この素晴らしきメタルマックスに祝福を! 作:無題13.jpg
※ララティーナは世紀末にはいないようです。
船体の損傷が激しいネメシス号だったが、幸いにもミツルギが拠点としているビイハブ島がすぐ近くにあった。途中でまたアクアウォーカーの群れに襲われたがダクネス頼みで突破し、どうにかこうにか島のドッグに入港したのが今しがた。
「メタルマックス、大勝利! イェイ♪」
「ヘェーイ♪」
高らかにハイタッチを交わすレナとめぐみん、疲れ切ってウルフの運転席に沈み込むカズマ、今回の負傷を愛しげになぞるダクネスと、思い思いに勝利に浸る。アクアの姿がないが、まだワープしてこないようだ。
そんな中、ここまで牽引してきたU−シャークの死体をじっと眺めていたミツルギは、感情の読み取れなくなった無表情で嵐が去った夕焼け空へと顔を向けた。
「シイハブ、ダニー、グレッグ……終わったよ……」
「キョウヤーっ!!」
目的を果たした男が黄昏れていると、ドッグの奥から二人の少女が駆け寄っていった。
左腕の無い緑の髪のまな板娘と、両足を失った車椅子に乗る赤髪の巨乳娘が、煤けた背中のミツルギに抱きついた。
「クレメア……フィオ……」
「ついにやっつけたのね! U−シャークを!」
「これでもう、戦いに行ったりしないよね? ここで静かに暮らすのよね?」
「……ああ。もう戦わないよ。勇者もハンターも廃業だ」
ミツルギが少女達を抱きしめ返し、なんとなく感動的な雰囲気だが、ちょっと待て。
「アンタ、仲間は全滅したって言ってなかったっけ?」
レナがクレメア、フィオと呼ばれた少女達を物色しつつ疑問を投げた。どっちがどっちか分からないが、緑髪の絶壁がクレメアっぽい。
(化粧っ気の無い顔、全身の傷を隠そうともしない洒落っ気の無さ、すっぴんの顔立ちはせいぜい並みレベル……う〜ん、どっちもD判定ってとこか)
「なんだかすっごい失礼な視線を感じるんですけど?」
「誰よ、あなた!? キョウヤに近づいて何する気?」
彼女らからすれば突然現れた世紀末美少女ハンターを、敵意を剥き出しで睨みつけたクレメアとフィオ。だが、ミツルギが肩に手を置いて二人を静止した。
「止めなよ、二人とも。彼女はレナ、U−シャーク討伐を手伝ってくれたハンターチームのリーダーだ。レナ、彼女達は僕の仲間の中でたった二人の生き残りだ」
どーも、と簡単な挨拶を交わすが、まだクレメア&フィオからの敵意は晴れない。それどころか、めちゃくちゃテンションの上がっためぐみんが駆け寄ってくると、ますます顔が険しくなった。ミツルギに女の影が近づくこと自体が気に食わないのだろうか。
「レナ、大変です!! トビウオンとトータルタートルから良い感じのパーツが取れそうなんです!! これは賞金以上の――おや、そちらは?」
「ミツルギ船長の奥さん達ですって」
「そうですか。そんなことより剥ぎ取りですよ! もうダクネスとカズマが初めていますから!! サメの方も解体しましょう!! あの背中の大砲、すっごく気になります!!」
「おっけー、すぐ行くから先に行ってて!」
すぐに来てくださいよ! と念押しして、鼻息を荒くしためぐみんは猛然とネメシス号の甲板へ戻っていった。
「さてと、船長。約束通り、U−シャークの賞金はこっちのものだし、ネメシス号ももらっていっていいのよね?」
「あ、ああ……。けど君、奥さんっていうにはちょっと……」
「?」
ふと、ミツルギと二人の少女が揃って耳まで真っ赤になっていた。その様子にレナはますます「?」と首を傾げる。
「だってさっき、自分達で言ってたじゃない。『これからここでずっと一緒』って。夫婦じゃなけりゃなんだっていうの?」
「ええぇぇぇっ!? で、でもレナ? 夫婦っていうのは夫と妻が一対一で……」
「別に奥さん二人いたって良いじゃない。船長、甲斐性はあるみたいだし。10年後には喪った仲間より多いぐらいの子供に囲まれてたりしてね〜♪」
二の句が告げずに俯いてしまった三人に手を振り、レナは仲間の方へと立ち去っていく。しかし、お邪魔虫はレナだけではないようだった。
死んだハズのU−シャークが、突如として鎌首をもたげたのだった。
「こいつ!!」
ミツルギは即座に腰のベルトから魔剣グラム――ことライトセーバーを引き抜き、今度こそトドメを刺そうと身構えた。
ところがU−シャークは桟橋に頭を乗せたっきり動く気配はなく、顎がゴソゴソと痙攣するばかりであった。
やがて、内側から無理やり口をこじ開けて、全身が色々な液体でドロドロになったアクアが、グズグズと泣きながら這い出して来たのだった。
「あっ、あっ……外、外ぉ!!」
「うわっ! い、生きてたのか邪神め……っ」
さすがにここで斬りかかるミツルギではなかったが、そもそもアクアの目に彼の姿は映っていない。滂沱の涙を流しながらも懸命に微笑んだアクアは、自分が肩を貸して支えている金属製のガイコツに呼び掛けていた。
