この素晴らしきメタルマックスに祝福を!   作:サイデリア

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 仕事中の空き時間を利用して書き溜めていた官能小説が、私の作業用個人フォルダを参照していた後輩に発見されて読まれてしまいました。みなさんも職場のファイル管理には充分に気をつけましょう。いい年して黒歴史が増えます。


第三十七話 カリョストロ!! 地獄のアーチスト!

 めぐみんが自分の身に起きた異常を理解するより先に、水夫の格好をした男に首を掴まれ宙吊りにされた。

 呼吸が詰まるのと頸部を圧迫される激痛で気を失うことも出来ず、かと言って指の先まで痺れが回って体を動かすこともままならない。水夫に続いてなだれ込んでくる重装備のグラップラー兵士も見送るしかない。

 結局、全神経を集中して眼の前の相手を睨むのが精一杯だった。

 

「ハハハハハ! 相変わらずお前は優秀だよ、めぐみん。ワタシの見立て通りグレイ博士を見つけてくれたな!」

「ま、さか……!!」

 

 右手一本でめぐみんを吊し上げていた水夫は、反対の手で自分の顔面をグシャリと握り潰し、顔の皮を剥ぐようにしてマスクを放り捨てた。

 スポーツ刈りで黒眼のない不気味な瞳を持つ男の素顔に、霞みかけていためぐみんの意識が一気に沸き立つ。

 

「カリョ、ストロ……ッ」

「無理をするな。我が必殺のカリョストロ・フラッシュを受けたのだ、即死しなかっただけ運が良い。もっともお前の仲間はそうもいかなかったようだがな!」

 

 ニアリと嗜虐趣味全開で嘲笑うカリョストロは、わざわざめぐみんの顔を倒れ伏したカズマとアクアが見えるよう向きを変えた。

 カズマの上にアクアが折り重なるようにして、うつ伏せで動かない仲間達の姿を前に、めぐみんの拳が無意識に固く握りしめられた。

 その横を、グレイ博士を担いだグラップラー兵士が駆け足で通り過ぎていった。

 

「ハハハハッ! お前も成長しろ、めぐみん。潔く負けを認めるのも美徳だぞ」

「だ、誰がお前なんかに降参するものですかっ!!」

「降参? フッ、クルマの無いモンスターハンターなど相手になるものか。最初から勝負にならん」

 

 カリョストロはひとしきりめぐみんが悔しがる様を見て満足したのか、彼女をスクラップの山ヘ投げつけた。

 背中を金属の塊にしたたか打ち付けためぐみんは、耐爆仕様の頑丈なマントのお陰で再びの気絶は避けられた。口の中にせり上がりかけた酸っぱいものを無理やり飲み込み、腰の武器に手を伸ばす。

 

「無駄だと言った!」

「あぐっ!?」

 

 だが瞬時に振り返ったカリョストロは指先からのビーム一閃でめぐみんの右手を潰して、これみよがしに嘆息した。

 

「だから無理だ。こうして生かしてやっているのも、昔のよしみだからなのだぞ? 不肖の生徒に対する教師の温情を無下にするな」

「だ、だったら……悪に堕したかつての師匠を討つのが……で、弟子の務めです、カリョストロ!」

「ハハハハ! ワタシを悪と呼ぶか、めぐみん。ゆんゆんと並び、ワタシの教え子で一番の優等生だったお前も、結局はワタシのアートを理解できなかったワケだ!」

 

 大口を開けて嗤うこの男はかつて、紅魔館のアーチスト養成学校の教師だった。そしてめぐみんは、カリョストロが狂気を剥き出しにする前に受け持った最後の生徒だ。めぐみんの爆裂は全て、この男の培ったゲージツが根幹にある。

 めぐみんがカリョストロを討つべく、遥々アシッドキャニオンまで追い駆けて来た理由はそこだ。家族の復讐もあるっちゃあるが、命はあるしなんだかんだ元気だし、レナやミツルギほどのこだわりはない。

 しかしアートは別。めぐみんはこの男を乗り越え、この男のゲージツを否定しない限り、自分が求める真の爆裂にはたどり着けない。悪党から教わった技術を自分の中で完全に昇華させるには、どうしても必要な儀式だった。

