新しく始めると、転職した時と似た気持ちになります。
衛星兵器によって、大学の本館だった建物は瓦礫の山へと姿を変えて、裏へ回る直通通路が開通された。
「なんだか思ってたほどの威力じゃありませんでしたね」
「……これで?」
「効果範囲は狭いですが、当たれば消滅確定の大火力攻撃……だったハズです。やはり爆裂は自分の作品でなければ理想の体現は不可能ですね」
破壊の痕を観て不満そうに唇を尖らせて、イリットにそう語っためぐみんは、アンカー射出に使ったバズーカを放り投げた。想定では瓦礫の山どころか、まっさらな更地になるハズだったのだが。大破壊の頃から放置されてきたせいで、攻撃衛星が整備不良にでもなっていたのだろう。
「あ。カズマ、ダクネスがいました」
本館跡地を通り抜ける途中、アイリスによって瓦礫の下から引っ張り出されたダクネスは、実に満たされた表情で気絶していた。
「生きてるのか!? あれで!?」
「気を失ってはいますが、大変満足している様子です。深い『愛情』を受けた時と近い脳波が検出されています。……ああ、これが『気持ち悪い』という感情なのですね」
「……グラップルタワーの頃より頑丈になってませんかね、この人?」
ダクネスは仲間達から酷い言葉とエナジー注射を打ち込まれ、アイリスに足を引きずられて運搬されることになった。
少し進むと、地下へ通じる分かりやすいスロープを発見。下ってみれば表の寂れ具合とは異なる、現在も稼働中の工業プラントとなっていた。
入り口から工場奥まで一直線にベルトコンベアが伸びており、隠す気ゼロな監視カメラやガンホールが、すでにこちらを狙っている。
機材を一瞥したアイリスが、静かに口を開いた。
「データ検索……この装置は石油からプロテインを精製する為の装置です」
「プロテイン!?」
「科学的に合成されたプロテインは、クローン人間の材料になります。先程の戦闘で死亡した敵が融解しましたが、あれは生命活動停止と同時に細胞の結合が緩み、材料であるプロテインに戻ったからでした」
「……なにそれ怖い……」
人間が溶ける光景は、この先もしばらく目にすることになりそうだと、カズマは真っ青な顔で身震いする。
「それでどう攻めますか、カズマ? このまま正直に突き進むならダクネスが起きるのを待った方が良いと思いますけど」
めぐみんはすでに、某ゾンビが蔓延る警察署に転がっていそうなグレネードランチャーを担ぎ、いつでもそこら中爆裂させる準備万端だ。やはりさっきの衛星攻撃が不完全燃焼だったらしい。
「手始めに監視システムに一発撃ち込みましょうか」
『ふしゅるるる、その必要は無いネ。オ前達、もてなす準備は整ってるヨ』
めぐみんが銃口を向けた監視カメラから、ゴツくてドスの利いた女の声がプラントに響いた。聞き覚えが無くとも、誰だか予想はつく。
「あなたがマダムマッスル?」
何故かゲスト枠のイリットが真っ先に聞き返すと、マダムマッスルは「よく分かったな。エスパーか?」と本気で驚いた。意外と天然系のようだ。
『ふしゅるるる。預かったオ前達の仲間を無事に返してほしければ、そのまま真っすぐ進むがいい』
「アクアは無事なの?」
『今のトコはな。あの女には深い絶望を味わわせてやる。簡単には死なさん』
「だって、カズマ。どうする?」
イリットがカズマを見上げてくる。ワープで呼び寄せなくていいのか、と暗に視線で訊いてきた。イリットだけでなく、めぐみんとアイリスも同様だ。
カズマは少し考えて、もうしばらくそのままにしておくことにした。もしアクアに爆弾でも括り付けられていたら一大事だ。ちゃんとアクアの姿を確認してからでも遅くはない……というか、不用意にワープさせる方が危険だ。
「しばらく相手の誘いに乗ろう。まだ慌てるタイミングじゃねーよ」
『ふしゅるるるっ。やはり女神が心配アルか、カズマとやら』
「ん?」
不意に話の矛先を向けられて、カズマは眉をひそめる。耳聡く『女神』って呼んだか? と疑問を抱くも、次の一言でそんな考えは頭から一気に吹き飛んでしまった。
『知っているぞ。オ前は女神アクアの恋人であろう? 捕まえたアクアが、何度もお前の名前を呼んでいたぞ。ファ ファ ファ』
「はああぁぁぁぁっ!?」
心の底から心外だとばかりに、カズマの声は裏返っていた。一方、盛大な敵の勘違いにイリットとめぐみん、ついでに意識が戻っていたダクネスが一斉に噴き出す。アイリスだけは感情が無いので無表情のままだ。
カズマは「ふっざけんなッ!!」と怒りを露わに、愛用のスパナを監視カメラへ投げつけた。一撃でカメラを破壊したスパナが、ブーメランのように手元へと帰還する。
「っっっっっけんじゃねぇぞ、おら!! 誰が誰の恋人だ!! 見た目が良くてもあんな産業廃棄物に誰が欲情すっかよ!! 俺にそんな特殊性癖は無い!!」
『照れ隠しカ? 男のツンデレなんて需要ないアル』
「デレてねーよ!」
『どの道、オ前達に選択肢無いネ。ワタシの首に掛かった賞金、欲しければ来るがいいネ』
