この素晴らしきメタルマックスに祝福を!   作:無題13.jpg

1 / 72
 転生前のやり取りは原作とあまり変わらないので簡略化させます。ご了承ください。


prologue 転生先がいつも異世界だと思ったら大間違いだ

「ここは死後の世界です、佐藤和真さん。残念ながらあなたは死んでしまいました」

 

 市松模様の床が地平線まで広がった謎の空間で、和真は水色の長い髪をしたドエライ美人から、冷酷にそう告げられた。

 小さな事務机に座った謎の美人さんは、状況が掴めていないらしい和真に続けて質問する。

 

「死ぬ前後の状況は覚えてる?」

「えーっと……」

 

 訊かれて記憶を辿っていく。

 久しぶりに外出し、買い物をした帰りで一度記憶が途切れている。あの時は確か。

 

「そうだ。あの女の子は大丈夫だったんですか? 俺が助けたあの子です」

 

 記憶の途切れる寸前、和真は女の子にトラックが迫っているのを目撃し、咄嗟に彼女を庇ったのだ。

 自分は死んでしまったようだが、彼女の方はどうだったのだろうか。

 

「助けた? ……ああ。無事よ、無事。あんたが余計なことをしなかったら無傷で済んだでしょうね」

 

 しかし、和真に告げられた真実はより一層残酷なものだった。

 

 少女に迫っていたのはトラックどころか低速のトラクターで、徹夜明けの頭で見間違えただけだったこと。

 そして和真の死因はトラクターに耕されたどころか、轢かれたと勘違いしてのショック死であったこと。

 あまりの情けない死に様に、医者からも家族からも失笑を買っているということ。

 確かにネトゲで三日ぐらい貫徹し、意識が朦朧としていたが……。

 

「あなたはその恐怖から失禁。医者や看護士も最初はその姿を見て同情してたのだけど、死因を聞いて吹き出したわ。それでも懸命に処置を施したのだけどあなたは目を覚ますことなく……ふひひっ」

「もういい! それ以上は聞きたくない!!」

 

 半分涙目になりながら彼女の言葉を止めようとする和真に、青い髪の悪魔はヘラヘラと愉快そうに話しを続ける。

 

「今、あなたの家族が病院で死因を聞いて思わず噴き出したわ。良かったわね、これなら葬式も湿っぽくならないわよ」

「やめろー! というか、嘘だよな!? そんな情けない死に方あり得ねーよな!!」

 

 泣き叫んでる和真をひとしきり嘲笑った青い髪の女は、執務机の椅子に座り直した。

 

「さてと。仕事のストレスも解消できたし、本題に入りましょう。それでは佐藤和真さん。私は女神アクア。日本において若くして死んだ魂を導く者。あなたの死後の沙汰ですが、残念ながら天国へは逝けません。引きこもりニートのあなたでは生前の善行が少なすぎます。かといって地獄へも堕ちません。ヒキニートなあなたでは生前の悪行が少なすぎます。よって、異世界にて改めて業を重ねに生まれ変わっていただきます」

「ニート連呼すんな……って、まさかそれって異世界に転生できるってことですか!?」

「異世界ってほど異世界でもないわ。ちょっと未来の平行世界ね。剣はあるけど魔法はないわ」

 

 その世界は人類に反旗を翻した電子頭脳のせいで人類の大多数が死滅し、現在もミュータントや無法者達が我が物顔で暴れまわる世紀末と化した世界らしい。

 

「まあ、そんなわけで人はバンバン死んでるの。人があり余ってる世界からも魂に来てもらってるけど、このままだと本当に滅亡しかねない」

「北〇の拳かよ!? 記憶があってもそんな危ない世界行きたくねえってば!」

「まあ落ち着いて聞きなさい。もちろんただそのまま転生させる訳じゃないわ。なんと特典があるの。その世界にはあなたが望むものをなんでもひとつ持っていける。こちらの世界のものや神々が持つ神器や能力、望むなら何でも持っていけるってわけ。これなら世紀末でも簡単に生活できるでしょ」

 

 そう言われると、少しばかりいいかもしれない、と思えてくる。なんだったら本当にケン〇ロウみたいな活躍が望めるかもしれない。

 

「どう、いい話でしょ。あなたは記憶を持ったまま、新たな人生が送れる。異世界の人にとっては即戦力がやってくる。他には……万が一、電子頭脳を倒せたらなんでも一つ願いが叶えられるわ」

