に驚くような変化が起こったようで、発電所内各部署からの連絡や、外回りの部下たちへの対応に追われていた俺も周りにつられ外を見る。部下が双眼鏡を用意してくれたのでその様子がよく確認出来る。

 

「見ろ、崩れてくぞ!」

 

「え、ドラゴンもうおしまい?」

 

「おいおいおいおい~、あれって、女の子がなんかしたって理解でいいのかよ?」

 

「あの膜がなんかやったのか?」

 

「ドラゴン消えていくね~」

 

「もうちょっと見てみたかった気もするなぁ」

 

「もう、そんなこと冗談でも言わないでよ~」

 

 部下たちも気が緩んだのか、会話にも余裕が出てきたな。

 俺は刻々と変化する状況に、正直ついていくのがやっとだが……。

 

 遠くから見ていてもわかる、異様な大きさをしていたドラゴンのような怪物。それがボロボロと崩壊するように崩れ落ち、我々の前から消え去りつつある。

 

「こ、これは……、とりあえず重大な危機は去ったと考えていいのか? 総務部はすでに緊急事態に対処する動きをとっているかもしれん、至急確認をとらなければならないな」

 

 あれほど現実離れした恐ろしい光景を見せていた外の様子は穏やかさを取り戻した。

 

 空には今までの出来事が嘘でなかったことを証明するように、羽の生えた幼い少女? が力の抜けた様子で空に浮かんでいる姿があるのみで、沈む夕日を受け、淡く輝く半透明な羽と共に寂し気な様子が妙に印象に残る。が、あれが今後どう動くのか? まだまだ予断を許さない。

 

 このまま何もなく済んでくれるといいのだがな――。

 

 

***

 

 

 まさかの凶龍の魔力を得たことで私の魔力量は爆上がりしました。

 代わりに三精霊の存在……が、代償となってしまいましたけど。

 

 得た魔力は早速スライム体増殖へと割り当てさせてもらっていますが、それでもまだ元の世界に戻るための魔力量としては足りません。どれだけ転移のために魔力が必要なんだって話ですが、足りないのなら足せばいいだけの話です。

 

 予想外の出来事で魔力を得られたとはいえ、元々ここへは自ら魔力を得るために来たのですから予定通り進めるだけのことです。

 

 さすがにあれだけ派手にやるとあっちからも見られてしまったようで、ちょっと発電所周辺が騒がしくなっています。増量の成果で感度の上がったスライムセンサーにビンビン反応が上がってきます。

 

 ですが、まぁ気にしないで突入してしまうことにしましょう。

 

 とは言ってもわざわざ目立つ必要はありません。余裕ができたので飛びながらの光学迷彩だって余裕! もう水中進まず、姿を消しつつこのまま飛んで行っちゃいましょう。

 

 

 夜の(とばり)が下りると共に私は発電所の施設内に堂々と降り立ちました。当初は水中から排水口とか通ってこっそり侵入しようかと思っていたのですけれど、あれだけ騒いだ後です。もうどうでもよくなってしまいました。

 

 手早く済ませ、おしまいにしたいと思います。

 とは言っても光学迷彩をやめたりするほどの目立ちたがりでもありませんけれどね。

 

 見つかったら見つかった時。

 見つからなかったらラッキー。

 

 そんな心づもりで行きたいと思う、今日この頃です。

 

 目指すは原子炉!

 もうダイレクトにそこを目指します。

 

 使用済み核燃料貯蔵プール、なんなら排水からでも吸収は可能でしょうけれど、もうそんなまどろっこしいことはいいです。

 

 場所はネットでも大体わかってますが、それ以上にスライムセンサーからくる魔力、いえ、放射線反応でいやでもわかります。

 

 行きましょう。

 

 

***

 

 

 ――発電所発電部にて――

 

 

「お、おい、これどう思う? なんで急にこんなこと……」

 

「そっちもか、こっちもちょっと変なんだ」

 

「どうした? 私語はやめて、すぐ報告しろ」

 

 部下たちが計器を見ながら議論を始めている。少々緊張感に欠けているように思え、私は苦虫を(つぶ)したような気持になる。つい先ほど、発電所の目の前の海岸沖でまか不思議な出来事が起こったばかりだというのに……。

 

「あ、はい。たった今ですが、原子炉炉心の放射線量の減少、あととそれに伴う若干の水温低下が認められましてですね……」

 

「こちらは、蒸気圧力が不安定になってきています。今のところ発電出力に影響が出るには至っていませんが、このままだと……」

 

 なんだとぉ!

 

「それは悠長に議論している問題ではないだろう! 私は関係各部署に連絡を入れるから、君たちも早急に原因を究明しろ。緊急停止する事態になってからでは遅い。だが場合によっては――」

 

「なんだあれ!」

 

「うそ、だろ?」

 

「冗談きつすぎ……」

 

 な、何だ?

 みんな急にどうした?

 

 皆の視線は一点に集中している。そこは原子炉の様子を見るためのモニターが並んでいる。

 私もそれにつられそちらを見る。

 

 皆が皆、その光景を見て絶句し、その場の空気が凍り付いた。

 

「あ、あり、えん……」

 

 原子炉を収めている原子炉圧力容器。それが収められている原子炉格納容器。それは運転時に外部から人が入れるところでは決してない。

 そもそも原子炉建屋内に入られている時点で論外なのだが、それ以前に、人が、生きている人間が、容器内の圧力抑制プール内にいるという状況。そんなことはあってはならず、あるはずもないことなのだ。

 

 その絶対あるはずのない状況に私、そしてその場にいる全員が言葉を失ってしまう。

 

 

「ど、どうして……、どうやって女の子がそんなところに……」

 

 

 その小さな女の子は、青白く見える透き通った水で満たされたプールにその長い髪をゆらめかせながらも原子炉にその細い腕を伸ばし、手のひらを容器外郭に添えたまま微動だにしない。

 

 

 私は、かすれた声でそう絞り出すのがやっとなのだった。

 

 






発電所、原子炉などについての描写は完全創作ですので実際のものとは色々ことなります。突っ込どころも多いかもしれませんがご容赦いただけると幸いです^^;
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