スライムになった私が女の子の体を使ってどうにかなった話   作:あやちん

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騒動と決着

 大塚警視からの突然の指示により私と三木警部、それに森久保君はわけがわからないまま、航空自衛隊の基地まで(おもむ)くことになった。

 

 ワンボックス車で基地へ移動する際、大まかな説明を警部から受けた私や森久保君は言葉を失うほど驚いてしまった。

 

 要約すれば、関東圏で唯一の原子力発電所の沿岸部に空想の生き物であるドラゴンのような巨大生物が出現し、しかもそのドラゴンの周りに小さな物体がで飛び回っていて争っているように見えるとの話。

 ドラゴンは海面から見える部分だけでも身の丈二十メートルほどはあったそうで、頭も三つあり、その口からは何かしらを吐き出すことまでしていたみたい。

 

 なにそれ?

 まるで怪獣映画じゃない。

 

 発電所から県庁や警察など行政への通報はあったものの、関係部署が動きだすまでに多少時間差があったようで、だけどそれも致し方ないことかも。

 

 だって、海上にドラゴンが現れただなんて、にわかには信じられないと思うから……。それでも今どきはスマホやSNSで事件や事故などもすぐネットにさらされたりして、驚くほど早く映像として確認も出来てしまうこともあり、半信半疑ながらも動き出しはしたらしい。

 

 まぁ、それと私たちが今こうして自衛隊基地へ向かうことになっているのは別口らしいんだけどね。

 

 どうやら友好国の在日軍が国に働きかけ、なぜか私たちに自衛隊基地に来るよう召集がかかってしまったらしい。どうして私たちに? って疑問しかなかったんだけど……、

 

「ええっ、ミーアちゃんが?」

 

「そうだ、ドラゴンのまわりをうろちょろ飛び回っていた物体。――あれの映像を拡大して確認したところミーアで間違いないと断定された」

 

 自衛隊を通し連絡してきた在日軍の士官からの情報らしいんだけど、なんであちらの軍隊がミーアちゃんのこと知ってるの? どうしてそんな映像を在日軍が持ってるの? って思ったけど、そういえばミーアちゃんが急に居なくなった一番の要因はあちらのなんらかの専門機関へ身柄を引き渡す件であったことを嫌でも思い出す。そこと在日軍が通じ合っていてもなんらおかしくない。

 

「ミーアのことならもう何を聞いても驚かないと思っていたが……、どうやら背中から羽を伸ばし、自在に空を飛び回っていたようだ。しかもあろうことか、その場に出現した巨大なドラゴン、そいつをミーアがどうにかして消し去ってしまったらしい」

 

 は?

 な、なにそれ?

 

 私は自分の耳を疑ってしまったけど、警部のそれからも続いた説明で信じざるを得ないということは理解した。

 

 いや、納得なんてとてもできないけど……。

 でも結果としてドラゴンは居なくなった? んだから信じるほかないんだけど。

 

「だが話はそれで終わりじゃないらしい。俺たちが呼び出された理由もそこにあるようだが、その先は俺もまだ教えてもらっていない。どうにも嫌な予感しかしないが、上からの命令だ。聞かないわけにもいかん」

 

 そんな説明を聞きながら私たちは航空自衛隊の基地へと到着し、そこから自己紹介や状況説明もほとんどないまま、あれよという間に自衛隊の大きな輸送ヘリに乗せられて空の人となったのだった。

 

 

***

 

 

 発電所の管理をしてるだろう部屋に案内というか、連れてこられた私たちは、在日軍の偉そうな軍人が指し示すモニター群を見て、今日何度目になるかもしれない驚きにまたも言葉を失った。

 

「ミーアちゃん……、う、うそでしょ……」

 

「なんだこれは? そんなこと、あり得るのか?」

 

 ここまで連れてこられる中で自衛隊の人から説明を受け、わかってはいたものの……それでもその目に映る光景は余りに衝撃的だった。

 

 

 ミーアちゃんは全身から青白い光を発しながら、巨大な金属の塊、原子炉? に手を添えた状態で(たたず)んでいた。一体何をしているのか全く理解できないし、そもそもどうやってあそこに入ったのか想像も出来ない。

