この素晴らしきメタルマックスに祝福を!   作:サイデリア

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 新章突入。


Part8 いっつあだいなみっくれっくすふりげーと
第五十七話 砂漠を越えて


 アシッドキャニオン南部に広がる砂漠を進む、四台の改造車。現代日本であれば……いや法治国家であればどこでも即刻逮捕される、戦車とも呼べる重武装だ。

 乗りこなすのはハンターチーム・メタルマックス。今やアシッドキャニオンで知らぬ者はいない、最強の賞金稼ぎ達だ。

 

「あっつぅ〜……」

 

 しかし照りつける灼熱の太陽には、さすがの彼女達も音を上げた。

 

「ちょっとどうなってんの〜? 明らかに設定温度間違えてない〜?」

 

 先頭を行くのは、真っ二つからよくぞ生還を果たしたウルフ。そこにゲパルト、野バス、牽引用の装甲車と続く。

 車体がこれまでの赤からプラチナカラーに塗り直されたウルフの車内では、レナは出力最大にしても全然効果が出ないエアコンに文句を付けていた。ただし、彼女がいう設定温度云々に関しては頭上の太陽と周囲の気温に関してだが。

 

「マドとかイスラポルトとはそこまで離れてないわよね〜? ……あ、ひょっとしてこれが『トットリサキュウ』?」

「違うぞ。この辺りには大破壊期に使われた兵器の影響が未だに残っている。気温が高いのは、地面そのものが熱を持っているのだ」

「へえ。ダクネスがそういうの詳しいの、凄まじく違和感あるわ」

 

 同乗している女レスラーも、効果のない冷房にうんざりしている様子だ。生粋のドMではあるものの、痛覚神経を刺激しないタイプの責め苦はお気に召さない様子。装甲服を脱ぎ捨て、人前にはとても出られない格好で椅子にもたれている。

 搭乗者の内分けは、ウルフにレナとダクネス、ゲパルトにめぐみんとアイリス、野バスにカズマとアクアとなっている。最終決戦ということで、アイリスは今回、バリバリの戦闘員として参加を表明した。

 

「にしても……すごい光景よね〜」

 

 レナは、運転しながら外を観るフリをして、あられもない姿のダクネスを眼福だとばかりに眺めながら呟いた。

 

「あとどれくらいで到着なんだ? えーっと……キャタピラビレッジとかいう村には?」

「ん〜? ちょっと待って。iゴーグル起動、マップ表示……もう一昼夜も休み無しで走れば到着するわね〜。……あのバトーとかいう博士が嘘言ってないなら」

 

 レナの表情に、暑さとは別の苛立ちが浮かぶ。

 思い出したくもない気持ちは分かるので、ダクネスは「そうだな」と適当な相槌を打った。

 

 

 

 アイリスが思い出した情報を元にして、バイアス・シティへの突入方法を模索すること一週間。様々なプランを出し合った結果、アシッドキャニオン東部から南側を回り込むルートがほぼ唯一の道だという結論に達した。

 

 まず湖南部から上陸するのは断崖絶壁だから不可能。

 続いてマドの東側に広がる山岳地帯を超えていくには、戦車では道が険しすぎて危険すぎる。トンネルを掘ろうという意見も出たが、何年単位の事業になるか分からないので却下された。

 そんな彼らに重要なアドバイスをくれたのが、デビルアイランドから救助された避難民の中にいた。

 

「ははははは! そんなことも分からない世間知らずな救世主様に、僕からとてもありがたい情報をくれてやろうじゃないか! あ、別にお礼なんていーよ。だって君達は僕の命の恩人なんだからね! はははー!」

 

 と、いきなりレナ達を煽り散らしたのは、アロハシャツにうどん頭をした大柄のファンキーなジジイだった。名をバトーといい、この時代に戦車を独自に設計・開発する技術を持っていた為、デストロイヤーの開発も手伝わされていたそうだ。

 

「バイアス・シティへの行き方を知ってるの!?」

「そんな街の名前は知らないけど、君達が行こうとしているその地図の場所なら分かるよ! 聞きたい? 教えてほしい? そーだろう、そーだろう」

「……そうね。教えてほしいわ」

 

 バトー博士のうっとおしい物言いにこめかみを引きつらせながら、レナは対話を続ける。今は少しでも情報が欲しい時だ。

 博士も理解はあるようだが、教える代わりにちょっとしたお願いを聞いてもらえないだろうかとレナに尋ねた。

 

「お願いというのはね。僕の友達になってほしいんだ」

「……はい?」

「あれ、言ってる意味が分からなかった? 僕と友達になってほしいんだ。そしたら情報も教えてあげるし、なんだったら君達に戦車を造ってあげてもいいんだよ?」

「友達って……まあそれぐらいなら」

 

 てっきりハンターオフィスに舞い込んでくる特別な依頼系かと思いきや、随分と慎ましい頼みだ。

 レナが快諾すると、バトー博士は満面の笑みで彼女の手を取った。

 

「ははは! 今日は素晴らしい日だ!! こんなあっさりと命の恩人が友達になってくれるなんて!! やっぱり頭が単純な人は器が違うなー!」

「……そ、それでバトー博士? バイアス・シティへのルートは――」

「じゃ、早速だけど君のあだ名を決めようか!!」

「は?」

 

 二度目の絶句だが、さっきと違ってレナの顔が引きつっている。バトー博士は構わず続けた。

 

「あだ名で呼び合ってこそ真の友達ってものだろ? だから僕が、君に相応しいあだ名を考えてあげよう! なに、遠慮はいらないよ。だって僕らはもう友達だろ?」

「――――――」

「さあ! この中から好きなのを選んでくれ! どれも君にピッタリだろう?」

 

