この素晴らしきメタルマックスに祝福を!   作:サイデリア

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アイリス「イリット。カズマを『お兄様』と呼ぶととても満足そうな顔で頭を撫でてくれるのです。これは『愛』なのですか?」
イリット「間違いなく愛だわ。ところでレナを『お姉様』って呼ぶとどうなるの?」
アイリス「とてもだらしない顔をして優しく抱き上げ、人気のないところへ行こうとします。これも『愛』ですか?」
イリット「ううん、ただの性欲」


第二十六話 出撃、グラップラー四天王

 グラップルタワーの下半分までの制圧は恐ろしいほど順調だったが、ここに来て敵が予想外の粘りを見せ始めた。

 

「押せ押せ、押し返せーっ!!」

「スカンクスに背中から撃たれるぞ!! その前にヤツらを殺せぇーっ!!」

 

 まさに背水の陣とでも言うべき、後退の意思を捨てた死兵の軍だ。有象無象といえども厄介極まりない。

 だが! そこへ颯爽と登場する二台のバイクと二人のヒロインが、硬直しかけた戦況をハンター有利へ一気に傾けた。

 味方の頭上を猛スピードで飛び越えたモトクロスから、クリスのダブルバレルショットガンが獲物の群れを狙い撃つ。

 

「ィヤッハーッ!!」

 

 やたらハイテンションなクリスの雄叫びと砲火が重なった。

 

「うぎゃあ!」

「ぐえっ!?」

 

 一発一発がパチンコ玉より大きいスラック弾が、固まった陣形を敷いていたグラップラーを襲った。人間相手では過剰とも呼べる殺傷力の前に身にまとったプロテクターは意味をなさず、着地するまでの数秒間で防衛線がズタズタになった。

 

「そこへすかさず台風チョップッ!!」

 

 そして崩れた防備を押し広げるのが、ダクネスの連続チョップだ。手刀の一発で人体がプロテクターごと切断される悍ましい光景に、指揮官含めたグラップラーが恐れ慄く。

 

「クリス達に続けぇーっ!!」

 

 ダメ押しに指揮が高まったハンター達が押し寄せて、撤退もままならずに防衛部隊は壊滅。勢いに乗ってもう一階層を制圧してのける。

 破竹の勢いのハンター連合。グラップラーの支配と暴力への反抗が、とうとう大輪の花火となって打ち上がったのだ。

 

 

 

「暇ね〜」

 

 上階で血祭り(ブラッドバスパーティ)が繰り広げられている中、打って変わって静かな一階エントランス。兵士も防衛機械も壊滅し、死体と残骸の山に目を瞑れば至って平和だった。

 暇すぎてカズマとめぐみんはウルフとバギーの整備や装甲タイルを張り直し、屋内用の特殊砲弾を複数制作するぐらいだった。

 

「カズマ、なんですかその哀れな弾頭は? やはりあなたにはアーチストの素質は無いようですね」

「へいへい。めぐみん大先生には敵いませんよ。……で、その見るからに物騒な砲弾はなんなんすかね?」

「装弾筒付翼安定徹甲弾です」

「……なんだって?」

「装弾筒付翼安定徹甲弾。略してAPFSDS弾です」

 

 なんでも、装甲を貫くのに特化した砲弾らしい。彼女が求める爆裂とは趣旨が異なるが、これも今後の試金石だそうだ。

 

「……ちょっとちょっとアクア?」

 

 そんな二人を遠巻きに眺めていたレナが、呑気に拾ったスプレー缶を使って床に落書きをしていたアクアを呼ぶ。

 

「〜♪ ん? なによレナ。こんな時まで発情?」

「違うってば。あの二人、ちょっといい雰囲気じゃない?」

「へ?」

 

 赤一色で無駄にハイクオリティな落書きの手を止めて、アクアはレナが指差す先へ顔を向けた。

 

「……いいフインキって、カズマとめぐみん?」

「そう、そう! まだお互いに意識してない段階だけど、相性は良いと思うのよ。カズマは頭良いけどビビリで行動力低いでしょ? そこを意外としっかりしてるめぐみんが引っ張ったり支えたりっていうか」

「生憎と人間じゃないから人間の恋愛ってよく分からないのよね〜」

 

 心の底からどうでも良さそうなアクアが落書きに戻ってしまい、レナは退屈そうに肩を竦めた。

 

「連れないわねぇ。ていうかアクア、本当に犬だったんだ」

「犬じゃなくって女神よ、女神」

「その設定、犬ってのより無理がない?」

「設定じゃないっての! 水を浄化したり、水を出したり、結構すごいことやってみせてるでしょ?」

 

 特に隠すことでもないし、カズマもフォローしないので、アクアが女神を自称する人外の変な生き物(暫定犬)だというのはあちこち広まっている。汚れた水を浄化する異能から「こんな別嬪な女神なら崇めても良い」なんて冗談めかしていうおっさん連中だってそこそこだ。

 しかしである。誰一人として本心から「神」を信仰している者はいなかった。それは信仰を受けて存在していた女神だからこそはっきり感じられるものだが、彼らが崇めるのは飽くまでもアクアが持つ『異能』だけだ。

