結城勇太は勇者である   作:モンハン太郎ゆゆゆスキー

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第十三話 不穏な気配

 宿に戻ってきた俺たちは、とりあえず安芸さんを布団に寝かせた。そして安芸さんを起こしてしまわないよう、小学生三人の勉強を俺の部屋でみることになった。

 

「はい、それじゃあ授業を始めたいと思います。今からやる科目は算数で、分数の乗除、つまり掛け算割り算についてやっていきます」

 

「はい兄ちゃん!」

 

「先生と呼んでくれ!」

 

「はい兄ちゃん先生!」

 

「三ノ輪銀ちゃん!」

 

「勉強はなしにしませんか⁉︎」

 

 先生と呼ばれるのも良いものなんだなぁ。兄ちゃん先生の破壊力やばいな。意識飛びかける。

 

 銀ちゃんが勉強をすることに対して進言してくる。勉強したくないんだろうなぁ。微笑ましい。しかし俺は心を鬼にして勉強をすることを告げる。

 

「そういう訳にもいかないんだよね。まぁ、出来る限り簡潔に教えるから」

 

「ちぇっ、ま、頑張りますか」

 

「zzz……」

 

「マイペースね乃木さん……」

 

「とりあえずこのプリントに取り組んでみて。それで分からないところがあれば言ってね」

 

「兄ちゃん先生、たったの4問しかないけどいいの?」

 

「うん、掛け算割り算ともに基礎と軽い応用の問題を一問ずつ用意したからね。全問正解したら終わりだよ。……おかわりが欲しければすぐに作るよ?」

 

「いやー、4問頑張るぞー! 早く終わらせよー!」

 

 早いとこ勉強を終わらせて、みんなで昨日買ったアレを食べたいな。そのために、銀ちゃんには少し頑張ってもらわないとな。

 

「ふぇっ、おかあさん、起きてるよ〜……」

 

「乃木さん……」

 

 寝ぼける園子ちゃんとそれを見て呆れている須美ちゃん。俺は園子ちゃんに声をかける。

 

「ほら、園子ちゃん。4問解いたら自由時間だから終わらせちゃいな」

 

「ふぁ〜い……。……シャキーンなんよ〜!」

 

「うおっ、切り替え早いなー園子」

 

「……兄さん、採点お願いします」

 

「はーい、えっと、丸、丸、丸、丸、総じて花丸っと! 全問正解、すごいね。おめでとう、自由にしていいよ」

 

 園子ちゃんがバッチリと目覚めた直後、問題を解き終えた須美ちゃんがプリントを提出してきた。結果は全問正解、優秀。

 

「はい。兄さん、お茶を淹れて来ますね」

 

「うん、ありがとう。二人の分も頼んでいいかい?」

 

「はい、ただいま」

 

 自由にしていいと伝えると、お茶を用意してくれるらしい。アレとお茶の相性はバツグンだからめちゃくちゃ楽しみだなぁ。

 

「終わったんよ〜!」

 

「はい、全問正解。流石だね」

 

「えへへ〜、嬉しいんよ〜」

 

 その少し後に園子ちゃんも問題を解き終える。採点結果はもちろん全問正解。少し難しめにしたんだけどな。

 

「うげ、二人とももう終わったのかよー」

 

「銀ちゃん、後一問じゃん。頑張っちゃいな。終わったらご褒美があるから」

 

「マジで⁉︎よっしゃ、やる気出てきた! ……よし、これでどうだぁ!」

 

「丸、丸、丸、丸。全問正解! おめでとう、これで自由だよ」

 

 銀ちゃんも全問正解、ちゃんとみんな勉強出来るんだねぇ。関心関心。そんなことを考えていると、須美ちゃんが戻ってきた。

 

「兄さん、乃木さん、三ノ輪さん、お茶を淹れてきました」

 

「ありがとう。それじゃあ、はい、勉強お疲れ様」

 

「これは……?」

 

「この辺りにある老舗和菓子店の桜餅。俺の好物の一つなんだ。五個買ってきたからみんなで食べようよ」

 

「いただきまーす! ……んー! 美味い!」

 

「いただきま〜す。……美味しいんよ〜!」

 

「いただきます。……これは、皮の柔らかさ、餡の硬さ、そしてそれぞれの味の調和が織りなす究極の美味!」

 

「気に入ってもらえてよかった。……うん、美味いな。あっ、お茶美味しい」

 

 三人に桜餅を渡し、食べ始める。美味い。小学生の頃に弟子入りしたのは間違ってなかったな。師匠、元気だったなぁ……。パワフルおじいちゃんって言葉がぴったりすぎる。

 

 閑話休題。そこからは三人と話しをしたりトランプをやったり、外に出て軽く模擬戦をやったりして、いつのまにか夕方になっていた。

 

「んー、いい時間だね。そろそろお風呂に入ってきなよ」

 

「うわ、もうこんな時間になってたんだ」

 

「そうですね、お風呂に入ってきます」

 

「おに〜ちゃんはこれから何するの〜?」

 

「日記を書いて、俺も風呂に入るかな」

 

「日記を書いているんですか?」

 

