この素晴らしきメタルマックスに祝福を!   作:サイデリア

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 誤字報告、感想、ありがとうございます。

 今回は非常にグロテスクな表現がありますのでご注意ください。


第九話 彼らは大変なものを奪っていきました

 行き当りばったりで始めたレナの戦いは、早くも大苦戦を強いられていた。

 弾切れしたショットガンを放棄して敵の銃を奪い、それも壊れたので誰かが投げ入れたマシンガンに持ち替え、銃撃戦は数十分も続いていた。

 

「ちぃ! チンピラ程度の連中だけど、何匹いるのよこいつら!」

 

 ごく自然とグラップラーを「匹」で数えるレナだが、彼女以外のハンターも今やグラップラー兵士をモンスターと認識している。なんだったらハンターオフィスでさえ「今週のターゲットはグラップラー5匹です」と紹介してくる。なのでおかしいところは何もない。

 もっとも、この世界にまともな部分が残っているのだろうか。

 

「そっちへ行ったぞ!」

「すばしっこいヤツめ!! 囲い込め――うぎゃあ!!」

「タカシぃ! よくもタカシおぐびゃあ!!」

 

 途中から数えるのを忘れていたので、今吹き飛ばしたのは何匹目だったか。

 体力もそろそろ限界が近い。瓦礫に身を潜めて呼吸を整えつつ、自分の脱出経路を考える。

 

「いい加減、アクアもカズマと逃げてるわよね。逃げてなかったら地獄までふっ飛ばしてあげるわ」

「こっちだ! 急げ!!」

「まだ来るの!? ゴキブリか、こいつらは!」

 

 銃撃の合間に別の瓦礫の影へ移動しようとした、その時だった。地鳴りのようなエンジン音が急速に近付いて、レナの顔から血の気が引く。

 

「まさか!」

 

 恐る恐る顔を出してみれば、グラップラーのクルマが一台、こちらへ向かって走ってきていた。大型ワゴン車に砲塔と機銃をくっつけた、戦車どころか装甲車と呼べるかも怪しい代物だ。それでも今のレナには恐るべき脅威だ。

 育ての親のマリアであれば、あの程度の戦車モドキなど物の数ではない。しかしソルジャーとしての技術も学んでいるとはいえ、レナはまだまだヒヨッコハンターだった。

 

「まず……っ!」

 

 手持ちの攻撃アイテムといえば、マドの町から来る途中で拾ったロケット花火と煙幕弾ぐらいだ。とてもじゃないが、クルマを破壊するには及ばない。

 

「逃げるしかないか!」

 

 グズグズしていれば、砲撃で身を隠した瓦礫ごと吹き飛ばされる。レナは意を決して飛び出そうとタイミングを測った。

 ところがだ。グラップルタンクの砲塔が照準を合わせた先は、レナの隠れた瓦礫ではなかった。封鎖された町の出入り口に向けて主砲を放ち、バリケードを破壊してしまう。

 レナはもちろん、グラップラー達も何が起きたのかポカーンとしている。その間にもグラップルタンクはレナのすぐ横に停止していた。

 

「おまたせ、レナ! 早く乗って!!」

「アクア!?」

 

 運転席から身を乗り出したのは、水色のロングヘアをした自称女神(駄犬)であった。

 

 

 遡ること数分前。

 

「すみませ〜ん♡ グラップラ〜さぁん♡ 美味しいお水はいかがですかぁ♡」

 

 兵士達がクルマに武装を積み込む最中、声を掛けたのはシルバートレイを片手にバニースーツを着込んだアクアだった。スーツはめぐみんの私物、トレイには新鮮な清水で満たされたグラスが並んでいた。

 見るからに怪しい誘いだが、そこは本能に忠実なグラップラー。怪しむような知性も無く、鼻の下を伸ばしてあっさりハニートラップに引っ掛かった。

 

「うっわ、馬鹿しかいないのか、グラップラー? 俺だって引っ掛からないぞ、あんなの」

「外見はキレイですからね。ですけど、あの水は何なんです? どうして清水のゲロなんか吐き出せるんですか、あの人? ていうか人なんですか?」

「アクアという生き物だ。俺にもよく分からん」

 

 めぐみんもドン引く水の正体は、アクアが吐き出したものだ。本人曰くゲロではないそうだが、口からドバーッと滝のように流れ出す光景は、どうみても呑みすぎた酔っ払いだ。

 一応は水の女神であるアクアは、世界観のせいで魔法は使えなくても肉体に備わった特殊能力という形で異能を発現可能だ。以前にも述べた強酸性の雨水を中和したのともう一つ、体内から清水を精製する能力を持っていた。

 というより、アクアの汗、涙、涎など、大概に排出された水分はいずれも人体に無害どころか、世紀末においては非常に貴重である清潔な飲水となるのだ。

 ちなみに下から排泄した水分も飲料可能だが、ビジュアルがあまりにも酷くなることと、アクアが全力で拒否したのでゲロ水が採用された。

 

「環境改善用のバイオロイドか何かでしょうか」

「解剖とか止めてくれよ。お、見ろ! 運転手が窓を開けたぞ」

 

 罠とも知らず、貴重な清水を求めてグラップラーが窓から身を乗り出した。その隙にカズマとめぐみんがクルマの反対側に回り込む。そしてめぐみん手製の煙幕花火(本人曰く煙の爆裂)を車体の下に投げ入れた。

 大量の黒煙が噴出し、瞬く間に視界を奪い去った。

 

「大変だ! このクルマにも爆弾が仕掛けられているぞ!!」

「なんだって!?」

 

 さらにカズマが大声を張り上げる。すでに一度、めぐみんの仕掛けでクルマが破壊されていたこともあって、グラップラー達に混乱が広がった。慌てて運転手が外に出た瞬間、その頭部をめぐみんが金属バットでフルスイングした。

 文字にするのも憚られる鈍い音を立てて地面に転がった運転手を蹴り出して、めぐみんとカズマ、そして煙に乗じて合流したアクアでクルマに乗り込んだ。

 

「よし、キーも刺さったままだな!」

「ではカズマ。私は機銃の方に回りますので、運転はお願いします」

「おう! ……おう?」

 

 銃座の方へさっさと行ってしまっためぐみんの小振りなお尻を見送って、カズマは硬直する。

 

「……ねえ、カズマさん? クルマの運転ってしたことある?」

「げ、ゲーセンでなら……」

「ゲーセン……」

 

 愕然とするあまり、普段の煽り言葉も出ないアクアであった。

 幸い、やろうと思えば本物の戦車だって一人で運用可能な高性能Cユニットのお陰で本当にゲーセン感覚で運転出来たのと、道路交通法が消滅したお陰でカズマの人生初運転(前世含む)は大成功に終わった。




 序盤のグラップラー一般兵に苦戦していたヒヨッコも、やがて軍艦ザウルスを素手で破壊する人間戦車へ進化するのがメタルマックス。
 ちなみにレナは現時点でもサブジョブにソルジャーが付いている想定です。ある意味、主人公補正。
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