 

「まあアクアみたいのが神様だったらのなら、世界がこんなにぶっ壊れてるのも納得かな」

「どういう意味よ!? ……ん?」

 

 不意にエントランスホールの奥、これから乗り込む予定の貨物エレベータから妙な金属音がした。しかしエレベーターそのものが動いている様子はない。

 なんだろうか、と不用意に近づこうとしたアクアの腕を咄嗟に引っ掴んだレナは、強引に自分の懐深く抱き寄せた。

 その瞬間――! 分厚いエレベーターの扉を引き裂き、内部から大爆発が巻き起こった。

 

「うわあああああ!」

「ひゃああああっ!? ななな何事ですか!!」

 

 カズマとめぐみんは、突然の衝撃に譬喩ではなくて跳び上がる。

 幸いにして爆発の規模は小さく、貨物用エレベーターが誰がどう見てもオシャカになった程度の被害だ。比較的近くにいたレナとアクアにも被害はない。

 

「キーッキキキキキッ!!」

 

 直後、濛々とした煙を引き千切って巨大なバイクが飛び出した。四本腕の持つ異形のライダーが、二本腕でバーハンドルを、残る二本でアサルトライフルを構えてレナとアクアに狙いを定めた。

 

「んのっ!!」

 

 銃撃されるギリギリで、レナはアクアごとバギーの車内に転がり込んだ。僅かに間に合わず右足に焼け付くような痛みが迸ったが、千切れてなければ薬で治せる。

 追撃に移ろうとした異形のライダーは、銃爪を弾く寸前で方向を変えて間合いを離す。

 ウルフからの砲撃はライダーを掠めることなくエレベーターに吸い込まれ、さらなる爆発を起こした。

 

「まさか、向こうから出向いてくるなんてね……!」

 

 レナは左足の傷に回復ドリンクを掛け、エナジーカプセルを飲み込むと、殺意を剥き出しにハンドルを握った。カズマとめぐみんもウルフに乗り込んで、戦闘態勢は整った。

 奇襲に失敗したライダーは、苛立たしげに食いしばったしかめ面のサルであった。迷彩服にベレー帽を被った四本腕の異形は、ハンターオフィスの写真で見たことがある。グラップラー四天王のスカンクスだ。

 情報にはない非武装の大型バイクに跨り、鼻息を荒くして銃口をチーム・メタルマックスへ突きつけた。

 

「キキキッ!! ドイツもコイツもバカばかり!! 殺しに来たぞ、ハンターども!」

「よく喋るおサルさんだこと。アクア、出番よ。犬猿の仲っていうでしょ?」

「出るのはいいけど犬じゃないわよ! 足、大丈夫?」

「クルマなんだから平気! カズマ、めぐみん!!」

『聞こえてます! あいつを仕留めて賞金で豪遊しますよ!!』

『しょうがねえな、もー! 腹括ればいいんだろ!?』

 

 味方の士気は十分だった。と同時に、スカンクスも殺意を滾らせ気炎を吐く。

 

「勝てる思うか!? グラップラー四天王に!!」

「馬鹿ね。死ぬのはそっちよ!」

「ウッキッキーッ!!」

 

 アクセル全開のバギーとフルスロットルのバイクが同時に急発進し、決戦の火蓋が落とされた。

 

 

 

 同時刻――。

 グラップルタワー・最上階。

 

「もう後がないぞ! ここだけは死守しろーっ!!」

「くっそう! あの化け物隊長はどこいった!! 敵の化け物に対処しやがれーッ!!」

 

 すでにタワーのほぼ全域を占拠され、残すは最上階の司令室と、一つ下にあるセキュリティルームだ。それが切り崩されるのが時間の問題と末端の兵士も理解しているので、パニックが急速に波及している。

 

「救援はまだか! 通信は!?」

「無茶言うな! こんな時代にEMPなんて持ち出してくるヤツら、想定してるわきゃねーだろ!!」

「あああっ!! こ、こんなことなら悪いことしないで田舎に引っ込んでればよかった!!」

「オレもだー! もう悪いことしないから助けて神様ー!*1

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられる中、兵士達は気付かなかった。

 司令室の片隅に設置された、旧時代の遺物を再利用した特殊な通信システムが息を吹き返し、外部からの通信を受け取っていたことを。

 古い電算機がパンチカードを吐き出すように、メッセージが綴られた紙切れが出力されていたことを。

 

『通信が復旧したらすぐに連絡するように。

 本日中に素体を受け取りに向かう。

 出迎えの準備をしておけ。

 テッド・ブロイラー』

*1
神様と言ってもアクアだぞ




世紀末カズマ
職業:メカニック
サブジョブ:ハンター
 世紀末に転生させられた、この物語の主人公の一人。ハンターチーム「メタルマックス」のサブリーダーにしてブレイン。最近、ハンドルを握ると性格が変わるようになってきた。
 実は本編にてアイテムのドロップ率とレアドロップ率がやたら高いのはカズマの幸運値のお陰という設定。誰も気付いていないチート能力。
最近の悩み:最近、グラップラーの兵士を撃っても何も感じなくなった。
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