作戦も技もない、ただの肉弾特攻。
ポチタンクという「兵器」を得た猟犬の女神が、その常軌を逸した守備力を攻撃能力へ変えて鉄の塊にぶち当たる。
正月の寺で聞こえてきそうな、ゴ〜ンと優雅な音を立て、デストロイヤーの六脚の一本がクラリと傾いた。
『はぁぁぁぁぁっ!?』
驚きのあまりブルフロッグは頓狂な叫び声を上げ、それでもデストロイヤーが転倒しないよう脚を踏ん張らせた。
しかし、そうして突っ張った脚の一本に、金髪ポニーテールのドMが迫る。
「ぬううううう! ヨコヅナオーラ、全開!!」
常人に目視できる
電磁バリアを発生させるコーティングごと絶縁装甲が斬り裂かれるも、物理的にはより頑強な内部のフレームにまではダメージが及ばない。
しかしフレームは、露出さえさせてしまえば十分だ。後はカズマが、ゲパルトの電磁ビーム砲「ドリルブラストⅡ」で狙い撃った。
一対のドリル状機関が高速回転することで発生した電磁エネルギーの波長を合わせ、一点集中させてビームとする。
電磁バリアも無く、絶縁装甲も失った精密機械の塊に、超高圧電流のビームは効果テキメンだった。
一瞬にして6連発のビームを喰らったことで膨大な電力が一気に流れ込み、凄まじい熱を発生させて大爆発を起こす。
脚一本分とは思えない、巻き添えを食ったダクネスが「いやぁあぁぁ♡ ……っ! んんん……゛、気っ持♡♡ ……っ゛ち ♡♡……いっいっ! い…♡ぃ゛いぃっい!」となるほどの爆発力だ。
半ばまで爆発し、あまりの高熱で断面からドロドロに溶けたデストロイヤーの脚が一本、地響きを立てて地上に転がった。
「! 朗報です、カズマ!!」
爆発の状況から何かを感知したアイリスが、即座に情報を精査して出力してくれる。
「あのデストロイヤーはオリジナルの設計より大幅に改良されていますが、大本の欠点を改善しきれていないようです!」
「というと?」
「各部の大出力シリンダーを駆動させる為に、非常に可燃性の高いポリマーリキッドを使っているのです! 砲撃どころか、亀裂から空気が入るだけで発火・炎上するでしょう!」
「致命的な欠陥だな! とんだ最低兵器だぜ!」
つまり、圧倒的に思えたデストロイヤーも脚部の装甲さえどうにかしてしまえば、ゲパルトの砲撃で破壊可能ということだ。
『ちっ! 脚の一本ぐらいくれてやる!!』
『対空戦車を狙うんだよ、カリョストロ!! 表面装甲は後で修理できるケロッ!!』
『!! 余計なことを言うな、デブ!!』
『ケロッ!?』
ついでにブルフロッグが追加情報をくれた。あのデカブツ、ゲパルトの電撃がよほど怖いらしい。俄然カズマにやる気がみなぎる。
「ふっふっふ! そんなに嫌ならしこたま電撃をお見舞いしてやる!! 悪党の嫌がる事ならなんだってやってやらあ!!」
「ですが表面装甲が残っている限り、電撃は効果がありません。そして今のゲパルトには――」
「ドリルブラストしかない? 何言ってやがる!」
ゲパルトを後方へ急発進させ、デストロイヤーの機銃と踏みつけに来た脚を回避。
刹那、左右から凄まじい勢いで脚に飛びつく俊敏な影があった。
猟犬とドMだ。
「武器ならあるぜ! 『仲間』っつう武器がなッ!!」
アクアのドリル、ダクネスの手刀が交差。雷土のような爆音が轟く。
「装甲の剥離を確認!」
「もう一発喰らえぇぇぇぇっ!!」
アクア達の退避が間に合わないぐらいの早撃ちが、二本目の脚を奪い去った。
『おのれえ!!』
残りの軸足は四本、大型ブレードアームが二本。カリョストロが怒号をあげ、ブレードをゲパルトへ振り下ろした。
「うおおっ!!」
再度バックで回避を試みるも、突き刺すように放たれたブレードには悪手だった。切っ先に思いっきり跳ね飛ばされたゲパルトが、ど派手に大回転させられて転がっていく。
「カズマさぁぁぁぁ〜〜ん!!」
際限なく転がっていきそうなゲパルトを、回り込んだアクアが体を張って受け止めた。