マダムマッスルが一方的にそう告げると、セキュリティが引っ込んで奥へと続く道が開かれた。それっきり返事も無くなり、カズマは口いっぱいに虫でも頬張ったような顔で激しく地団駄を踏む。
「あんにゃろう……!!」
「くくっ、どこからどう勘違いしたのでしょうね。では、可愛い彼女を助けに行きますか」
「お前も乗っかるな、めぐみん! それとダクネス! 目が覚めてるなら立って歩け!! 雑に引きずられて悦んでるんじゃねーよ!!」
「くっ、バレたか! しかし……い、いつもの5割増ぐらいの蔑みの視線……八つ当たりの理不尽な感じがまた……っ!!」
ブツブツ言ってる変態を放置して、珍しくカズマが先陣を切って突入していった。
肩で風を切るカズマを、仲間達は爆笑しながら追っていった。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、ではないが、明らかな罠と分かっている場所へ飛び込んだ先で待ち受けていたのは、観客席に囲まれたプロレスリングだった。
「なんでさ」
「アイリス、なんでそんなネタを……?」
呟くアイリスにすかさずツッコミを入れたところで、スポットライトがリングを照らす。リング中央でマイクを構えていた筋肉ムキムキで大柄な女が、グラサン越しにカズマ達を指差した。
「ふしゅるるる! よく来たな、賞金稼ぎども! ワタシがマダムマッスルネ! そしてお前達の仲間は――」
マダムマッスルが真上を指差すと、天井が左右に開いてクレーンが降りてくる。先端に吊るされた球体の檻の中には、情けなくも顔をくしゃくしゃに泣き腫らせたアクアが入っていた。
「あっ! カジュマしゃ〜ん! みんな〜!」
手を振ってくるアクアには、外傷らしいものは見られない。手を振り返すフリをしつつ、めぐみんはiゴーグルで爆発物などが仕掛けられていないか確認した。
「この通り、アクアはワタシの手中にアルネ! 返してほしくばオ前達の代表一人をリングに上げて、ワタシと一対一で戦うアルヨ!!」
「普通に興行やってるな、あいつ」
「よく見ると観客席にも人がいますよ。クローンアマゾネスですけど」
警戒を強めながら、アイリスが周囲に気を配る。
薄暗い観客席に敷き詰められたアマゾネス達は、不気味なほどの静けさでじっと待機している。少なくともいきなり襲ってくることはなさそうだ。来たら来たでまたダクネスとアイリスに無双されるだろうが。
「さあ! 誰から掛かって来るね? ……ていうかカズマ、なにこの状況で女の影に隠れてる? 恥ずかしくないカ?」
さり気なくダクネスとアイリスを盾にしていたカズマに、マダムマッスルがサングラス越しの白い目を飛ばした。もちろん、そんなもので怯んだり、バツが悪くて前に出てくるカズマではない。
「よし! 行け、ダクネス!」
「応っ」
カズマの指示で、ダクネスが拳を馴らして堂々とリングインする。ただでさえ険しかったマダムマッスルの顔つきが、ますますおっかなくなった。
「情けないアル、カズマ! 自分の女のピンチに、他の女を頼るとは!!」
「勘違いすんなよ! その駄犬は俺の所有物だけど、別に好きとかどうとかなんて微塵も考えちゃいねーんだよ!! 第一、レスラーがメカニックとタイマンしようって方が情けないんじゃないですかねえ?」
「ぐぬぬっ」
言い返されて「もっともだ」とでも思ったのか、マダムマッスルは大人しくダクネスに向き直った。素直というか、やはり天然な性格らしい。
「ルールは単純ネ。ワタシに勝てばアクアは解放される! でも負けるか、試合開始から5分経過であの檻が大爆発する仕掛けアル!」
「ほう。ならば5分以内にお前を倒せば万々歳ということか」
ダクネスがチラリとカズマへ振り向いた。仲間達とダクネス側のコーナーにセコンドとして着いたカズマは、腕で十字を作って答えた。それっぽいハンドサインだけで、これには特に意味はない。適当に頑張れ、程度だ。
(むむっ! 好きにして良い、ということか! つまりアクアの事は気にせず、自由に戦って良いのだな!! クックックック、レスラーとの対決は久し振りだぁ♡)
ボキボキと拳を鳴らしたダクネスは、これから始まる血と汗と肉のぶつかり合いを想像し、それがもたらす苦痛という快楽を想像してだらしなく頬を緩ませた。
「ククククク! お前の痛みは、私を満たしてくれるのかな?」
「なにを言ってるネ、お前。まあいい……爆弾のカウントダウンはゴングと同時! レフェリーなし、何でもありの殺し合いネ!! 今更後には引けないヨ!!」
二匹の虎が睨み合う中、クローンアマゾネスの一体がゴング……ではなく、巨大な銅鑼を打ち鳴らした音を合図に、マダムマッスルはダクネスに飛び掛かった。
バッド・バルデス「転生チート持ちの俺様こそ世界一強い悪党だ!」
レッドフォックス「チートより大破壊前の技術で改造された義体のが強かった件」
オルガ・モード「せっかく転生したのにバグ技で戦車持ち込まれて血の海よ」
ベルイマン「……オレも転生だったらよかったのにな〜」