 

 っていうか、人が、生身であんな中に入っていいはずがない。

 

「こ、呼吸は? あんなところ窒息しちゃうんじゃ? そ、それに原子炉だなんて……放射線とか……ああ、だ、だれか早くあの子をあそこから出してあげ――」

 

「そう、我々もそれを望んでいる。素晴らしい意見の一致だ」

 

 そんな言葉と共に私はその偉そうな軍人に背中をぐいと押されました。

 

 警部や森久保君がかばってくれ、自衛隊の人もその行為に注意してくれてるけど、そんなことはお構いなしに私はミーアちゃんが映っているモニターの直前まで押しやられた。

 

「ミーアちゃん……」

 

 モニターを見ながらぼそりとつぶやいた私の言葉にミーアちゃんが反応した。普通なら聞こえるはずもないのに、まさかの反応があった。

 

 ――私はミーアちゃんを懐柔(かいじゅう)し、大人しく言うことを聞くよう言い聞かせるようにと依頼されていた。その時の私は訳も分からず、再び顔を合わせられるのなら……と、うんうん頷きながら聞いていたけど、今さっきのえらっそうな軍人の態度を見て、それがミーアちゃんにとっていいことだとはとても思えなかった。

 

 だからついこう言ってしまった。

 

「ミーアちゃん! あなたが誰で、それにどこから来たのか、結局わからないままだし、何をやろうとしてるのかも知れないけど。でもね、忘れないで。私はあなたを犠牲にしていいなんて思ってないから――」

 

 案の定、軍人が怒ってきたけど構わず続けた。

 

「だから、あなたの思う通り、やりたいようにして! ただ、ただね、出来れば世の中の人たちに影響が出ないよ、きゃっ」

 

 

 私の言葉を(さえぎ)ろうとした、えらっそうな軍人に後ろから引き倒された。

 勢い余って尻もちをついてしまった私。

 

 

 その時それは起こった。

 

 

 部屋の至る所から何かキラキラした透明なもの、一見すると水にしか見えないものが(にじ)み出てきた。

 

 それは見る見るうちに足元一面に広がり、更に天井からもまるでツララのように下がり落ちてきて、それの落ちる先には在日軍の人たち。一番の標的? になっていたのは私を引き倒したえらっそうなやつだった。

 

「な、何だこれは? くっ、水、いや、まるで意志を持っているかのように動いている! おいっ、軍曹なんとかっ」

 

 えらっそうな軍人、たしか大尉さんだったと思うけど、部下の人たちに何とかさせようとアタフタしてたけど、残念ながら部下の人たちも状況は同じ。みんな滲みだしてきたキラキラした動く水に自由を奪われ、ついには立っておられず床にへたり込みだし、それにより更に身動き取れなくなってしまったみたいだ。

 

 私たちはと言えば、自衛隊やここの職員の人も含め、その謎の現象の標的にはなってなくて、みんな無事。

 

『パパンッ』

 

「きゃっ」

「ひいぃ~」

「ばかな、こんなところで発砲だとっ」

 

 び、びっくりした!

 

 慌てた軍人の誰かが携帯していた拳銃を発砲したみたい。急な状況変化に慌てたんでしょうけど、こんなとこで銃を撃たないでよ!

 

 ここ原子力発電所を制御してる部屋なんでしょ?

 壊れちゃったらどうするのよっ!

 

『パパン、パパパンッ』

 

 そんな私の文句なんてどこ吹く風で、他の軍人もやみくもに撃ち出してしまった。

 

 私たちはいつ流れ弾や跳弾に襲われるかとひやひやし、体を(ちぢ)こまらせて撃ちやむのを待つしかない。

 

 ただ、そんな心配は杞憂(きゆう)だった。

 

 撃たれた銃弾は全て謎のキラキラ物質に当たった瞬間、衝撃など無いかのように包みこまれ、銃弾は無力化されてしまった。更には撃っている軍人の銃もキラキラに包み込まれあえなく使えなくされてしまった。室内設備もすでにキラキラに(おお)われていて、そのおかげか銃弾による被害が出るには至っていないみたいで良かった。

 

「何ということだ。まさかこのようなことまで出来るとは。おい、おん……ミス茅野(カヤノ)! 君からあの化け……、いやミーア君にこの拘束を解くように話を通してくれたまえ。先ほどの態度は私としても軽率だった。わが軍としてもこの先悪いようにしないと保証す――」

 

 やっぱりこれはミーアちゃんがしていることなのかな?

