アクア「あんたが転生する世界はね。ギルガメスとバララントって陣営が互いに軍を形成してね、もはや開戦の理由など誰もわからなくなった銀河規模の戦争を100年間も継続してる世界よ」
カズマ「チェンジで!!」
アクア「なによー。転生特典で肩を赤く塗ってあげようと思ってたのに〜」
※この後、連れ出されたアクアが赤く塗られました。主に全身を。
マップで確認してみると、デビルアイランドは思っていたよりグラップルタワーから近かった。ハトバとデルタ・リオ航路からちょっぴり北西に外れた先に、工場が併設された高層建築が佇んでいた。
「どうして今まで気づかなかったのよ?」
「シェードっていうの? 基地がただ無人島にしか視えない仕掛けがされてたの。多分、大破壊前の技術ね」
ウルフに単独で騎乗したレナに、第三チームの司令塔クリスが、ややバツが悪そうに答えた。白兵戦がメインとなる第三チームは、クリス含めた一部がバイクを持ち込んでいる以外はソルジャーとレスラー、少数のナースで構成されている
ダクネスとバギーに同乗しているめぐみんが、いつもの眼帯型iゴーグルからデータを引っ張り出してクリスの話に付け足した。
「周囲に特殊なミストをばら撒いて、陸地側からだと建物が見えなくなっていたそうです。そして島に近づく船は、あのU−シャークが片っ端からバラバラにしてしまってたんです」
「U−シャーク!? あれ、グラップラーの兵器だったの!?」
「少なくともデビルアイランドを防衛していたのは間違いないです。おそらくグラップラーが利用していただけだとは思いますけど。どのみちもう、ヤツはいません」
「デビルアイランドを見つけられたのもアタシ達のお陰って話? フッ、困ったわね。またファンの女の子達が騒いじゃうわ」
一人の車内でキザったらしく髪を掻き上げるレナだが、残念ながら彼女のファンは年配のおじさんがメインであることを彼女は知らない。
そして、その悲しい現実を知っているカズマは、露骨なまでに話題を逸した。なお、今回はアクアとともにエレファント号に同乗中だ。
「全員、タイルパックの予備は積んでるな。シャシーが大破しても今の俺なら修復出来るけど、乱戦中だとさすがに難しい。戦いの合間、合間でこまめに貼り替えてくれ」
「任せろ! 敵の砲弾を受けながらでも張り替えてみせよう!」
「……ああ、うん。頼りにしてるぞ、ダクネス……」
発情しながら「任しぇろー」とダクネスが鼻息を荒くするので、戦う前からめぐみんのテンションがダダ下がるのだった。
開戦の合図は、第一チームに贈与されていためぐみんの爆裂弾によって切って落とされた。
ただの岸壁に偽装された砲台からの対空射撃で迎撃されたが、よく晴れた空にもう一つの太陽が出現したかのような輝きは、遠くからでも一目で確認できた。
「うっし! ネメシス号、発進だ!」
カズマの号令がネメシス号に響く。
船のコントロールシステムはエレファント号と連動されており、車内から直接操舵できるように調整した。最近、元の世界に帰ってもメカニックとして食っていけるんじゃね? と思い始めたカズマだった。
「いやー。ほんの何ヶ月か前までヒキニートやってたとは思えない面構えですな〜、カズマさんや」
助手席で待機中のアクアが、ニヤニヤ笑顔でカズマを見上げた。レナがカズマをからかう時も似たような表情をするが、醸し出す色気が段違いである。言うまでもないが、レナの方が圧倒的に色っぽい。
「今ならもう、トラクターにビビってショック死したりはしないんでしょうね〜」
「トラクターどころか、この前無人のトラックに轢かれたのに生きてたんスけど。俺の体、気付かないうちに改造されてたりしない?」
「世紀末の人間なんてそんなもんよ」
自分のステータスを客観的な数字として表わす機能は、さすがのiゴーグルも搭載していない。手元にもしもファンタジー世界で有りがちな冒険者カードがあれば、ギルドの受付が目を疑うような体力と耐久力と示しただろう。その程度にはカズマも成長しているのだ。
「ほんと人間って呆れるぐらいにしぶといわよね。神様だって見捨てた世界で、まだ何十年って生き残っててさ」
「ふっ。人間の可能性をナメるなよ、神様」
「うん、ナメてた。この世界だって滅ぶだけって思ってたのに、マドの町なんて『街』になりそうな勢いで蘇ってるじゃない?」
「アクア?」
どうも駄女神っぽくない語り口のアクアに目を向ければ、外部モニターから外の景色を真顔でじっと見つめていた。横顔は別人のように引き締まり、カズマも思わず「誰だこの知性派なお姉さんは!?」と二度見してしまう。
