アクア「佐藤和真さん。あなたは自分が死んだと思っているでしょうけど、運び込まれた先の病院で電撃蘇生学の被検体となって無事に復活しました。だからさっさと自分の体に還れ。次の人ぉ〜!」
和真「いい加減だな、おい!!」
第四十一話 イリットさん、キレる
その日。少女は「鬼」となって暴れていた。
「どうしてこういうことするのかな〜? レナってば死にたいのかな? それとも殺されたいのかな〜?」
細身かつ小柄(でも出るとこ出まくってる)とはいえレナをアイアンクローで宙吊りにしつつ、満面の笑みでイリットは怒りを表していた。全身から、赤黒いオーラが噴出して阿修羅を象っているようだ。
「あだだだだだイリット!? アナタの笑顔は素敵だけど瞳にはハイライト入ってた方が素敵ぎゃあああああああ〜っ!!」
「誰のせいでハイライト消えてると思ってるのかな? ん〜?」
ミシミシと頭蓋骨の軋む音がしている。本当に握り潰しはしないだろうが、万が一潰れたらDr.ミンチという反則技に頼ればいいかと仲間達からは静観されていた。
ああなった原因は、半分はイスラポルトで助け出した人質の少女、もう半分はいつもの自業自得だ。
「本当にありがとうございますっ、ありがとうございます!! あなた方は文字通りの命の恩人ですっ!!」
「あはは〜、良いってことよ。元はアタシらのゴタゴタに巻き込んじゃったわけだし〜。ふふふっ、無事で何よりだったわ。それにしてもキミ、かわいいね。彼氏いる?」
「え、えぇぇ〜……か、カレシっていうか、可愛くて飼われてくれる年下の美少年か美少女なら年中募集中ですけど〜?」
助けられた薄幸そうな美少女と、彼女を助けた美少女は、互いに鼻息を荒くして手を取り合っていた。気付いてないのはやっぱりお互いだけで、血走った眼を見開きながらだらしなく口を開けた二人がハァハァいってる構図は……うん。
「二人とも、銃弾を腹に喰らったダクネスみたいな顔してますね」
「あんな酷い顔して……してるのか、私……!?」
めぐみんの本気でゲンナリした表情がダクネスにまで飛び火した。これ以上放置すると味方の連携に亀裂が生じかねないので、カズマは同じくドン引きしているアクアの頭に手を置いた。
「アクア、ハイドロポンプ」
「だばー」
吐き出された大量の水を頭から浴びせて強制クールダウンさせる。ついでにフリーズビールも追加してやろうかと思ったが、レナはともかく少女が死にそうなので、カズマはグッと堪えた。
正気に戻ったような戻っていないような少女だったが、改めてメタルマックスと向かい合った。
「うふふふふふっ♪ ピンチを救ってくれたのが見目麗しい美少女だったとか。こんな世界でも神様はまだ死んでない――あ、申し遅れました! わたしはセシリー、気軽にセシルとお呼びください。イスラポルトのカトール売りですわ♪」
ペコリ、とお辞儀するセシルは、最初に見掛けた印象とは違って、図太くてタフそうだった。今も全身びしょ濡れのまま、ギラギラした瞳をレナと、ついでにめぐみんへ向けている。
「というわけでカトール買いませんか? 今なら同じ成分を使った石鹸をお付けしますよ? 使ってると蚊が寄ってこなくなります!」
「商魂たくましいな〜」
「カトールは便利ですよ? 木材に塗ると簡易的な防腐剤になりますし、どうしても間に合わない時は止血剤にもなります! それでいて生産コストも非常に低く、世界にはカトールを売ったお金で巨大な宮殿を作った富豪もいるという――」
「カトール教徒なのか、この人?」
なぜかカトールについてを熱心に語るセシルは、最近縁のある典型的な世紀末美人だった。ようするに、外見だけ整った変態だ。
「ふっ。それじゃあカトール99個頂ける?」
「はい、99個ですね! かさばりますし、わ、わたしの自宅兼工場までお越しくださいジュルリ」
「へえ。どんなところなのかしらゴクリ」
「おいコラ! どっちも欲望がダダ漏れじゃねーか!! つーかこの前カトールジェット買ったばかりだろうが!」
結局、セシルにホイホイついていったレナはその日のうちに戻ってこなかった。
そして朝になり、カズマ達が取ったイスラポルトの宿に
転送装置という便利なものが世の中に残っているのは、果たして幸運か、不運か。
「な、なんでイリットがここにっ!?」
「わたしがいたら都合が悪いのかな? ふふっ、レナってば
「おおおお落ち着いてイリット!? セシルとは飽くまでも旅先のアヴァンチュールであっていつだって本家本命はあなたぎゃあああああああーっ!!」
必死で弁明するレナを見て、仲間達は思った。
うちの
ひとしきり暴れてスッキリしたのか、ミンチ送り一歩手前のボロ雑巾と化したレナをドラム缶に詰めて謹慎させたイリットは、怒りのオーラをようやく鎮めた。
一同ドン引き中のチーム・メタルマックスの元へ戻ってきたイリットは、普段の癒やし系オーラこそ消え失せているが、穏やかな微笑みを浮かべていた。……表面上は。
