スナザメが幅寄せして側面から体当たりしてくるのを、タイミングよく加速して見事に回避。
続いて後方から追突してくるのも、車体を大きく外回りにスピンさせるようにして器用に躱した。
「へ、へへへ! 結構運転上手いじゃん、俺!」
などと減らず口を噛ませる余裕も出てくる。
だがスナザメの執拗な追跡は止むどころか激しくなる一方だ。
「あ。カズマ、あいつ砂に潜ったわ!」
死角が多くなる助手席側の窓を見張っていたアクアが声を上げた。
「見逃された?」
「違います! スナザメは砂中から獲物の真下に飛び出して仕留める戦法を取るんです!! 油断しないでください!」
作業の手を止めないめぐみんから注意を促された。
屋根に設置された銃座では、レナが機銃を単発発射して砂の中を牽制するが、いまいち効果はみられない。
「く、クソ……いったいど、どこから来るんだ……っ!!」
「おおお落ち着いてカズマ! こういうときは心の眼で視るのよ!」
「アホか! 俺がそんな修行を積んでるよう見えるってか!?」
「……すみません……」
余裕のないカズマからマジギレされたアクアは、大人しく助手席で膝を抱える。
「あっ!!」
注意深く神経を尖らせていたカズマに、銃座のレナが叫んだ。
「カズマ、ブレーキッ!!」
「へぁ?」
張り裂けんばかりの怒声に、カズマは反射的にブレーキ踏み、同時にハンドルを思いっきり切った。
もちろん、高速でかっ飛ばしてる途中にそんなマネをすればどうなるかは自明の理。車体を大きく傾けつつ時計回りにアクセルターン。それに留まらず横滑りし、進行方向を270度直角に変えてしまった。横転しなかったのは、偏に幸運の成せた業だ。
その直後。クルマが進むはずだった地面が盛り上がり、大口を開いたスナザメが飛び出したではないか。進路変更が数秒遅ければ、噛み砕かれて一網打尽にされていた。
獲物を逃したことに気付かぬまま砂を咀嚼する化け物サメを後目に、カズマは再びアクセル全開に爆走する。
「助かった、レナ! よく分かったな?」
「音よ、音! あとはまあ、獲物の匂いかしら」
どんな顔をしているかカズマの位置からは見えないが、きっとあの立派な胸を張ってドヤ顔していることだろう。
「呑気してないでくださいよ! まだスナザメは追ってきてますよ!」
めぐみんの言葉でハッとなり、カズマはアクアに後方を確認させた。
食い損ねたのに気付いたスナザメが、再びこちらに狙いを定めたらしい。
「めぐみん! 砲弾は!?」
「もうちょっと待ってください! このレリーフを刻んだら完成です!」
レナの大声に大声で返すめぐみん。だがしかし、彼女が砲弾に彫っているレリーフはどうみてもただの飾りに見える。
「あの〜、めぐみんちゃん? その飾り彫りにはどういった効果があるのかな?」
ひょっとすると空気抵抗とかに作用するのかもしれないので、一応確認をするアクア。するとめぐみんは親指をビシッと立てて、
「もちろん! カッコいいからです!!」
「アホかぁーっ!!」
「サンデリゼっ!?」
そう宣った次の瞬間、アクアから結構本気の飛び蹴りがめぐみんに炸裂した。非常に珍しい女神のツッコミだが、カズマとレナからもかなり真面目な殺気が飛んでいた。手が離せるなら、二人そろってめぐみんを殴るか蹴るかしていただろう。
「やってる場合かーっ!! 死ぬわよ!? マジで四人揃って死ぬわよ、ボケナス!! こだわっちゃいけないタイミングってあるでしょうがーっ!!」
「こ、拘りを捨てて浮かぶ瀬はありません!! 一瞬で爆裂して散るからこそ造形には――」
「だーっ! もう、うっさい!! いいからそれ寄越しなさい!!」
めぐみんは渋々ながら、有り合わせの材料から作成した砲弾をアクアに手渡した。
一抱えもある金属の塊はずっしり重く、アクアはそれを外見とは裏腹な怪力で担ぎ上げて銃座へのハシゴを駆け上った。
「レナ!」
「なけなしの一発ね! 分の悪い賭けは嫌いなんだけど……あれ?」
そこでふと冷静になったレナが、自分の手元の照準器、そこから繋がる機銃と大砲、最後に再びアクアと砲弾へと視線を巡らせた。
「どうやって装填しよっか」
「あ」
クルマの上部に外付けされた主砲は、停車状態で外から弾を込めるのが一般的だ。このグラップルタンクも例外ではない。
沈黙した車内に、エンジンとスナザメが近づく騒音だけが響いていた。
四人でほんのちょっぴり考えたが、結論は即座に出た。
カズマはハンドル、レナは銃座から手が離せない。ならば当然、アクアが一肌脱ぐしか無い。
走行中の車外へ出て、手動で装填するっきゃない。
「うわあぁぁぁぁぁぁ〜ん!! こんなの女神の仕事じゃないぃぃぃぃ〜っ!!」
命綱としてロープ一本を腰に巻きつけ、アクアは時速150キロは出ているんじゃないかという装甲車の屋根によじ登って……むしろ登らされていた。