「うん、最初は面倒だったけど慣れてくると楽しいよ。気が向いたらやってみな」

 

「うへぇ、アタシは無理だなー」

 

「私はやってみようかな〜」

 

「まぁ、お風呂に入ってきな」

 

「「行ってきまーす!」」

 

「行ってきます」

 

「はい、行ってらっしゃい。……さて、日記書いて安芸さんを起こしに行くかな」

 

 ◇◇◇

 

 日記を書き終え、安芸さんの部屋の前に着くと扉が開き、安芸さんが出てきた。

 

「おはようございます、安芸さん」

 

「……えぇ、おはよう。乃木さん達は?」

 

「さっきお風呂に行かせました。多分満喫してますよ」

 

「そう。……私も入ってくるわね」

 

「ごゆっくり。まぁ、俺も入りに行くんですけどね」

 

「なら、一緒に行きましょう」

 

「はい、お供します」

 

 そう言って風呂に向かって二人で歩き始める。会話があまり起きなかったが、不意に安芸さんが言った。

 

「……私は、乃木さん達を失いたくない」

 

「俺も同感です。あの子達は絶対に守り抜きます」

 

「でも、無理だけはしないで。私の失いたくない人の中に、あなたも入っているのよ。勇太くん」

 

「……! はい、任せてください。絶対に守り抜いて、尚且つちゃんと帰ってくるので」

 

「頼むわね。それじゃあ、また後で会いましょう」

 

「はい、また後で」

 

 ◇◇◇

 

 そんなこんなで入浴後、五人で夕食を食べ、部屋に戻ってスマホゲームに勤しんでいた。気がつけば、もう十時を過ぎていた。

 

「そろそろ寝るかなぁ。よし、寝よ」

 

 俺は布団に入ってゆったりと呼吸をする。すぐに寝るための技だ。あっ、ほら、もう眠気がきた。そんなことを考えながら、俺は意識を手放した。

 

 ◇◇◇

 

「……久しぶりにこの夢を見たな。やっぱり銀ちゃんだよな、あの子は」

 

 夢から覚めた俺は独りごちる。

 

「絶対にやらせない」

 

 あんな光景、見たくないし見せたくない。銀ちゃんが死んでしまうのは認めない。……もっかい寝るのはすぐには無理だなぁ。少し、空でも見るとしようかな。

 

「……」

 

 俺は星空に魅了され、何も言えなかった。その直後に部屋の扉がノックされた。こんな時間に誰だ? そう思い、扉の覗き窓を覗き込む。するとそこには、枕を抱え、ニワトリのパジャマを着た園子ちゃんが立っていた。顔には焦燥が浮かんでいる。すぐに扉を開けて、話しを聞く。

 

「園子ちゃん、どうかした?」

 

「おに〜ちゃん、あの、あのね……」

 

「……とりあえず、中に入ってお話ししよう。ゆっくりでいいから、俺に話してくれるかい?」

 

「……うん、うん」

 

 俺は胡座をかき、園子ちゃんを足の上に座らせて、園子ちゃんが落ち着くまで頭を撫で続ける。

 

「……ありがとね、おに〜ちゃん。少し落ち着いたんよ……」

 

「そっか、それは良かった」

 

 俺は園子ちゃんから手を離し、しっかりと園子ちゃんの目を見る。……うん、ちゃんと落ち着いたみたいだな。

 

「……私ね、怖い夢を見たの」

 

 怖い夢? まさか俺が見たのと同じか? もしそうならあの焦り具合も頷ける。

 

「どんな夢か、聞いても?」

 

「……死んじゃう夢。お兄ちゃんが、死んじゃう夢……! ミノさんもわっしーも怪我がすごくて、お兄ちゃんが一人で戦って、それで……。うわああああああん!」

 

 そこまで言って泣き出してしまう園子ちゃん。俺は園子ちゃんを抱きしめ、頭を撫でながら言葉をかける。

 

「そっか、それは怖い夢を見ちゃったね。でも大丈夫、大丈夫だよ」

 

 優しく語りかけ、抱きしめる力を少し強める。心なしか園子ちゃんの抱きしめる力も強くなる。

 

「大丈夫、大丈夫。三人は死なせないし、俺も死なない」

 

「……うん」

 

 俺が見たのとは違って、死んでしまうのは銀ちゃんじゃなくて俺とのこと。園子ちゃんは俺に必死にしがみついて泣いている。俺は園子ちゃんを撫で続ける。

 

「……寝付いたかな?」

 

 すぅ、すぅ、と規則正しい寝息が聞こえてくる。どうやら眠りに落ちたらしい。とはいえこのままだと園子ちゃんの身体に負担がかかってしまう。俺にできることは園子ちゃんを布団に寝かせて、手を握ってあげることくらいだった。

 

「今回の件は、流石に許さないよ。神樹様」

 

 園子ちゃんがいくら芯を持っているとはいえ、まだ小学六年生の女の子なんだ。そんな子にあんな悪夢を見せるのは、許せないな。俺は園子ちゃんの涙を人差し指で拭い、手を握り続けた。

 




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