この素晴らしきメタルマックスに祝福を!   作:サイデリア

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ブルフロッグ「気持ちよく勝ってるうちに逃げ帰った方がいいんじゃないかな?」


第五十一話 悪魔の島の女神

 正面入口の防衛を突破した第一グループの半数と、上階へと駆け上がったクリス率いる第三グループが合流を果たした。

 地下では今、レナ達メタルマックスがスカンクスコピーの軍団を相手取って戦っている。中でもダクネスは、以前に倒された相手にリベンジが出来ると大いに張り切り、さっきから基地全体が揺れるほどのパワーで暴れていた。

 

「よし! 一階を制圧後、そのまま上の階を攻略していくよ! 捕虜はもういないハズだけど、研究員は尋問するからなるべく殺さず生け捕りで!」

『おおぉーっ!!』

 

 クリスの号令に、ハンター達が一丸となって雄叫びを上げた。ある種のカリスマであるクリスの存在は、一部では神格化されて女神のように崇められている。

 

 しかし、実は彼女が本当に女神だと知るものはいない。顔見知りであるはずのアクアでさえ、何度も会っているのにまったく気づいていない。

 

 女神としての本当の名前は「エリス」といい、本来ならばこんな世紀末世界ではなく、もっと安定していて、かつ神の力が広く浸透したファンタジー世界の守護神になれる器の女神だ。

 そのエリスが「魂の廃棄場」とまで呼ばれる世紀末世界に下天し、人間達をまとめてレジスタンスをやっているのは、身も蓋もない言い方をするなら上層部との軋轢だ。

 かつて世話になった先輩女神を庇ったことも大きいが、一番の原因は担当していた世界の運営が天界の指針から外れていたことだ。人間の自主性を重んじるエリスの考えは、秩序立った世界を理想とする主流派と反するものだ。

 

 ……なお、自由と混沌を由とした神の代表格は他でもない、猟犬の女神アクアである。放任主義が行き過ぎて降格と左遷の果てに世紀末の女神と化した彼女だが、そもそもの世界運営方針が世紀末以外の何ものでもないのだ。

 

 話をエリスに戻すが、彼女が下界でハンター「クリス」として活動しているのも、半分以上はアクアの責任だ。アクアの送り込んだ転生者の特典(チート)は、転生者の死後も地上に残り続ける。その回収こそ彼女の任務だ。

 使用者が限定される装備品ならば放置しても問題ないが、物によっては重篤なバイオハザードを引き起こし、ビル一棟がゾンビだらけになった事例もある。どこぞの元水の女神が何も考えずファンタジー世界用の特典(チート)を持ち込ませたのがそもそもだが、それ以上に特典(チート)持ちの転生者があっさり死んでいく世界というのは鬼畜難易度すぎた。故に改善の見込みなしとして「廃棄場」指定されたわけだが。

 

 しかしエリスの考えは違った。世紀末で一人のハンターとして活動し、この世界を生き抜く必要以上にタフで個性豊かにも程がある連中と関わり続けた結果、人を導くはずの女神が逆に人間達にすっかり感化されてしまっていた。

 

(この世界には、まだまだ先がある。でもそこへ進むには神々も、ノアも邪魔だ)

 

 そう考えたエリスは、グラップラーに回収されてしまった転生特典(チート)の回収の名目でレジスタンスに潜入し、彼らをコッソリと後押しし始めた。

 しかし、そこはやっぱりカリスマ溢れる女神様。内助の功を狙っていたはずがうっかり頭角を表してしまい、今では一つの街の暫定市長となってしまった。

 あまり人間社会と深く関わりすぎると天界の規定に抵触し、最悪二度と天界へ戻れなくなるのだが……最近は「それでもいいや」と考えつつある。世紀末に蔓延する「自由」という猛毒は、女神のミームすら容易く汚染してしまった。

 

 

 

(……おかしい)

 

 想定よりもあっさりと最上階にたどり着いてしまった時、クリスの中で芽生えていた疑念は無視できないほど大きくなっていた。

 敵の抵抗が無いわけではない。むしろグラップラーの兵士達は死物狂いで抗戦してきたのだが、まとまりのない力押しでしかなかった。ロクに統率もされていないのでは、一つの「群れ」となった今のレジスタンスにとって敵ではない。

 

(誘い込まれたにしても、敵の必死さからして罠とも思えない! あれはむしろ後がない死兵の気迫! ……なのにこの手応えの無さ、なんなの!?)