プロテインパレス以降、アクアはよく一人で考え事をするようになった。思考能力なんて機能が備わっていたのか、と失礼なことを言ってはいけない。難しいことを三秒も考えれば眠ってしまう程度の知能を振り絞り、真剣にこの世界のことを憂いているのだ。
仲間達もアクアの奇行を気付いてはいるが、ペットのことは飼い主に任せるのが一番だとカズマに丸投げしている始末だ。
「……ま、お前が今更責任を感じたって、世紀末が良くなるわけじゃねーよ」
「うぐっ……」
「けど……グラップラーの次はノアを狙うのも悪くねえな。賞金が掛かってるかは知らねーけど、倒したら俺の願いを叶えてくれるんだろ?」
アクアがすごい勢いでこっちを見た気がするが、視線を合わせるのが気恥ずかしいカズマは操舵に集中するフリをして正面を向き続けた。
「探しに行くの、ノア?」
「ハンターだからな。
「……しょうがないわねぇ。確かにカズマ一人じゃ『み、水……』ってなって行き倒れそうだし。地獄の果てまで――!?」
その時だった。順調に進んでいたネメシス号の船内に、けたたましくアラート音が響き渡ったのは。
こちらからは状況が確認できず、カズマはすぐにiゴーグル持ちの二人に通信を飛ばす。残念ながら、レーダーの類は魚群探知機ぐらいしか積んでいないネメシス号だった。
「レナ、めぐみん、何があった!?」
『カズマ、船の速度を落とさないでそのまま聞いて!! 二時の方向から大型船が接近してるわ! 速度はこっちと同等! 間違いなくグラップラーよ!!』
モニターを甲板上に切り替えると、ウルフとバギー並べて迎撃体制を整えているレナ達の姿が映った。クリスや第三チームも一緒だ。
「俺も出るか?」
『ううん、あなたは操舵に集中して! 無駄な時間を掛けずに全速で島までお願い!』
「分かった! アクア!!」
「行ってくる!!」
ハッチを開き、ポチカーを担いだアクアがエレファント号を飛び出していく。
それを見送ったカズマは、船の速度を巡航から最大速度へ切り替えると、腕まくりしてハンドルを握った。
甲板では、すでに近づいてくる大型船からの砲撃が始まっていた。
向こうにとっても射程ギリギリだからか牽制程度で被害は無い。だが相手のサイズはネメシス号の二倍以上はあり、船自体の武装がこれといって無いネメシス号とは火力が桁違いだ。接近されれば厄介なことになる。
「うわ……レナ! 望遠レンズで向こうの船首を観てください!!」
めぐみんが心底嫌そうな声をするので何かと思えば、全身タイツのおっさんがマントを棚引かせて腕を組み、仁王立ちしてこっちを睨みつけていた。
あんな派手な格好のアホはそうそういないだろう。間違いなく四天王のカリョストロである。デビルアイランドの援護に来たのだろう。
カリョストロは金色に輝くカラオケマイクを取り出すと、少しの発声練習を挟んでからネメシス号に宣言する。
『ア、アー――ハンターの諸君! 君達が陰でコソコソしていたのは、この私がまるっとお見通しだ!! 我々に逆らった報いは死、あるのみ! 海の藻屑と消えるが良い!!』
砲撃が激しさを増した。新たに積み込んだ迎撃装置「ATパトリオット」や、第三チームのソルジャー達の銃撃でどうにか砲弾を叩き落としつつ、ネメシス号はカリョストロの船――仮称「カリョシップ」から一目散に逃げていく。
『逃げるか、臆病者め!』
「逃げるんじゃなくって攻め込むんですよ!! そっちこそ、わたし達が恐ろしくないなら追いかけてみろってんだ、この変な髪型ヤロー!! ファッションセンス壊滅男ー!」
『なんだとぅ!!』
めぐみんから煽り返されたカリョストロが、この遠距離からでも察せるほどの殺気を剥き出しにする。髪型とファッションセンスは譲れない一線だったらしい。
『その声はめぐみんだな!? いいだろう、そんなに死にたければ殺してやる! 全砲門、開け!!』
「けっ! 死ぬのはそっちですよ、賞金首めッ!!」
しかし殺気立っているのはめぐみんも同じだ。ここで因縁に終止符を打つつもりだった。何よりこの後で想定されている屋内戦だと使えない爆裂弾を使う機会に恵まれて、精神ボルテージが一気にレッドゾーンへ突入していた。
「レナ、援護を頼みます!! 島に到達するより先に、まずはヤツを沈めましょう!」
「奇遇ね、同じこと考えてた! クリス、周囲の警戒は任せた!!」
「オッケー!」
デビルアイランド攻略戦、第一ラウンド。
ネメシス号 VS カリョシップ ――ファイッ!!
カリョシップ
本作オリジナルのメカ。ダークカナルという入江洞窟を守備しているのだから、自前の船ぐらい持っているだろうとのことで追加。おそらく漁船を改造したと思われるネメシス号とは違い、駆逐艦クラスの本物の戦闘艦艇。最低でもトータルタートル程度には強い。