「カズマ、教えてくれてありがとね」
「あ〜……うん」
「今日ほどレナが女の子で良かったって思った日はないわ〜。男の子だったら最低でも
「ひぇ……っ」
カズマが思わず内股になるぐらい、イリットは本気だった。全然怒りが鎮火していない。世が世なら離婚調停真っ逆さまであっただろう。世紀末には民事訴訟などという概念はない。あるのは一つ、力こそ正義という概念だけだ。
それでもちゃんとお金払っての売買や契約が成立しているのだから、意外と人間の理性も捨てたものではないのかもしれない。
「はあぁぁぁぁ〜」
「……まあ、なんだ。今後は私達で止めるようにした方がいいか?」
桟橋のブロックに腰掛けて物憂げなイリットを、一応は最年長のダクネスが励ましに行く。
隣に座ったダクネスを見上げて、イリットは力なく首を振った。
「う〜ん、別にそれはいいかな? レナって半分以上はわたしからお仕置きされたくってああいうことしてるから」
「な、なんだとぉ!? れ、レナに私と同じ属性が……っ!!」
「言っておくけど、ダクネスさんほどの節操なしじゃないからね。死んだマリアさんにもお仕置きされたくてアホやってたみたいだけど。ひょっとして、最近あの人がショック受けるようなこととかあった?」
なんだか思った以上に熟年夫婦的な憂い方のイリットだが、まだ出会って何ヶ月も経っていないハズである。
レナに対する理解度の高さに、さっきとは違う意味でおののきつつも、ダクネスはガルシアとの一件を話して伝えた。
聞き終えたイリットは、なるほどと腑に落ちた風に頷いた。
「そっか」
「イリット?」
「そっかぁ〜……はぁぁぁぁっ」
青い水平線を見つめて吐かれた溜め息は、それはもう鉛のように重かった。
「……ダクネスさん、ちょっと愚痴っていい?」
「お? お、おぉ……」
「やっぱりわたし、レナの『港』にはなれないのかな……」
トツトツと語りだしたイリットの話を聞くうちに、ダクネスはだんだんと背筋が寒くなってきた。
「辛かったり、苦しかったりしたら、真っ先に戻ってきて欲しいの。でもわたしに重荷を背負わせたりしたくないのかな、外で出会った
「そ、そうか……」
感情がデカ過ぎて、第三者であるダクネスから下手なことが言えない。「いや、あれってただの天然で女癖悪いだけじゃね?」などと言ったら最後、また目だけ笑ってない笑顔で「そう見えちゃうのかもね」とか返される。あの笑顔は駄目だ、SAN値が削られる。
「ダクネス、ここにいたのか!」
だから、イスラポルトのハンターオフィスから賞金首の情報持ってきたカズマが、地獄に仏の救世主にすら見えた。
「か、カズマ!! どうした、もう出発か!? よし任せろ! 弾除けでも人間砲弾でもなってやる!!」
「寄るな、暑苦しい!! いや、レナが起きるまで次の目的地について決めておこうかと思ってさ」
「? デビルアイランドじゃないのか?」
首を傾げるダクネスは、てっきり勢いに乗って突撃するものだと思っていた。しかしカズマは首を振る。
「ネメシス号が修理中だろ? それにグラップラーの拠点に乗り込むんだったら、またクリス達の援護が必要になるだろうし」
「あ、そうか」
「だから戦力補充の意味も込めて、ここいらの賞金首を潰しておこうかとな。目ぼしいのの一体はカミカゼキングっていう……このムカつく笑顔の微笑みの爆弾。もう一体はマダムマッスルだ」
ダクネスはカズマが手渡してくる二枚の手配書を受け取って、目を通していく。イリットも横から一緒になって覗き見た。
そして、派手なグラサンにレスリングタイツを着込んだ、筋肉ムキムキの厳ついおばさんの手配写真と情報を読み、ものすごい早業で手配書をふんだくった。
「ど、どうしたイリット!?」
「か……カズマ!? このマダムマッスルっていうの、森の奥で女だけの一族を作って君臨してるって書いてあるわ。 ……つ、つまり、女の子同士で子供作れる技術を持ってるってこと!?」
「え?」
怒りのオーラとも違うが、有無を言わせない迫力でイリットはカズマに詰め寄った。美少女の顔面ドアップなのに、なんでか全然嬉しくない。
「お願い、カズマ!! 連れて行って!! プロテインパレス!!」
怨念めいた恐ろしい圧に屈してしまい、カズマは反射的に頷いてしまったのだった。
世紀末セシリー(セシル)
職業:トレーダー
外見はMM2Rの薄幸病弱美少女、中身はどこぞのアクシズ教徒。頭が病気になった分、体が元気という某沖田総悟みたいな設定なので、余命一ヶ月の花嫁にはならない。苗字はフェアチャイルドではない。ぶっちゃけ名前ネタ。
レナはロリというにはちょっと育ちすぎだが、充分に射程範囲。思いっきりリードしてくれる年下イケメン美少女という未知の属性に思考回路はショート寸前。原作通りめぐみんはドストライクらしい。