レナ「…………え? 大丈夫、めぐみん? 脳に電極でも埋め込んだの?」
めぐみん「なんですか、その……なんですかその目は?」
第二十一話 生還、二つの意味で
「さあ蘇るのだ! この電撃でェェェーッ!!」
掘っ立て小屋から轟くマッドサイエンティストの声。
マドの町に居着いたDr.ミンチの研究所にて、診察台に寝かされたダクネスの遺体にぶっ
空中放電すら起こした青藍の稲光がダクネスの体を包む。
水揚げされた鯉のようにビチビチと痙攣するダクネスを前に、クリスが泣き腫らした顔でカズマに訴え掛けた。
「ね、ねえカズマ君? あんなんで本当に生き返るの? っていうかこの目的にこの手段って正しいの?」
「俺が知るわけないだろう」
「連れてきておいて無責任すぎないかな!?」
そんなクリスの心配を余所に、高圧電流にビクンビクンしていたダクネスの瞼がクワッと開いた。
「くぁあ〜〜〜〜〜ん♡」
そして艶めいた嬌声を上げて全身を弓なりに反らした。
「おお! なんと、成功してしまったぞ!」
電極が離れると、ダクネスは肩で大きく息をしながら、ゆっくりと上体を起こす。その目は物足りないといった雰囲気で電極を追っていた。
「う、うそ……ほ、本当に生き返った……?」
クリスは目前の出来事が信じきれず呆然とダクネスを見つめていた。
バギーに連れ帰ったダクネスは、その時点でもう完全に事切れていた。
全身に銃創、擦過傷、爆裂痕に加えて、高所から叩き落されて骨はバラバラ。なのに人間としての原型を留めているとは、恐ろしいまでの頑丈さだ。
「ダクネス……そ、んな……あぁぁぁ……っ! 馬鹿だバカだと思っていたけど、ここまでノータリンだっただなんて……」
冷たくなっていく友の亡骸に、クリスは悲しいのか情けないのか微妙な言葉を吐いて泣き崩れた。サースティへ帰還する車内に、重苦しい沈黙が降りる。
「回復ドリンクでも駄目?」
アクアの呼び掛けに、クリスは力なく首を振った。
「確かに瀕死からでも復帰できる回復剤はあるけど、死人を生き返らせるような効能はないわ……」
「そっか……そうよね。魔法じゃあるまいし、都合よく生き返らせる方法なんて……ん?」
「あ!」
レナが何気なく呟いた一言に、カズマも何事か思い当たった。
「カズマ! 急いでマドに帰るわよ! ドッグシステム、起動!!」
「分かってる! あの人だな!!」
「えっと……どうしたの、二人とも?」
量子ワープの準備を初めたカズマとレナに、クリスとアクアが顔を見合わせた。分かっていない二人に、車上からめぐみんのフォローが入った。
「運が良かったですね! こちらには電撃蘇生学の権威が付いていたのですよ!」
「電撃……なんですって?」
聞いたこともない奇天烈な学問に、クリスはますます首を傾げるのだった。
しかして結果はご覧の通り。ダクネスは電撃によって蘇生した。不思議なことに痕こそ残っているが、無数にあった致命傷が塞がっている。骨折まで元通りだ。
「うっわぁ、本当に生き返った……大丈夫ですよね? いきなり噛み付いてきたりしませんよね?」
カズマを盾にしためぐみんは、状況が分かっていない様子のダクネスを警戒していた。
クリスは「ありえない……」と繰り返して呆然としており、アクアも何がなんだか分からないといった表情をしている。
その中でレナは、特に警戒するでもなくダクネスに歩み寄った。
「はじめまして、ダクネス。アタシはレナ、ハンターよ」
「あ、ああ。なあ、ここはどこなんだ? 私はグラップラー四天王と戦っていたハズだが……」
「それについては説明するわ。いい? 落ち着いて聞いてね?」
レナは丁寧に彼女の状況を説明していく。さり気なく肩を抱こうとしたり太ももに手を置こうとするのをカズマがカットしつつする中、ダクネスは状況を飲み込んでいった。
「ま、まさか死んで生き返ったというのか……いや、それ以前にまさか……」
「ショックは大きいと思うけど、でも運が良かった――」
「まさか天にも昇る感覚どころか、本当に天に昇っていただなんて……か、かつてないエクスタシーだった! あれが命の砕ける感触……あれほどの快楽だったなんて!!」
「ちょっとミンチ博士? 脳が破壊されてるわよ、この人」
意味不明な発言が飛び出すダクネスであるが、ミンチによれば元から腐ってる部分が元に戻ったりはしないらしい。性癖などは最たるものだ。