「カズマさん、さっき私ごとふっ飛ばそうとした!? ねえ、した!?」
ただ、別に忠誠心などで助けに入ったのではなく、雑な扱いに文句が言いたかっただけなようだが。
そのカズマも、シェイクされた車内でアイリスから雑にエナジー注射で気付けされているが。
「しっかりしてください、カズマ。アクアが外から訴えています」
「む、無視しとけ……そ、それより――」
「ゲパルトの状況は主砲とわたし以外が万遍なく破損していますが、戦闘継続は可能ですけど後方からブレード接近中!!」
「あわわわわっ!!」
大慌てでアクセルを踏み込む。ハッチの辺りにしがみついていたアクアごと、返す刃で地面ごと切り裂こうとするブレードアームから逃走を計った。
だが、急な発進だったせいで逃走方向が正面のみに限定された。ゲパルトの逃げる先に、デストロイヤーの機銃が狙いを定めていた。
「あ、ヤバい。アクア、主砲を守れ!!」
「えっ、ええぇえ!?」
従属スペルまで使われたアクアは、本人の意志とは無関係にドリルブラストⅡへ覆いかぶさった。
「うぎゃあああああ! 鬼! 悪魔っ! カズマァァァァァァッ!!」
降り注ぐ銃弾の雨に晒されて、ポチタンクがあっても痛いし怖いしで叫ぶアクアには、ブルフロッグですら「うわぁ……」と血の気を引かせていた。
「うぐぐぐぐっ! わ、私もまじぇろぉ〜!」
ついでに、頼んでもいないのにドMマッスルまでが我が身を盾にゲパルトを守護る。お前はむしろ攻撃に専念しろ。
「ぐおぉぉぉ〜!! こ、これしきのダメージでレスラーが斃れるものか〜!!」
「ひぎぃぃぃぃ〜っ!! カジュマしゃん、もう勘弁してぇぇぇ〜!!」
仲間二人を盾に機銃掃射をすり抜け、側面から蹴っ飛ばそうとしてきた脚をギリギリでドリフト回避したカズマは、再度従属スキルでアクアに「突っ込め!」と命じた。
二本の脚を潰されて機動力が大きく下がったデストロイヤーでは、小回りが利くうえに直線距離だと時速300キロまで加速できるポチタンクを躱せまい。
カズマはそう考えたが、敵もそう馬鹿ではない。回避が出来ないならと、残りの四脚を地面に突き刺すように踏ん張り、腰ならぬ本体を地上付近まで下ろして来た。
高所からのアドバンテージをかなぐり捨てたことで、デストロイヤーは本来なら対空迎撃用の対空砲や高射砲を、地上目掛けてぶっ放し始めた。
「ひえっ!?」
機銃に加えて、一発辺りがこちらの主砲と同等以上の砲弾が雨あられと飛んでくる。守りを捨てた大攻勢であった。
ダクネス一人では盾代わりにもならず、地表ごと爆撃されたゲパルトがまたしても蹴飛ばされたポリバケツさながらにふっ飛ばされた。
シャシーの大事な部分から嫌な音が車内に響き、あちこちのコンソールが一斉にエラーを吐き出した。
『げふふふふっ! ゲームセット!!』
『油断するな!! 一気に畳み掛けるぞ!!』
自走不可能となったゲパルトに、火線が集中する。数秒も掛からず大破した車内からカズマとアイリスは投げ出され、大火力に晒されたカズマは地上から消滅するだろう。
「〜♪」
しかし。勝利を確信したデストロイヤーの残った脚の一本が前触れもなく爆裂し、射軸の崩れた砲撃が明後日の方向へ逸れていった。
『なにッ!?』
直前まで異常なし、表面装甲も無事だったのに何が!? だがブルフロッグがコンソールを操作するより先に、残りの脚三本までが次々と爆発を起こしていく。支えを失った本体が落下し、地響きを立てて斜めに地面へ突き刺さった。
『い、いったい何が……!?』
「〜♪ 〜〜♪」
『こ、これは……唄!?』
困惑する悪党達、同じく何が起きたか分からないカズマ達の耳に、微かながらもその唄は届いた。
歌詞の無い、母音だけのヴォカリーズ。だが荒れ狂う大海原を彷彿とさせる力強い唄声だ。
その発生源は、戦場のド真ん中でマイク片手に物凄い悪そうな顔をしためぐみんだった。
