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さて、ここからは頼れる兄貴となろう。そう意気込んではや数分、俺は、微笑ましい光景を目にし、可愛いなぁと思っていた。俺は表情筋が緩むのを本気で防いでいたが、少し緩んでしまい微笑みを浮かべていた。
「え、えっと、今日という日を無事に迎えられたことを、えー、大変嬉しく思います。えっと、ほ、本日は大変お日柄も良く、神世紀二百九十八年度勇者初陣の祝勝会ということで、お集まりの皆様の今後ますますの繁栄と健康、そして明るい未来をおいn……」
「かたっ苦しいぞー、かんぱーい!」
「はい、かんぱーい」
緊張しながらも開会の挨拶をする須美ちゃん。緊張によるものなのか須美ちゃん自身の性質なのかなかなかに固い挨拶を披露する。そこを銀ちゃんが年相応の、いや、銀ちゃん流の開会の挨拶、『かんぱーい』を披露する。それに乗っかる俺。園子ちゃんは微笑みながら二人を見ている。それにしても銀ちゃん、ジュースの飲みかた可愛すぎか?
「ありがとうね、すみすけ」
「……?」
「私もね、すみすけを誘うぞ誘うぞって思ってたんだけど、でもなかなか言い出せなかったから、すごく嬉しいんだよ〜!」
「うん、鷲尾さんから誘ってくるなんて初めてじゃない?」
「実はそうなんだよ〜!」
「合同練習も無かったしなー。なのにアタシら、初陣よくやったんじゃない?」
「ね〜。私も興奮しちゃって、ガンガン語りたかったんだよ〜」
園子ちゃんがそう言うと、須美ちゃんは少し暗い顔をしながら開会の挨拶の書いてある紙を折りたたみ座った。
小学生三人が話を始めた。同じクラスだったら簡単に会話に入れたんだろうなぁ……。ん、いや、ダメだ。同い年になってしまったら兄貴ムーブに支障が生じる。そんなことを思った直後、須美ちゃんが話し始める。
「私も……実はその、話をしたくて……二人と勇太さんを誘ったの」
銀ちゃんと園子ちゃんは笑顔で顔を見合わせていた。良い光景だ。かわいい。
……じゃなくて、話したいこととはなんだろうか。俺の考えていたものだったら、俺は少し須美ちゃんのことをみくびっていたことになるなぁ。
「私ね、二人のことをあまり信用してなかったと思う。勇太さんもそう。……でも、それは二人のことが嫌いとかそう言うのじゃなくて! ……私が、人を頼ることが苦手で……」
「すみすけ……」
「でも、それじゃダメなんだよね。一人じゃ……私一人じゃきっと、何も出来なかった。二人がいて、勇太さんもいたから……。あの……だから……その……これから私と、仲良くしてくれますか⁉︎」
御役目で俺が感じた自分一人で戦おうとする欠点を理解して、それを受け止めた。最近の小学六年生ってすごいんだな。それと、
「もうすでに仲良しだろ?」
「え……」
「嬉しい! 私もすみすけと仲良くしたかったんだ! ほら、私も友達作るの苦手だったから」
二人とも良い子だから、仲良くなれない訳がない。会って数十分の俺ですら良い子だと思うんだから。そんなことを思っていると、いつのまにかあだ名会議がおきていた。
「乃木さん……」
「すみすけも同じ思いだったんだ〜、嬉しいな〜、すみすけ〜」
「あの、乃木さん……」
「は〜い!」
「その、いつの間にか言ってるすみすけっていうのは何……?」
「あ〜、いつの間にかあだ名で呼んでた〜」
「自覚なかったのかよ……」
「う、嬉しいけど、その……それ、あまり好きじゃないかな」
「じゃあ、ワッシーナは⁉︎アイドルっぽくない?」
園子ちゃんはあだ名で呼びたいんだな。そんなすぐにあだ名をつけられるのは才能だな。……まぁ、気に入られるかは別として。
「もっと嫌よ」
「え〜」
「乃木さんもソノコリンとか嫌でしょ?」
一瞬にしてソノコリンという返しを思いつくなんて、須美ちゃん……さては天才だな? ていうか園子ちゃんにそれは逆効果じゃあないか?
「わぁ〜、素敵〜」
「ごめんなさい、忘れて」
どうやら園子ちゃんにはストライクだったようで、目をしいたけみたいにしている。それを見た須美ちゃんは困ったように言っていた。次の瞬間、園子ちゃんが新たなあだ名を考案する。
「あっ、閃いた! じゃあ、わっしー! どう?」
「うーん……まぁ、それでいいかな」
「〜! よろしくね! わっしー!」
「う、うん」
折れたー。園子ちゃんの期待に満ち溢れたしいたけeyeに敗れました! 鷲尾須美選手、これよりわっしーと呼ばれることになります!
