なので今回登場するドックシステムは、序盤の町を中心に展開されるこのすば!らしいストーリーにする為の舞台装置となってます。
「よし! これで取り付け完了……だと思う」
レナが買ってきた総重量700キロにも及ぶ装置をバギーに搭載し終えたと、カズマは不安そうに仲間に伝える。
修理するより楽な仕事だし、配線についてはめぐみんの知恵も借りてあっさり完了した。不安なのは、むしろ装置そのものだ。
通称『ドッグシステム』という、携行可能な転送装置だ。
何が恐ろしいって、これが普通に店売りされていることと、原理を知らないのに便利だから使われていることだろう。
一応、使用には座標登録が可能なiゴーグルやBSコントローラーのような道具が必須だが、これだって決して珍しいものではない。主にモンスターハンターを中心に相当数が現役で使われているのだから。
「レナのiゴーグルとの同期も完了した。そこに登録されてる座標にワープできる……ハズだけど」
「じゃあ早速試してみましょうか」
当たり前のように設定を行うモリニウや、以前にも設置型の転送装置を使ったことがあるめぐみん、能天気なアクアもワクワクしている始末だ。怖がってるのはカズマだけだった。
「みんな、バギーに乗ったわね!
「わ、分かったよ!」
腹を括って運転席に座り、助手席にめぐみん、アクアとモリニウが後部シート(荷物用)に押し込まれ、バイクに跨ったレナがiゴーグルからドッグシステムを起動する。
「よっし。ドッグシステム起動! 目標、マドの町!」
成功するよう神に祈ろうと思ったが、神と言ってもアクアなので止めるカズマだった。
結果は無事成功。一瞬の合間にカズマ達はマドの町に帰り着いた。装置にも異常は見られない。せっかく転生した寿命が縮む思いのカズマだったが、取り越し苦労だった。
「あんまり心配しすぎると禿げますよ、カズマ」
「そうよカズマ。こんな世界で細かいこと気にしてると死ぬわよ?」
「……もういいや」
モリニウをデヤークに引き合わせて、レナがイリットといつもの(『会いたかった〜』『私の方が会いたかったですよ』)を挟んでハトバへトンボ返りとなった。
「それで次は何するの?」
「えーっと、ハンターオフィスでトレーダーのリコって人と待ち合わせしてる。北のアズサって町までキャラバンの護衛依頼だって」
オフィスにはチームリーダーであると同時に唯一登録されたハンターであるレナが向かっている。その間、カズマ達三人で物資の調達だ。
戦闘用の装備はともかく、日用品や食料に関しては潤沢に揃えることができそうだ。ここまでの道中で倒したモンスターのドロップ品(というか死体の一部。ぬめぬめ細胞など)や、なんだったらアクアに吐き出させた水を売っぱらうだけでも一財産が築けそうなぐらいだ。
本当ならその財産を元手に商売を始め、危険な冒険から遠ざかりたいのがカズマの本音だが、果たして安全な場所が世紀末に存在するのだろうか。
「あ! カズマ、カズマ! あそこにスロットマシンがあるわよ!」
「お前、この間『ゲコゲコ大作戦』で小遣いにやった50Gを全額スッてたよな」
「あ、あれは『戦車でバンバン』だからダイジョーブよ! お願いカズマさん、倍にして返すから!」
「
メモと荷物を積んだモトクロスの荷台を確認して、カズマは頷いた。
「ああ、買い逃しはないな。レナが来るまで酒場で時間潰すか?」
「カズマさ〜ん!! だったら! だったら一発打たせて! 一回だけでいいから〜!」
「あんまりしつこいと令呪するぞ、アクア?」
その気になればどんな命令でも下せる服従の首輪をチラつかせ、ようやくアクアはギャンブルマシンを諦めた。グルグル渦巻いたような瞳は、完全にギャンブル中毒者のそれだ。一体どこで覚えてきたのやら。
やれやれ、とカズマが肩を竦めたところに、騒ぎすぎた女神のせいで新たなトラブルが転がり込んで来る。
「聞き覚えのある声だと思えば……やっっっっっっぱり女神アクアだったザンス!!」
甲高くてイヤミったらしい男の声に振り向けば、珍妙な格好の二人組みがこちらに向かってズンズカ近付いてくる。
ゾンブレロを被ってパンチョを羽織った、実にメキシカンな格好の男達だ。片方は長身で細身、片方は短足のデブ、揃いも揃って顔が金属質に変形している。サイボーグの類だろうか。
そんな彼らは、まっすぐにアクアに向かって気炎を荒げていた。
「よくもこんな地獄に叩き落としてくれたザンスね、水色悪魔! 下界に降りて来てるとは思わなかったザンスよ!!」
「あ、あにきぃ」
痩せてる方の男が詰め寄ってくる。70年代のギャグマンガに出てきそうな雑なサイボーグ顔は、生で目にするとかなり怖い。
「……おいアクア、この人達は知り合いか?」