白いワンピースに着替え、麦わら帽子とひまわりの造花をアクセントに、厚底サンダルで軽快にステップすら踏みながら、地獄の獄卒みたいな威圧感で唄い続けている。
『ま、マズイぞ!! 脱出だ! デストロイヤーはもう持たん!!』
『へっ!?』
余裕のまったくない、本心から切羽詰まったカリョストロが、悲鳴にも近い声でブルフロッグを急かしている。
「……なるほど、そういうことですか」
「いや、一人で納得してるなよ、アイリス。何がどうなってるんだ?」
戦場の真ん中で歌うヒロインというには、今のめぐみんは殺気が強すぎる……というか、唄声には殺意しか乗っていない。つまりあれは攻撃だ。
着ぐるみゲージツ……アーチストの特技の戦闘特技だ。衣装を替えたり、文字通りモンスターの着ぐるみを着ることで、理解不能・意味不明な攻撃を行う。今のめぐみんは、アイドルにでも成り切っているつもりらしい。そして実際に可愛らしい。
「そう。めぐみんはあの唄声で、デストロイヤーのポリマーリキッドを直接攻撃してる! 装甲や他の機関には干渉せず、唄声をポリマーリキッドの固有振動数に合わせることで沸騰させ、遠隔で爆裂させたのです!」
「……え、どうやって?」
「ですから唄声で。あとはまあ、勘とか試行錯誤したのではないでしょうか?」
爆発物に関係する人外の才能を有するめぐみんだからこそ可能な芸当だろう。
こうなるともう、無敵と思われたデストロイヤーも形無しだ。通常の音波兵器ならいざしらず、ここまでピンポイントで弱点を突かれては。本体部でもポリマーリキッドが沸騰して一部が赤熱化し、今にも爆発しそうだ。
果敢にもその状態のデストロイヤーに飛び掛かったダクネスが、本体後部からせり上がっていた球状カプセルに向かって、渾身のエルボードロップを繰り出した。
鋼鉄のハンマーを叩きつけたような鈍い音を響かせて、カプセルがひしゃげて押し戻されてしまう。歪に変形したカプセルはもう、ハッチに引っ掛かって外へ出ることは叶わなかった。
そしてこのカプセルこそが他でもない。デストロイヤーのコックピットだった。
『ひぃぃ! ふ、蓋が開かないぃぃぃぃぃっ!!』
『何だとぉぉぉ!? ええい、ぶち壊せ!!』
大慌ての悪党二人が、その豪腕で内側から強引にこじ開けようと試みるも、頑丈に造りすぎたのか思うように壊れないようだ。
「さすがドMですね、ダクネス。あの一瞬の間に、敵の最大のウィークポイントを見破り、奇襲を仕掛けるだなんて」
「ドM関係あるのか!?」
「ドMだからこそ、相手の一番気持ちいい場所――つまり、一番のウィークポイントが分かるのです」
分かるような分からないような話をアイリスがする間に、猟犬、ドM、アイドル、レズという、特徴を列挙すると濃すぎるキャラクター性の仲間達がゲパルトに集まって来ていた。
「カズマ!」
「分かってる! ドッグシステム、作動!!」
ゲパルトを中心にチーム・メタルマックスが量子ワープで退去すれば、残ったのは爆発寸前の棺桶だけだ。
『めぐみんめ! 最後の最後で……ふっ。やはり天才だな、お前は』
『なに味なこと言ってんの、カリョストロ。はぁぁ、こんなおっさんと心中とか、予想外、みたいな?』
『諦めろ。悪党の最期などこんなもの――』
他愛無い雑談を交わす二つの巨悪は、デビルアイランドと呼ばれた島全域を更地にするほどの大爆発に消えていった。
最終兵器デストロイヤー、それを有するグラップラーの最大軍事拠点デビルアイランドは、それを指揮する四天王二体とともに完全消滅。多大な犠牲を出しながらも、ハンター達は勝利をもぎ取ってのけた。
残る四天王は、あと一人――。
称号『破壊するものを破壊する者』を取得しました。
ドMマッスル
暗黒面に染まったダクネス。至高の痛みを得るために自らに賞金を懸け、屍山血河を作っているマッスル系列モンスター。
アイドルめぐみん
フィギュア可愛いです。