 

 キラキラに包み込まれ動けなくなった大尉さんがいまさらなセリフを言ってきたけど、そこでまたびっくりする出来事が起こった。

 

「お姉ちゃん! だいじょうぶ?」

 

 へ?

 

 目の前にミーアちゃんがいる!

 その状況に私の頭がついていけない。

 

「お姉ちゃん、どっか痛いの?」

 

 はっ、いけない。しっかりしなきゃ。

 

 そうそう、これって確か転移。転移ってやつだ。研究所でやって見せてくれてたじゃない。

 

「おおっ、ミーア君。ようやく会うことが出来た。さあ、話し合おうじゃないか。先ほどのミス茅野への非礼は()びよう。どうだろう、まずはこの拘束をといてもら……」

 

「うるさい! おまえ嫌い、黙れ。氷の(おり)、アイスケージ!」

 

 ミーアちゃんが二言三言、何かをつぶやいたかと思ったら、床に()いつくばっていた軍人たちがまるで雪の結晶に覆われたかのように次第に白くなっていき、ついには氷のように固まり、ピクリとも動かなくなってしまった。

 

 今までも不思議で目を疑うような出来事をさんざん見せられ、十分驚かされていた私たちだったけど、その仕打ちを見てただただドン引きするほか無かった。

 

「み、ミーアちゃん? そ、それ、死んじゃったのかな?」

 

 私に抱き着いてきたミーアちゃんの頭を撫でながら、恐る恐る聞いてみる。さすがに殺してしまっては眼ざめが悪いし、いくら扱いがひどかったとはいえ、友好国の軍人さん。国際問題になりかねない。

 

「だいじょうぶ。仮死状態? なってるけど死んでない。時間たてば元戻る。……血のめぐり止まっちゃってパーになっちゃうかもだけど――知らない」

 

 なんだか恐ろしい言葉がちょっぴり聞こえた気がしたけど……、き、気にしないことにしよう。

 

「ミーアちゃん、もう私何が何だかわからないけど……、とりあえずまた会えてよかった! 何も言わず居なくなっちゃうんだもの、ほんとにもう」

 

 私は胸元で上目遣いに私を見てくるミーアちゃんを改めてぎゅっと抱きしめた。相変わらず小さくて華奢(きゃしゃ)な体。淡い紫の髪に色白を通り越して青白く見えてしまう肌で、(はかな)げな印象すら抱かせる女の子。

 

 こんな子がさっきまでの騒ぎを起こしてただなんて信じる方が難しいくらい。

 

 でもそれは夢でも幻でもなく、現実に起こったこと。

 顔を上げ、周りを見回せば氷漬けの軍人が哀れに床に転がっていて、物言わぬ氷像と化している。部屋中を(おお)っていたキラキラはいつの間にか消えていて、床も普通に戻ってる。

 

「ごめんね、お姉ちゃん……」

 

 ミーアちゃんが短くそう答え、私の胸に顔をうずめた。

 私はそんなミーアちゃんの柔らかな髪をすくように、その感触を確かめるようにして優しく撫でてあげる。ミーアちゃんはその小さな手でぎゅっとしがみついてきて、おかげで可愛いすぎて萌え死ぬかと思った。

 

 

 

 そんな私たちの周りで発電所の職員さんがなにか計測機器を持ち出して来て、恐々(こわごわ)とした様子でその数値を確認し、驚きの表情を見せていた。

 

 

「許容範囲内の数値だ。信じられない……、さっきまで原子炉格納容器内にいたはずなのに。それなのになぜ?」

 

 そんな言葉が聞こえてきたし、警部や森久保君も何か言いたそうにしてるけど無視。

 

 

 いましばらくはミーアちゃんとの再会にひたらせてほしい。それがたとえ……、

 

 

 

 

 つかの間の時間に過ぎないのだとしても――。

 

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