 

 聞けば聞くほど美味しい話だ。和真はアクアに話の先を促した。

 

「その世界の言語などは大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。普通に日本語が通じる……ていうか地域で言ったら琵琶湖の周辺に降り立つ予定だわ」

「おいおい、転生先って滋賀県かよ……」

「ちょっと歩けば奈良とか京都も見て回れるわ」

 

 アクアは執務机の引き出しから金表紙の分厚い本を取り出し、極めて雑に和真へ投げ渡した。

 

「転生特典に欲しい能力があったら、そこから選んで。後ろが押してるから早くね」

 

 渡されたカタログには『なんにでも変身できる杖』『時間停止能力』『あらゆる邪を祓う伝説の聖剣』といった物語の主人公が持つような能力やアイテムが並んでいるが、果たしてこれは世紀末世界に持ち込んでもいいものなのだろうか。世界観が逸脱しすぎている気がする。和真はそれらの力や道具で活躍する自分の姿を思い浮かべながら頁をめくる。

 

「ねー、早くしてんくんなーい? 私も忙しいのよね。ぶっちゃけ、あなたみたいなヒキニートにはなにも期待してないから、適当なのさっさと選んでさっさと行ってきてよ。こっちもノルマがあるのよ。早く終わらして次の魂を導かないといけないの」

(このアマ……)

 

 次こそまともな死に方をするためにも、持ち込むべき転生特典は慎重に選びたい和真。しかしアクアは「ねーまーだー?」と集中力を乱してくる。

 さっき末期を嘲笑されたことといい、和真の中でアクアに対する恨み辛み(ヘイト)が鰻昇りであった。

 

「女神様、私が望むものなら何でも異世界に持っていけて()()できるのですね?」

「ええ、そうよ。その本に載ってなくても私が用意できる範囲であれば何でも用意するわ」

「じゃあお前」

「そう、わかったわ。じゃあその魔法陣にはいって登録をして――今なんつった?」

 

 聞き返された和真は、それはそれは悪どさ全開な満面の笑顔で繰り返した。

 

「聞こえなかったのか? 俺が持っていく特典はお前だ、女神……いや、犬一号!」

 

 和真がそう宣言すると同時に、天空から光の柱が降り注いだ。

 

「ちょっ、そんなの無効よ、無効! 無理に決まってるでしょ、ってなんか魔法陣光ってるですけど! え、いいの!? 私、仮にも女神なんですけど!」

 

 アクア改め犬一号の悲痛な叫びもむなしく、足元に広がった魔法陣の光は強まっていく。それと共に背中に翼の生えた金髪の女性が上空から登場する。天使的な存在のようだった。

 

「佐藤和真さん、貴方の申請は受理されました。女神アクアは今より貴方の飼い犬となります。はい、これ首輪。タグも付けておきますね」

「ギャァァァーッス!! わ、私女神よ! 女神!! 何よこの革ベルト!? 服従のスペルが刻まれてるんですけど!」

 

 リード付きの首輪をされたアクアは、この世の絶望を一点にまとめたような、それはそれは情けない泣き顔で頭を抱えた。

 

「観念しろ、犬! これから死ぬまでコキ使ってやるからな~! クックックック!」

「いやぁぁぁぁぁ! 絶対ひどいことされる! R-18的なヤバイことされるぅぅぅ~!!」

「往生際が悪いですよ、アクア様。どうせあなた、今季の査定で女神からただの天使に降格予定だったんですから。神の座に返り咲きたかったら、世界でも救って得点を稼ぐことですね」

 

 天使はキッパリとアクアの要請を突っぱねると、最後に和真へ振り返った。

 

「あなたがこれから赴く世界は、以前の世界の延長線上にありながら決して交わらない別世界です。せいぜい楽しんで死んでくるといいでしょう」

「あ、あなたも随分な言い草ですね……」

「世紀末世界の担当天使なんてしてたら、誰だってこうなります。でも忘れないで。どんな時代でも悪は滅ぶし、荒野にだって花は咲く。ご武運を」

 

 魔法陣の光が最大限に高まり、周囲の空間を白く塗りつぶす。その直後、足元が抜けたような浮遊感とともに、和真の冒険は幕を開けたのだった。




 この天使は大破壊後の世界で死んだ人間の魂を回収する使命を帯びているため、凄まじくやさぐれてしまっているという設定です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。