 

「フッ。どのみちその傷では睨みつけるだけで精一杯だ。そもそもお前に用はない」

 

 踵を返したカリョストロは、折り重なったカズマとアクアの元へ歩み寄ると、動かないアクアの頭部を掴み、宙吊りに持ち上げた。

 

「あ、アクアに何を……ッ!!」

「さあな。ワタシはテッドから『水色髪の女を捕らえろ』と依頼されたに過ぎんよ。むしろワタシの方がこいつの有用性を教えて欲しいぐらいだ」

「知りたいか? 『目一杯吐き出せ、アクア』!!」

「ぬっ!?」

 

 カリョストロが足元からの声に気を取られたのはほんの一瞬だった。その一瞬の間に間抜けヅラで気を失っていたアクアがガバっと大口を開き、大量の清水を吐き出してカリョストロを押し流した。

 

「ぬおおおおい なんだこれは!?」

 

 鉄砲水に呑み込まれたカリョストロは、壁を突き破って湖まで放り出された。しかしなおも止まらぬゲロ――もとい女神様の清められし濁流が、カリョストロをさらに沖合へと押し流していく。

 そこまで行ってようやく、アクアは口を閉じて真っ青な顔で蹲った。

 

「だーっはっはっはっは! どんな気分だ、カリョストロ!! アーチストが死んだふりに騙されてりゃ世話ねえな! ざ・ま・ぁwww」

「あ、あの()()()()()()……敵を煽る前に回復薬をくらはい……し、死ぬ……」

「あわわわっ、すまんアクア! ほい、プスっと」

 

 我に返ったカズマはアクアの首筋にエナジー注射を打ち込み、続いてめぐみんにもエナジー注射とマヒノンを処方した。

 成分は不明だが、それ一本でめぐみんは全身の痺れや倦怠感、節々の痛みも綺麗サッパリ消え失せてしまう。今更ながら、副作用とか無いものかという心配が頭を過ぎるが、本当に今更なので考えるのを止めた。

 

「それにしても二人とも、よく無事でしたね。電撃耐性装備でも着てましたっけ?」

「いや、あの人のお陰だ……」

 

 カズマの視線の先をめぐみんが追うと、そこに横たわっていたのは黒焦げとなったエンドスケルトン――キールの亡骸だった。

 カリョストロのビームが直撃する寸前、彼は近くにいたカズマとアクアを身を挺して庇ってくれた。長年の整備不良、防御システムの破損した肉体に四天王の大技が耐えられる道理はなく……断末魔の叫びすら残せずに、彼は逝った。

 

「……逃げるぞ、めぐみん。アクア」

 

 カズマは二人が動けるようになったのを確認すると、足早に廃棄場を飛び出していった。

 

「え、逃げるの?」

「当たり前だ。スカンクスやテッド・ブロイラーを思い出してみろ。あの程度で倒せたら世話ないぜ」

「その通りだよ、少年! 冷静な判断力だと褒めておこう」

 

 そこに待ったを掛けたのは、水洗便所のごとく流してしまいたかったカリョストロの声だ。どこから聞こえるかと思いきや!

 

「とうっ!!」

 

 船底を突き破って戻ってきた。全身びしょ濡れ、かつ水中で着替えたのかアメコミに出てきそうなピッチリスーツとダークレッドのマント姿――手配書で見た格好に変わっていた。

 ハッハッハッハ、とおおらかに笑っているように見える表情だが、彼の背後に怒りの炎と稲妻のようなエフェクトが幻視できているのは気の所為ではない。

 

「しかしワタシをコケにしておいて、無事に逃げられるというのは虫が良すぎる話だな!」

「復帰が早すぎませんかねぇ!?」

「ひぇぇぇっ!! カジュマしゃんちゅぎは!? ちゅぎはなに吐けばいい!?」

「だから俺を盾にするんじゃあねえ!!」

 

 カリョストロは今度こそトドメを刺そうと、エネルギーをチャージし始めている。怒りのあまりアクアを捕獲せずに吹き飛ばすつもりなのが、凄まじい殺気から見て取れた。

 だが殺気立っているにはめぐみんも同じだ。

 