 嫌な予感はしたが、バトー博士の差し出すフリップボードを受け取った。いつの間に用意したんだ? という疑問は、博士がチョイスしたあだ名候補に目を通した途端、粉々に吹き飛んだ。

 

 アバズレ

 メスブタ

 メスガキ

 シリガル

 

 横で聞いていた仲間達は思った。「だいたい合ってる」と。

 それはレナ本人も同じだったようで、だいたい合ってると思ったからこそ、躊躇なくショットガンの撃鉄を起こしてバトー博士の鼻の下に空いてるケツの穴(アスホール)に銃口を突きつけた。

 

「実に素敵なあだ名ですね、博士(プロフェッサー)?」

「だろう? 我ながらよく君の特徴を捉えていると思うよ。ところでこの銃はなんだい?」

「お礼にアタシも考えてあげたわ。銃殺体、刺殺体、絞殺体、焼殺体、好きなのを選んで。望みの姿に変えてあげる」

「はははー! その目は本気だね、お嬢ちゃん。まったく、どうしてみんな僕があだ名を付けてあげようとすると武器を抜くんだろう。訳が分からないよ」

 

 バトー博士はレナと友達になるのは諦めたが、バイアス・シティへのルートについては教えてくれた。気が変わったらいつでも待ってるよ。そう告げて去っていく後ろ姿はとても寂しげで、友達が欲しいというのは本当のことだったのだろう。だが、きっと彼が本当の意味で友達を得る日は未来永劫やって来ない。

 その後バトー博士は、以前の研究所がグラップラーに破壊されたからと、マドの町の近くに新たなラボを建てた。クルマが欲しいハンター達がこぞって駆けつけ、何人かはあだ名を受け入れてでも戦車を造ってもらったが、クルマを貰ったハンター達は二度と博士の元を訪れることはなかった。

 

「所詮、彼は人間の形はしていても心を持たないモンスターですから。彼の周りに集まるのは技術を利用したい者ばかり。価値が無くなれば見向きもされない。それを本人が理解していないのであればまだ同情も出来るのですが、分かっていてあの態度を改めないのですから救えません」

 

 そう語るめぐみんは、ちゃっかり造らせた自分用の戦車を磨きながら満足そうにニヤけていた。何でも彼女には、友情に飢えるあまり物事の善悪を見失った幼馴染みがいるので、バトー博士の生態もなんとなく分かるとか分からないとか。

 自分では「友達のいない寂しい老人」を自称しているが、実際は「個人」とのコミュニケーションを必要としていない自己完結型人間。バトー博士とは、そういう人間だ。

 

 

 

 そのバトー博士の情報通り、砂漠を東から西へ横断したチーム・メタルマックスは、ついにガンダーラ……じゃなかった、キャタピラビレッジを見つけ出した。

 戦車乗りの、戦車乗りによる、戦車乗りの為の理想郷――と呼ぶにはチャチな集落だが、売ってる装備も営業している改造屋も、イスラポルト辺りと比べても数段階上だった。

 

「わたーしにクルマをみせなさーい! そのクルマ、ダブルエンジンに改造できまーす!! あ、そっちのバスはダブルCユニットにデキまーす!!」

 

 ……変人指数も高かったが、他でもないメタルマックスが変人の集まりなので今更だろう。

 買い物やその他の準備を整え、本日は宿を取って休むことにした。やはり車中泊が続くと、どんなに蚊が多く出てきても、ベッドで寝られるのはありがたい。

 ただ部屋数の関係で6人一部屋に雑魚寝だ。こういうとき、カズマはだいたい寝袋に包まって部屋の隅で丸まって寝る。でないと、とてもじゃないが気が休まらない

 

「じゃあ、ここからのルートを確認するぞ。レナ、地図を出してくれ」

 

 レナのiゴーグルから、人工衛星が撮影したアシッドキャニオンの地図が空中に投影される。

 地図の上で見ると、キャタピラビレッジはマドの町の真東にあり、直線距離ではそう離れていないように思えた。実際は断崖絶壁によって隔絶された地域だが。

 カズマは空中の地図に、レーザーポインターの光を当てながら会議を進めた。

 

「で、だ。ここから北に進むと、このぽっかり口を開けた深い谷が見えてくる。通称『硫酸の谷』だ。ここにあるメルトタウンって街が第二目的地にして、バイアス・シティ前最後の補給地点だ」

「硫酸の谷ぃ〜? えらく物騒な名前ね」

 

 アクアが警戒するのももっともで、ここは湖から流れ込んだ強酸性の水のせいで、文字通り希硫酸の霧と雨が年中降り注ぐという、地獄のような場所だ。

 

「けど、バイアス・シティへはここを通る以外に道がない。空でも飛べたら別だけど、ヘリコプターなんて戦車以上に残っていないだろうからな」

「あ! 賞金首のポスターで攻撃ヘリのメカニックモンスターなら見ましたよ!」

「残念ながらそいつが出るのも硫酸の谷だ」

 

 がっかりするめぐみんはさて置き、硫酸の谷は数々の変異ミュータントがひしめく修羅の国でもあるとのことだ。全員、気を引き締めて挑むようにと厳命し、会議はお開きとなった。

 

 もっとも、出発直後に巨大暴走戦車賞金首「ダイダロス」の襲撃を受け、撃破はしたものの戦車修理の為にキャタピラビレッジでもう一晩泊まることとなるのだが。




 バトー博士、友達を得ること叶わず。

 月曜から出張の予定でして、ストックも枯渇しているので次回投稿は金曜日となります。気長にお待ち下さい。
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