「ほら、キールさん! しっかりして、外よ外!!」
「ああ……分かるよ女神様。風を感じる……確かに感じる……うぅぅぅっ」
金属製のガイコツは、空洞である眼窩から透明な液体を染み出させており、アクアと抱き合って感動に震えていた。そのどことなく暑苦しい光景に、甘ったるい空気も吹き飛んでポカーンと開いた口が塞がらない、ミツルギ達だった。
「へぇ〜。じゃあずっとサメの腹の中に? 大変だったな」
キールと名乗った金属ガイコツの正体は、グラップラーに無理やり改造されたサイボーグの脱走兵だった。湖を泳いで逃げようとして、サメに喰われてしまったらしい。
長いこと整備されていなかったキールの修理をしながら、カズマは苦労話に耳を傾けてメンタルケアも行っていた。世紀末苦労少年カズマとは彼のことだ。
「大変なんてもんじゃ……いや、ある意味じゃ外より安全だったかもしれないな。あ、カズマ君それだ。そこのアクチュエーターがエラー原因だ」
「これか? ……あー、こいつは部品ごと交換が必要だな。でもこんな規格あったっけ?」
「グラップラーのサイボーグ技術は大破壊前のレベルを限りなく維持している。エバ・グレイという博士が再現したんだそうだ」
「ふーん。あ、駆動系だけだったら直せそうだ!」
大破したクルマの修理技能すら身に着けつつあるカズマにとって、義体の整備も苦ではない。その作業を見届けていたミツルギが会話に加わってきた。
「キールさん、エバ・グレイって言いました?」
「ああ。知っているのかね、ミツルギ君?」
「僕の左脚を造ってくれた人です。ほら!」
ズボンの裾を捲って機械仕掛けの義足を見せたミツルギは、ふくらはぎにこっそり刻まれていた「EVE GLAY」のサインを指差した。
「その人はどこに?」
「デルタ・リオにいるよ。どこかから逃げ出してきたって言っていたけど、そうか。グラップラーのところからだったのか」
「いや、他にそんな技術持ってる組織なんていねーだろ……いないよな? いたらやだよ、俺!?」
ミツルギはカズマに曖昧に微笑み、話を打ち切った。いないと言い切れないのがポストアポカリプス世界の怖いところだ。
「体持ってくれよ! ヨコヅナオーラ、三倍だぁーっ!!」
「あなたまだそんなワザ使えないでしょう? せいぜいジョニダンオーラです!」
「いやマエガシラヒットウオーラぐらいはあるだろ!? なんだったらコムスビオーラぐらい――」
「いいからさっさとそれ、外してください。戦車装備を持ち上げられる馬鹿力、あなただけなんですから」
回復ドリンク一本で復活したダクネスをクレーン代わりに、めぐみんとレナが賞金首の死体から装備を剥ぎ取っていた。カズマもキールの応急修理が済んだら手伝いに行く予定だ。手は出せないが、ミツルギの嫁二人も作業を見守っていた。
すでにトータルタートルから異常に絶縁率の高い蓑、トビウオンの制御中枢だったCユニットなど、多くの戦利品が手に入っている。めぐみんも言いかけたが、ある意味じゃ賞金以上の戦利品だ。
このところ、戦車の整備が楽しくて仕方がないカズマは、はしゃぐ仲間達の声に自然と顔がニヤけてしまった。
「……なあ、カズマ君」
「なんすか、船長?」
「もう船長はレナさんだよ。……君は今、幸せかい?」
唐突に飛んできた質問に、作業の手を止めないままカズマは考えた。だがすぐに考えるまでもないと思い直し、視線を手元に残したまま答えた。
「食う、寝るに困らない。退屈もしない。これ以上の環境ってあるかな?」
「クッ! アハハハハハッ!!」
笑い声はキールのものだった。
質問したミツルギはなんだかこの世のものではない
「どうやら、あの邪神が本当に欲しかった勇者って、君のことだったみたいだね」
「どういう意味っすかねぇ!?」
「世紀末が似合う男ってことさ、君は。モヒカンにでもしてみたら?」
思わず顔を上げたカズマは、子供みたいにケラケラ笑うミツルギを見て一瞬眉を潜めたが、すぐに一緒になって笑いだした。キールはずっと笑いっぱなしだった。
○世紀末キール
職業:アーチスト
どこかで無理やり改造されてしまった悲劇のアーチスト。湖を泳いで脱走中にサメに喰われ、胃の中で生活していた。ピノキオのゼペットか、お前は?
誰だっけ? と思う方。洞窟の奥で綺麗な女神に覚醒したアクアが浄化した、王女と駆け落ちしたリッチーですってば。実はプロット段階だと『異世界かるてっと』繋がりでモモンガさんがゲスト出演する予定もありました。ナザリックなし、スキルなし、所持アイテムなし、所持金なし、前世の記憶なしのサトル君でしたが。
○世紀末クレメア&フィオ
職業:なし(強いて言うならミツルギの専業主婦)
普通に生きてた。しかし再起不能の重傷な為モンスターハンターを引退した少女達。欠損した四肢は神経がズタズタにされて義体化できないが、互いに補い合って生活している。本人達も言う通り、今後は外界に出ず三人で静かな余生を過ごすだろう。