「喰らえ必殺EMPィィィィィッ!!」

 

 敵が顔を出したらお見舞いしてやろうと備えていた、必殺兵器を意外と強い肩でぶん投げた。と同時に、回れ右して全力ダッシュ。

 

「むっ!!」

 

 グレネードは、カズマがめぐみんの狙いに気付いてアクアを担いで走り出したのとほぼ同じタイミングで、廃棄場のちょうど真ん中あたりの空中で弾け飛んだ。

 カリョストロはめぐみんの手口と、彼女が作る爆裂弾の威力を熟知している。故に彼我の距離が近いこの場所、このタイミングで使用に踏み切るなら、それは自爆特攻しかないと考えていた。

 確かに投げたのが爆裂弾だったなら、ただの自爆になっただろうが。

 

「うおっ、眩しッ!?」

 

 弾けた球は火炎の代わりに凄まじい閃光と破裂音を放ち、雲のようなプラズマの塊を形成する。ついでに大量の金属粉を散布し、物理的にもiゴーグルを含む電子的にもカリョストロの目を潰した。

 例によってめぐみんが自作した、特注スタンチャフグレネード。非常に高価な全部乗せ制圧兵器だ。

 

「ぎゃあああっ!! め、目がぁぁぁぁーっ!!」

 

 悲鳴を上げたのはアクアだが、カリョストロも片手で目を覆ってしっかり怯んでいる。逃げるのであれば今を置いて他には無い。めぐみんと、アクアを担いだカズマは、後ろの様子など気にする余裕もなく船外へ飛び出した。

 

「お、おのれ! 味な真似をするじゃないか小娘――ぬおっ!?」

 

 霞む視界のままで追いかけようとしたカリョストロはその瞬間、自分の体が微かに発光していることに気がつく。

 運の悪いことに、チャージしていた電気が散布された鉄粉を伝って空中放電し、周囲の空間を急速に加熱させていた。ちょうど彼の足元に転がっている、電子レンジのように!

 

「し、しまった!!」

 

 めぐみん本人も意図していなかったことだが。

 ただでさえ湖上の船に、アクアが吐き出した大量の水のせいで船内が異常に高い湿度となっていたこと。

 多少は押し流されたとはいえ、廃棄された旧世紀の家電製品がまだまだ大量に残っていたこと。

 何よりカリョストロの持っていたエネルギーが常軌を逸して莫大だったこと。

 

 急激に熱された周囲の水分が一斉に気化したことで発生した大規模な水蒸気は、ボロ船一隻を跡形もなく粉砕して余りある衝撃波を生み出した。

 

「えっ!?」

 

 予期せぬ突然の大轟音に、走りながら振り返っためぐみんの視線の先では。

 大量のゴミの山に揉みくちゃのボコボコにされながら吹き飛ばされ、今度こそデルタ・リオ沖数メートルの湖面へ真っ逆さまに落ちていくカリョストロの姿がハッキリと見て取れた。

 

「な、なんで爆発してるんですか!?」

「俺が知るかー!!」

「さっきのは彗星かしら……違うわよね、彗星はもっとパーッて光るものね……」

 

 爆発の原因が分からなければ、アクアが何を言っているかも分からない。確かなのは急いで逃げてクルマに乗らねば命はないということだけだった。




紅魔族カリョストロ
職業:アーチスト
 元紅魔族のアーチスト、現在はグラップラー四天王、諜報部門を総括する武闘派アーチスト。リローデッド版なので当然超強い。めぐみんはこいつから受けた家族の屈辱を晴らすべくアシッドキャニオンへ報復にやって来た。
 ひょいざぶろーとはかつての親友にしてライバル。めぐみんが子供の頃は悪趣味かつグロテスクながらまだ真っ当な芸術家だった。

 当然ながら水蒸気爆発程度で死ぬはずもなく。致命的なダメージもなくすぐに泳いで桟橋に戻ったものの、カズマ達はとっくに逃走した後だった。


世紀末ゆんゆん
 本編に登場予定が無いので、事実上裏設定扱いのめぐみんの親友(自称)。現在はどこか別の地域でハンターとして活躍中。旧関東地方で戦車を乗り回している。
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