「よし、じゃあアタシのことは銀って呼んでよ! 三ノ輪さんはよそよそしいなー」
「そうだね〜」
「え、えーっと……」
園子ちゃんは受け入れられたが銀ちゃんはまだ無理そうか。ま、これから慣れていけば良いだけの話だからな。
「あははははは、まあいっか。よーし、それじゃあ今日という日を祝って! みんなでここの絶品ジェラートを食べよう!」
「……へ?」
「いいね、買いに行こうか。好きなの頼みなよ。お代は俺が持つから気にしないで。あと、俺のことは気にしなくて良いよ。初対面の人だから、仕方ないことだよ。それと、仲良くなるのは大歓迎だよ」
そろそろ会話をしたかった俺は銀ちゃんの提案にいち早く便乗し、頼れる兄貴ムーブをかます。とりあえずジェラート買った後に会話して仲良くなろう。それで兄貴に認めてもらおう。須美ちゃんへのフォローも忘れずに。
「やったー!」
「ありがと〜」
俺は立ち上がり、三人を見て言った。銀ちゃんと園子ちゃんはすぐに喜び、礼を言ってくれた。須美ちゃんは少しの間ぽかんとした顔をしていた。が、すぐに普通の顔に戻った。とても良い目をしている。御役目の時とは違う、自分を見つけた目だ。ここから人を頼ることを覚えていってくれればいいな。
そんなことを考え、口に含んだコーラの甘さを感じながら、何味を買おうか悩んでいると、
「……はい!」
わお、須美ちゃん良いお返事。
◇◇◇
「さて、三人共。俺は三人をどう呼べばいい?」
ジェラートを買い終え席に戻った後、俺は話したかったことを切り出す。
「アタシは銀で!」
「ん、じゃあ銀ちゃん、よろしく」
「ハイ!」
「園子ちゃんは?」
「私はそのままで良いんよ〜」
「了解。よろしくね、園子ちゃん」
「は〜い」
「須美ちゃんは?」
「お好きなように呼んでいただければ……」
「ワッシーナちゃんって呼んでも良いの?」
「それは! 意地が悪いです……」
「ごめんごめん、須美ちゃんで良いかい?」
「……」
ちょっとの悪戯心が顔を出し、意地悪をしてしまう。少し拗ねた様子で、コクリと首を小さく振る須美ちゃん。見てて可愛いっす。意地悪してごめんね。
「それじゃあ須美ちゃんも、よろしくね」
「……はい」
「敬語じゃなくて良いよ。さっきも言った通り、俺を兄と思ってくれ!」
「んー、じゃあ普通に兄ちゃんかな!」
「素晴らしい」
「私はおに〜ちゃんって呼ぶよ〜」
「それもまた素晴らしい」
銀ちゃんと園子ちゃんのそれぞれ違う兄の呼び方、なんと素晴らしいのだろう。心が揺れる。
「……勇太大佐。」
「え?」
「お、おにいちゃん……」
「…………………………」
今、何が起きた。須美ちゃんのお兄ちゃん呼びが可愛すぎて0.001秒意識を失った。これは、対年上用大量虐殺兵器『戸惑いながら上目遣いでお兄ちゃん呼び』だ。この俺でさえも意識を刈り取られるとは。
「ゆ、勇太さん……?」
もう一度聞かねば。
「もう一回言ってくれるかい?」
「え……?」
「さあ!」
「何をしてんだバカ兄ちゃん」
「ぐはぁ」
銀ちゃんによるチョップが脳天に突き刺さる。やばいな、兄ちゃんと呼ばれながらのチョップで幸せな気持ちになってきた。……これが修学旅行のときに春信が言っていた妹欠乏症か。今まで発症していなかったというのに何故いきなり。
「須美が可愛いのは分かるけど、小学生に迫る高校生ってどうなの?」
「かっ、かわっ⁉︎」
可愛いと言われ照れる須美ちゃん。言われ慣れてないんだろうな。小学生くらいなら可愛いとかは言い合ってそうだけど。きっと周りの子は、須美ちゃんが真面目すぎて近寄り難いんだろう。間違いなく話をしてみれば仲良くなれると思うんだけど。
「確かに。ありがとう、銀ちゃん」
「へへっ、どういたしまして!」
「わぁ〜、ミノさんとおに〜ちゃん兄妹みたいなんよ〜」
「園子ちゃんも俺の妹だよ」
「わ〜い!」
二人の頭を撫でる俺。二人ともめっちゃ良い笑顔だな。なんて尊い光景なんだ。だが俺は三人を妹にすると決めてしまったんだ。そのためには、須美ちゃんにも兄と呼んでもらわねばならない!
「ねぇ、須美ちゃん。俺のことなんて呼んでくれる?」
「……兄さんと呼びます」
めちゃくちゃ恥ずかしそうに俯きながら言う須美ちゃん。なんだ? 年上を殺そうとしてるのかってくらい可愛い。どうしよう、甘やかしたい。……この状況を考えたら春信にシスコンって言えないな。
……俺、シスコンでいいや。よく考えたら元からシスコンじゃん。向こうに居た時間で友奈が産まれてから基本的に友奈と一緒に居たし、めちゃくちゃに甘やかしてたし。友奈は親より俺と居たもんな。ずっと会えてなかったから俺の身体は妹を欲していたんだな。そうと決まれば、
「兄です。よろしくお願いします」
俺は、死ぬ程晴れやかな気持ちで須美ちゃんと握手をしながら言った。多分めちゃくちゃ良い笑顔だったと思う。
祝勝会はまだまだ始まったばかりだ。
拝啓
父さん、母さん
私、結城勇太は新たに三人の妹が出来ました。そして親友の妹も兄と慕ってくれているので実質四人出来ました。やばいです。可愛いです。もう私は世間一般でいうところのシスコンという部類に入るでしょう。何が言いたいかというと、
妹って、可愛いですね。
敬具
勇太くんって思ってたよりイカれてますね。
祝勝会は終わりです。次回からは物語が進みます。