「はぁ……馬鹿は死んでも治らないか。本当にメチャクチャね、この世界……さすがは――」
「え?」
疲れたようにボヤいたクリスのセリフは、アクアの耳にだけ微かに届いたが、駄犬が意味を介することはなかった。
ダクネスは無駄に散華した訳ではなかった。グラップルタワーの見取り図と、セキュリティの配置などの情報を持ち帰っていたのだ。
ドヤ顔決めるダクネスだが、カズマ達に拾われなかったらこの情報ごとあの世へ旅立っていたのを分かっていないようだった。
「馬鹿ダクネス! 趣味に走るのは勝手だけど、命は投げ捨てるものじゃないんだからね!! 次に死んだら生き返れる保証だって無いんだから!!」
「ぬぐっ! ……す、すまないクリス……」
そう釘を刺されて、
「あのまま死んでても良かったんじゃないかな?」
「い、いや! 助けてもらって感謝はしている!! しかしだな……これまで銃で撃たれたり地雷で吹っ飛んだりしていたが、死んだのは本当に初めてだったんだ! 私はどこか自分の頑丈さを過信していた。修行のやり直しだな」
「やっぱなんかズレてますよ、この人……」
今のところダクネスに好意的なのはレナだけで、カズマとアクアはドMっぷりにドン引きし、めぐみんに至っては怯えてすらいる。レナですら「超美人で胸も尻も大きいなら中身なんてどうでも」と性癖そのものを理解している訳ではなかった。
「な、なにはともあれ! グラップルタワーの情報が手に入ったのは行幸だわ。それじゃ、私とダクネスは一度サースティに戻って作戦を練るわ。レナ達は?」
「しばらく戦力の増強に回るわ。ハンターオフィスにいくつか稼げそうな依頼があったの。ドッグシステムもあるし、あちこち回ってみるつもり」
「そうなのね。じゃあ、連絡はハンターオフィスを通して送るってことで……って、あの、どうして詰め寄ってくるの?」
「ん〜? なんでだと思う?」
一瞬前まで業務的な話をしていたハズなのに、気付けば壁際に追い詰められていたクリスは、苦笑しつつも右手を腰のホルスターに落としていた。
幸い、クリスの銃が抜かれるよりも先に、後ろから首に掛けたiゴーグルのバンドが引っ張られて引っ剥がされたが。
「ぐえっ!? ち、ちょっとカズマ! 今いいところ――」
いつものツッコミと考えて振り向いたレナだったが、バンドを握っていたのはチームの参謀(仮)ではなく、黒髪に褐色肌の癒やし系美少女だった。
ほんわかした笑顔にも関わらず絶対零度に凍てついた視線に、レナはもとよりクリスもゾクリと背筋を震わせた。
「イイイイイリット!?」
「なにをしてるのかな、レナ? ナンパ?」
ややもすれば慈愛さえ感じられる雰囲気のままに、イリットの暖かな両手のひらがレナの頬を包み込む。
「ひゃ……っ!?」
「アクアさんは犬だからまあ、ギリギリ可愛がっててもいいけど……人間タイプはダメだよね? それもウチのガレージと目と鼻の先とか。あれ? ひょっとしてわたしってナメられてる? 従順で都合のいい女とか誤解させちゃってたのかな?」
「ま、まままま待ってイリット!? 落ち着いて聞いてね!?」
「落ち着いてるよ。じゃなかったらヨコヅナオーラとドラムストレッチからの暗黒舞踏が決まってるところだもの」
「いつの間にレスラーとアーチスト極めてたの!?」
その後、レナは「本命はイリット」「一番に愛してるのはあなた」「クリスとは一晩だけの予定」との発言で火に油を注ぎ、クリスと以前にナンパされていたらしいウィズも含めて袋叩きにされたのだった。
阿鼻叫喚の地獄絵図を遠目に、兄の墓前に花と線香を捧げたダクネスも呆れ顔だ。
「まったく。性癖に忠実すぎるのも考えものだな」
「それはアンタが一番言っちゃいけないセリフだろうが!!」
どうやら世紀末の変態というのは、反省というものを知らないらしい。
翌朝。レナに二人の「愛の巣」で一晩中「ご機嫌取り」をさせたイリットは、とても上機嫌で朝食の用意をしていたのだが。
クリス「……あれ? なんでだろう、まるで酷い災難を回避したみたいな安堵感があるわ。下着が無事で安心したような……」
ダクネス「私もだ。キャベツの大群と戦いそびれたような気がするぞ」
クリス「キャベツ? トマトとメロンなら戦ったことあるけど」
※3にメロウィン、サーガにキラートマトなど、食べ物系モンスターは結構います。あのキャベツより殺意高いですけど。