「さ、サイボーグに知り合いはいないはずだけど……」
「なにをボサッとしてるザンス? まさかミーの顔を忘れたとか言ったりしないザンス?」
恐ろしいサイボーグ顔に詰め寄られて、アクアが顔を引きつらせてカズマの後ろに隠れてしまう。そこにはもうめぐみんが逃げ込んでいたので、カズマは怖い人の矢面に立たされてしまった。
「お前らぁ!! 俺は非戦闘員だぞ!?」
「……あにきー、こいつも転生者じゃないかなー?」
ふと、カズマの顔をじーっと眺めていた太くて短足な方が、ネチネチした甲高い声を発して指を差してきた。
「は、はいっ!?」
「あん? ……ほー、確かにその平和ボケした世紀末に似つかわしくない雰囲気には覚えがあるザンス。ひょっとして水色女神がここにいるのもあんたのせいザンス?」
「て、転生者……た、確かに転生特典としてこいつを連れてきたのは俺だけど。あ、あんた達も転生者なのか? 大破壊前の日本から」
「そのとーりザンス! ミーはステピチ、こいつはオトピチ。もう何年も世紀末をさまよってるせいで安物の義体になってしまってるザンスが、元は東京の大学生だったザンス。ああ、懐かしい……」
自分語りを始めたステピチの話を聞き流し、カズマは背後のアクアへ振り向いた。
事情を知らないめぐみんがキョトンとしているのとは対象的に、露骨に顔を背けたアクアはバツが悪そうに顔を背ける。
「ま、マジに転生者なのか、こいつら?」
「……た、多分。本人がそう言ってるならそーなんじゃない……?」
「おいコラ」
「だ、だって普通に三桁以上の転生者を送り込んでるのよ!? いちいち覚えてるわけないじゃない!!」
「そんな大人数をこの地獄に叩き落としたのか!? やっぱお前悪魔か邪神だろ!」
「何の話です?」
完全に部外者なめぐみんが頭にハテナマークを浮かべているのを余所に、いつの間にかステピチの自分語りも終わっていた。
「そしてミー達は悪党として生きることに決めたザンス。ヨヨヨッ」
「あにきー」
「って! アンタ達全ッ然人の話を聞いてないザンしょ!」
「いや、うん、大変だったんだな……」
「大変なんてレベルじゃなかったザンス! ここで会ったが百年目! ミー達が味わった苦労の万分の一でも味わうがいいザンス!!」
「お、おい落ち着け!」
宥めようとするカズマの話も聞かず、ステピチは腰に下げた銃を引き抜いてアクアを狙った。当然、アクアが盾にしているカズマが真っ先に狙われる形となる。
が、銃爪が弾かれることはなかった。
「なにやってるのよっ……と」
軽い口調から振り下ろされたチェーンソーの刃が、背後からステピチの脳天に食い込んだ。
「あんギャァァァァァァ!!」
「あ、あにきー!」
ガリガリと金属製の頭部が火花を散らして削られていき、鼻の下まで到達したところで刃が翻されて一気に上顎から上を刎ね飛ばした。
「あにきっ! あーにーきーっ!!」
ぶっ倒れて痙攣するステピチに、オトピチが縋り付く。それを後目に、片手で使える小型チェーンソーを構えたレナが地面に落ちたステピチの頭部を踏み砕いた。
「ひぇ……」
「なんで悠長に話してるのよ、あなた達。賞金首よ、こいつら」
「し、賞金首ですって!?」
驚いた声を上げたのはアクアで、続いて自分のiゴーグルからデータを引っ張ってきためぐみんが眉をひそめた。
「本当だ。賞金500Gってぶっちぎりで安い小悪党ですけど、正式な手配書も出ています」
『そ、そーザンス! ミー達は泣く子も黙るピチピチブラザーズ……あ、やっぱり胴体制御が上手くいかないザンス!』
「あにき、生きてたかー」
ステピチの体から雑音混じりの合成音声が発せられた。やはりサイボーグだったのか、頭部を失っても生存可能だったようだ。
レナは即座にトドメを刺しに行く。しかし寸前でステピチが構えていた銃から火炎が放たれた。レナとピチピチブラザーズとの間に炎の壁が築かれる。
「う……っ!?」
『怯んだザンス! 逃げるザンスよ、オトピチ!!』
「あにきー」
動けないらしいステピチを担いだオトピチは、振り向きもせず町の外まで走っていった。
炎はすぐに勢いを失ったものの、真っ青な顔に冷や汗を浮かべたレナには追うことが出来なかった。
「……て、転生者が賞金首って……悪堕ちなんてされたんじゃ、女神としての沽券が……」
アクアもアクアでピチピチブラザーズの存在に大きなショックを受けており、何か言いたそうなめぐみんも空気を読んだのか、二人が落ち着くまでカズマには何も訊かなかった。
めぐみん「ところでレナ、そのチェーンソーに刻まれてる製造者の名前ですけど」
レナ「これ? 『ひょいざぶろー』ってブランドよ。たまに見るけど面白い武器が多くてね。マリアもよく使ってたわ」
めぐみん「そ、そうですか……」