どこぞの女神が勇者に抱えられて空を飛んだ時よりはマシかもしれないが、高速でかっ飛んでいく景色と地面は目前に『死』を想起させる。
そんな環境にバニースーツで挑みかかるアクアは、ある意味どこの神話の女神よりも勇ましい。
不幸中の幸いだったのは、主砲の構造が非常に簡略化されており、停車中だったら素人一人でも簡単に装填できるタイプだったことだ。手持ち武器であればリボルバーに近い形状で、シリンダーを開いて後ろから弾を押し込むだけで事足りた。
涙と鼻水と冷や汗で顔をグシャグシャにしながら、一発限りの装填を終えた。
「で、でぎばじだぁぁぁぁぁ〜っ!!」
涙声で報告するアクアに、カズマも内心ではよくやったと褒めたいところだ。運転に集中しているのでそれどころではないのが辛いところ。
「って、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ〜!! スナザメがまっすぐ来てる!! 小細工なしで突っ込んでくるぅぅぅぅ〜っ!!」
さらにアクアから追加報告だ。聞いてる方に哀れみすら感じさせる情けない声だが、同じ状況なら誰だってそうなる。
「フン! 向かって来るなら好都合よ! 狙い撃ちにしてやるわ!!」
銃座のモードを機銃から主砲に切り替え、レナは発射管を握り直した。
「レナさん! サメは鼻の先が弱いそうですよ!」
「ナイス情報ありがと、めぐみん! あとでキスしてあげる♪」
「それはアクアにしてくださいっ!!」
本気で拒否されてちょっぴり痛んだ心の分も込め、レナは発射ボタンを押した。
一瞬車体が逆方向へ押し出されるほどの衝撃とともに砲弾が飛び出し、レナの狙い通りスナザメの鼻先に吸い込まれた。
海で襲われた時に殴れと伝わっているぐらい、サメの鼻先には神経が集中して敏感になっているそうだ。そこに戦車の砲弾が直撃し、あまつさえ――、
『BACOOOOOOOOOOOOOOOOOM!!!!!!』
大地が震撼するほどの大爆発を起こされたとあっては、凶悪なバイオモンスターといえども無事ではいられない。
砂から弾き出されるほどの衝撃を受けたスナザメは、水揚げされたも同然にビチビチと身を踊らせた。致命傷には及ばないが、すぐに復帰は無理だ。
悶えるサメの姿は、みるみる小さくなっていった。
「よっしゃあーっ!!」
「ぃやったーっ!!」
カズマとレナの歓喜の声が重なり、めぐみんも雄々しくガッツポーズを決めていた。
「しゃあ!! どーですか、めぐみん印の爆裂弾の威力は!!」
「もうサイッコーよ! 約束通りキスしてあげちゃう♡」
「いりませんから!? 水色の人にしてあげてください!」
本気でレナを押し退けながら、めぐみんは車内と繋がるアクアの命綱を見た。
それが途中から千切れて、先端がクルマの外で強風に棚引いている。
「……あ」
「え?」
気付いたときには、アクアの姿は車内にも車上にもなかった。
「ま、待って……お、置いていかないで……っ」
豆粒よりも小さくなったグラップルタンクの後ろ姿を、ヨロヨロと幽鬼のような足取りのアクアが追い駆ける。
何という悲劇だろう。爆裂弾の衝撃波に吹き飛ばされたアクアは、砂漠の真ん中で取り残されてしまっていた!
「私、ここに、いるの……ま、待って……っ」
無駄だと頭で理解しつつも、アクアは無理矢理にでも足を動かす。
なぜなら彼女の背後には、巨大な陸上ザメが大口を開いて迫っているのだ。
足がもつれて転んでも、ほんのちょっとでもサメから逃げようと這いずるアクアは、恐怖と絶望から精神が限界に達した。
「さ、サメって結構か、かわいいとおもう、思う、の……あわっ、あわわわわわっ!! カズマしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ〜んっ!!」
断末魔の叫びが少年の名前だったのは、地上に連れてこられた恨みからか。
果たして女神アクアは巨大なサメの口に呑まれたが、そこで間一髪、隷属のスペルの効果『ご主人様から一定距離以上遠くへいけない』が発動。量子ジャンプによって辛くもその場を離脱したのであった。
クルマの助手席にワープしてきたアクアは、精神が限界を超えてそれはもう酷い状態だったのだが、彼女の名誉のために描写は割愛させていただく。
アクア「ところで私ってまだバニー着たままだったの!?」
カズマ「作者がアクシズ教徒だからな。コスプレネタは今後も入れる予定らしい」
アクア「ということは、ひょっとして私がメインヒロイン!?」
レナ「そうよ。だから主人公であるアタシと結ばれるのは自然な流れだというワケ。どうだい? 今夜はイリットと三人でしっぽり――」
アクア「やぁーめぇーてぇー!!」