 

 焦燥感と警戒心を強めながらも、クリス達は防衛部隊を壊滅させて敵司令室なだれ込んだ。

 

「……えっ?」

 

 司令室で待ち受けていたのは、楕円形の丸々太った胴体の巨漢――賞金首ブルフロッグただ一人だ。デビルアイランド全域をモニターしているハズの設備は使いかけなまま放置され、それを見張るべき通信士や参謀といった人員すら配置されていない。

 やっぱり罠だったのか。そう訝しむクリスを背中に庇って、ハンター達が前に出た。

 

「見つけたぜ、ブルフロッグ!!」

「これでテメェもおしまいだーっ!!」

「げふふふふっ。思ってたよりも早く着いたね、ハンターくん達。ちょっと想定外、みたいな? ケロッ」

 

 凄まれようとも余裕のブルフロッグは、ガスマスクのゴーグル越しに口調とは裏腹な鋭い視線でクリスを射抜いた。

 

「げふふふ。来てくれたのは君の方か。てっきり水色の方が乗り込んで来るかと思ったけど。ま、どっちでもいいよね、この場合。ケロッ」

「テメェ、何言っていやがる!」

「あー、ザコが話に入ってこないでくれる? キミらには用なんて無いから」

 

 しっしと虫でも払うようなブルフロッグの態度に、ここまで一気に正面突破してきて闘争心がオーバーフローしていたハンター達が、一斉に銃口を向ける。

 

「ナメくさりやがって、カエル野郎!!」

「いくら四天王だからって、クルマも無しにこの人数差で勝てると思うな!!」

「ケロケロ♪ そ〜いうセリフ、大破壊前じゃ『死亡フラグ』って言うそうだよ。ね、()()()?」

「……え?」

 

 ゾワリ、と形容しがたい怖気が這い上がる。

 

「みんな、逃げ――」

 

 振り返ったクリスの視界は、紅蓮の一色に染め上げられた。

 一瞬前まで血気にはやっていたハンター達は、まとめて超高熱の炎の壁に呑み込まれてしまう。

 

「ケロロンッ」

 

 同時に、クリスより前に出ていたハンター達も、ブルフロッグの投げつけた大量のスパナに脳天を粉砕され、物言わぬ骸となって崩れ落ちる。

 残ったのは、意図的に射線を外されたクリスのみ。ここまで意気揚々と敵を蹴散らし突入してきたハンター連合が壊滅したのは、文字通り瞬きの間の出来事だった。

 転がり散らばる炭の塊を踏み潰しながら、モヒカン頭の炎の魔人が悠然とクリスの背後に立つ。

 二体の四天王から反射的に距離を取ったものの、クリスは司令室の隅に追い詰められ、すっかり袋の鼠であった。それでも精一杯の虚勢を張り、四天王筆頭と呼ばれる男を睨みつけた。

 

「て、テッド・ブロイラー!?」

「ほう。オレの名前を知っていたか。それは光栄だな、クリス嬢……いや、幸運の女神エリス……だったかな。がががー」

「な……な、なんでその名前――あぐぁ!?」

 

 困惑するクリスを、突如として巨大な掌が真上から叩き伏せた。巨体に似合わぬ速度を見せたブルフロッグの、特に何の力も籠もらない張り手である。

 クリスを床に押し付けて、ブルフロッグはげふふふふと愉快そうに嘲笑った。

 

「はい、一丁あがり〜、ってね。護送は任せちゃっていいね、テッド?」

「少し暴れ足りないが……まあいいだろう。もともとこいつの捕獲を依頼したのはオレだ。雑務は引き受けるさ」

「そういう律儀なところ、さすがは悪のカリスマ。ボクも見習いたい、なんてね♪」

「心にもないことを」

 

 ブルフロッグは片手でクリスを持ち上げて、テッド・ブロイラーに投げ渡す。どちらも身長3メートル超の巨体だけあり、小柄なクリスなど少し大きめのビスクドール扱いだ。

 

「あ……あんたたち、一体……っ」

「ブロロロー。そうだな、女神エリス。君にも分かりやすく伝えるとだね」

 

 テッド・ブロイラーは受け取ったクリスの身体を片手一本で締め上げながら、ニヤリと分厚い唇を吊り上げた。

 

「君達ハンターの作戦はすべて筒抜けだったのだよ。我々……というかオレ達四天王はそれを利用させてもらった、というわけだ」

「り、利用、ですって!?」

「目障りなハンターどもを一掃するついでに、大きくなりすぎた組織をシェイプアップってね〜。キミらは上手いことネズミ捕りに引っ掛かったってこと。ケロケロッ」

「一掃……あがっ!?」

 

 クリスの全身で骨が軋み、呼吸が詰まった。その気になれば、テッド・ブロイラーはいつでもクリスを圧殺できるだろう。

 圧倒的な力の差と、デカい図体に加えて顔もデカい大悪党二人のドアップを見せつけられながら、クリスは意識を手放したのだった。




ブルフロッグ「だから帰っておけって言ったのにね〜。ケロッ♪」

世紀末エリス
 女神としての神格。公明正大で慈悲深く、今の天界では数少ない「人間の側に立った」女神。それ故にエリートコースを外れてMM世界で廃品回収している。半分以上はアクアのせいだが、別に恨んではいない。
 こっちの世界のクリスは化身や分身ではなく、本人が直接人間に変身している状態。そうでもしないと地球の歴史の延長線上に存在し、宗教という概念が意味を失った時代に降り立つことが出来なかった。
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